第12話

 ガラは友人の死を悼む事より他に、差し迫った問題がある事にも気づく。何となれば、ガラの命を狙う存在が現れたからだ。自分は武器を持たない。あるいは攻撃の仕方を知らない。教わっていない。宇宙人が今現れないのは今は亡き忍者に大きな傷を負わされたからであろう。しかしもしも傷が治ったりしたら、再びガラの元に現れるに違いない。宇宙人だからそれぐらいのことはありえそうである。そうなった時に独りで戦わなければならないのだ。

『武器をお願いします。』ガラは言った。『忍者を破壊した未確認飛行物体は、明らかに私を狙って攻撃していました。このままだと私も大破されてしまいます。』

『うむ・・・』ゴブルグ社長は言った。『考えておこう。』

『考えておくって、この間に未確認飛行物体が現れたらどうするのですか。』 ガラは焦っていたので珍しく責めてしまった。

『少し返事を待ってくれ。会議した上で答えを出したい。』

『・・・承知しました。』


 宇宙人は太陽を狂わせて火で覆った存在であり、その状況を変えようとするガラを都合悪く考えた。だから宇宙人はガラを攻撃した。しかし、なぜ宇宙人はガラの事を知っていたのか。なぜガラと太陽の父が関係あると確信したのか。

 そもそも太陽の夢についてガラはそんなに打ち明けていない。忍者=マルダはそもそも宇宙人に殺された。ウィッチ社(魔女)にも悩み相談に詳細を送ったが、(あまり考えたくない事だが)もしもウィッチ社や魔女が情報を横流しにしていた場合、試験の時点で、あるいは打ちあがった直後に宇宙人はガラを攻撃しているはずだ。それとも見張っていたのかもしれないが。わからない。

 試験といえば、ファイナリストのジョーストにも打ち明けていたが、本当に一言だけだし、ジョーストの人柄からして何かを抱えているようには見えない。

 学者の宇宙人に関係する資料請求にしたって、太陽の影について聞いただけだし、それでガラが関係あると見なすのはあまりに早急すぎる感がある。あんなに確信を持って殺そうとしたのだから、ハッキリとした証拠を抱いているはずだ。いや、まさか・・・

(ベン・・・?)

 自分が打ち上がる前のベンは確かに非常に奇妙であった。敵のセリーシャと組み、妙に精悍な顔であった。ベンには一番夢の話をした。ベンはガラの衛星巨神化に反対していた。もしかして、もしかしてだけど、ある時ガラを地球に戻すために宇宙人に情報を渡したのだろうか。そうだとしたらあまりに愚か過ぎる。そうでないと信じたい・・・。



『サブレナさん。』ガラはある時すれ違った魔女に訊ねた。『ちょっと知りたい事 があるんですが。』

『なあに、ガラ。』魔女は答える。

『私の幼馴染のベン・アドラさんはあなたに悩み相談をしました?』

 魔女はガラをまっすぐ見つめる。『ガラ。だめ。悩み相談の有無や詳細は誰にも明かしてはいけない事なの。そして私とウィッチ社とは特殊な言語でやり取りされているから、たとえ盗聴したって絶対に誰にも分からない。いずれにしても、教える事も知る事もできないわ。』

 いずれにせよ魔女が宇宙人に情報を流した・盗られた可能性はより薄まった、とガラは考えた。宇宙人がその特殊な言語を知っていたら別だが・・・



 そういえば宇宙人は襲撃する前にクルンベルバル・ヴォーツェルのうたを歌っていた。あのうたを教えてくれたのは王子である。王子とベン、王子と宇宙人・・・ この三者を繋ぐ糸は全く分からない。丁度その時である。

『どうしたんだい道化。難しい顔しているね。』気さくに話しかけるその声は王子 であった。

『いまちょっと考え事をしているんです。』ガラは答えた。『あの、王子さん、ちょっと聞きたい事があります。』

『なあに。』

『クルンベルバル・ヴォーツェルのうた、このまえ教えてくれたじゃないですか。』

『うん。』

『あれってもともと誰が歌った歌なのかしら。』

『クルンベルバル・ヴォーツェルのうたは伝承でね、最初に誰が歌っていたのか分かっていない。元々あった昔話に歌が付き、リュートの伴奏が付いたものだ。』

『有名な歌なの?』

『いいや?ダルムッシオという研究家がいなかったら忘れ去られた歌じゃないかなあ。』

(ダルムッシオ!?)ガラはハッと目を開けた。それはベンが学校で研究していた作家の名前である。『ならどうして・・・』宇宙人は歌ったのかしら・・・とガラは言いかけた。

『え?』

『いや、何でもないです。』(まだ何も分からない以上、王子に明かさない方がイイ。)と考えたガラ・ステラは『ちょっと気になった事があったけど、やはり大丈夫です。』と答えた。

『そうか。』王子はニコリと笑った。

 (ベン・・・。)ガラは一気に不安になる。



『学者さん。』ガラは呼びかけた。『聞きたい事があるのですが。』

『何だい、手短にすぐ終わりそうなら助かる。』金髪の少年がめんどくさそうに答えた。

『クルンベルバル・ヴォーツェルについて知りたいんです。』

『分かった。今データを送る。』

 そして再び情報がガラの元に迫り来る。しかしクルンベルバル・ヴォーツェルの資料はさほど多くなかった。(せいぜい、500年前の古代の人物である事は確かね・・・。) ある文章にはこう書かれていた。

“クルンベルバル・ヴォーツェル。古代都にいた奇人として伝えられる。人間は光から産まれた、闇を好むようになった人間は光を憎んで火を生み出した、火で包まれた光ができた、太陽はそうして生まれた、と唱えていた。彼はあくる日高い建物から飛び降りて死んでいた。彼の出生は彼自身語らなかったため現在においても謎に包まれている。”

 また、謎。しかし、クルンベルバル・ヴォーツェルと太陽の父の言う事には共通項が見られた。光を憎んだ人間が太陽に火を齎した、というクルンベルバルの言葉が正しいならば、太陽を狂わせた「宇宙人」はやはり地球人の産物なのだ。それも古くからの。




 女王は時々すれ違う事もあった。だが、女王は長い髪とドレスを無重力の中に靡かせるだけで、ガラに何も言おうとしなかった。顔は相変わらず気取っているのだ が、恐らく、ガラと忍者と侍で面白いトリオねなどとからかって、のちに忍者が死んでしまった事に申し訳なさを感じているのだろう、とガラは思う事にした。いずれにせよ女王はニュースを伝える衛星という性質、そして女王自身の気質からしても現世の現代の事にしか興味が無い素振りであった。この人に何を聞いても無駄だし、関係あるとは思えないな、とガラは考えた。


 と、考えた時である。


『ガラ。』ゴブルグ社長の声が飛び込んできた。

『はい、なんでしょう。』

『この会話は聞かれたらまずい。誰にも聴かれないよう周波数を選んで送っている。君の言葉も今は他の人に届かないようになっている。』

『承知しました。』

『その理由は後で話す。それでだ。武器をお願いしたい、という件についてだが、クラウン・ジョークを利用した防衛術のデータを君に送りたいと思う。』

『クラウン・ジョークを利用?』

『クラウン・ジョークは負のエネルギーを利用してるので、反重力や冷凍光線が可能である、と言っただろう?今のガラ・ステラは移動と力の補助と光の防衛などにしか使われていないが、応用すれば攻撃は可能なわけだ。』

『なるほど。』

『だが、これは出来るだけ人前で使わないでくれ。というのも、忍者殺しの嫌疑が君にかかっているのだ。だからこっそり送る。』

『え?』ガラは驚いた。そんな筈が。

『私も君がやっているわけはないと思う。だが、墜落した忍者の残骸を調べると、』・・・ガラは忍者の死を再び確信して悲しくなったが、ゴブルグは先を続ける・・・ 『胴板が異様に細密に砕かれている。火の爆発ではありえない。考えられるのは冷凍光線で急激に凍らされ何らかの力で砕かれた、という事だ。つまり、クラウン・ ジョークのエネルギーが使われている可能性が非常に高いとされている。』

『私、やってません!断じてやりません!忍者さんは親友でした!』

『私もそう言い張りたいものだがガラくん、証拠があれば・・・。』

『ちょっとまって!もしかしたら、映像があるかもしれません・・・』ガラは自分の脳内を検索した。『えーと・・・えーと・・・』

『無理しなくてイイ。私も君の弁護に全力を・・・』

『あった!無意識に録画していたんだ。』

『何だって!?』

『よかった。この映像を送りますね。襲撃した存在が映っています。これが偽造ではない、また私が加工できない、という事は申し訳ないけどそちらで証明していただくと助かります・・・。』

『いやいや、もう十分だよ。ありがとう!ガラ・ステラ!』

『こちらこそ!』


 そして通信は終わった。そしてさらにガラは首を傾げる。宇宙人はクラウン・ジョークを使用していた?いったい宇宙人とは、何者なのだ?

 ガラは太陽を見つめる。太陽は赤々と光っている。宇宙人が怪我をしてもなお、太陽は狂ったままなのだ! あそこに怪我をした宇宙人が休んでいるのだろう。宇宙人があの場所にいるならば、 むしろ、疑問の答えは太陽に向かえばあるのかもしれない・・・。




『今日は8人、虫が叫ぶ、レロレロレロレ、拝啓235人、細密に全力を』

 丁度南瓜が通り過ぎた。そういえば南瓜には何も話していないな、という事を思い出した。意外とデタラメなりに知っている事もあるんじゃないかとガラは考える。

『ねえ南瓜さん。』ガラは話しかけた。『太陽を狂わせて火の地にしている宇宙人って知ってる?』

『太陽は狂っている、太陽は狂わされているからだ、襲撃した存在は蜜の味、完全なる夢が私を覆い、痛いの痛いの飛んでいく。』

『あの・・・・。』

『交通規制をかければ愛の53番街、ああ嬉しいかなああ嬉しいかな、昨日はとても眠かったよ』

 ガラはだめだこりゃと思ってそっぽ向いた。南瓜は意味不明な独り言をいいながらどこかに飛んでいく。

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