第4話 駄肉は網タイツに縛られる 2
開いたままのコンテナを積んだトレーラーの、牽引車運転席に、いつのまにやら目を覚まして乗り込んでいるアヒルピエロ。
割れたお面から垣間見えるはゴッテゴテのつけまつ毛。アヒルの面に負けじと、これみよがしのアヒル口。チャイナドレスから伸びる脚には、破けきったタイツが張り付き、ほぼほぼ素足でペダルを踏んでいる。
こいつの名前は、『ペキン・ダック』ってんだ! BANG!
「そうだよダック! バック走で突っ込んできて、こいつら轢き潰しちまえばいーだわよ!!」
「このまま轢いたら、商品がダメになっちゃうなぁ~。でもマムは怒ってるし、マムに逆らったらこっちが潰されちゃうし。アヒルちゃんは従うしかないよね? ガァ、ガァ!」
バックを始めたトレーラーに危険を感じたナンシーは、頬肉揺らして指示を与えるビッグ・ハムをまずは黙らせようと、ハイヒール銃を連射する。
だがこの銃弾は、分厚い鉄板に当たったかのようにして、肉ボディーで全て跳ね返されてしまった。肉ボディー。
「無駄よナンシー! ビッグ・ハムが着込んでいるのは、『
「強化合金編み込み網タイツ!?」
「そうよ。強化合金編み込み網タイツ」
「強化合金編み込み網タイツ……?」
「うん。強化合金編み込み網タイツ」
「オーマイガ、三回繰り返されてもぜんぜん意味分かんない! ていうか解説はいいから、とっとと黒スト履いて立ち上がんな礼賛! あんたが逃げられないからあたしが食い止めてんだよ!」
「車来た! ナンシー、蹴っ飛ばして! あなたの脚なら止められる!」
「礼賛が自分のタイツ脚でやればいいでしょ!」
「わたしはそんなに美脚じゃないから!!」
気をつけよう、車は急には止まらないし、トレーラーはもっと止まらない。ましてやそもそも犠牲者を轢き殺すまで、このバック走は止まる気がない。
女同士の揉め事は激突の瞬間まで収まらないので、仕方なしにナンシーは渾身の力でナマ脚美脚を蹴り出した。
美脚と車がぶつかり合えば、物理法則に則った結果、ごしゃっという音でトレーラーの尻がひしゃげるのは自明の理である。
しかしこの衝撃でハマっていた尻が抜けたのが、ピンクタイツのビッグ・ハムだ。尻が抜けた瞬間に、ここぞとばかりにその手に握ったムチをしならせ、サーカステントの天井骨組みへと投げつけた。
賢明な諸氏であればお気づきだろうか、このムチも『
タイツの力で巨体を飛び上がらせて、空中ブランコにしがみつくビッグ・ハム。
つかまったブランコのロープは自重であっさり引きちぎれ、高みより一気に落下。
網タイツに包まれた芳醇なモモ肉を両手で掴み、サーカスの軽業師よろしく柔軟な股関節をガッツリ開き、羞恥を捨てたガニ股レッグプレスにて、お肉を全て直下にご贈答の儀が執り行われるのである。
「ママの特製お肉だわよぉっっ! 残さずいただきなさぁいっ!!」
「いってー……! あたしの脚、これ……っ! 折れたんじゃない? 痛いなあ……ガッデム!!」
切れ味鋭いその美脚で、トレーラーの動きはなんとか止めたナンシーだったが、ナマ脚はやはり諸刃の剣。晒した刀身の破壊力は、自らへのダメージのフィードバックも大きかった。
痺れて腫れたナマ脚線美を、このままでは振るえない。ビッグ・ハムに撃ち込み続ける銃弾も梨の礫。
傍らにはタイツ脱ぎかけで転んだまま、研究書類だけはかき集めようとしている、ベリーショートの黒髪メガネ。
バンシー・ナンシー、ここで運を天に任せた。機転を利かせたと言ったほうが正しいかもしれないが、確実性のなさと行動の奇抜さからすれば、運頼みと言っておかしくないだろう。
果たして何をしたかといえば、手に持った銃を捨て、すっ転んだ歯牙礼賛をひっくり返して両脚抱え、その股間に顔面を突っ込んだのだ。
そう、つまり、そばかすまみれのその顔使ってナンシーは、履きかけだか脱ぎかけだかわからない黒タイツを、礼賛に強引に履かせたのである。カウガールの眼前に迫りくる、タイツ越しの研究者の股と尻。
セクシー・アバズレ・ショウダウン! しかも女同士!!
「あっ。やだ、ナンシー……?」
「脚をピンと伸ばしてな、礼賛!!」
行き過ぎた悪ふざけにしか見えない光景。だがしかして、タイトスカートから伸びた歯牙礼賛の黒タイツにパンプスの脚は、この完成形を持ってして二本の鋭い槍の威力を得たのだった。
タイツ履いたら、充分美脚! ましてや逆立ちにて、この素晴らしき世界に黒脚全体丸出しだ。
「うぎゃあああっっ!! 奥まで……刺さっちまあううっ!!」
超硬度の網タイツにて超体重のレッグアタックを仕掛けたビッグ・ハム、いと哀れなり。
ピンクタイツの網目を貫く鋭き黒タイツ脚にて、ハムの串刺し! いささか自爆にも見える大ダメージで、M字開脚のまま噴血の敗北であった。
「や、やだやだやだっ……! ナンシー顔どけて! どこに顔突っ込んでるの!?」
「しょうがないでしょ
「だったら早く……どいてよ……!」
「どきたいのはヤマヤマ! あのねえ、刺さったハムがのしかかってきて、あたしも動けないわけ? ていうか……アーハー。このままだとハムのお尻と礼賛のおマタで圧死するんだけどあたし……オーマイガ」
両脚に突き刺さった網タイツデブサーカス団長を、ひっくり返ったままどうにか抜こうとあがく礼賛。しかしその動きに合わせ、むしろ巨体は深く刺さって、ナンシーの頭部を押し潰す。
最悪の形での救世主死亡で終りを迎えるかと思ったこのショウに、割って入ったのは一輪の
切れ味鋭き輪っかがひとつ、狂乱の戦場に投げ込まれ、ビッグ・ハムの体をおすそ分けしやすいサイズに、寸断。
重みが半減した隙にナンシーは転げ出し、礼賛も脚を脂肪から引きぬくことに成功した。
「た、たす、助かったぁ! ジーザス! イエッス! アーハーハー!」
「誰が……誰が助けてくれたの? それにこの武器は、どこから投げ込まれたの?」
眼鏡のズレを直しつつ、疑問を浮かべる究明者、歯牙礼賛。
放り込まれた
ガーターリングである。
一体どこからこれが投げ込まれたか。半径数十メートルはあるこの巨大サーカステントの外部から、出入り口を突き破って、である。
巨大サーカステントの外から投じられたガータートスが、
「超絶破壊力のガータートス? シット! これは……クイーンだ!!」
「ナンシー、あなたクイーンに選ばれたのよ!! 危険だわ!!」
蒼白になって顔を見合わせる、ナンシーと礼賛。
そんな様子を知ってか知らずか、モノクロのウェディングドレスから白と黒のガーターストッキングを魅せつけるクイーンは、テントの外より
「好きです。結婚して下さい」
次回、剣脚ショウダウン!
ネクストサムライ、クレイジーサイコクイーン。
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