第17話
『・・・と言うわけで、』
そして今、侍に乗ったベンがガラに言う。
『僕たちはここまで来た。ガラ、君が今からやろうとしてることは、とても恐ろしい事なんだ。僕たちも僕たちのふるさとも死ぬ。君の知り合った全ての人が死ぬ。よく考えて欲しいんだ。』
ガラはベンから語られる思い出話と推測されるいくつかの真実に衝撃を覚えた。まず自分は太陽王と通信できるように設計されたミニチュアの衛星巨神だったということ、それによって偽の夢を送信された事、太陽王の目的が自身の復活であり、その為に地球が犠牲になる事、宇宙人はそれを守るために急遽作られた存在であると言う事。それらの事実を省みて、自分は何も理解せずに浪漫に踊らされた事を屈辱的にも感じた。ガラは悔やみながら言う。
『つまり、私は・・・。』
『それこそ道化だったってことね。』セリーシャは鼻笑いをした。
『でも、どうすればいい・・・』ガラは嫌味を流しつつ苦悩する。『私はもう人間を辞めてしまった。全てを捨てて、人間として生きるのをやめてしまったのよ・・・もう後には戻れないんじゃないかと・・・。』
『だから引取り先を考えてある。誰もいない島だけど、地球に帰ってそこで暮らそう。』
『どうやって暮らすの。人よりも何十倍も大きいのよ私。ご飯を食べる必要もないのはいいけれど、ただ島にいるだけ。ずっとベンの話し相手でもするわけ?多分ベンの方が先に死ぬ。セリーシャも死ぬ。そうしたら私は地球で一人ぼっち。それとも地球にいる衛星巨神だとして祭られるのかしら。ぞっとするわ。いっその事破壊してくれた方がよかったのに・・・』
『そんな事を言わないでくれ。』ベンはすこし悲しげな声で言った。『ガラ。お前は、』
その時大きな声が鳴り響いた。『やっと聞こえたぞ!お前達は何者か!何ゆえ我が娘をたぶらかすのか!』
『出たなエドマン!』ベンは言った。『どこにいる!でてこい!』
『私は太陽にいるのだよ、ガラ。』声は答えた。『おいで、私はそこにいる。』
『お父様!』ガラが太陽に振り向く。
『やめろ!行くな!地球を滅ぼす気か!ガラ!』ベンは叫ぶ。
『娘よ!』声が叫ぶ。『お前の魂の落ち着くところは火の無い太陽にある!お前は多くの太陽の民と同じく、燃え盛る太陽に対して居心地の悪さを抱いている。それは何故か?魂が本来の太陽を求めているからだ。魂とは何か?魂とは自ら学習し構築する電気信号である!ガラの魂は私が作り出した!あらゆるテクノロジーもみな私が作り出した!だから私が作り出した全てに流れは行く!娘よ!お前は理性で否定しても魂の欲求には逆らえない!己の魂に従え!言葉で考えるな!』
『やめろ!ガラ!惑わされるな!』ベンは叫ぶ。
『私!お父様と話し合いをしてみる!』ガラは侍に振り返りながら叫んだ。
『話し合いなんて無駄よ!ガラ!』セリーシャは叫んだ。『あんたは今までも騙された!これからもどうせ嘘の一つや見抜けやしないわ!』
『私が地球で永遠に悩まされるぐらいなら、』ガラはいった。『はっきりと話し合った方がイイ気がする!』そうしてガラは太陽に飛び立った。
『くっそ、まて、ガラ!』ベンは叫んだ。侍を飛ばしてガラの足を掴んだ。しかし侍ごとガラは太陽に向かって飛んでく。『どうやって、太陽に行くというのだ!太陽には恐ろしい熱と重力があるんだぞ!』
『クラウン・ジョークよ。』ガラは言い放った。『冷凍光線を可能とし、重力を相殺する。私の力は自分を守るために最大限の力が出せる。そして、今は外にも出せるようになった。』ガラは後ろを振り返った。『だからあなたたちも守れる。一緒にいきましょう。太陽へ。友達と一緒なら、心強い。』
『ガラァ!』ベンは反動こそ感じ無いが星が過ぎ去る速度に怯えずにはいられなかった。太陽への距離は遠いに決まっている。どれほど加速しているのか分からないが、太陽まで着くのに数日はかかるに違いない。エドマンの声が聞こえる。『おいで、我が娘よ。おいで、死せる母の地球から産まれた、我が娘よ。』
5日たっても太陽には辿り着かなかった。ガラの足を掴んだまま侍を固定したので、ベンとセリーシャは交代で見張りをする。
『ガラ、本当に大丈夫なのか。』ベンは訊く。『お前の選択次第で地球は簡単に滅んでしまう。お前が太陽王に憐れみを感じたら地球はおしまいだぞ。』
『全てを知らなくちゃいけないと思うの。』ガラは言った。『宇宙人も太陽人が作り出した。つまり太陽人同士の争いでしょう。何がどうなってるのか分からないまま逃げてもダメだと思う。だから、私は行く。』
『もしもお前が寝返ったら、僕だって考えが無いわけじゃないぞ。』
『怖いこと言わないで、ベン。むしろあなたたちには私を助けて欲しいの。もしも惑わされたときに、眼を覚まさせてくれないと、私、永遠に後悔することになる。』
『わかった。』
『ベンにできんの?』セリーシャが間に入った。『イヤな事言ってほしいなら私にまかせて。ベンは馬鹿正直だから。』
『わかった。ありがとうセリーシャ。』ガラは言った。『色々あったけど、あなたは私のとてもいい友達だった、そう感じる。』
セリーシャは戸惑った。『あ、ありがとう。』
『さぁて。』ベンは言った。『まもなく火の中だぞ。確かに不思議なほど温度を感じない。』
『しばらくはずっと火の中だと思う。』ガラは前を見ながら言う。『よかった。あ
なたたちにクラウン・ジョークが届いてる。』
『どうやらそうみたいだな。』
『実を言うと、宇宙人に襲われた時、ゴブルグ社長からこっそり新しい力の使い方を教えてもらったの。宇宙人に攻撃を返せるようにね。でも疑われてるから人前でやるな、て言われてて、それで全然練習しなかったものだから、ろくに力を出せなかった。』
『そうだったのか。』
『でもこれは問題なく発揮できたみたい。日ごろ自分を守るためにクラウン・ジョークを使ってたからか、これは応用が効くみたいね。』
『なるほどね。』
コックピットの視界が火で包まれる。
『ところで、待ち伏せ作戦ってどういうものだったの?』ガラは訊いた。
『ああ。それはな、宇宙人は、忍者に傷つけられた時に南瓜の頭に逃げ込んで難を逃れていた。その経験があるから、再び襲うならばガラが独りの時に違いない。パンプキン社と協力して南瓜の状態を推測し、侍の完成まで作戦が間に合う事がわかった。そして政府に偽の任務を送る事にしてガラを独りにし、気配を消すために電源を完全にオフにした。これが機械製衛星巨神にできることだな。』
『なるほどね。』
『申し訳ないが、ここに来た時君の事を無視していたのは、南瓜にその会話を聴かれないためだ。いきなり襲われて不意打ちをもしも喰らってしまったら台無しだ。逃げられる可能性すらある。』
『そうだったの。』
『最初に宇宙人が君の目の前に現れたとき、君は忍者に夢の話をしていただろう。』
『あ。』
『だから奴はあいつが太陽の火を消しに来た奴だ、と自動的に判断して襲いに来たんだ。同じように迂闊な事を言って作戦が台無しになったらだめだ。』
『なるほどね。』
『まあ、これで説明は全部かな・・・しかし飽きるぐらい火ばかりだな。』
『太陽は大きいもの。』
クラウン・ジョークが太陽に侵入するために機能する、という事実をふと考えてベンは暗澹たる気持ちになった。クラウン・ジョークが発明されるのも、ガラが衛星巨神の道化になることも全て予定調和として導かれているように感じた。太陽王がガラに働きかけたのは、ただ、夢だけだった。あと・・・。
『そういえば。』ベンが口を開いた。『君は曇り空が好きだと言っていたな。』
『ええ。』
『なんでだっけ。』
『曇り空の方が太陽を想像させるからって。太陽が本来の姿じゃない気がしたからって・・・』ガラはそう言いかけて黙った。
『・・・。』ベンも黙った。
『え、何々』セリーシャが割り込んだ。『やっぱりあんた太陽人側なの?』 『・・・・もしかしたら』ガラは重々しく言った。『私は本来そういう魂をもつ人間だったのかもしれない。お父様にそのように設計されたのかもしれない。』
『忠告しておくけど、あんたの言う父とやら、言葉にすごい全能感あるけど』セリーシャは言った。『それに歯向かう太陽人がいたってことでしょ。神なんじゃなくて、物凄いデキの良い支配欲だったかもしれない。あんたも気をつけて、選択しなきゃいけないと思うよ。』
『勿論、そうだね・・・。』
『私たちは地球が滅んで欲しくない。』セリーシャは言った。『そしてあなたも生涯の大半は地球で過ごしていたはず。それを忘れないで欲しい。』
『うん。』
数時間後。
『火が薄くなったぞ?』ベンは言った。
『そうね。そろそろ目的地が見えるんじゃないかしらね。』ガラは言った。
『本当にあるのか、この目で見る事になるのか・・・。』
『うん。』
しばらくして、ベンは『え?これ!』と叫んだ。セリーシャが『どうしたの?』と応答してコックピットの光景に眼を凝らしたら『ちょっと・・・』と息を呑んだ。ガラも『いよいよだわ・・・。』とボソリと言う。 火に包まれた空間の中に、球状の赤い要塞都市が浮かんでいた。あまりに巨大で精密だったので三人とも息を呑んだ。『ガラ、とうとう来たね!』太陽王の声がした。『座標を送るから、そこに向かって欲しい!お友達も連れてきたんだね!ぜひいらっしゃい!』
打って変わって歓迎の空気なのをベンは不思議に思いつつ、ガラの足を掴み続ける。そしてやがてさほど凹凸の無い平地の箇所が見える。
『ベン。』ガラは話した。『ここは地球と環境が変わらないようにできてるみたい。クラウン・ジョークが無くても生きていける。』
『オーケー。』ベンは言った。『じゃあ、手を離すよ。手動で操縦して着地する。』
『ラジャ。』ガラは言った。侍は手を離し、ジェットを上手に丁寧に吹かしながら平地へと向かった。ガラが先に到着して前を見ていた。侍も到着し、ガラの視線の先を見た。長身のやせ細った男が磔にされていた。その顔には3人には見覚えがあった。歴史の教科書に。
『偉大な科学者、エドマン・ステラ』ベンは言った。『貴方が太陽王ですね。』
エドマンはニヤリと笑った。『その通りだ。』口は動いていなかった。『お前達は地球の人間だろう?娘の友達ならここに住んでも良いぞ。』
『いや、私たちには帰る家があるんで。』ベンは断った。
『そうか。娘をまた地球に連れ去ろうと言うのだな。』
『その前にお父様。』ガラは言った。『まず、知りたいのです。なぜお父様は磔にされているのか、なぜ太陽が火で包まれたのか。ドミニクとはどんな関係にあるか。ハルビンとは誰か。』
『色々知ってるんだな。話すとそれなりに長いが』エドマンは言った。『君たち地 球の人とも非常に馴染みのある話だ。聞かせてもよかろう。』
エドマンは話し始め、二人の巨人が鎮座してその話を聴く。赤い金属の要塞都市は周りが火で包まれている。その火は消される危機にある。その火は今は太陽の光として地球を照らしている・・・。
その頃、地球では・・・。
・・・太陽の光に当てられメラマは眼を覚ました。何かすごく悪い夢を見た気がしたから、目覚める事ができてよかった、とメラマは思った。窓のカーテンの外の太陽を見て、メラマは伸びをする。着替える前に郵便受けを見る。そして封筒を開ける。
『メラマ様
あなたのセルルヒ・サーカス団の入団を認めます。研修に付きましては別紙をご 覧下さい。人々に夢と興奮が与えられる事を期待しています。』
メラマは思わず手紙をじっと見つめ、「やったーー!」と叫びながら家の中を駆け回った。「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん!私道化になれた!道化になれたよ!」そういいながら額縁に向かう。
だが、額縁の中は真っ黒である。
「・・・お祖母ちゃん・・・?」
・・・太陽の光にあてられたニンジャ社の会議室では、襲撃者大破の連絡以降、音信不通のまま帰ってこない道化と侍の二人の衛星巨神の事で頭を悩ましていた。メジロウ社長と、そして、クラウン社長のゴブルグもいた。
(参加しなきゃいけなくなったが、)ゴブルグは言った。(俺ははやく娘のクルシャとここを出ねば・・・)
そしてふいに辺りが暗くなり始める。
太陽の光にあてられた、かつてはパンプキン社だった残骸の下でゲルミー・パーリンシンダは息がどんどんと弱くなるのを感じていた。(すまない、ベン・アドラ、そしてセリーシャ・ショコラッテ・・・。)ゲルミーは涙を一滴流した。(俺には食い止めることができなかった・・・何もできなかったんだよ・・・)空の光景がどんどんと曖昧なマーブルへと変わっていくのを感じながら、空から何かが落ちてくるのが見える。それが自分にトドメを刺すものであろうとゲルミーは覚悟して眼を閉じた。そして南瓜の頭がパンプキン社の跡地に墜落した。
「何だあれは!」「落ちてくるぞ!」「え、これ衛星巨人の王子じゃないか!」「首 に穴を開けられて死んでいる!」「逃げろ!」「うわ!」「死にたくない!」
断末魔の悲鳴を押し殺すように、死んだ王子が轟音を上げて街を押しつぶし、地面が激しく揺れ、建物が次々と倒壊した。衛星巨神たちが地球に次々と落ちてくる。生き残るは道化と侍と、それと・・・。
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