第7話 レゾリエーション:日常
目を開けると加子ちゃんが俺のベッドの前にある椅子に腰かけて座っていた。
「あ、起きましたか。おはようございます。桂一さん」
「…………」
「? どうしましたか? また例の無視ですか?」
また例の無視って……その言われ方は心外だなぁ。
ごめんよ、加子ちゃんしばらく控えるから。
と、声にならない心の声を発してから俺は受け答えた。
「いいや、違うよ。ちょっと……」
とりあえず日常に帰ってこれたっぽいし、まあいいか。
「うん。おはよう、加子ちゃん」
ところでだ。
「加子ちゃん。気付いたんだけど、何で、苗字じゃなくて名前呼びになってるの? 朝と昼で変わるっていう不定形な奴なのかい? それならそうでいいけど、俺と君はまだそこまで仲良くないはずだよね」
「そういうこと面と向かっていいますか! 細かい事をグチグチネチネチと! だから友達いないんですよ!」
「煽ってるんだよ。その反応で間違ってないよ。グッ」
「何、親指立ててるんですか!!! 全然嬉しくないんですが!!!」
少しワイワイ騒いだ後、加子ちゃんが言った。
「だいたい! 桂一さんが、私のことを下の名前で、しかもちゃん付けで呼んでるじゃないですか!」
「え? 何の問題が?」
「え? ……いや、問題はないのですが」
「俺は最初からそうやって呼んでたから良いんだよ。変化はない。それに妹いるから、女の子はみんな下の名前でちゃん付けするような軽薄なピエロだぜ」
「……ピエロ、ですか」
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。こちらの話です。軽薄なのは知っています」
「あらら、怒らせちゃったかな?」
俺は肩をすかして見せた。
そのとき、ピリッとした痛みが走った。少しだけ片方の顔が歪んだが、無理に表情を作り直した。
幸い、こちらを見ていなかった様子で何も気取られることもなさそうだった。
加子ちゃんにこちらの世界に関わりを持たせては行けない。
「いいえ、怒ってませんよ。そういう人ですもんねー。加子ちゃんは理解がある人ですからねー」
「ソ、ソウダネー」
「さて、そろそろ私は戻りますね。桂一さんは?」
それ固定なのね。まぁいいや。
「もう少し眠ってく」
「あー、悪いんだー、先生に言ってやろう」
「小学生かよ」
ふっと笑った。
扉の開閉の音を聞いて、俺はまた眠りに着いた。
「誰だ」
そして、少しして、俺の眠りを妨げる何者かが現れた。
「あーー。この天気はサボリ日和だなぁ。よっす、お前もサボリ?」
「……違う」
「違うの? まぁいいや。それじゃ俺勝手に眠っとくから。ちなみに常連な」
「何を誇る。俺の方が」
悪だぜ、とかアホなことを言おうと思ったが、止めた。
「?」
「ああ、いや、何でもないよ。それじゃ、俺用事できたからゆっくりしろよ」
人が来たので、場所を移すことにした。
「言われなくても。お前も頑張れよー」
白いカーテンで区切られ、顔は分からんが、手をヒラヒラと振っている様子。
悪い奴じゃなさそうだな。
「了解」
俺も手を振って、保健室を後にした。
了。
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