第5話 それを愛と呼ぶとしよう 3

「ねえちょっと」


レジを打っていたクラスの女子から厨房にいた僕たちは声をかけられた。


「さっきまで店ん中で流れてた曲の名前を知りたいってお客さんがいるんだけど」


「曲名?」


僕は疑問形で声を出した。たまたま入った店で気に入った曲が流れていたら、普通、質問は『誰の曲か』だと思ったから。どうやらレジの所にいるセーラー服を来たお客さんの質問らしい。どこの高校の生徒だろう。


「たぶん、色々かかってたと思うんで、どの辺りの曲だったか、とか言っていただけたら」


ウェイターをやっていた男子の問に、その他校の女子生徒が答える。


「あの・・・エレファント」


「ミッシェルガン・エレファント!」


'エレファント'で僕が反応しようとする前に、ウェイターが喜々とした声を上げる。彼は自分の世代のずっと前に歌っていたこのバンドが大好きなのだ。


「あの・・・ミッシェルガン・エレファントもすごい好きなんですけど・・・わたしが知りたいのはエレファントカシマシの曲名なんです」


ウェイターががっかりした様子を見せる後ろから、僕がその女子生徒に声をかける。


「あの、エレカシは僕の選曲ですけど、どの曲ですか?」


「・・・風に吹かれて、の次の曲です」


僕はなんだか皆の前で曲名を言うのは少し照れたけれども、とても真面目に恋愛を歌った曲だと感じているので、頑張って気持ち大きな声で教えてあげた。


「それを愛と呼ぶとしよう、です」


「それを愛と呼ぶとしよう・・・」


彼女が繰り返す声は控えめな、けれどもしっかりと胸に刻もうという意思が感じられた。とても、新鮮な、もっというと少しときめくような、そんな声だった。


「エレカシ、好きなんですか」僕が訊いた。


「はい、好きです」彼女が答えた。

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