第16話

「やっぱりあの攻撃普通に見たことがあった、というか同じだわ。」

 セリーシャは映像をもう一度再生しながら言った。

「ほらこの光を集めるやつ。デルブが私を殺そうとしたときもこんな事してた・・・。」

「クルンベルバル・ヴォーツェルの歌。」ベンは顎に指を当てながら考え込む。「宇宙人は太陽王と関係あるのだろうか。」

「クルンクルンベロベロがなんだって?」

「クルンベルバル・ヴォーツェル。」ベンは訂正した。「古代に現れた奇人と伝えられるが、もしかして、関係あるのかな、と・・・。」

「どんな歌なの?」

「これ。」

 ベンはバッグから一枚の紙を取り出す。そこには詩が書かれていた。


クルンベルバル・ヴォーツェルのうた

作者未詳


クルンベルバル・ヴォーツェルは語る

かつてヒトは光だったと

ヒトは光を忘れ

火と共に生きるようになったのさ。

太陽が語りかける

おいで光の国へ

でもヒトは光を憎み

光に火を齎した

クルンベルバル・ヴォーツェルが語る

火とヒトと光の歴史

ヒトは光を忘れ

火と共に生きるようになったのさ



「ヒトは光を憎み、光に火を齎した。」ベンは言った。「ガラは夢でこう言っていた。何者かに狂わされて太陽が火で覆われた、と。」

「その何者かは私たちヒトの業だってこと?」

「ああ、そうだな。もし、クルンベルバル・ヴォーツェルが狂言でなければな。」ベンは考え込む。「しかし出まかせでドミニクに言ったら動揺してたから、太陽人なのかもしれない。襲撃者があれを歌ったと言う事は、関連性が十分に考えられる。」

「もしも、襲撃者が南瓜だったとしたら、パンプキン社は人間側で太陽を火で包んだままにするミッションをしていたわけね。」

「ああ。ここで、繋がりがまたできたな。」

「クラウン・ジョーク、クラウン社、道化師、デルブ、南瓜、太陽王・・・。」

「でも確証を得たわけじゃない。」

「もちろん、これからパンプキン社に殴り込みしなきゃね。」

「いや、殴っちゃだめだろう。」ベンは笑った。「でも、やっぱりクラウン社も怪しいな。というか、クラウン・ジョークって何なんだ?」

「というと?」

「襲撃者がクラウン・ジョークを使ってるって、おかしいと思わないか?クルンベルバルの歌が本当だとすると、光を憎んだヒトたちが、その使命のためにクラウン・ジョークを使っている、という事になるだろう?」

「うん。」

「一方、クラウン社は自身の衛星巨神にはクラウン・ジョークを使っていると謳っている。」

「うん。」

「太陽を憎んだ衛星巨神も、太陽王が使う衛星巨神も、クラウン・ジョークを使っている。」ベンは言う。「パンプキン社のやつらも太陽人が関わっている気がするんだ。もしそうならばなぜ太陽人同士、敵対しあっているのだろう。」




 そしてパンプキン社。非常に安上がりなオンボロビルな風貌のその会社に二人は赴く。

「何の用だ?」ゲルミー・パーリンシンダ社長が社長室で嫌々訊ねる。

「私たちは衛星巨神”侍”の搭乗員でして、”忍者”撃破事件の再発阻止のミッションを頂きました。」ベンは自己紹介した。「そのため情報収集と捜査をしています。どうかご協力いただけないでしょうか。」

「協力って何をするんだ?」

「デルブさんはここにおられますか?」

「デルブ?奴に何の関係がある。」

「重要な情報があるかもしれないんです。」セリーシャの方が切り出した。「ですから、お伺いしたく・・・。」

「奴は完全に壊れている。刺激しないで欲しいが・・・。」

「大丈夫です。」セリーシャはゲルミーを見て頷いた。

 そして車椅子で介護士に連れられたデルブは「んへあ・・・」と呻いていた。

「奴は未だに衛星巨神の審査が続いていると思い込んでいるのです。」ゲルミーが苦々しく言った。「そのつもりで話してください。」

「承知しました。」セリーシャはデルブに話しかけた。「デルブくん、元気?」

「おや、ライバルの女じゃねえか。」デルブがにへら顔で言う。「何の用だ。」

「これは試験の一環で心理テストです。」セリーシャが言った。「私はライバルの女ではなく試験官です。しかし、あえてファイナリストの格好をしています。その点ご理解いただけますでしょうか。」

「うふぅ、よくわからんけどわかった。」

「早速ですが、デルブさんはどうして衛星巨神の試験を受けようと思ったんですか?」

「決まってんじゃねぇか。俺も皆と同じ、神になりてぇんだよ。」

「あなたはとても得意げでしだね。絶対に勝てる、と思ってた。何があなたをそう自信づけたのですか?」

「クラウン・ジョークさ。」デルブがそう言ったのでセリーシャもベンも目を見合わせた。「俺は南瓜の訓練場でよく遊んでいた。南瓜って道楽かと思ったがすっげえな。いくらでも大きさ変えられるし、いざとなったら攻撃もできるらしいってのも知ったさ。だから・・・」

「やめろ。」ゲルミーが叫んだ。「デルブを部屋に返してくれ。」

 介護士は喋り続けるデルブの車椅子を運んで外に出した。

「あんたら産業スパイか?息子をダシにして色々聞きだすのはやめてくれ。」ゲルミーは憎しみを込めて言った。

「いえ、もっと重要な話です。」セリーシャは言った。「忍者を殺したのはあなたの衛星巨神だ、ということ。」

「何を言う!そんな事はありえない!帰った、帰った!」

「そう思いたい所ですが、忍者の身体の穴が、冷凍光線を可能とするクラウン・ジョークでしかありえないんですよね。」ベンは言った。「そしてクラウン・ジョークはクラウン社の特許のはずだ。だが、クラウン社はありえない。攻撃できない設定のはず。そして、セリーシャによればお子さんの攻撃にそっくりだそうで。どうやってクラウン社の技術を貰ったのか、 気になる所ですがね。」

「何なら、デルブが私が攻撃した時の映像と、襲撃者が忍者を攻撃する時の映像の比較もありますけど」セリーシャが言った。

「もういい!もういい!」ゲルミーはそう叫んだ後力が抜けてそのまま社長用ソファーにドカっと座った。「・・・君たちは誰の味方かね・・・誰の為に私を問い詰めるのかね・・・クラウン社か?ニンジャ社か?」

「いえ、人類の為です。」ベンはもうここで思いきろうと決心した。「地球が凍えないため。」

 ゲルミーは目を開いた。「お前・・・知ってるのか・・・」

「はい。」ベンははっきりと答えた。「友達のガラ・ステラが太陽王に惑わされて、今、宇宙に飛び立っています。時間があまりありません。僕は彼女を説得しにいくので、情報が欲しいのです。」

「う・・・」ゲルミーは頭をかきむしった。「だがな、俺は頼まれた身分だ。ハルビンとかいう貴族が、俺に金だして会社作らせた。地球がヤバイから協力しろ、とな。」

「ハルビン?」

「多分お前たちにはこういう言い方で通じるだろうが、奴は太陽人だ。太陽人古来から伝わる科学力を持っている。だからあいつらの言うクラウン・ジョークと全く同じ仕組みのものが使えた。彼が設計書も何もかもくれて、俺はその通りに衛星巨神を作らせた。南瓜をかぶせたのもおそらく正体がばれないためだったのだろう。全てを知ったのは、デルブが事故を起こした3次審査の後だったよ。」

「どうしてその時に?」

「ハルビンは、激怒していて、その時に全てを打ち明けたんだ。太陽王はクラウン・ジョークを使った衛星巨神で太陽の復活を目論んでいた。そしてさらに搭乗員になるべき人をすでに眼をつけていた。もちろんガラ・ステラのことだ。ハルビンは、ガラが衛星巨神になるのを食い止める為にペンドリヒという優秀な作業員を送って3次まで試験を通らせたらしい。それを俺の・・・息子が・・・殺したらしく・・・。」

 ベンもセリーシャも思わずお互い見た。

「それで、」ベンは言った。「僕はなるべく穏便にことを済ませたいと考えていて、ガラに説得をしたいんです。だから、その、南瓜にしばらくそのミッションをやめるよう伝える事はできませんか?」

「申し訳ないが、不可能だ。」ゲルミーはかぶりを振った。「あれは搭乗者の脳を破壊し、代わりにAIが仕込まれている。AIの設計はハルビンが行ってるので、今の私にはどうすることもできない・・・。」

「では、私も南瓜に交渉しますがうまくいかなかったら破壊するかもしれません。

それでもよろしいですか。」

「不良品である事は間違いない。申し訳ないが廃棄処分してくれ。やつは並外れた再生能力があるから殺すのが難しい。だが、やつの縮小した瞬間が最大の弱点だ。それでひどく損傷をすると、さすがに再生が追いつく前に完全に破壊される。そして廃棄処分確認次第、AIの無い試作機を打ち上げる事とする。」

「試作機・・・そんなものがあったんですね。」

「ああ。倉庫にある。」

「勿論この事は、秘密にしておきます。」ベンは言った。「僕らもあなたも志は同じです。共に地球を守っていきましょう。」




「つまりさ。」セリーシャは帰り際ベンに言った。「ガラに、昔から宇宙人が太陽を狂わせて火で覆った、なんてことは、パパの大嘘だったわけね。」

「そうだな。」ベンはため息をついた。「多分太陽は宇宙人と関係なくもとから火で覆われていたか、宇宙人とは違う何らかの形で狂わされて、それを宇宙人のせいかのように言っただけだ。宇宙人は実際は、太陽王の野望を食い止めるために、ハルビンによって建設されたという経緯なのだな。」

「それじゃあますます、ガラに言わなくちゃね。」

「ああ。あの子は今、騙されているんだ。」

「クラウン社って太陽王とかなり関係ありそうなんだけど、どうなのかしら。」

「全くわからない。」ベンはかぶりを振った。「ドミニクが言ってたろ?『全てはあの方の望むように設計されている』と。ドミニクと同じように、クラウン社も知らないうちに利用されているだけかもしれない。」

「うん、そうね。」

「さあて、あとは、打ち上げまで待つのかな。」ベンは伸びをした。

「情報は十分揃ったわね。」

「太陽王の復活、地球の滅亡、宇宙人の目的・・・これだけ分かればガラへの説得も十分であろう。」

「どこまで社長に言うの?」

「社長には何も言わないよ。襲撃を阻止する方法だけ言えば良いと思うし。あとは個人的な電波で打ち明ける。」

「なるほどね。」

「さあ、お互い頑張ろう!」ベンは拳をセリーシャに向けた。

「イェイ!」セリーシャはベンの拳に自分の拳をぶつけた。

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