第20話『色仕掛けなら、開門揖盗?』
遊撃隊のメンバーが道具屋を後にした頃、すでに村長以下青年団の何人かが、村の北門で簡易なバリケードをこしらえ始めていた。
「そこの丸太は、こっちへ積み上げて。そう、そう。しっかりとロープで縛って。土台と基礎が大事だからね。手を抜かないで!」
「村長! 道具屋さんから借りてきた半鐘は、どこへ吊るすといいかね?」
「何だって? それは洒落のつもり“かね”?」
村人の問い掛けを巧みに切り返した村長の言葉に、若者達のアハハという笑い声が、小さな村の外れに広がる。
「ここのバリケードも、草原でスライムを封じた物と同じくらいの高さが必要だよ。とりあえず半鐘と撞木しゅもくは後で吊るすから、その辺に置いておけばいい」
「今度の相手は山賊って話ですよね? 魔物じゃないから、呪札は必要ない?」
「そうだね。人間相手じゃ、効果がないから貼っても無駄だね」
二度目の防御柵作りとあって、村人達も手際よくバリケードを組み上げていく。
戦火渦巻くアメリア大陸。北の外れにあるワーシントン王国のさらに北。過疎化も進む平和な村に、争いの火種を持ち込まないよう村人達は懸命に作業を続ける。
恐らく手の空いている村人が、続々と詰め掛けるだろう。昔取った杵柄で剣や斧を抱える老人達や、お茶とおにぎりをバスケットに入れてやって来る婦人もいるだろう。
【自助共助】自分達の村は、自分達で守るのだ。
彼らは、王国の騎士団や中央の役人を当てにしない。村長をリーダーとした素晴らしい自主防災組織が、こんな辺鄙な田舎の村に力強く根付いていた。
青年団の若者達が和気藹々(わきあいあい)と防御柵を作り始めた時、ようやく藤堂達四人が村の北門に姿を見せた。
「村長、ありがとう。道具屋のおかみさんに、話を付けておいてくれて。助かったよ」
「すみません、王子様。今は、あんな事ぐらいでしかお役に立てず。でも、いつか遊撃隊を財政的に支える事が出来るよう、村人一同頑張りますから」
「そう言ってくれると、俺もやる気が出るよ。山賊なんてぶっ潰してやるからな」
「ねぇねぇ、剣一? ほら、村興しについても、何か名案がないの?」
「うーん。それを聞かれると、どうしても【ウサギの丸焼き】が頭に浮かんでしまう」
「うはっ。実はタニアもそうだよ」
先日、老執事のチュートリアルがウサギ妖精のフェアリーにお仕置きした一件だ。
――テメェ! くぉら! いつまで寝てケツカル! 舐めたマネしてやがるとそのぴょんぴょん耳から指突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたろか、われ!――
老執事の絶叫だ。地獄の悪魔が裸足で逃げ出し、RPGの最後に出てくるボスが、可愛く感じられるほどの恫喝と罵声が、まだ藤堂の耳にハッキリと残っている。
暗黒面の本性をさらけ出し、まさに黒執事に変貌を遂げたチュートリアルには、決して逆らわない事を二人はお互い心の中で誓い合っていた。
「ヒッ! 駄目駄目駄目! 駄目って言ったら、駄目だピョン!」
その当事者と言うか被害者であるウサギ妖精も、今王子がポツリと漏らした独り言に過剰反応して、物凄い勢いで宙を飛び回る。
小さなバニーガールの背中に生えた四枚の透き通る羽が、右へ左へ高速移動する。彼女が飛び去る軌跡が、流れ星のようにキラキラ輝くのは頬を伝う涙のせいか……。
「フェアリー、落ち着けって! 【ウサギの丸焼き】なんて、爺さんの悪い冗談に決まっているだろ? 村の名物についてなら、俺も頭を捻ってみるからさ」
「本当にピョン?」
王子の言葉にピタッと空中で静止する。軽くウェーブしたブロンドの髪を揺らしながら、うるうるになった瞳が問い掛ける。
「フェアリーの故郷があるウサギ妖精界で、チュートリアル様の特製究極魔法『火炎滅殺地獄車』が炸裂して、名物【ウサギの丸焼き】が大量生産されないピョン?」
藤堂の返事に期待して、長く伸びたピンクの両耳がシャンと伸びる。
「されないって! ……たぶん」
「びぇぇぇぇん! マスターが、フェアリーをいぢめるぅぅぅ!」
またしても狂ったようにフェアリーが旋回する。八の字飛行から鋭角ターンを決めるなど、意識的にやっている訳ではない割に芸が細かい。
「では、王子様。そして遊撃隊の皆様、お気をつけて。ご覧のとおりこの北門は、バリケードで封鎖します。どうぞ気兼ねする事なく目的をお果たし下さい」
遊撃隊のお約束的なドタバタ劇にこれ以上付き合いきれないと思ったのか、村長が襟を正して頭を下げる。
――■――□――■――
「先輩、あの脇道じゃないっすか?」
村を出た四人が、ゴツゴツとした岩肌を縫うようにうねる山道を三十分ほど歩くと、村長が説明したとおり右手に走る林道が見えてきた。
この先にはもう村や街はない。藤堂達が登ってきたこの険しい山道も、秘薬草の採取に訪れる村人や冒険者の足で踏み固められた、いわば獣道のようなものだ。
先頭を歩いていたロビンが、脇道のかなり手前で足を止める。敵のアジトが近づいてきたせいか、さすがに彼も爆睡モードではなく、その表情はキリッ引き締まっている。
「王子、このまま進むのは危険かと。恐らく山賊は、見張りを置いているのでは?」
「そうだな。だが、迂回するにも土地勘がない。道に迷ったらヤバイしな」
「じゃあ念のため、私と酒田さんでちょっと様子を見てきます」
「先輩とタニアは、ここで待っていて欲しいっす」
「そうか、悪いな」
「二人とも、気をつけてね」
王子とシスターに見送られ、レベルの高い女戦士とエルフはさっそく偵察行動を開始した。酒田は右側の急斜面を駆け上がり林の中に姿を消す。
一方、足のあるロビンは目的地を迂回するように、大きく左側の山道を疾走して行く。息の合った連携で、すぐにでも山賊の斥候を見つけ出すに違いない。
後に残された藤堂とタニアは、村から続く山道の路肩に身を寄せる。一抱えもある巨木の陰で、二人は酒田達を待つ事にする。
「ね。ね。その見張り、捕まえちゃおうよ! ついでにアジトまで案内させるの。きゃいーん! タニア、あったま良いー!」
ワクワクした眼差しのタニアが、ピョンピョン飛び跳ねる。信じられない程くびれた彼女のウェストが、その衝撃を吸収出来ずにまん丸なヒップを一緒に揺らす。
過激なコスチュームの修道服に身を包んだシスターは、その発言まで過激だった。
「そうか? じゃあ、お前に一肌脱いでもらうとするか」
「一肌脱ぐ? でも、タニア今これしか着ていないから、下着だけになっちゃうよ?」
ピッタリと肌に張り付いた修道服をヒョイと摘む。
「ば、馬鹿! 誰がそんな事をやれって言った? 見張りの目を惹き付けるんだ」
「あ、そっか。囮になればいいんだね? うんうん、バッチリ任せて」
「所詮は隣街でくすぶっていた程度の悪ガキ共だ。一気にやられる事はまずないと思うが、ヤバイと感じたらすぐに逃げるんだぞ?」
「了解。高レベルの山賊が、たまたま見張りについていないように祈っていて!」
「分かった。でも、キシリトール教のお祈りって、……どうやるんだ?」
「もう! 剣一ったら、しょうがないな。いい? 教えてあげるから、タニアの真似をして後に続いてよね」
そう言いながら、シスターがゆっくりと目を閉じる。豊かな谷間が聳える真っ白な胸元で両手を組む。
「えっ? えーっと、こうか?」
「そう、そう」
タニアがお祈りのポーズのまま、チラッと薄目を開けて横を盗み見る。その隣では言われたとおり、王子が胸の前で両手を組みながら瞑想中だ。
「いい? 『天にまします我らの神よ……』」
「あー、『……天にまします我らの神よ』」
「うん、うん。次ね、『願わくは、我らの日用の糧かてを今日も与えたまえ』」
「はいはい。『……願わくは、我らの日用の糧を今日も与えたまえ』って、オイ! いきなりメシのお願いかよ!」
「いいの! キシリトール教じゃ一番大事なんだから。じゃあ、最後だからしっかり口に出して唱えるんだよ、分かった? ハイ、目を閉じて」
「へいへい」
「『願わくは、この闘いで……』
神妙な顔つきでお祈りを続けるタニアが、真剣な表情で瞼を閉じる王子の横顔を見つめてクスッと笑みを浮かべる。
「『……とびっきり可愛くて大切なタニアが、怪我をしませんように。どんな事があっても、俺が命がけで守ると誓います』」
「『願わくは、この闘いで……、とびっきり可愛くて大切なタニアが、怪我をしませんように。どんな事があっても、俺が命がけで守ると……へっ?』」
ヘンテコなお祈りの文句に不信感を抱いた藤堂が薄目を開けると、そこには嬉しそうに彼をじっと見つめて微笑む幼馴染のシスターの顔があった。
「あっ! お前まさか?」
「惜しい、もうちょっとだったのに」
「だ、騙したな! な、何が“とびっきり可愛くて大切な”だ! 畜生、思いっきり恥ずかしい台詞を真顔で言わせやがって……」
二人がじゃれ合っている間に、女戦士と弓兵が戻って来た。
「ただ今っす」
「おう、早かったな。で、首尾はどうだ?」
「楽勝っす。見張りは一人だけ。呑気なもんで、緊張感の欠片もないっす」
「しかも王子、良い報せです。その見張りが例の盗賊でした」
普段は冷静沈着なエルフにしては珍しく、やや興奮気味にロビンが報告する。
「マジか? 俺達、どうやらツキがあるようだな」
「ええ。アイツは足が速いから、また逃げられると厄介です。逃げ道を塞いでから取り押さえようと思います」
「そうだな、いい考えがある。こっちも最高の囮で奴の気を逸らせる事にしたから。その間に包囲網を固めればいい。じゃあ頼むぞ、タニア?」
「OK!」
――■――□――■――
周囲より少し小高くなった丘の上。村から続く山道が見渡せるこの場所に、いつも山賊は見張りを置いていた。
「畜生、痛いよー。まだ顎がガクガクする。あのハゲ首領め、オイラの事を思いっきりブッ飛ばすんだもんな。新宿のヤクザだって、もう少しは加減して殴るのに……」
盗賊がブツブツと独り言を言いながら口を開け閉めする。まだ少年と呼ぶに相応しい彼の口元には、内出血を起こした青アザがまだ痛々しく残っている。
「それに言う事がコロコロ変るし。今度こそ村の様子を探りに行こうとしたら、『てめえは、見張りでもやってろ!』なんて。もう、呆れて嫌になっちまうよ」
と、その時!
「キャー! だ、誰か。助けてー」
絹を裂くような悲鳴……には程遠い、どこか嬉しそうにも聞こえる女性の叫び声が、秘薬草の自生する湿地帯に響き渡る。
「何だ? あの娘、誰かに襲われているのかな?」
丘の上からこっそり覗き見ると、キシリトール教のシスターが一心不乱にこちらへ向かって駆けて来るのが見える。
しばらくすると彼女の後を追うように、覆面姿の大柄な戦士が現れた。手にした大斧で邪魔な木々を切り刻みながら、美しい獲物との距離をゆっくりと詰めてくる。
「おかしいな、今日はみんなアジトに引き篭もっている筈なのに。うーん。それにあんな格好をした戦士なんて、山賊達の中にいたかなー?」
仲間の顔を全て把握していない新入りの盗賊が首を捻る。見晴らしの良い高台に居るその黒いマント姿の若者を見つけたのか、シスターが息せき切って駆け寄ってくる。
「ハァハァ、ハァハァ。お願い……、助けて」
肩で息をしながら倒れこんだ彼女が、上目遣いで見上げてきた。
魅惑的なコスチュームからはみ出る程豊かな白い胸の谷間が、見下ろす少年の脳を一瞬で焼き尽くす。
「あ、あの。オイラ、その……」
何故こんな場所でシスターが襲われているのか? 仲間は全員穴倉の中にいる。追っ手が山賊ではないことは確かだ。では、彼女を追いかけてくるのは一体誰なのか?
普通ならば、そんな疑問が頭にすぐに浮かぶはずだ。警戒心が首をもたげ、とにかく仲間を呼び集めようと、アジトまでへすっ飛んでいくだろう。
だが、タニアの媚態に翻弄された盗賊は、頭の中が真っ白になっている。
わざとらしい演技と取って付けたような台詞だったが、彼女の正体を見破れる筈もなかった。
「ど、どうしたんだい?」
「変な人に追われているの! お願い、助けて!」
大胆にカットされた修道服を着た美少女シスターの華奢な手が差し出される。吸い寄せられるように盗賊がその手を取り、地面に横たわる彼女を立ち上がらせた。
「うふふ……。捕まえたっ!」
「え?」
咲き誇る花のようにニッコリとタニアが微笑む。その言葉の意味が判らず、黒いマント姿の若者は、手を握られたまま呆然と立ち尽くしていた。
そこへ彼女を追い掛けて来た戦士が、覆面を外しながら姿を現す。もちろんそれは、元柔道のインターハイチャンプで、今は女戦士の酒田なのは言うまでもない。
「ふぅー。やっぱり僕、走るのは苦手っすよ」
女戦士として軽々と大斧を操る力自慢の割には、ランニングなどの持久力にやや難があるようだ。
「君、早く逃げなきゃ!」
「駄目、駄目。じっとしていなきゃ!」
まさか彼女が性質たちの悪い美人局つつもたせだとは思いもよらない盗賊は、この段階でもシスターの手を取り駆け出そうとする。
もちろんタニアは逆に若者の腕を押さえ込み、テコでもその場を動かない。
「そうそう。その娘の言うとおりにした方が身のためだぜ?」
美少女の囮に気を取られている間に、藤堂が逃げ道を塞いでいた。スラリと抜き放ったショートソードの刀身に、“しまった”という表情になった盗賊の顔が映りこむ。
「畜生!」
ようやく騙されたことに気づき、タニアの手を強引に振りほどく。だが、軽やかに身を翻した先には、包囲網を完成させる最後の一人が待ち構えていた。
緑の髪と新緑の瞳を持った、神が愛でた造形物のように美しいエルフ。ともすれば先走りそうになる気持ちを静かなる呼吸で整えながら弓を構える。
充実した気力に満ち溢れたロビンが、ショートボウと呼ばれる短弓を胸の前でグッと引き絞り、その狙いをピタリと若者に定めていた。
「もう逃がしませんよ。今すぐ妖精の石を返せば良し。さもなければ、この矢が今度こそ貴方の心臓を確実に射抜きます」
「ちょっ! ちょっと待って、分かったから射たないで。もう、逃げないから」
四人に囲まれては得意の逃げ足も用を成さないと観念したのか、盗賊があっさりと白旗を揚げる。
「ゴメン、悪かったよ。つい出来心って奴でさ。ほら、盗賊の悲しい性? あんたの宝石は、このとおり返すからさ」
少年がガサゴソと黒いマントの中を探り、左手をそっと差し出す。
その間、ゆったりと斧を構える女戦士は、いつでもその凶器を振り下ろす体勢を崩さない。盗賊の後では、不意打ちに備える王子が短剣を構え直している。
「ホラ、取っておくれよ」
おずおずと突き出された少年の手に、太陽の光を乱反射する妖精の石が握られているのを見ても、エルフは弓矢の照準を一ミリたりとも動かさない。
「うーん。じゃあ、タニアが代わりに貰っちゃうね」
そう言いながら、無造作にヒョイと手を伸ばす。緊張感の漂う緊迫した空気の中、あっけらかんと少年から石を取り返し、まだ微動だにしないロビンに差し出した。
「ありがとう、タニア」
ようやく弓を下ろした美貌の射手が口にしたその一言で、王子と酒田の二人も攻撃態勢を解除する。
秘薬草が自生する湿地帯に一陣の涼風が吹き抜けた。息が詰まるような雰囲気がフッと和らぐと、それまで聞こえなかった鳥の声や虫の音が急に耳につく。
愛おしそうに妖精の石を自分の掌で転がすエルフに、いたたまれなくなった盗賊が声を掛ける。
「ね、ね。お宝は返したんだからさ。見逃しておくれよー。ま、まさか、オイラを殺すなんて事しないよね?」
両手を合わせて媚びへつらう少年の言い回し。彼の背後にいた藤堂は、その言葉使いに何故か一瞬イラッとなった。
(ったく、何だよコイツ。自分の事をオイラだなんて、普通言うか……? あれ? そう言えばこの口癖、最近聞いたような。はて、どこだったかな?)
先刻、この盗賊が宿屋の二階から飛び降りてきたのを目撃した時にも、ふと同じ思いが頭に浮かんだ。
――コイツに、どこかで会った気がする――
だが、脳裏にモヤモヤした白い霧がかかったように、藤堂の記憶はその答えを見つけることが出来ない。
まるで、それが何かを確かめようと手を伸ばすと、するりと指の間からすり抜けていってしまうフワフワした綿埃わたぼこりのようだ。
「オイ! お前、ちょっとこっちを向いてみろ!」
盗賊の肩を掴み強引に振り向かせた拍子に、頭を覆う黒いフードがハラリと外れる。そこには口元に殴られた痣のある、すばしっこそうな少年の顔があった。
「あっ、その顔! お前、あの時の黒服のガキだろ!」
彼の顔を一目見るなり、脳裏に掛かっていた霧がパッと晴れた。新宿歌舞伎町の裏通りで藤堂と酒田をボッタクリバーに案内したのは、まさにこいつだった。
「あ、ホントっすね。あの時みたいに『オイラ』とか言ってるし」
藤堂の言葉にようやくピンときたのか、女戦士キャラの酒田がしげしげと眺める。
「い、い、今。あんた、オイラの事を黒服って呼んだよね? って事は、あんたもオイラと同じなんだろ? ここってゲームの世界だろ?」
盗賊の表情が尋常ではない物に変わる。何かにすがり付く様にカッと開いた眼には鬼気迫るものがあり、慈悲を請うように震える唇からは次々に言葉が溢れ出す。
「ちょっと、大丈夫? どこか頭でも打ったんじゃないの? それとも怪我をさせちゃった? タニアが治してあげるから、痛い処があったら言って」
常軌を逸したような少年の態度に不安を覚えたシスターは、囮作戦で引っ掛けた事が彼の精神に、悪い影響を及ぼしたのではないかと思い、心配そうに言葉を掛ける。
「いつの間にかこんな場所に放り込まれて。頼むよ、もうコリゴリなんだ。このままだと、オイラ死じまうよ! お願いだから、元の世界へ返しておくれよ!」
だが、タニアの心遣いに少しも耳を傾ける事なく、絶望の淵に立たされた少年は狂ったように藤堂の腕を掴み、哀願を繰り返すばかりだった。
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