太陽の章
第18話
『お前達は私や私に近しい者の事を太陽人と呼んだな。』磔のエドマンは侍と道化、二人の衛星巨神を睨みながら言葉を発する。『おそらくは地球人と別の存在と見なしているだろう。だが太陽人は地球人と別ではない。地球人はもともと太陽に住んでいた。ある日、 袂を分かったのだ。』
そしてエドマンは二人の巨人に向けて、様々な光景を流していく・・・
・・・太古太陽は要塞都市であった。地球が照らし出す光の代わりに、今より遥かに薄らした炎の層が照らし出され、そのエネルギーは発炎所で調節されていた。太陽では光る者こそ王の資格とされていた。エドマン・ステラの頭脳は誰よりも誰よりも光っていた。
エドマンは地球の文明で言う発明家であり哲学者であり王であった。自分の望む世界を自分の力で作り出していった。あまりにも全てを理解し、あまりにも世の中が思い通りに事が運んだので、彼は自分が世界と一心同体であると考えるようになった。そこで世界と自意識の関係について考える。彼が特に興味があったのは精神と身体の協和であった・・・
『精神は男の性であり、物体は女の性である。』エドマンは語る。『精神と物体が出会う事で命が生まれる。これが男と女の意味。』セリーシャはその話を聞いて鼻笑いする。『・・・そして精神は物体を支配する。』エドマンはセリーシャの鼻笑いなど特に気に止めずに言う。『私は精神であり父である。世界は物体であり母である。私の作品は世界との交わりで生まれる。ガラ、お前もその一つだ。私は確かに、お前の、お父さんなのだ。』そして再び光景が入ってくる・・・
・・・エドマンは精神と肉体の調和の研究を推し進め、自分自身に改造を重ねていくうちに、エドマン自身にテレパスの力が備わるようになった。それは太陽全人類に自分の意志を浸透させる力であった。その力の研究が、後の衛星巨神の電波の会話に繋がっていく。
『私たちは一つだ。』エドマンはテレパスで語る。『ここで新たに、精神と肉体の研究を、総力を上げて進めようじゃないか。』
そしてついに巨人計画が立ち上がる。これは衛星巨神の前身となる存在だ。人間を機械化し、巨大化させる実験。幾多もの国民がその実験の犠牲者となった。「第1768回巨人実験、始める。」ドミニクがそう言って女の腕に何かが注射される。「離れろ。」ドミニクの命令により、注射した作業員は急いでホバークラフトで女から離れる。「では”解放”!」女は激しくのたうちまわり、身体がモワッと広がりだす。たちまち悲鳴を上げながらグロテスクな球体状の肉塊へと巨大化したのち、女だったものの動きは静止した。「失敗!」ドミニ クが叫ぶとエドマンはニコリと笑う。「まあ、こんなこともある。だが、この失敗作は造形がいいな。衛星にして回しておけ。次!」
こんなことは3万回も続いた。3万回2千3百9回目にようやく成功例を生み出し、その後は幾度か成功を繰り返した。だが、3万も死者を出すとさすがにエドマンに疑問を持たぬ者はいなかった。その筆頭がハルビンという役人である。
「エドマン・ステラは危険な光だ!」ハルビンはゴツゴツした赤い要塞に虫のように潜む群集に叫んだ。「彼は自分が神である事を証明するために、幾多もの人民を殺し続けている!このまま彼に王をやらせると危険だ!新しい国のあり方が必要だ!」
その時当時のハルビンの呼びかけにこたえてくれる人はほんの数十人しかいなかった。だから弱小勢力に過ぎず、蜂起計画も遅れをとった。エドマンは今度は等身大の人造人間の製造の実験を始めた。指先一本の調査のためだけに多くの人民が殺されていった。その骸は要塞を照らし出す炎に次々と燃やされたのだ・・・
・・・『ハルビンは全くの愚か者だよ。光を覆い隠す存在だ。』エドマンは言った。『厄介なことに彼は役人だったから私と同じ不老の手術を受けていた。だから彼は生命活動を止めない限りいつまでも人民を扇動し続けるであろう。ハルビンを捕らえようとしたが、奴はどうやら私の電波を全く遮断する術を見出したらしい。だから。』・・・
「ドミニク」エドマン王は忠心の部下ドミニクに命令した。「ハルビンに対抗して、 お前だけに通じるテレパスを与える。そして、ハルビンの事を調査してくれ。また、 万が一私が必要な場合のために、人間エドマンをこの棺に入れてある。こいつの電波感度は私に対してのみ、あらゆる距離に対応できる。だがこいつの寿命は70年しかない。開ける時期を慎重に考えてほしい。」そして小さな小箱をドミニクに渡した。
「こんな小さいのですか?」ドミニクは戸惑った。
「もちろん巨人計画と同じで、開けたら人のサイズにまで大きくなる。」
「わかりました。」
「頼んだぞ。」
ドミニクはこくりと頷いて後ろを向いて帰っていく・・・
・・・『しかしドミニクは仕損じた。』エドマンは苦々しく話した。『ハルビンの蜂起計画はすでに綿密に構築されていた。このエドマンからの電波遮断術を、多くの人に広めたらしい。ドミニクが急いで報告する頃に私は捕らえられ、このように張り付けにされた。奴らは私が追ってこないよう太陽の発炎所を時間差で暴走させ、それまでにハルビンの配下の多くの愚か者が巨大な宇宙船に乗って太陽から逃れた。私は手術を受けたからこのように耐えるが、残った国民は皆死んだ。私は一人、このように耐えていた。』
『ドミニク、って、あのドミニク先生ですよね・・・。』ガラが言った。
『ああ、そうだ。君のお守りをしていたドミニクだ。彼はハルビンの後を付いていく選択をしたが、私への忠誠心は忘れていなかった。太陽より離れて通信が切れる前に、私はこういった。おそらく奴らは新しい天地で暮らしを始めるつもりだろう、と。しかし彼らは思い知る。私の科学力のみで今まで生きていた事をな。だから、ゼロからのスタートになるであろう。醜くも知的でない生活を彼らは選択する。しかし、そうした中で徐々に科学力を上げていくだろう。その時人間エドマンを起こして欲しい。タイミングは長年私を知る君ならば、できるだろう、と。そうしてドミニクは何百年もの間、時を待ったのだ。彼も不老の手術を受けていたからな。そして、君たちも知ってのとおり、地球でエドマン・ステラが産まれ、太陽のテクノロジーを応用した大量の論文を書いた。衛星巨神、合成細胞、負のエネルギー、いわゆるクラウン・ジョーク・・・そしてそれらが全て、太陽の業火をも耐えられる道化師ガラへと導かれた。お前は私を復活するために産まれる、定めなのだ。』
宇宙人が全てを狂わせたのではない。ただただ内部で反乱が起きて皆地球に脱走したのだ。エドマンの語る真実はベンにとって許しがたい情を沸かせた。それでガラを惑わして地球を滅ぼし自分を復活させようなんて虫が良すぎる。
『お前にとって気に食わないのは分かるが、しかし地球を滅ぼす必要は無いじゃないか。』ベンは言った。
『おっと、話忘れたね。太陽を回る惑星、あれは巨人実験の失敗作で、造形がいいやつを衛星として回したものの成れの果てだ』エドマンは誇らしげに語る。『太陽人も地球人も、私の作品のようなもの。地球人の君たちは私に歯向かった神の失敗作であり、それが私の失敗作の地球の上に乗って偉そうにしているだけだ。ゴミを処分して何が悪い。』
『ッ・・・・・!?』ベンは言葉が詰まった。
『しかし私は優しい王だ。』エドマンはニコリと笑いながら言う。『失敗作の中でも出来の良いものには
『要するに頭いい人たちで乳繰り合うために優秀な人間だけ太陽に招き、後は死ねって事だろう。』ベンの声は怒りに震えていた。『ガラ、こんな奴の話を聞いてはだめだ!さっさと帰ろう!』しかしガラは思いつめたような顔で沈黙している。『ガラ!?』
『ガラ、お前にして欲しいのは、ここより反対側の発炎所のレバーを赤い線まで引いて元に戻して欲しいのだ。』エドマンは言った。『お前なら、できるだろう。』
『ガラ、どうしたんだ!ガラ!』ベンは叫ぶ。
『地球人は太陽人だった。地球人だって太陽人を皆殺しをした。でも、地球にはお友達がいる。太陽にはお父さんがいる。』ガラは言った。『私はいったいどっちなの。』
『ガラ!やめて!』セリーシャも叫ぶ。『居場所が無いなんて今更言わないで!』
『おいで、我が娘。私がいるじゃないか。』エドマンは輝く瞳で言う。『私が何のために君を大きな道化師にしたか、分かるかい?君を愛する為だ。その証明に、この磔の拘束を解いてくれ。道案内をしてあげるから。』
ガラは首を振る。
『ガラ、さあ。』
ベンとセリーシャは侍コックピット内で激しいノイズ音が鳴り出したのでひどく驚いた。
ガラは震える指をエドマンに近づけている。ベンは驚いた。
『エドマン王・・・貴様何をした。』
『いう事を聞かないから聞かせるようにした。』
『洗脳か?それは許さない!』侍の右腕がガラの腕を掴む。エドマンの形相が急激に変わり、火花が飛び散る。たちまち侍の指が弾けとんだので慌てて手を引っ込める。
『私は自身を強めるために、自身に大量のクラウン・ジョークをつぎ込んだのだよ。これぐらい造作もないことだ。』エドマンは言った。『クラウン・ジョークは人間の精神に鋭敏に反応する性質を持つ。従って人体がクラウン・ジョークに適応すると、衛星巨神の道化などと同じ力を持つようになる。だがこの磔はそれでも物理的に強い力なしには抜けぬ。だからガラ、衛星巨神のお前の助けがいる。君に出来る事はそれだけだ。』
ガラは完全に混乱していた。磔の十字架を引き抜き、エドマンの両腕の釘を丁寧に抜く。その時、ガラは後ずさりした。
『ああ!』ベンは悲鳴を上げる。エドマンの身体は変化しだした。両手と顔が長く伸びて、紫色の寒天質になった。その姿を見てガラも『きゃあ!』と悲鳴を上げた。その姿はまさしく・・・
『宇宙人!』
『宇宙人はハルビンの盗作だ。』エドマンの声。『しかしながらもっとも優れた衛星巨神はこの形である。クラウン・ジョークを発揮しやすいからな。よし、これでもう少し自分のテレパスが拡大できるぞ。』そしてエドマンは空を見て首を振った。『あれ?地球人どもの機影が全然来ないな・・・一機何か来るらしいが・・・おかしいな。』
『ふん、やっぱりな。』ベンは言った。『お前の考えに賛同できなくなったんだろう。』
『小僧、いちいちうるさいぞ。お前の娘の友達だからこの太陽に生かしてやろうというつもりだというのに。』
『あたしたちは帰るつもりだからね!』セリーシャは叫んだ。
『ふん、歓迎しておいて悪いが、仕方ない。死んでもらおう。』 エドマンは両腕に光を溜め込んだ。侍はそれを予期して避けたが、あまりにも巨大な光だった。
『なっ!?』
光は侍の身体の右半分に当たった。
『宇宙人に勝てたからって調子に乗るんじゃない。』エドマンは笑ったが、しかし侍はほとんど傷を負ってなかった。
『なっ?』今度はエドマンが驚いた。
『冷凍破壊光線がクラウン・ジョークが素子と分かれば、それに完全に耐えうる素材を作ればいい。』ベンは言い、続いてセリーシャは叫ぶ。『宇宙人はいい予防接種となってくれたよ。この、バイキン野郎!』
『貴様ら・・・ならば、拳で戦うとするか。』エドマンは高速で侍に接近した。侍は両腕から剣を取り出してエドマンに切りかかる。だが、エドマンは寸前で勢い良く飛び、侍の頭上に降り立つ。侍はバランスを崩してそのまま前に転倒する。そしてエドマンは侍の背中を何度もガン、ガン、ガン、ガンと踏むように蹴る。ベンとセリーシャの言葉に雑音が入り始める。
『・・・・・!・・・ァ・・・・!』
『・・・・・・・!・・・・・・!』
しかしエドマンは侍の背中を蹴るのを辞めない。侍の胴体は完全に破壊されている。ガラは叫ぶ。
『やめて!お願い!やめて!私が悪かった・・・・お父さんやめて!』
エドマンはガラに振り向いて言う。『ガラ。ゴミはきちんと砕いてまとめて捨てるべきだ。それを止めさせるなんて娘として恥ずかしいぞ。』
『ゴミだなんて・・・・』ガラはエドマンを睨む。
『おやおや、ゴミに肩入れするのかい、私の娘は。』エドマンは首をかしげてガラを見る。『じゃあ躾けなきゃいけないね。』
『許さない!』ガラがエドマンに飛びかかろうとした、その時、エドマンの身体が真っ二つに裂けた。
『え!?』
『え・・・』
父娘同時に同じ言葉を発した。残骸と成り果てたエドマンの頭上に同じ姿の宇宙人が宙に浮かんでいた。宇宙人は喋りだす。
『よし!これで支配する支配を倒し、支配の支配が目論む地球人絶滅を遂行すれば俺は一番だ!一番になれば審査に合格し、俺は衛星巨神の道化になれる!』
その声にはガラは聞き覚えあった。
「デルブ・パーリンシンダ!?」破損したコックピットからむき出しのセリーシャが叫んだ。
『俺をコケにしやがった奴らを許さない!ライバルを消せば俺は一番になれる!俺は超能力を得た!だから誰よりも強い!衛星巨神はみーんな殺した。あとはお前だけ!』完全に思考が錯乱している様子だが、その言葉にガラは耳を疑った。
『衛星巨神・・・あなた・・・皆殺したの・・・・?』
『王子!女王!魔女!学者!みーんな地球に落としてやったぜ!敵だからな!ついでに南瓜も頭だけ浮かんでいたがいまいましいから落としてやった!ふははははは、太陽をもっと熱くしよう!そうすれば道化も踊れまい!わっはははははははは!』
そういってデルブは飛び出した。
『・・・殺す!』ガラはそう叫んでデルブの後を追った。
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