第8話 絶対領域黙示録 2
「ブハッ!! 逃げな礼賛! プールの中でアヒルピエロがあたし達を狙っ……モガッ」
再び水の中に引きずり込まれるナンシー。チャイナピエロのニーソ脚にナマ脚を絡めとられ、身動きができない。
方や、アヒルの足ヒレの如きフィンをつけたペキン・ダックは、水中ニーソで自在に天地逆転のさかさま泳ぎ。足を取られて動けないナンシーの体に向かって、砕けてギザギザの中華包丁を振るい続けている。
ヒールガンで対抗するも、チャイナ服から覗くニーソ脚の『絶対領域』がバリヤーを張り、これも容易に防いでしまう。
『絶対領域』強し。美脚の概念を力に変える『
「ちょっ……ナンシー! どうしようわたし、何か……何か助けないと」
水中戦をビニールボートの上から気にかける、
ましてや泳ぐなどもってのほか。水が貴重なこの時代に、水泳技術を会得しているものはいやしない。敵の待ち構える水中に潜るなど自殺行為だ。
ナンシーが躊躇なく飛び込んだのは、『絶対領域』の誘引力と、彼女が幾分バカだったのでノリでやってしまったというだけの話。
ところがバカは他にもいやがった!
「俺が助けるぞナンシー!」
折れたバットを両手に握ってプールサイドから飛び込む代打、トゥエンティーフォー。
美脚にタイツ類を履いて戦うサムライの
だが、あまりに考えなしの水中ダイブは、奇襲としては充分に功を奏した。自分の背後にドブンと飛び込みバットを振るう存在に驚き、ペキン・ダックはニーソの脚でこれを迎撃。
おかげでナンシーのナマ脚への束縛が、解かれた!
「ナンシー、こっちよ! 手を取って!」
「ガハッ……! シット……!」
水から顔出しゲホゲホと、荒く息を吸うバンシー・ナンシー。手を伸ばす礼賛の方へとナマ脚バタ足で近づく。
だが、しかして。この女同士の仲を裂くようにして、水中から飛び出したニーソの一本足がプール内を横切り、邪魔をする。
サメの背びれの如き趣だが、勿論これはシンクロナイズド水中ニーソの、ペキン・ダックの足ヒレだ。
縦横無尽に駆ける逆立ち足ヒレは、礼賛が乗るビニールボートに一撃、破壊。
ダックの脚の刃はそのまま、礼賛の白衣や眼鏡すら寸断したかに思えたが、脱ぎかけ黒タイツの脚でこれをなんとか、寸前にて「ガキン」と食い止める。
とはいえボートは壊れた。足場はない。ブクブク水中に沈み、『絶対領域』の中へと礼賛も引きずり込まれてしまう。
そしてこの時、黒タイツ脱ぎかけ研究者が持ち合わせていた特殊なフェロモンアンプルも、試験管をブチ割られてプールにバラ撒かれていたのであった。
「アー……。アー、ハー……!!」
腹の傷を押さえて辛そうに、陸へ戻ろうとする牛柄ビキニカウガール。
ニーソジョーズの妨害を受けて、即座にバタ足を方向転換し、ビニールボートからプールサイドへと、ナンシーは逃げ場を変えていた。
まずは水中を出て体制を立て直したほうが良い。沈んだ礼賛やトゥエンティーフォーの心配は、その後だ。そう思って、濡れた体をぐぬぬと地上に持ち上げるナンシー。
両手でプールからよじ登り、やたらに重い右脚を水中から引っこ抜くと、脚にしがみついていたのはトゥエンティーフォーだった。
バットの代わりに夢中でナンシーのナマ脚に捕まっている。
「ナンシー、愛してるぜ……!」
「おまっ……! 何やってんだ、0点野郎!! ガッデム!!」
ナンシーの怒りの声も彼には届かない。
なぜならこれは、礼賛が研究していたフェロモンアンプルの効果であり、この時代に失われつつあるオスとしての本能を猛烈に奮い立たせた末の、熱狂なのだ。
元より規格外の美脚で男を虜にするナンシーのナマ脚に、礼賛が研究する秘薬が加わり、今や『絶対領域』の力すら凌ぐほどの引力を誇っている。女と脚の力、改めて脅威。ミサイル兵器になるはずである。
事情を知らないナンシーは、トゥエンティーフォーにあらゆる罵倒を浴びせつつ、続いて左脚を水中から上げる。
するとなんとこちらには、ニーソチャイナ服アヒルピエロがしがみついていた。
「キレイな脚だなぁ~……! ガガガガァ~……!」
「ハー……? アーハー……??」
驚きはしたが、そこは百戦錬磨のカウガール。千載一遇のチャンスは逃さなかった。
そのまま左脚を全力で天へ振り抜き、水しぶきを伴っての大開脚、セクシー・ズブヌレ・ショウダウン!
びしょびしょの刀は切れ味こそ悪いものの、美脚の威力は十二分。脚力で振り上げられたペキン・ダックはその勢いで、高々と宙を舞った。空飛ぶ標的にヒールガン二丁を構え、
『絶対領域』によるガードもこの状態では完全ではない。銃弾、
かくしてダックは攻撃受けて落下して、プールサイドのビーチボールに背中をしたたか激突。「ガァッ!!」と鳴いて身動き取れなくなるところは、まるでサーカス対決の再放送のようだったのだが。
大きく異なるところは、斬撃が刀傷をダックに与え、着ている衣服も切り取ったこと。
あらわになったチャイナ服の胸元、実に貧乳。いいやこれは無乳。
つるつるぺったんこってんだ! BANG!
刀で乳房が切り取られたわけではない。最初からそこには胸など、なかったのだ。
「嘘でしょまさかあんた……男……?」
「ア、アヒルちゃんの隠し事……! バレちゃったよマムゥ……! ガァ……!」
割れたアヒル面より覗く顔は実に端正であり、華奢な体つきや、痛みにのたうち回るニーソの脚の艶かしさなど、とても男のそれとは思えない。無乳っぷりも場合によってはありうるレベルの、つるつるぺったんこなのかもしれない。
だけれど言い逃れが出来ない事実がある。オスの本能を極限まで高めて理性を失わせるフェロモンアンプルに、ペキン・ダックは反応し、魅惑のナマ脚で一本釣りをされたのだから。
「ガァ……! こんな時代、男として生きていくのは損ばっかり……。子供のうちならショーター・キッドの配下になる手もあるけれど、成人したらお払い箱さ……っ。だからアヒルちゃんは……女の子のフリをしたんだぁ~……っ!」
「……オーマイガ。女の格好をしたきゃ、そりゃ勝手にすりゃ良いけどさ。女のフリをしなきゃいけないほどに、男どもが虐げられてるってのは……やっぱクソだわ。クソ社会よ、こんなの」
「え~ん、え~ん……。マムの仇を取るためにクイーンの配下になってぇ~……プールにおびき寄せたのにぃっ……! 負けちゃったよぉ、マムゥ……」
ナンシーは銃を構えつつ、哀れなダックにその引き金を引いて楽にしてやるべきかどうか、迷っていた。
逡巡の後に鳴り響いたのは、銃声ではない。シャッター音である。
カメラ片手にプールサイドに現れた、ハンチングに半ズボンの美少年の影、ひとつ。
「おっとー。『スキニー・ランド』に賊が侵入かと思えば、クイーンの婚約相手だ! 何々、男の娘までいるの? こいつはスクープだなー」
「お前……ショーター・キッド! いつの間に! シット!」
「へへへ。『脚光』」
少年らしい細身の脚に履かれた、純粋無垢な白タイツ。
これが『脚光』の掛け声とともにその場の注目を集め、『脚光』を浴びた脚はピカッと光を放ち、カメラのフラッシュの数十倍にも及ぶ閃光となって、ナンシーの視界を奪った。
とっさに撃ち返したヒールガンの狙いも外れて、キッドにはかすりもせず。
一瞬にして、それこそ
「撃たないでよー、お姉ちゃん。ボクは話がしたいんだ」
「アーハー? 女の背後を取って、棒っきれみたいな刀を向けて、お話って何よ。ピロートークか? マセてんなキッドのくせに」
「そうツンケンしないでって。お腹が痛くて気が立ってるのかな?」
ビキニから晒されたナンシーの腹部には、ダックとの戦いによる生傷があり、未だに血が溢れている。
これをキッドが優しく弄り、セクシー・オネショタ・ショウダウン。なんと傷口がみるみる塞がっていくではないか。
「アハッン……! 何すんのよこのガキ……!」
「失血で意識が飛びそうなんじゃない? 寝ていいよ、お姉ちゃん。ボクは戦いの黒タイツじゃなく、治癒を司る白タイツの申し子。お姉ちゃんたちを元気にして、大事なお話がしたいんだ」
「黒魔術と白魔術みたいに……言ってんじゃないわ、アー……ハー……!」
その頃であった。泳げぬ水の中より命からがら抜けだして、嫌というほど飲んだ水を吐く、歯牙礼賛。
朦朧とした意識でプールサイドに視線をやると、そこには今まさに倒れるナンシーと、彼女を介護するショーター・キッドの姿があった。
キッドは被っていたハンチングを脱ぎ、帽子をナース帽に取り替えて、カウガールの傷を治しているように見えた。
「何……何あれは……。まさか、あれは……。伝説のカタナ・マスターが操る、経絡治療術……? 終末前より伝え聞く、変幻自在のコスプレ
次回、剣脚ショウダウン!
ネクストサムライ、白タイツショタジジイコスプレイヤー老師。
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