昼間

「ここはとある研究所です」


 白衣を着てメガネをかけた男がそう言う。一方アタシは頭に大きめのヘッドホンをつけていた。


「いったいこれは何だ」

「キミはユメを見ていたのです」


 ユメ。それは何となくわかった。あの世界はどこかウソっぽかった。だけどアタシの存在はあそこにしかないものだと思っていた。そして海に溺れたらここへ着いた。


「ところでキミは科学兵器です」

 何?

「地球を破壊できちゃいます」

 何なのそれ。アタシ、まだユメを見ているみたいだ。

「めちゃくちゃ速く走れたりします」

 説明する順番おかしくない?

 もう、何でもいいか。何が何だかよくわからないよ。


「スイッチは入りましたかね? この様子だと入ってないですかね」

 次から次に訳のわからないことを。一応、どういうことなのか説明してほしい。


「ざっくり言うと、人の愚かさを見せることによって、キミの凶暴化をはかろうということです」

 何でそんなことするの。


「キミにこの星を破壊してほしいからです」

 答えになってない。どうしてヒトがヒトを憎むの。


「わからないですか? やっぱり欠陥品なのかな。それともイメージが甘かったかな」

 ヒトの世界はいったい、どうなっているの。


「キミが知るよりうんと酷いよ。ふぁあ、眠くなってきた」

 そう言うと男はメガネをかけたまま、イスの背にもたれかかり寝た。アタシはその男が目覚めるまで、ずっと目を開けていた。



「おはよう、こんにちは、こんばんは」

 その男は目覚めるなり、アタシにそう挨拶をした。


「さて、どうやってスイッチを入れるかな」

 スイッチ?


「起爆スイッチだよ。キミが世界を壊すんだ」

 それができたら、あなたはどうなるの。


「教えない」

 ケチ。


「これからどら焼きを千個買おうとしていたのにな」

 よくわからない。


「さて、キミの感想を聞こうか」

 何の。


「昨日見たことを思い出してごらん。いったい、どんな気持ちになった」

 苦しかった。


「それで」

 悲しかった。


「それで」

 うーん。


「うーん、じゃわからない」

 水が冷たかった。


「そんなわけあるかい。それよりどうだ、人は冷たかったか」

 わからない。


「どうして」

 わからないものはわからない。


「そこに何かありそうだな、なるほど」

 何がなるほどなのか。そして、アタシの気持ちは実際どうなんだ。今の気持ちじゃなく、あのときの気持ち。期待が裏切られるときの絶望感。イヤ、だったな。嫌だった。無力さを知った。



「キミはもっと現実を知る必要がありそうだ、単純に戦争のイメージでも見せるか」

 そうやって見せられた映像からは、何も感じなかった。不思議だな。ヒトじゃないからだろうか。反対も賛成もないし、同情も愛情もない。爆撃が爆撃でしかない。


「やっぱりダメだな、もう一眠りするか」

 そう言って、男はアタシを置いて去っていった。アタシはただただ目を開けていた。

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