第3話 16課

 ––––七年の歳月が流れた。––––



「あのー、まだですか?」

「あ、この先を曲がってすぐの所ですから」

 もうかなり警察署の入り口から続く廊下を曲がったり、階段を降りたりしたんだけど。

 言われた曲がり角を曲がったところにやっと16課の文字が見えた。私が配属された課で、本日から出勤予定だったんだけれど、探しても探しても見つからなかった。そこで、その辺にいた人に案内してもらったところ、この辺鄙な場所に案内された。そりゃあ見つからないよ、こんなとこ。

 まあ、そうだろうけどね。なにせその課で扱ってる事件が事件だから。


「あそこです」

「ありがとうございました」

 連れてきてくれた人にお礼を言って中に入る。


「すみません。只野唯です。遅れました」

「あ、あ、待ってたよー」

 どうやら課長らしい白髪交じりの髪の背の高い恰幅のいい男性がすぐに飛んできた。待ち兼ねていたようで、背中を押されて中の方へ入って行く。

 中には三人の男性がいる。課長は私をその三人に紹介する。

「今日から我が16課に配属になった只野唯君だ。みんな仲良くね。あ、私は課長の宮野だ。よろしくね」

「よろしく。村瀬だ」

 とこちらも背が高くガタイのいい中年の男性が挨拶する。

「よろしくお願いします。僕は戸田って言います」

 こちらは若い、少し私の上ぐらいかな。腰の低い可愛らしい人だ。

 最後の一人は手を軽くあげただけ。こっちを見もしないで何か必死で作ってる。くすぶってるなあ。顔は良いのに勿体無い。

 仕方ないか、何かの理由でここに飛ばされたんだろう。現役バリバリの年で三十五前後だろう。

「あ、こちらは桜田君だよ。よろしくね」

 腹話術じゃないんだから、課長が言ってどうするの。

「只野唯です。よろしくお願いします」

「あ、じゃあ、只野君の席はここね」

 桜田という人の前の席。隣は戸田君だ。目の前で気が散るなあ。席に座り前を見ると、何かの模型を作ってる。相当細かい模型みたいで時間かかって作ってる感じがする。完全にくすぶってる。


「それじゃあ、本日も平穏に過ごそうね」

 課長のそれは警察らしくない発言だけど、仕方ないか。この課だもんね。

 私は持ってきた荷物を机にしまい込む。そして、手帳を取り出し、席を立ち部屋の中にずらりと図書館の様に並んだ棚にあるファイルを見に行く。

「あ、只野君? 何してるんだい?」

「見ての通り捜査ですよ」

「いや、あのねこの課は……」

「未解決事件をまだ警察は捜査しているって被害者家族に思わせとく課だ」

 桜田さんはそう言い切りまた模型を作成している。よく見ると他の二人も時間を潰す為に何かしてるようだ。

「桜田君、そうはっきり言っちゃうのはどうだろうね」

 課長もさっきの桜田さんの発言を否定してないから。

「捜査してることをアピールできるからいいじゃないですか? それとも捜査禁止なんですか?」

 私は強く課長に言う。

「いや、そうだね。そうだ。捜査しているところも見せた方がいいね」

 課長は自分自身を納得させたようだ。

「じゃあ、邪魔しないでください」

 私は手帳にずっと書き留めていた事件のファイルを探す。そして、ファイルを開いては証拠が保管されているか、証言があるかを確かめて行く。いくら犯人がわかっていても証拠がなければ意味がないから。逮捕しても刑罰を科すことはできないから。



 見つけた! 前から目をつけていた事件だった。ファイルから必要な情報を手帳に書き込む。

 次!

 私が部屋を出ようとすると課長に止められた。

「唯野君どこへ?」

「だから、捜査です」

「外に行っちゃうのかな?」

 外に犯人がいますんで。

「はい。では」

「いや、待って。ちゃんと組んでもらわないと単独行動は禁止だからね」

 あー。そうだ。そうだよね。

「じゃあ、僕が」

 控えめに戸田君が言う。多分、暇つぶししたいんだろうな。

「いや、桜田君。お願いするね」

 戸田君がっかりしてる様子だ。そして、桜田さんはめっちゃ嫌そう。

「戸田でいいじゃないですか?」

 私はたらい回しですか。

「経験がね、やっぱりいるから」

 課長の説得はかなりフンワリしてるな。

「わかりました」

 桜田さんは背広を取り出してやっとやる気になったみたい。フンワリした説得でも上司だからね。一応。

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