第2話 未来に乗る

 家の前で待つつもりが……ここはどこ? さっきから同じ場所をグルグルとさまよっている。

「只野さん?」

 後ろから声がする。振り返ると佐伯君がいた。よかった。ホッとした。

「佐伯君、久しぶり! あれから一ヶ月ぶりぐらい?」

「ああ。只野さん。久しぶりだね。そうだ! うちに、上がってかない? お礼したいんだ。君には意味がわからないと思うけど」

「わかってるよ。多分。あなたよりも」

「え?」

佐伯君の腕を取り

「さあ、行こう」



 佐伯君の家はデカかった。日本風な家で横に横に広がっていて、佐伯君について行かないと玄関わからないよ。

 家に入ると静かで音がするのは風の音ぐらいだ。玄関から部屋まで行くの遠いし。


「ここが僕の部屋」

 中に入るとこの部屋は洋風に作られている。

 生物、医学、遺伝子学書と並んでいる本棚……理科好きなのが一目でわかる部屋だな。

「お邪魔します。さて、佐伯君」

 何処かに行こうとする佐伯君の腕を掴む。

「え? あ、うん」

 佐伯君は部屋から出て行くのを諦めて私の前に座る。

「えーっと。何から言えばいいか」

佐伯君は頭の中でいろいろ整理しているみたいで、言葉が出てこない。

「じゃあ、私から言うね。あの時あなたは脅されていた。他の五人に」

「え? なんで知ってるの?」

 驚きを隠せない佐伯君。

「あなたは彼らの仲間ではなく、彼らにいじめられていた。あの日はあのスーパーで万引きを強要させられそうだった。万引きに行かないあなたにスーパーの裏手、つまりあの場所で万引きをするように彼らに脅されるところだった」

「な、なんで? 君はずっとスーパーの裏手のあの場所にいたんじゃ」

「居たよあの場所で、襲われたなら荒れるだろう場所を荒らしていた」

 私がダンボールの群れと格闘していたのにも、もちろん理由がある。

「どういうこと? まさか……僕らが行くこともあの場所に行く理由も……僕がカッターナイフを持っていることも知ってたの?」

「ええ、全部。そして、あの後私があなたの人生に介入してなかったら、あなたは万引きで捕まりそうになって、抵抗した結果、カッターナイフを取り出して店員を刺してしまう。その後のあなたの人生は真っ暗になっていた」

「おい、勝手……」

「勝手なこと言うな? 勝手に人の人生に介入するな?」

「え! いや。……いや、ありがとう。あいつら退学になったよ。僕の人生が変わった。ありがとう」

「それは良かった。腕を傷つけただけのことはあったよ」

「ああ!」

 と言って、佐伯君は私の腕を取り袖をまくって傷跡を確認している。あの時は半袖だったけど、もうすっかり秋だもんね。

「結構残ってるね。傷。ごめん。でも、なんで……」

「傷は良いのよ。時間がくれば薄くなるよ。そう、それ! なんで? なのよね」

「はあ?」

 佐伯君は一番大事なところを聞かないのかと心配になってた。

 私の最大の秘密。

「なんで全部わかったのか? そして、なんで起こってもいない未来を知っているのか?」

「……」

「見えたから」

「はっ?」

「見えたの、あなたがあのスーパーの裏手であいつらに脅されるのを。そして万引きして捕まりそうになって店員を刺してしまうのを。それを笑って見ているあいつらを」

 それがなければ全員を暴行容疑で訴えたりしない。あいつらには足りないくらいの罰だ。

「見えたって。透視……じゃないよね? もしかして未来が見えるとか……?」

 わかるのが早いな。さすが理系? ん? 関係ない?

「そう未来。って言っても何でもは見えないし、今回介入したけど、しても変わらない未来もある」

「変わらない未来って?」

 佐伯君は自分の未来が再び閉じるように思えたんだろう、焦って聞いてくる。

「変えられないのはよ。それ以外は何故か変えてもいいみたい」

「……

「そう何度変えても死は訪れる」

「誰かの死ぬ運命を変えたんだ……」

「うん。まあね」

 変えようと努力しても、自分の無力さをトコトンまで見せつけられた。ただそれだけだった。

「あ、あと過去もね」

「へ! 未来も過去も?」

「過去なんて見るだけ見て何も変えられないしね。過去が見えても未来を見ても無力な自分を見せつけられるだけだと思ってたんだけどね」

 佐伯君の部屋を見渡して見る。私が見た彼の未来。この部屋に日の光は差し込んで来なかった。

「まあ、あなたの未来を見た時に変えられるんじゃないかって」

「僕がはじめてなのかよ」

「大きな変化でははじめてってこと。人生の中のターニングポイントってやつだね」

 ふうと佐伯君のため息がもれる。自分の人生かかってるんだからそりゃそうよね。

「という、訳。私の力のことは黙ってて。まあ、言っても誰も信じないだろうけど。じゃあ、元気でね、佐伯君」

「あ、あのさ」

 立ち上がりかけていた私の腕を今度は佐伯君が掴む。

「その力を何かに使うの?」

「ああ、うーん。私が持ってるってことは、少なからず他にも何かの力を持っている人間がどこかにいる。その人物が犯罪者になれば普通の捜査じゃ捕まえられない。だから、刑事になってそういう人達でも捕まえようかなって」

「証拠必要だよね」

 うん。フラッシュバックのように未来が見えた。見えたよ、佐伯君、あなたの……未来が。

「また話に乗るの? 私の?」

 見えてる未来だけど確認してみる。

「ああ。僕も。君の未来に乗るよ」

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