第6話
大会の朝。天気予報では曇りのち雨だったけれども、見事に予想が外れ、秋晴れの清々しい日になった。13,000人が参加するわが県最大級のイベントとなった。
わたしは年齢をかくして参加している身なので、会場についても知り合いもいない。
ちょっと、寂しい。
「おはよう」
聞き覚えのある声がわたしの背後でした。
「あ・・・」夜のジョギングの時に出会う、トレイルランニングをやっているという女性。サングラスをびしっとかけているので一瞬わからなかったけれども、カモシカのような足は隠せない。
「おはようございます」
「あなた、社会人だったの?」
「いえ・・・高校生です」
わたしはいきさつを正直に話した。
「やるねー。わたしそういうの大好きよ。粋な女の子ね、あなた」
軽く話をする。本命は連峰を縦断するトレイルランニングの大会というその女性は、マラソン参加の理由を説明してくれた。
「やっぱり、記念すべき県初のフルマラソンだからね。これは出るしかないでしょう」
目標タイムは3時間15分だという。レベルが違う。
「あなたの目標タイムは?」
わたしはちょっともじもじして答える。
「5時間30分から6時間です」
「そう。あなたがとても誠実にランニングに取り組んでいるのが分かるわ」
「え?」
「だって、あなたが自分の身体と経験と精神とに真面目に語り掛けて導き出した目標タイムなんでしょう?ランナーの真価は他人とのタイムの比べ合いじゃなくて、どれだけ自分に誠実に正直に謙虚に向き合えるか。あなたは、とても素敵」
「ありがとうございます」
「お互い、頑張りましょう」
そう言って、その女性は彼女の目標タイムに割り当てられた集合場所に向かっていった。
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