第8話 baby自転車 2

 これから秋も深まり、その後はすぐに受験の時期になってくるだろう。進路指導、とはいいながら、実際はただ単にどの大学を受験するかを話し合うだけの先生たちとの面談。そこでは本当の意味での将来や、人生をこれからどう生きていくのか、と言ったことを話し合うことはなされない。中学の時の友達と通学途中でばったり会うことがあったのだけれども、彼女は就職活動の真っ最中で、地元の中小企業を中心に会社訪問をしている所だと言っていた。なんだか、彼女の方が本当のような気がする。


わたしはというと、担任の先生からは、東大や京都大学は相当頑張らないと難しいけれども、現実的には一橋大学、大阪大学、ちょっと遠いけれども東北大学、といった所を考えていこう、と言われた。それを家族に伝えると、両親もそうだけれど、おばあちゃんがものすごく喜んでくれた。真面目に頑張る孫を持ってありがたい、と。でも、わたしは未だに大学へ行くべきなのかどうか、夜部屋の灯りを消して眠りに就く前の時間、真剣に考えてしまう。「養女」であることに対する引け目なのか、中学時代の友達よりも自分が子供であることへの恥ずかしさなのか、うまく、自分でも分析はできない。


今日は学校の帰りは一人だ。毎日受験勉強をする中で、鷹井高校の文化祭へ行ったあの日曜日だけが、なんだか潤った時間だったような気がする。


エレファントカシマシの「baby 自転車」という曲を不意に口ずさんでしまう。この歌は、二人乗りの歌だけれども、自分ひとりで自転車をこいでいる今のこの感情にもしっくりくる曲だ、と感じる。


エレファントカシマシが好きな井坂くんのことだけではないけれども、ちょっと、脇道にそれて鷹井高校の方まで行ってから帰ろうと思う。ただ鷹井高校の前を通るだけでも、なんだか心に水をやるような効能があるように感じる。

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