第19話

 デルブが太陽王を切り裂いた、その数日前の事である。

「南瓜試作機が無事侍に処分されました。」 ゲルミー・パーリンシンダは職員のその報告を受けて、「よし、では至急倉庫の試作版の南瓜を打ち上げよう。」と命令した。

「パイロットは決まってましたよね。」

「ああ、すでに死刑囚の中から・・・」

「俺はどうですか?」後ろから声が聞こえた。職員とゲルミーが振り返ると、人が宙に浮かんでいた。

「デルブ!?」ゲルミーは叫んだ。「え!?何!?どうなってるの!?」

「俺、試験中の、クラウン・ジョーク暴発事故で、試験中断して永らく休んでたんですよね。」デルブは言った。

「ああ、そうだっけ。」ゲルミーは試験が続いている妄想に取り付かれているデルブに適当な嘘を付いたのだが、それをよく覚えてなかった。

「どうやら、それで俺自身もクラウン・ジョークを発する事が出来るようになったようです。そうすると俺も衛星巨神だ。南瓜と組めば最強になれます。だから、僕はどうです?んひひひひひ。」・・・デルブはいわば、エドマン・ステラに近い状態になったのだ。

「だめだ。試作機はまあまあ改善されてるとはいえ、強度のクラウン・ジョークがある。おまえの精神が持つか分からないし、息子だから許さん。」ゲルミーは強く注意する。

「クラウン・ジョークが精神に干渉するから、道化師はあまり力出せないし、南瓜は狂気に至るからAIが統率し、また、俺はこのように超人力を得る。」デルブはニヤニヤしながら言う。「つまり狂気こそが力なんだ。なおさら素晴らしいじゃないか。乗りたいぜ。」

「だめだ!」

「言う事を聞かないとこうだぞ。」デルブの手から光が飛び出し、職員の身体に当たった。職員はたちまち凍った。

「・・・・!?」ゲルミーは引き攣った。

「そしてこうだ。」 デルブは握った。凍った職員の身体に次々とひびが入り、粉々に砕け散っていった。

「お前いつからそんな残酷になったんだ。」

「いやだなあ、父さん、元からですよ。」デルブは笑った。「父さん、そういえばあなたとセリーシャ選手そっくりの審査員が話しているのを聴きましたよ。」ゲルミーは話を聞かれた事を知って青ざめた。「太陽人とか宇宙人とかハルビンとかなんとか、面白い事考えますね。私も賛同します。地球は僕のものだ!そして一番になって、衛星巨神になるぞ!」デルブはそのまま窓の外に向かう。「じゃあ、いってきまーす。」

「デルブ、やめろ!まだ準備は整っていない!今発進したら、わが社が・・・わが社が・・・」

 デルブは宙に浮かびながら二階建ての窓から下の地下倉庫に直進する。ゲルミーは慌てて駆け出して階段を駆け下りる。1階まで着いたあたりで轟音と共に会社がはじけ飛ぶ。ゲルミーは瓦礫の中に埋もれていく。

 デルブはたちまち巨大な宇宙人の姿となりパンプキン社を破壊しながら宇宙へと飛び立ちながら悦に浸る。


(わはははは、また再び南瓜に乗って衛星巨神道化の審査に戻れるとはな、早くこの地球を抜けて三次審査のドームのある宇宙に戻らなければいかぬ。そこで邪魔者を排斥し、審査員から高得点を頂く。高得点を頂くことはそれは王者になる。この審査でしかない仮想世界を抜け出さねば俺は現実で衛星巨神の道化になれない。だから全てを終わりにしよう。聞こえる、聞こえるぞ、傀儡の衛星巨神の歌声が聞こえる。『♪アーララ ラーイリーリララー』・・・ヘタクソな歌声だ。『道化どこにいったのかしらね』聞こえるぞ。道化は俺だ。俺以外の道化はニセモノだ。道化の道化が俺を探す魔女がまずは殺さねばならぬ。しかし魔女が王子の王子が目の前に現れた。『おや、おまえは見た事ないぞ、新入りなのかな?』とすっとぼけた口調で尋ねる王王子が太陽の下に死ね。お前は俺の一番を邪魔する存在だ。それ!・・・ほうら。死んだ。おや、傍に呆れた顔の女がいる。魔女だ。そりゃそうだろう。王子なんていらないからな。王子に呆れても仕方ない。お前も王子と同じにしてあげよう。それ!・・・死んだ。ほうらほうら、長くてヒラヒラドレスが漂って漂ってるほうらほうら、ぶつぶつ言う声が聞こえる、3人死んだ、何人死のうがほうらほうら、学者か、こいつも問答無用、殺す、そして俺の力を知らしめよう、南瓜頭もこんなところにころころと、ひいらひいら。こいつらみんな地球に落としたら、 皆どう思うかどう思うかな思うかな、ようし掴んで、投げる、掴んで・・・投げる、 掴んで、投げる。南瓜頭も掴んで投げる、おや、俺と同じやつの残骸があるよ、同じ奴の残骸があるよ、鬱陶しいからこいつも投げる。うりゃ、ふはははははふはははふはははははははははふははふははははははははふははははははははははははははははははふはははははふはははふはははははははふはははふははははははははふはははふははははははは、妙に笑いが止まらない、おや、太陽に向かって飛んでくる船があるぞ。こいつら頭がおかしいんじゃないか。壊してやろう。うりゃ! ふはははははははは、太陽だから俺はクラウンジョークで平気ー!おや、太陽から声が聞こえる、『お前にとって気に食わない事があったのは分かるが、しかし地球を滅ぼす必要は無いじゃないか。』だれか知らん男の声だ。そしておおらかな声が聞こえる。『おっと、話し忘れたね。太陽を回る惑星、あれは巨人実験の失敗作で、造形がいいやつを衛星として回したものの成れの果てだ。太陽人も地球人も、私の作品のようなもの。地球人の君たちは私に歯向かった神の失敗作であり、それが私の失敗作の地球の上に乗って偉そうにしているだけだ。ゴミを処分して何が悪い。』これが太陽王、太陽王が俺たちを格下に見なしているとは全く許せない。俺は太陽からも勝つ。そして世界を滅ぼし、地球へと脱出するんだ。太陽に向かう、向かうぞ。太陽王を殺し太陽の火を消せば皆死ぬ。俺が独りになれば俺は勝利者。そして審査に受かり、衛星巨神の道化として選ばれる、それが選良としてのあるべき道だ、だからして、衛星巨神を殺す。どこにいる衛星巨神、そうだ殺したのだ、殺したのだから太陽に向かう、太陽に向かえば俺は)





 そして今、エドマンを真っ二つに切り裂き太陽の発炎所に向かっているデルブをガラが怒りの眼差しで後を追っていた。天まで届く火の柱が目印だ。

『あなたから思い出の断片がどんどん見えるわ。』ガラは叫んだ。『本当に全員殺したのね。王子も、学者も、メラマのお祖母ちゃんも・・・。』

『そう、そして君もその仲間入りするんだ!』デルブは叫びながら左右にガクガクと揺れて飛ぶ。あまりに不規則な動きなので捕まえようにもガラには予測できなかった。『大丈夫!これは審査だ!死んでもまた蘇る!』

『蘇るわけないじゃない!』ガラは叫んだ。『ここは現実よ!審査は終わったの! 私が今道化をしているの!』

『その通り、ここでは沢山の道化がいる。』デルブがふいに立ち止まって振り向き全身で渦を巻くような動きをした。ガラは捕まえようとするがなかなか捕捉できない。『見ようによっては現実は道化、そう、人間というのはもともと自我の中に道化の素質を持って いる。つまり僕たちの世界は道化の審査の他ならない。わかるか?』

『わけのわからない御託はどうでもいい、あなたは私の大切な人たちを次々と殺した・・・。』ガラは泣きそうな声で言った。ガラの手に光が集まる。『絶対に、許さない。殺す。』

 ガラの手から光線が発せられたが、デルブがあまりに小刻みな運動をするから的外れな方向にとんだ。

『くっそ!』ガラはデルブに向かって飛び出した。デルブの足が顔に命中する。『ウッ!』 ガラは頭を押さえる。

『わはははははははは!』デルブは笑う。『道化としては君は一流だ!』

『うるさい!うるさいわ!』ガラが再び手に光を集める。

『でも俺の方がもっとおもし面白い冗談ができるぞ、突然死ぬという冗談をな!』

 デルブも光を集める。


 そして閃光。




 遠くの方で何かが強く光ったのをベンとセリーシャは見た。

「もうおしまいね。」セリーシャは投げやりに言う。

 ベンは何もいえない。

「私たち、何のために来たのかしら。」

「ガラの説得はやはり難しかったな。」ベンはボソリと言った。「僕たちは、エドマンのことなんか無視しても当然だったけど、やっぱり彼女はやつに作られた衛星巨神だ。あんな飄々としていたのは、生まれた頃から不安だったからだ。」

「つまり私たちはエドマン糞のために滅ぶ運命にあったということ?」

「さあね。」

 その時奇妙な音が聞こえたかと思ったが、侍のコックピット内のスピーカーから聞こえる『ゥゥゥゥゥゥ・・・・』と呻き声であった。

「エドマンか?」ベンが言う。

『お前達・・・・私はもう死んでしまうみたいだ・・・』エドマンの声。

「そうですね、あっけなく。」

『私が死ぬという事は、この世が終わるという事だ・・・』

「ちがいます。あなたのいる世が終わるだけです。」ベンは冷たく言う。

『同じような事だ・・・』エドマンはあきらめたように言った。『今まで・・・何のために・・・』

「あなたは人類の科学に貢献したと思います。」ベンは言った。「それでいいと思います。」

『そうか・・・私は真実だったのか・・・・・・・・・』エドマンはその言葉を聞いてそれから何も言わなくなった。 完全に沈黙したのを確認したベンは「死ぬまで傲慢な奴だな。」とボソリと言った。

「ねえ。」セリーシャは指差して言った。「何か爆発してない?」





 それより少し前。ガラの攻撃は再び外し、デルブの攻撃をわき腹に喰らい、 腹を押さえて地を這いつくばっていた。近くには天まで火を飛ばす発炎所がある。

『さあて、厄介な道化が戦闘不能不能になってくれれたから』デルブは言った。『あとはレバーを引いて火を消し、仮想世界を滅ぼそう。』

 そしてデルブは見回して、丁度ガラの傍にレバーが沢山あるのを発見した。

『さあてさて、太陽の火の調節は、調節だ、と。おそらくこの太陽の周りを、う ん、示して示すやつだ。』

 デルブがそのレバーに手を伸ばした、その時、ガラがデルブの足を掴んだ。 『な!?』

 ガラの殺意に満ちた眼差し。デルブは転び、思わず他のレバーを複数動かしてしまった。


『あ』


 レバー室であったその場所は大爆発し、デルブは木っ端微塵に崩れた。ガラも爆風で吹っ飛び、地面に落ちそうなのを危うくクラウン・ジョークで宙に浮かぶ事で身を守った。爆発が爆発を連鎖した。発炎所と思しき天に火を放つその壷は吹っ飛ばされて宙に浮かんでいった。空を一瞬見れば、特に太陽を覆う火に変化は無い。発炎所の出力調整はあの壺にあるようである。ということは、このまま誰にも操作することもできずに火は保たれる。

(帰ろう。)

 ガラは穴の開いた腹を押さえながら飛ぶ。

(ベン・・・セリーシャ・・・) ガラは探す。早く見つけないと二人とも。要塞は次々と爆発が連鎖する。見回して、エドマン・ステラの亡骸があるのを発見した。その傍にスポーツ服姿の二人を見る。セリーシャが叫ぶ。

「ガラ!」

 ガラ・ステラはベンとセリーシャの身体を拳で掴み、空へ飛び立つ。エドマンの亡骸は爆発に巻き込まれ燃えていった。(父さん・・・・)感傷に浸っている場合ではない。ガラは太陽の空へと飛ぶ。

『あなたたちをクラウン・ジョークで守るわ。手よりきっと体内の方が安全。数日間飛ぶけど、ごめん、ガマンして!』

 ガラはベンとセリーシャを口の中に飲み込む。

「うわあ!」「きゃあ!」

 そしてガラは腹を押さえながら炎の層へと飛び立っていく。そして長い間長い間炎を潜っていく。その炎のトンネルは、あまりに長くて、ガラは時を忘れていた。後ろを振り返ったらいつのまにか太陽の姿。さっきの騒動などなかったかのように変わることなく光り続けている。そしてふと、宇宙に飛んでいる影を発見した。また宇宙人か、とガラは身構えたが、よく見ると自分と同じ道化の格好をした老人であった。(老朽化した衛星巨神”道化”・・・)ガラはしかし、本当に彼が老朽化したのかどうか分からなかっ た。ガラは道化になるために仕組まれたクローン第一号だからだ。丁度都合よく老朽化し、自分は衛星巨神を目指した。道化に強制的に老朽化させる効果があるのかわからない。あるいはエドマンの設計どおり、道化の老朽化のタイミングでクローンが完成するように仕向けられたのかもしれない。どうでもいい。ガラは微笑みながら宇宙を飛ぶ道化師に、(ありがとう。) と思いを伝えた。彼は誠実に探査衛星としての任務をこなしただろうし、自分に冒険を与えた者であった。多くの犠牲が伴い、結局何も起きなかった事であるが、ガラにとって何か一つ意味があったはずだ。でも、これから、どうしよう。ガラは飛びながら、しかし腹の傷に苦しみながら飛び続けるのだ。



 ガラの体内にいる二人は「せ・・・せまい・・・」とすこし苦しそうにジダバタしていた。人間とは違い冷たい。「ねえ、明かり持ってる?」とセリーシャが訊ねたので、ベンは「持っているよ。」と言ってズボンのポケットからライトを取り出してスイッチを入れた。「まぶしいまぶしい!」とセリーシャが叫び、「あ、ごめん!」と慌ててベンは光を違う方向に向ける。その時ベンは息を呑む。「こ・・・これは・・・。」セリーシャが「何、 どうしたの?」と言ってベンの視線の先を見て驚く。




 透明な容器のなかに等身大のガラが全身繋がれていたのだ。

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