第十八話 出撃の時だよ!

 部下がアシクへ偵察に行ってから二週間程が経つ。

 その間に俺の左腕も生えてきて、今ではすっかり元通りだ。

 生えてる途中は形容しがたい気持ち悪さで、ユーリが何度も泡を吹いて倒れていた。


 そんな一週間を過ごして、今日である。

 そろそろ戻ってきても良い頃だと思うのだが。


「ガスト様、偵察部隊が戻ってきました!」


 という感じで戻ってきてくれると良いのだが。

 あ、戻ってきたのか!


「よし、作戦会議本部で話を聞こう!」

「はっ」


 偵察に行ったのは先輩部下三名。

 若干の不安があるが、偵察だけだからきっとうまくいったはずだ。

 部下達は作戦会議本部に入ってくると、敬礼することもなく、どかっと椅子に座った。


「いやー、疲れましたわ」

「うん、ご苦労。それでどうだったアシクの様子は?」

「え?」


 ちょっと待って。

 え? って何?


「アシクの偵察に行ったんだよね?」

「もちろんですよ」

「それでアシクの様子はどうだったの」

「あの辺りは良いところですね!」


 そうか良いところなのか、それはぜひ観光にでも行ってみたい。

 いや、そうじゃなくて。


「敵の様子はどうだったの?」

「敵……?」

「うん、敵」


 部下達は黙り込む。

 ちょっとちょっと!

 君達何しに行ったの!?

 旅行じゃないんだよ!


「ガスト様、そんな小さなことを気にしてては、いつまで経っても四天王最弱って言われ続けますよ」

「そうだそうだ!」


 小さくないよ!

 すっごく重要なことだと思うなぁ、俺は!

 とにかく、現時点でわかったことは、彼等は偵察と言う名の、旅行に行っていたことだけだ。

 しかし、いつまでも戦わずにいると、それこそ四天王最弱の名を欲しいままにしてしまう。

 情報はゼロだけど戦うしかない!


「よし、わかった。君達減給!」

「えー?」

「酷くないっすか?」


 酷いね、酷い結果過ぎて、俺はどうすればいいのかわからないよ!

 とにかく戦う準備だ。

 相手がどのくらい強いのかわからないけど。


 俺は館を出るとポッコの元へ行った。

 ポッコはグルドンと共に先輩新米両方合わせての訓練を行っていた。

 彼等は俺に築くと敬礼して迎えてくれる。


「ポッコ皆の調子はどうだ?」

「はっ、グルドン殿の助けもあり順調に訓練できています!」

「よし、早速だがアシクを取り戻しに行く!」

「いよいよですか!」


 俺達の話を聞いていた他の部下達も、アシク奪還に燃え上がった。


「いよいよ戦いですよ先輩!」

「ああ、アシクを奪還できれば、毎日ガスト様の顔を見なくても済むようになる。お前等がんばるんだぞ!」

「俺達は後衛を務めるから!」

「ええ……先輩達が先陣を切るんじゃ」

「バカ野郎! 後輩に華を持たせてやりてぇという俺達の心意気がわからねぇのか!」


 うん、聞こえてくる話がろくでもないよ!

 お願いだから皆しっかり戦ってね!


「そういうわけで、アシクに行きます。すぐに準備だー!」

「はっ!」


 部下達が準備をしている間に、俺は転送魔法で一度魔界に戻ることにした。

 はっきり言って、敵の情報もなしに戦うなんて無茶な気がしたからだ。


 魔王城に戻った俺は、四天王を会議室に呼び出した。

 しかし、現れたのはオトラシオ一人だった。


「フローネとコルペリアルは?」

「二人共拠点の防衛に行ってるよー。どうかしたの?」

「これからアシクを奪還しにいくんだ」

「もう行くの? まだ拠点に移動してから一週間だよ?」


 早いのか?

 もう少し訓練してからの方が良いのかな?

 でも、もう皆やる気だしなぁ。


「ははーん、さては助っ人を頼みに来たなぁ?」

「その通りでございますー」

「いいよ、私今暇だから手伝ってあげる」

「マジで!」


 やった!

 オトラシオが手伝ってくれるなら、拠点のひとつやふたつ簡単に落とせるぞ!


「ただ、私はあくまでバックアップだからね! ちゃんとガストが奪還しないとダメだぞぉ!」


 どうやら全部を手伝ってくれるわけではないらしい。

 それでも四天王序列一番のオトラシオがいるだけで士気も上がるだろう。


「じゃあ、先に拠点に戻ってて。部下達に伝えてくるから」

「おう」


 再び拠点に戻ってくきた俺は、部下達にオトラシオが参戦することを告げた。


「お、オトラシオ様が一緒に……!?」

「やべぇ……サボれねぇ」

「ガスト様、急にお腹が痛くなってきました!」


 君達本当にやる気ないね!

 そんなにオトラシオが怖いの!


 部下達の準備が終わると、いよいよアシクへ向かうことになった。

 拠点の警護のために連れていける部下達は半分くらいだ。

 俺一人なら転送魔法で、アシク付近まで移動するのだが、部下の人数を考えると転送魔法は使えない。

 だから俺達は徒歩でアシクに向かことになる。


「オトラシオの拠点の警護は大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。部下達がしっかり守ってくれるよぉ」


 合流したオトラシオは軽く答える。

 彼女はピクニックにでも行くような感じで、ずっとニコニコしていた。


「それでは、全軍前進!」


 俺の合図と共に部下達が歩き出す。

 オトラシオ効果で皆真面目な表情だ。

 いつもこのくらい真面目でいてほしいと切に願う。


 こうして片道四日の旅が始まった。

 ちゃんと奪還できるかなぁ。

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