第24話『山賊の地下アジトは、力戦奮闘!②』

【戦闘フィールド】

■■【魔術師】     ■■

■■          ■■

■■【山 賊】【山 賊】■■

■■【山 賊】【モンク】■■

■■【山 賊】     ■■

■■【山 賊】『藤 堂』■■

■■【山 賊】『酒 田』■■

■■【山 賊】『タニア』■■

■■【首 領】     ■■

■■          ■■

■■      ↓↓  ■■

■■      ↓↓  ■■

■■     『ロビン』■■

■■     『竜 馬』■■



 ロビンの機転でいち早く逃げ出した盗賊の竜馬だったが、裏切り者を許さない山賊の首領が一気に距離を詰めてきた。


 怒り狂う巨漢のツルツルに禿げ上がった頭頂部から湯気が立ち昇る。皺一つない茶褐色の肌にミミズのような太い血管が浮かび上がった。


「ガハハハ、逃がさんぞ小僧!」


 遊撃隊のツートップをかわし余裕綽々の表情で自分のターンを終了し、手にした巨大な戦斧の柄の先を大広間の土間床に突き立てる。


「逃がさないっていうのは、こっちのセリフっす!」


 首領に先を越された女戦士の酒田が、直ちに取って返す。一気にボスの前に回り込んで果敢に勝負を挑んだ。


【酒田のターン】

「喰らえ、ふんぬっ!」


 砕け散れっ! とばかりに振り下ろす大斧が、大広間の淀んだ空気を押しのける。ゴオッと唸りを上げる無骨な武器が山賊の首領を捉えた。


 ビシャッと飛び散る血漿が、地下の大広間を照らす蝋燭の灯りに照らされて黒く飛び散った。


【戦闘情報】

 ┏━━━━━━━━━━━

 ❙ 氏名:ゴードン

 ❙ 役職:首領

 ❙ 職業:山賊

 ❙ LV:7

 ❙ HP:30/30

 ❙ ■■■■■■■■■■

 ❙ ■■■■■■■■■■

 ❙ □□□□□□□□□□

 ┗━━━━━━━━━━━


「なんだ、その攻撃は? 効かぬわ! 蜂にでも刺されたのかと思ったぞ、がははは。では、こちらの番だな。ゆくぞ!」


【首領の反撃】

「そりゃあー!」


 大斧を持ち上げて防御の姿勢をとる女戦士に、巨漢は思いもよらぬ攻撃に出た。戦斧を振り上げる事無く、素早い動きで何との刃の部分を握り締める。


 今まで何人もの生き血を吸ってきた凶悪な武器。まさか凶刃の方ではなく、反対に柄の部分が酒田の胸元に伸びてくるとは!


 まさに槍の一撃。大ぶりな武器が描く軌跡を予想して防御体勢を取っていた酒田が、意表を突く攻撃に対応し切れなかった。


「グハッ! 斧を使って“突き”っすか!」


 女戦士の盛り上がった肩の筋肉に、戦斧の長い柄の先にある石突きがめり込んだ。

巨大な武器のバランスを取るために付けられた金属の玉が酒田を圧倒する。


「ふん、他愛もない」


 肩を押さえて痛みをこらえる女戦士に興味を無くしたのか、逃げ出した裏切り者にギラリと野卑な視線を戻しながら、部下達を一喝する。


「野郎ども! さっきの手筈どおりだ。壁になって道を塞げ! 絶対にこいつらを通すんじゃねえぞ、分かったな!」


「へ、へい!」


 野獣のような雄叫びに、荒くれ者の男達はまるでゾンビのように歩き出す。またしても彼らは、命令どおり待機するだけで戦闘を仕掛けてこない。


【戦闘フィールド】

■■【魔術師】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

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■■      【山 賊】■■

■■【山 賊】 『藤 堂』■■

■■【山 賊】 【山 賊】■■

■■【モンク】 『タニア』■■

■■【首 領】 【山 賊】■■

■■『酒 田』 【山 賊】■■

■■【山 賊】      ■■

■■           ■■

■■      『ロビン』■■

■■      『竜 馬』■■


 このゲームの仕様では、職業の固定値である移動力を消費してキャラクターがバトルフィールドを移動するのが基本だ。


 もちろんキャラがいないマス目は誰でも移動可能であるが、敵のユニットがいるマス目は移動不可になる。

 よって、前後左右を敵に囲まれたりするとどれだけ移動力が残っていても、そのユニットは移動できない。隣接した敵と戦闘するか、待機しか選択肢がないのだ。


【王子のターン】

「クソッ! 邪魔だ、どきやがれ!」


 藤堂とタニアの間にあるマス目に割り込んだ山賊の手下に、ショートソードを一閃させる。


「ぐ、ぐばっ!」


 剣対斧のアドバンテージがまたしても炸裂し、山賊の手下の一人が光となって消えていく。


「剣一、焦っちゃ駄目! 竜馬君には、ロビンさんがついているから。主よ、彼の者の御霊みたまを回復させ給え。ライファ!」


「ああ、そうだな。済まないタニア」


 首領から受けたダメージをシスターに回復してもらいながら、思いどおりにならない戦況に唇をかむ。


【ロビンのターン】

「竜馬さん、このまま真っ直ぐ後退します。私から離れないで下さい!」

「う、うん。分かった」


【戦闘フィールド】

■■【魔術師】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■      【山 賊】■■

■■【山 賊】 『藤 堂』■■

■■【山 賊】 『タニア』■■

■■【モンク】      ■■

■■【首 領】 【山 賊】■■

■■『酒 田』 【山 賊】■■

■■【山 賊】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■       ↓↓ ■■

■■       ↓↓ ■■

■■      『ロビン』■■

■■      『竜 馬』■■

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■■■■■■■■■■■■■■


「あっ、そんな! 行き止まりだよ、ロビンさん!」


 魔術師が魔法で出現させた土の壁が、大広間からの出口を塞いでいる。奥行きはかなり厚く、とても人力で穴を開けて通れそうもない。


「ぐははは、もう袋の中のネズミだな。恩知らずの盗賊め。諦めてその細い首をこの戦斧の前に差し出せ!」


 女戦士を見向きもせずに、その横を通り過ぎる。どす黒い怒りのオーラを撒き散らし、まるでネズミをいたぶるネコのようにゆっくりと歩を進める。


「待ちやがれ! デカブツ! この俺と勝負しろ!」


 だが、王子の叫びも虚しく大広間の薄ら明かりに消えていく。邪悪な笑みを浮かべながら首領が振り返る。


「慌てるな、ヒヨッコが! 貴様などあの盗賊を捻り殺した後、思う存分いたぶってやるわ! 首でも洗って待っておれ、がははは」


【酒田のターン】

「邪魔っす! オリャ!」


 行く手を塞ぐ下っ端を女戦士の大斧が薙ぎ払う。敵のHPゲージが、瞬く間に白く変わり一撃で屠る。


【戦闘フィールド】

■■【魔術師】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■      【山 賊】■■

■■【山 賊】 『藤 堂』■■

■■【山 賊】 『タニア』■■

■■【モンク】      ■■

■■【山 賊】      ■■

■■『酒 田』 【山 賊】■■

■■           ■■

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■■      【首 領】■■

■■           ■■

■■           ■■

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■■      『ロビン』■■

■■      『竜 馬』■■

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「よし、手下ども! そこで防衛ラインを引いて奴らを足止めするんだ!」

「へ、へい」


【戦闘フィールド】

■■【魔術師】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■      『藤 堂』■■

■■      『タニア』■■

■■【山 賊】      ■■

■■【山 賊】 【山 賊】■■

■■『酒 田』 【山 賊】■■

■■【山 賊】 【モンク】■■

■■           ■■

■■      【首 領】■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■      『ロビン』■■

■■      『竜 馬』■■

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【王子のターン】

「クソッたれ! ドゥリャー」


 タニアを押しのけて藤堂が竜馬の下へ走る。立ち塞がる山賊の下っ端を一刀のもと袈裟懸けに斬り捨てる。


 だが、目指す敵はまだ遠い。このままでは、王子が竜馬の元へたどり着く前に巨漢の首領が振るう凶器が、容赦なく盗賊の首を刎ねるに違いない。


 外へ通じる出口を塞ぐ魔法の土壁の前。ついに竜馬とロビンは首領に追い詰められてしまった。


「ぐへへへ、とうとう捕まえたぞ。子ネズミめ、潔く観念するがいい」


 まるでナイフのように軽々と扱う凶刃をナマコのような舌がベロリと舐める。熊の毛皮を羽織った大漢が、戦斧を振り上げて迫った。


 その時、凛としたエルフの声が響く。酒盛りの最中であり、すえた臭いがまだ漂う地下の大広間。その濁った空気がロビンの周りから浄化されていくようだ。


「どこを見ているのです? 私が相手をいたしましょう! 竜馬さんには、その汚い指一本触れさせません!」


 決意のこもったアーチャーに迷いはなかった。そのエルフの華奢な背中に守られながら竜馬が、震える声で立ち尽くす。


「ロビンさん……」


「がははは、何だ。貴様、アーチャーではないか? 分かっているのか? お前は俺様の直接攻撃を喰らうだけで、反撃もままならぬのだぞ?」


「貴方のような筋肉馬鹿に、アーチャーの闘い方を教わるつもりなどありません」


 荘厳と呼ぶに相応しい美貌が、きっぱりと断言する。その背中を竜馬は不思議な気持ちで見つめていた。


「アーチャーの闘い方……?」


「おのれ! 誰が筋肉馬鹿だ。許さんぞ色男。まずは貴様からなぶり殺してやる」


【首領のターン】

「ドゥッセー!」


 迫力の一撃が弧を描く。戦斧が巻き起こす風が、長机の上の置かれたままの汚い食器や食べ残された料理を吹飛ばした。


 間一髪。モスグリーンの髪を数本巻き上げつつ、身を沈めたロビンの頭上を凶刃が通り過ぎた。


「そんなハエが留まるノロマな攻撃で、エルフの私を仕留めると? 笑止!」


 ベッタリと目の前に粘着された首領の攻撃に対する反撃はない。弓矢を武器とするアーチャーは、一マス空けたポジションからの間接攻撃しか出来ない。


「けっ、強がりを言いおって。そんな貧弱な装備と虚弱な体力では、一撃決まればおしまいだぞ。がははは」


 まさに図星を突かれたロビンがグッと押し黙る。


 酒田にターンが回る。またしても一撃で敵を葬り去るが、首領を妄信する子分達は人の壁を築く事を止めようとしない。


 藤堂もさらに手下を一人瞬殺したが、山賊の防御壁にまだ穴が開けられない。


「くそっ。ロビン、頼む! あと少しだけ耐えてくれ!」


「王子、後ろの事はどうか気になさらずと申し上げたはず! 竜馬さんはこの身に換えても守り抜きます」


「ロビンさん、もういいよ。オイラを置いて逃げておくれよ。盗賊なんて、どうせ足手まといなんだ。闘う事も出来やしないオイラなんかよりも……」


「違う! それは違いますよ、竜馬さん」


 眼前の強敵から目を離さず、背後の盗賊に話しかける。


「人間の価値は、レベルなんかで決まる物じゃありません。ましてや職業で優劣が分かれるなど有り得ません」


「でも、このままじゃ殺されちゃうよ。オイラ、ロビンさんから大事な宝石を盗んだんだぜ! そんな馬鹿なオイラを、どうして命がけで庇ってくれるんだよ!」


 竜馬が嗚咽と共に泣き叫ぶ。現実の世界、地回りのヤクザが徘徊する新宿歌舞伎町に居た時でさえ、コレほどまでに身を挺して庇ってもらった経験はない。


 ましてやこのゲーム、盗賊と言う職業のせいで今日までずっと誰からも相手にされないままだった。竜馬が他人を信じられないのも無理はない。


 そんな竜馬の悲痛な叫びを最後までちゃんと聞き終えたロビンが、ゆっくりと口を開く。


「竜馬さんは、ちゃんと返してくれたじゃありませんか? 貴方のその顔のアザ。せっかく盗んだ妖精の石に価値がない事を咎められて、殴られたのでしょう?」


「がははは、よく分かっているじゃねえか。俺様がその世間知らずのガキに身体で教えてやったのさ」


「竜馬さん。貴方は殴られた腹いせに石を捨てることも出来た筈。でも、ちゃんと持っていてくれたじゃないですか!」


「綺麗な石だったから……。オイラ、単に捨てられなかっただけなんだよ!」


「いいんですよ、それで。いいんです。昨日までの私ならコレも運命だと思って、投げやりになり、黙って身を引いた事でしょう。だが、遊撃隊の皆さんと出会い、そして貴方と出会った。運命とはまさしくこの事です。諦める事が運命ではありません。私はこの自分の手で新しい運命を切り開くのです。だから……」


 自嘲気味に薄っすらと笑みを浮かべる美貌。

 だが、次の瞬間。キッと眦まなじりを決し首領を睨み付けた。


「貴方を死なせはしない。よく見ておいて下さい。これがアーチャーの闘い方です!」


 盾の代わりにはならない弓を床に置き、両手を広げて山賊のボスの攻撃に立ち向かう。


「がははは、馬鹿馬鹿しい遊戯をいつまでやるつもりだ?」


 嫌らしい表情を浮かべたデカイ顔を近づける。


「だが、いい度胸じゃねえか。それに免じてお前の望みどおり、盗賊を殺る前にまず貴様からあの世に送ってやろう。死ね!」


【首領のターン】

 首領の身体が七色に輝いた。まさに脳天唐竹割り。怒涛の勢いで天から雪崩落ちる巨大な戦斧が、ロビンが立っていた土間を粉砕した。


 バックステップも間に合わず避けきれない。胸元から縦一直線にえぐられた傷口から、噴水のように流血が噴きあがる。


【戦闘情報】

 ┏━━━━━━━━━━━

 ❙ 氏名:ロビン

 ❙ 役職:――

 ❙ 職業:アーチャー

 ❙ LV:4

 ❙ HP:6/24

 ❙ ■■■■■■□□□□

 ❙ □□□□□□□□□□

 ❙ □□□□

 ┗━━━━━━━━━━━


「くっ、まだです!」


 身体を張って正面からクリティカルヒットを受けたロビンが、全身を真っ赤な血で染め上げる。


 だが、遊撃隊の皆に心を開いたエルフは、仁王立ちになったまま膝を屈する事もなく道を開けない。


「くそっ! 鉄平、雑魚どもの壁をこじ開けろ!」

「了解っす」


「ロビン、薬草を使うんだ。済まない、あと1ターンだけ堪えてくれ!」

「い、1ターンだけでいいんですか? お、お安い御用ですよ。王子……」


 意識が朦朧となった状態のエルフが、それでもなんとか薬草を胸のキズに押し当ててHPの回復を図る。


「竜馬、お前はそこを動くな! 絶対に助けてみせる!」

「ご、ごめんよ。ロビンさん。オイラ、薬草も持っていないんだ。畜生……」


「がははは、何だその眼は? 元はと言えば、最初に裏切ったお前が蒔いた種だ。俺様を責めるのは筋違いというもの。そのエルフが死ぬのは、貴様のせいだ!」


【王子のターン】

「そこをどけっ! 雑魚は引っ込んでいろ!」


 抜く手も見せず煌いた銀の閃光が、ゆらゆらと揺らめく大広間の影を一刀両断にした。


「お、お頭かしら。助けて下せえー」


 次々に瞬殺される仲間を見て、残りの手下どもがさすがに悲鳴を上げ始める。もはや彼らも、ボスの命令で人の壁を築くどころではない。


 鬼神のごとく迫る遊撃隊のツートップに恐れをなし、首領の元へ逃げ出し始めた。


【戦闘フィールド】

■■【魔術師】      ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■           ■■

■■       『タニア』■■

■■『酒 田』 『藤 堂』■■

■■            ■■

■■        ↓↓ ■■

■■        ↓↓ ■■

■■      【山 賊】■■

■■      【モンク】■■

■■      【首 領】■■

■■      『ロビン』■■

■■      『竜 馬』■■

■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■


「けっ、どいつもこいつ使えない奴ばっかりだ。まあいい……」


【首領のターン】

「そこの色男。すぐに後ろのガキをあの世に送ってやるからな。先に逝って待っていやがれ! がははは」


 一歩も動けないロビンが、再び真正面から攻撃を受ける。幸いな事に今度はクリティカルが発動せず、ノーマルな一撃だ。


【戦闘情報】

 ┏━━━━━━━━━━━

 ❙ 氏名:ロビン

 ❙ 役職:――

 ❙ 職業:アーチャー

 ❙ LV:4

 ❙ HP:2/24

 ❙ ■■□□□□□□□□

 ❙ □□□□□□□□□□

 ❙ □□□□

 ┗━━━━━━━━━━━


「ちっ、運の良い奴め」


 さらに一撃を喰らってHPが残り僅かとなっても、輝くばかりの美貌に翳りの色は見えない。竜馬を守るために両手を広げて一歩も引かない構えだ。


 だが、血の気もなく顔面蒼白となったアーチャーが、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。


「ロビンさん!」


 慌てて後ろから抱き留めたエルフの身体は、竜馬が思った以上に華奢で軽く感じられた。

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