第6話『最初のバトルは、四面楚歌?』
【前回までのあらすじ】
――小さなバニーガール妖精が藤堂の肩に止まって、RPGらしく攻撃や防御のパラメータを表示する。そんな中、ベリハムの村にモンスターが襲来した――
【本文】
「駄目よ。私はシスターだもん。村のみんなを助けなきゃ。村長さんは早く応援を!」
「待つんじゃ、タニア! 一人では危険じゃ」
老人の制止を振り切り、彼女は身を翻して村の中心部へと駆け出して行った。
「ああ、何と言うことじゃ。まさか、よりによってワシが村長を務める内に、こんな日がやって来るとは……」
両手を胸の前で握りしめ、神に祈るような仕草で呟く。
その向こうで、またスライムが動き始める。ブルブルと蠢く魔物が、再び攻撃態勢に入るのが目に入った。
「うわっ! いかん、こうしてはおれん。急がねば!」
シスターに回復してもらったおかげで身体に異常はない。なんとか動きの遅いモンスターをやり過ごし、通りの向こうにある王子の家へと走り出す。
時は少し戻る。
家に飛び込んできたベリハムの村の村長が、王子とチュートリアル執事に魔物襲来の情報を告げて助けを求めた後、王子と二人で家を飛び出した場面だ。
外に広がる村の風景。王子の目を通して初めて目にした外界に、藤堂は感動している暇もなかった。古武術の中丞流を極めた彼は、辺りに漂う異質な気配を感じた。
「何だ、この感じ?」
「スライムです。ワシもさっき一撃されました。シスターがいなければ今頃……」
(ああ、雑魚モンスターの定番だな。初戦の相手には、打って付けだな)
「タニアはどっちへ行った?」
「あちらです。恐らく村の中央にある公民館かと。緊急時の避難場所なのです」
「マスター! 早く早く! フェアリー、先に行っちゃうピョン!」
クルリと空中で宙返りをするウサギ妖精が、王子を急かす。透明な羽が朝日に乱反射して、黒いバニースーツの小さな姿が通りの向こうへすーっと飛んで行く。
「畜生! 脚が重い。何だ? この身体。ちっとも言うことを聞かねえぞ!」
現実世界の新宿の街で見せた、神業のような足裁きは見る影もない。歌舞伎町の大通りの車群をかいくぐったダンスステップは、今はまるで田舎の盆踊りだった。
「くそっ! これがレベルゼロの実力って訳か。一瞬、スライムなんて楽勝かと思ったが、ひょっとしてかなりヤバイかったりして?」
さっきフェアリーにポップアップしてもらった基本データが鮮明に蘇る。パラメータの数値が軒並み一桁だった事に、今更ながら不安を隠しきれない。
「王子様! こちらです、急いで!」
考え事をしながら走る藤堂に、小太りな身体を揺すって先を行く村長が声を掛ける。
(ダァァァ! あんな爺さんにも遅れを取るのかよ、今の俺! 若返ったのは顔つきだけで、反射神経も運動能力も最低だ!)
まるでモヤシのように細くて筋肉がない王子の肉体が悲鳴を上げる。それでも必死に手足を動かして村長の後を追う。
「お、王子様! あ、アレをご覧下さい!」
「ハァハァ。ハァハァ。あん? どうした?」
意外と平気な顔で王子を待っていた村長に、内心で殺意を抱きそうになる。
息が上がる藤堂が、腰を曲げて苦しそうに両手を膝に当てる。
顔を上げると、村の中央に位置する古ぼけた公民館の建物が見える。それを取り囲むように、茶褐色のスライムがそこかしこでブルブルとその身を震わせていた。
「マスター、遅いピョンよ!」
掌サイズのバニーガールがスーッと空から舞い降り、王子の肩に止まる。
「フェアリー! バトルのレクチャーを頼む。大至急だ!」
「分かったピョン。まずは装備よね。いくよ、エイッ!」
可愛い掛け声と共にウィンクすると、さっきと同じ基本画面が藤堂の視界に出現する。上段スクリーンには、ベリハムの村のMAPが四角いマス目で描かれている。
そして下段画面の左側には、【パラメータ】と【所持品】のデータが、分かりやすく表示されていた。
【パラメータ】
┏━━━━━━━━━
❙ 腕力:4/4
❙ 魔力:0/0
❙ 技術:2/2
❙ 速度:2/2
❙ 幸運:2/2
❙ 移動:5/5
┗━━━━━━━━━
【所持品】
┏━━━━━━━━━
❙ 0 バーツ
❙ ナイフ
❙ 薬草
❙ 運命の鍵
┗━━━━━━━━━
「【所持品】欄にあるナイフを指でタップして、そのまま【直接武器】欄にある『片手:なし』までフリックして欲しいピョン」
「なんだ? 簡易型の通信端末器と同じ要領か……。よし、こうか?」
空中に展開する半透明な電子画面の下に王子がタッチする。ピッと電子音が鳴る。指を画面から離さずに、そのまま横へ滑らせた。
【直接武器】
┏━━━━━━━━━
❙ 片手:ナイフ
❙ 両手:なし
┗━━━━━━━━━
表示が『片手:なし』から『片手:ナイフ』に変化する。
次の瞬間、彼の右手に小ぶりなナイフが現れた。朝日を浴びて鈍く光る護身用の武器は、刃渡り五センチ程しかない。だが、玩具ではなく正真正銘の武器である。
「オォ!」
まるで空中からその素材となる鉄の原子が溢れ出し、光と共に武器へと再構成されたように見えた。
短い武器の扱いにも長けた古武術【中丞流】の免許皆伝を許された藤堂が、その感触を確かめる。
画面左【ステータス】欄の直攻(直接攻撃力)表示が、ゼロから三へ。そして必殺クリティカルヒットの数値がゼロから五へと増加していた。
【ステータス】
┏━━━━━━━━━
❙ LV:0
❙ HP:18/20
❙ 直攻:0
❙ 直防:0
❙ 魔攻:0
❙ 魔防:0
❙ 必殺:0
❙ 回避:3
┗━━━━━━━━━
「よし! コレさえあれば、何とかいけそうだ」
「所持品の基本アイテムは、ナイフだけで、防具はないピョン! 攻撃を受けたら薬草を……」
「キャー!」
その時、タニアの悲鳴が小さな村に響き渡る。藤堂が武器装備にもたつく間に、公民館敷地の一角に追い詰められたシスターが、スライムの一撃を浴びたのだ。
「させるか! フェアリー、突っ込むぞ!」
「うん。マスター、行けーーーーピョン!」
疾風かぜを切り、スライムの間をダッシュで駆け抜ける。シスターの前に立ちはだかる魔物の前に、颯爽と飛び込んだ……のは、藤堂の意識だけだった!
「あ、あ、あらら? おっとっと……」
現在レベルゼロである王子のアバターは、研ぎ澄まされた藤堂の神経についていけなかった。少女のピンチに焦れば焦るほど、彼の身体は藤堂の反射神経をあざ笑う。
思うように足が上がらず、まるで重油の中を泳ぐよう。足がもつれて、上体だけが前へと進む。止れない。予期せぬゲーム世界の現実が、頭から彼を地面へ突っ込ませた。
――ずべっしゃー。ドテッ!――
「痛ってーーーー!」
「マスターってば、格好つけようとするからだピョン」
ナイフ片手にひっくり返った藤堂が、情けない声を上げる。やれやれとバニーガールの妖精が肩をすくめてお手上げのポーズ。
「剣一!」
魔物に取り囲まれて窮地に陥っていたシスター。突然足元に転がり込んできた、幼馴染の王子の姿に思わず声を上げた。一杯一杯だったタニアの表情が、パッと輝く。
だが、無様に転がったままの姿を見て、今朝彼がしでかした不埒な行為の記憶が、ありありと蘇ってくる。
「ちょっと、何しに来たのよ!」
内心の嬉しさをひた隠しに、無理矢理ジト目を吊り上げて腕を組む。
「何って、君を助けに来たんだけど……」
「そんな格好で?」
地面に寝転がる王子に冷たい視線を送る。
「何だよ、せっかく来てやったのに、その言い方はないだろ? 大体だな。こんなノロマなスライム相手に取り囲まれるって、いったい何をやっているんだか……」
立ち上がってパンパンと身体についた埃を払いのけ、空き放題に言ってくれるシスターに、ついつい嫌味なセリフを口にしてしまう。
「お姉ちゃん……」
その時、タニアの背後から小さな声が聞こえた。一人の幼女がシスターにしがみ付くようにして、ぶるぶると身を震わせているのが見える。
「大丈夫、もう心配いらないよ。このお兄ちゃんが、あんなスライムなんて、あっという間にやっつけてくれるからね」
タニアが幼女に向き直り膝を曲げて屈みこむ。泣き出しそうな女の子に視線の高さを合わせて、よしよしといった風に頭を撫でている。
(子どもがいたのか! 逃げ出さずにこの娘を守っていた? エロ過ぎるコスチュームはその、何だが……。ちゃんと、シスターしているじぇねえか!)
「二人とも聞いてピョン! バトルを有利に進めるコツは、デュアルモードだピョン」
その時、空中を飛び回るフェアリーが声の限りに叫んだ。
「デュアルモード? なんだそりゃ?」
「え? 何それ? 私、どうしたらいいの?」
初めて聞く言葉に藤堂が戸惑う。幼女を背中に庇うタニアも、今は身動きできない。しかも、突然現れた小さなバニーガールの指示など、理解できるはずがなかった。
「敵と闘う時は、なるべく前後左右に並んで攻撃ポジションを取ると有利だピョン。ペアの相手が攻撃したりされたりすると、時々追撃や支援が出来る場合があるピョン」
「なるほど、そう言う事か!」
「えー? 剣一、今の説明で理解できたの? タニア、さっぱり分かんないようー」
初めての戦闘に頭を抱える彼女の背後に、茶褐色のスライムが音も立てずに忍び寄る。ブニョブニョと身体を震わせて、今にも飛び掛りそうな態勢だ。
「いいから、じっとしていろ! 動かなくていいから。こうすれば、いいんだろ!」
そう言ってタニアの横を通り過ぎ、彼女の背中に回りこむ。シスターの背中を守るように、彼女とモンスターの間に無理矢理割って入る。
藤堂の視界には、四角いマス目で描かれた半透明なMAPが浮かんでいる。画面の上から順に縦一列。魔物、王子、シスターのアイコンが並んで表示されていた。
下段スクリーンには、王子の【基本情報】と【ステータス】 そして、その隣にスライムのスデータ! バトルでの対決を演出するように、両者が横並びで表示される。
【基本情報】
┏━━━━━━━━━
❙ 氏名:藤堂剣一
❙ 役職:王子
❙ 職業:剣士
❙ 年齢:16
┗━━━━━━━━━
【ステータス】
┏━━━━━━━━━
❙ LV:0
❙ HP:18/20
❙ 直攻:0
❙ 直防:0
❙ 魔攻:0
❙ 魔防:0
❙ 必殺:0
❙ 回避:3
┗━━━━━━━━━
【基本情報】
┏━━━━━━━━━
❙ 氏名:スライム
❙ 役職:―
❙ 職業:―
❙ 年齢:―
┗━━━━━━━━━
【ステータス】
┏━━━━━━━━━
❙ LV:1
❙ HP:6/6
❙ 直攻:2
❙ 直防:0
❙ 魔攻:0
❙ 魔防:0
❙ 必殺:0
❙ 回避:0
┗━━━━━━━━━
「あっ! このスライム、生意気にレベル1なのか? クソッ、いっけーーー!」
気合一閃! 藤堂家に代々伝わる古武術【中丞流】の脇構えから、小さいナイフを閃かせる。よろめく脚で間合いを詰めて、目一杯腕を伸ばして魔物を突き刺す。
――グギャギャッ!――
耳障りな音を立てて、スライムがブルブルと身を震わせる。
「畜生! HPを三つ削っただけか! それにしても何だ、この覚束ない足元は。力は入らないは、踏ん張りは効かねえはで……、くそっ、涙が出るぜ!」
そう吐き棄てる王子に、魔物の反撃が迫る。ピョンと飛び掛るように、ブヨブヨした軟体動物が体当たりを掛けてくる。
だが、王子のアバターをまとった藤堂は、スライムのゆっくりとした攻撃を辛くも避けた。タニアを背中に庇った態勢のまま、小ぶりなナイフを構え直す。
「うっは。危ねえ! ギリギリじゃねえか。最低レベルは、やっぱり最低だな」
「マスター! 今のが、ターンバトルだピョン」
シミュレーションRPGの特性である、ターンバトル制と呼ばれる戦闘形式だ。
まずキャラクターが場所を移動。そして隣接するマス目の敵に直接攻撃を掛けるのが基本である。もちろん、相手を迎撃するためにその場で何もせずに待機するのも有りだ。
その攻撃で殲滅できなければ、今度は相手のターンとなって攻撃を受ける。ワンセットでお互いに一度ずつ攻撃を行う。これを繰り返しHPがゼロになったキャラは死亡だ。
SRPGをプレイした事がある人には今更だが、このゲームは先制攻撃が重要になってくる。自分のターンで敵を倒してしまえば、反撃は受けない仕様だからだ。
「危ない剣一、右!」
正面の魔物の反撃を何とかかわした王子に、右手から移動してきた別のスライムが突っ込んでくる。タニアの悲鳴にも似た叫び声! 咄嗟にかわそうとするが……。
「しまった、グハッ!」
敵に先手を取られ、今度はゼリー状の体当たりが王子の身体にヒットする。藤堂の基本データ画面。HPゲージの目盛りが、右から左へとパパッと減っていく。
【戦闘情報】
┏━━━━━━━━━━━
❙ 氏名:藤堂剣一
❙ 職業:剣士
❙ LV:0
❙ HP:16/20
❙ ■■■■■■■■■■
❙ ■■■■■■□□□□
┗━━━━━━━━━━━
「野郎!」
王子のターン。すかさずモンスターへの反撃に移る。
今度は右腕を伸ばし、右斜め上段から袈裟懸けにナイフを振り下ろす。
「シャア!」
空間を切り裂くような気合一閃! 藤堂の攻撃がフラッシュを浴びたように輝いた!
――グギャギャーーーー!――
断末魔の叫び声! 身の毛もよだつ音を撒き散らし、スライムが倒れる。ベットリと崩れ落ちる軟体動物が、シュウシュウと煙を上げて溶け出して消えていく。
「ワォ! マスター凄い。クリティカルヒットで、瞬殺だピョン!」
大喜びで手を叩く小さなウサギ妖精が、王子の頭上をクルクルと飛び回る。
王子の放った一撃が敵の致死点を直撃し、通常の二倍のHPを削り取ったのだ。
「主よ、彼の者の御霊みたまを回復させ給え。ライファ!」
右手に短い杖を握り、左手には聖書を抱えるシスターが、王子の背中から呪文を唱える。天から光の輪がいくつも降臨し、藤堂の怪我を癒していった。
「おおっ! 凄いな、サンキュウ!」
(これがゲーム機片手にプレイしているだけなら、別にどうって事はないんだろう。だが、実際にキャラクターになって、回復してもらうのは正直嬉しいな)、
王子の目の前に浮かぶ基本データのHPゲージが、フルの状態まで回復していた。
【戦闘情報】
┏━━━━━━━━━━━
❙ 氏名:藤堂剣一
❙ 職業:剣士
❙ LV:0
❙ HP:20/20
❙ ■■■■■■■■■■
❙ ■■■■■■■■■■
┗━━━━━━━━━━━
「へへーん。どう? 剣一には、やっぱり私がついていなきゃ駄目なのよ。危なっかしくて、見ていられないもん!」
「へーへー。そりゃ、どうもっ!!」
これ見よがしに胸を張るタニアに王子が礼を言う。『どうもっ』の語尾のアクセントを強めながら、得意げなシスターの腕を思い切り引っ張った。
「ちょっと、何? あん!」
妙な声を出してつんのめるシスターと入れ替わる格好で、藤堂が前へ出る。すかさずそこへ移動して来た、さらにもう一匹のスライムが襲い掛かってくる。
――グギャギャッ!――
タニアへの直接攻撃を代わって受け止める王子が叫ぶ。ナイフでの防御が間に合わず、またしても魔物の体当たりを避け切れない。
「ぐっ、痛ってー。畜生! いつもの調子が出ねえ!」
「さっすがマスター! それが“身代わり”だピョン。隣接したマス目に並んで、仲間と一緒にバトルに突入する『デュアルモード』での特長の一つだピョン」
嬉しそうに小さなバニーガールが、バトルシステムの説明を続ける
「今みたいにペアを組んだ相手が攻撃を受けた場合、横からカットインして守ってあげたり出来るピョン!」
「分かりやすい説明をありがとうよ。こん畜生っ!」
王子のターン!
今度はフェアリーに礼を言いつつ、ゼリー状のスライムが繰り出す攻撃のパワーを逆に利用する。体当たりされた反動を利用し、反転して振り向き様に魔物を切り付けた。
――グギャギャッ!――
「ちっ。やっぱり、力もキレもねえ! まぐれのクリティカルヒットじゃないと、一撃で倒すのは無理か」
所詮はスライム。王子の頼りない一撃でも、HPを半分削っている。
だが、シミュレーションRPGの戦闘形式はターンバトル制だ。一撃で相手を倒さないと、次のターンで必ず相手の攻撃がくる。
多勢に無勢。雑魚モンスターといえども、何匹かに囲まれて袋叩きに合えば、王子のHPも見る見る内にレッドゾーンへ突入するだろう。
「マスター! 落ち着くピョン! ここは、一匹ずつ確実に倒して、敵を減らすのが最善だピョン!」
「そうよ、剣一! 先ずは、アイツだよ!」
王子とシスターを取り囲む魔物たちの群れの中で、タニアが指差したのは、最初に王子が一撃を与えたスライムだ。
他の魔物同様に、ブルブルと茶褐色に透き通る身体を震わせて、こちらの様子を伺っている。だが、見た目だけではどのモンスターも同じに見える。
藤堂の視界には、上下二段で表示されている基本画面。上段は横一面のMAP表示だ。四角いマス目に仕切られた画面上に、ポツポツと魔物のアイコンが表示されている。
幼馴染が指示した魔物に、王子が目の動きだけでカーソルを合わせる。素早くまばたき二回で、ターゲットをロックオン!
すると、MAP画面の下段スクリーンの右側に、敵の基本画面がスライドしながら現れた。最初に王子が放った攻撃で減少したHPゲージが半分白く表示されている。
【戦闘情報】
┏━━━━━━━━
❙ 氏名:スライム
❙ 職業:――
❙ LV:1
❙ HP:3/6
❙ ■■■□□□
┗━━━━━━━━
(なるほど、これで敵のHPの減り具合が分かるって事か! たしかにコイツが一番HPの残りは少ないな……)
下段スクリーンの左側半分には王子の基本情報。そして、右半分にはスライムのデータが表示されている。まさに『対決』といった演出で、再びバトルが始まる。
「いっけー」
――グギャギャッ!――
中丞流の基本に立ち返り、脇構えからナイフで突きを繰り出す。呪詛のような奇怪なノイズを残し、半死半生だったモンスターが無害なゼリーへと変わって溶け始める。
先制攻撃で魔物の息の根を止めたので、敵のターンはない。
「私だって、エイッ!」
一方、シスターが小さな杖でボカっと殴った別のスライムは、HPを僅かに残し倒す事が出来ない。
次は相手のターン。軟体動物特有のゆっくりした攻撃が少女に迫る。
「えー? 嘘、嘘、嘘、キャー! 来ないで、来ないで! 剣一、助けてーーーーー」
「させるか!」
またしても王子が、タニアとスライムの間に横から滑り込む。
――グギャギャッ!――
魔物の体当たりを、今度は何とかナイフで受け流す事に成功した。
そして王子のターン。返す刀で素早く魔物に切りつけ、さらに一匹を消し去った。
「おいおい。君はシスターなんだから、無理するなって!」
「何よもう! 剣一ってば。プンプン」
王子の何気ないセリフに、何故か頬を膨らませて不満顔をするタニア。
そんな彼女の表情に気が付かず、敵に囲まれた状態が続くバトルに、藤堂は内心で弱音を吐いていた。
(クソッ! これじゃあ、キリがねえな……)
その時、辺りに耳障りな咆哮が響き渡り、古い公民館の建物をビリビリと揺らす。
――グギャギャッ! グギャギャッ!――
一段と吐き気を催す異臭が立ち込める。一匹のモンスターが、ゼリー状の身体を不気味に震動させている。その大きさは、他のスライムと違い一回りも大きい。
その色も茶褐色ではなく、紫がかった青。半分透き通ったスケルトンの身体をプルプルと震わせて、まるで魔物の群れを統率するボスのように威嚇していた。
村の公民館を取り囲んでいたスライム達が、その咆哮を聞いてピクッと反応する。
「何だ? あのスライム……」
油断なく周りに蠢く魔物達の気配を読みながら、中丞流の基本姿勢を保つ。その背後に陣取るタニア。
驚いた事に、足元の幼女を庇いながら戦闘を続ける彼女は、一歩も動いていなかった。
「あれ、ボススライムよ。きっと」
「奴が、この魔物部隊のリーダーって訳か?」
【基本情報】
┏━━━━━━━━━━━
❙ 名称:ボススライム
❙ 役職:リーダー
❙ 職業:――
❙ 年齢:――
┗━━━━━━━━━━━
【ステータス】
┏━━━━━━━━━━━
❙ LV:3
❙ HP:10/10
❙ 直攻:4
❙ 直防:0
❙ 魔攻:0
❙ 魔防:0
❙ 必殺:0
❙ 回避:0
┗━━━━━━━━━━━
「くそっ! 参ったな、あいつ。レベルもHPも、結構あるじゃねえか!」
配下を従えた魔物の群れが、一段と高い唸り声を上げる。
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