第四章 イナヅマンチーム

第16話 対決


 岩から人形のように転げ落ちてくるアメノ。

 くそ。何とか近づきたい。受け止めてやりたいが、このメカミズスマシ、相変わらずくるくると動き回り、俺の言うことは聞いてくれそうにない。

 頼む。手の届く場所に近づいてくれ。


「アメノ!!」


 だが、水面に落下する寸前。その体を、何者かが受け止めた。

 って……あれ?

 おい。

 

「ブルー!?」


 俺は思わず叫んでいた。ブルーだけではない。先に胸を抉られ、水中に没したはずの三人。

 彼等は各々の乗機ファミリアーフナズシの動物形態に乗って、水面にいた。

 彼等を救ったのは、その乗機フナズシなのであろう。ぐったりとシートに寄りかかり、もちろん弱っているに違いない。が、生きている。

 じゃあ……じゃあ、アメノも?


「コウッ!! どうして!?」


 六号機の巻き起こす渦巻きの荒波と、立ち上る竜巻のような暴風を、アメノの叫びが貫いた。

 木の葉のように弄ばれるイルカ型のフナズシに、ブルーと二人で跨り、何かを求めるように手を伸ばしている。


「よかった……思った通りだったな。これでお前達だけでも――――」


 レッド=コウの言葉は、途中で遮られた。

 魔法陣を司る金色の光が輝きを増し、それに呼応するかのように湖底から噴き出した何かの力が、彼のいる島を包み込んだのだ。

 金色の光が闇に変わっていく。中で何が起こっているのか、俺達にはもう確認する術がない。


「リーダー!!」


「レッド!!」


「ブルー離して!! コウ!! コウ!! いやあああああ!!」


 ウミニンジャー達の声が重なる。

 髪を振り乱して飛び込もうとするアメノを、後ろからブルーが、羽交い締めに抑えるのが見えた。


「く……何ということだ。これでは予定の出力の五分の一……いや、それ以下でしか発動せんぞ」


 マグニフィカが、闇に包まれた岩を見つめて呟くのが聞こえる。

 何を勝手なこと言ってやがる。

 俺の頭にかっと血が上った。

 そうだ。眺めてる場合じゃねえ。このままじゃレッドが……コウが死んじまう。アメノと約束したじゃねえかよ。俺も何かしなきゃ……何か……


「野郎!! 魔法陣を止めやがれ!!」


 フナズシ六号機の背中を蹴って飛び、俺はマグニフィカに斬り掛かる。

 だが、イナヅマン装備のない俺のジャンプ力は並み以下。ヤツに至る遙か手前で失速し、ギリ岩の上に引っかかった。更に勢い余って前転するようにゴロゴロ転がり、そのまま岩の角にしたたか腰を打ち付ける。

 我ながらかっこ悪い。

 が、ここを攻撃されれば一巻の終わり。気を失いそうなほどの痛みを堪え、無理矢理立ち上がった。

 だが、くそ。

 敵ども……マグニフィカも、操られたヒーローどもも、注目しているのはレッドを包み込む結界の方。俺など見向きもしていない。

 雑魚どころか、空気扱いってコト? そうかいそうかい。だったら、それを利用してやろうじゃねえか。

 俺は無言で岩をよじ登り、後ろからマグニフィカの脳天あたり目がけ、思いきり剣を振り下ろした。


「ほう……剣だけは本物だな」


 テンパった俺の狭い視界の外から、刀が伸びていた。俺の渾身の一撃を易々と受け止めたのは、あの鎧武者風のヒーロー。

 そして次の一瞬には、俺は水際の岩に叩き付けられていた。雷獣剣は弾き飛ばされ、宙を舞う。


「雑魚が。貴様などが剣で俺を出し抜くなど、百年早い」


「……てめえ。魔法陣で動けなかったはずじゃ……」


 ちくしょう。さっきと同じとこ、また打っただろうが。今度は……立てねえ。


「多少動きにくかろうと、貴様のような素人の剣など恐るるに足らん。だが、もう死んでもらおうか。またさっきのような下手な動きをされると、計画が狂うのでな」


 鎧武者はしゃべりながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 邪魔だから死んでもらおうってか……その言葉に、俺は急に死の実感がわいてきた。

 ちくしょう。死にたくねえ。


「心残りはあろうが……許せよ。世界を滅ぼさぬためだ」


 まだ……そんなこと言ってやがるのか。

 人食いのバケモノに荷担するのが、なんで世界のためなんだよ!?

 心残り……そういや、せっかく助けたのに、おまつさんに会えなかったな。お礼くらい言ってもらえるかと期待したんだが……やめよう。

 ダメだ俺。ほんの少ししか会ってないのに、何なんだこの想い。

 いや、いいや。

 もう死ぬんだから認めちまおう。俺は好きになっちまったんだな。おまつさんのこと。

 なのに思い出せるのは、怒った顔や冷たい視線だけ。そりゃそうか。怒らせるようなことしかしてねえもんな。俺。一回も彼女の笑顔って見てないんだ。

 風を切る音が響く。振りかざした剣が、地面にはいつくばる俺の首を狙って振り下ろされたのだ。

 妙にゆっくりと刃が迫る。もう、この世とお別れらしい。一度くらい、あの人の笑顔……見たかった。

 俺は覚悟を決めて目を閉じた。


『ギィイイイン!!』


 刀は、俺の首に届かなかった。

 斬撃をすんでのところで弾いたのは……機械の腕。それも、この薄緑色の葉っぱを思わせるカラーリングは……


「ササズシ!?」


 見開いた俺の目に飛び込んできたのは、おまつさんの……いや伊志河県のヒーロー、トシイエイザーの乗機ファミリアー・ササズシ。

 ササズシはロボット型に変形し、あのヘレンボイジャーを薙ぎ倒した巨大な腕で、俺を守ってくれていたのだ。

 だがもっと驚いたのは、ササズシと鎧武者ヒーローの交わした言葉だった。


『トシイエイザー様。一般人は保護対象です。殺してはいけません。それはヒーロープログラムに違反します』


 ……え? コイツが……トシイエイザー? じゃあ、おまつさんの……死んでなかったのか!?


「くっ……融通の利かんクズ鉄め!!」


 鎧武者風のヒーロー……トシイエイザーは、苛ついたように刀をもう一閃させたが、ササズシは胸のあたりで火花を散らしただけで動かない。


「なまじ丈夫に作りすぎたわ。手打ちにも出来ん。あとでプログラムし直してやる」


 そう言うと、右手をササズシにかざし、クモの巣のような鎖の網を発射する。

 鎖でがんじがらめにされたササズシは、ぐらりとよろめくとそのまま湖中に落下していった。

 コイツ……いったい何やってやがる。

 いくらイーヴィルに操られたからって……自分の相棒であり、たぶん恋人でもあるおまつさんを人質にすることに荷担し、今度は忠実な乗機ファミリアーのササズシにまで剣を向けるってか。

 ウミニンスーツはすでにボロボロ。籠手も破損。武器は飛ばされ、装備も一切無い。

 今の今まで、死の覚悟も出来ていたはずだ。

 だけど、こんなのおかしい。コイツだけは。


「てめえ……ッ!! 許さねえッ!!」


 叫んだ瞬間。懐から何かが転がり落ちた。これは……ライ・チャージャー!?

 稲妻形の俺の変身アイテム。そうか。スーツも乗機も立花おやっさんに返しちまったけど……コイツだけは返し忘れてたんだ。

 俺はふらつく足に力を込め、拾い上げたライ・チャージャーを額に押し当てた。


「天力……翔来ッ!! 」


 修理中のライ・アーマーを召喚できるかどうかなんて、考えもしなかった。

俺には、力が必要だったんだ。

 守るために。

 意地を、命を、おまつさんを、そして仲間たちを。


「うわあああああッ!?」


 俺の体の表面で、激しい電流が渦巻いた。そのエネルギーは、これまでの比ではない。

 辛うじて残った緑のウミニンスーツが、稲妻の衝撃を吸収してくれているのが、実感として分かる。それでも激しい電流と高熱が、俺の皮膚を焼いた。


「むう? この男、無能力者ではなかったのか?」


 トシイエイザーは警戒したのか、数歩下がって様子を見ている。

 助かった。今、襲って来られたら、何も出来ずに斬り伏せられていたところだ。

 俺の体を覆っていったのは、これまでよりも幾分金色の割合が増した雷鎧(ライ・アーマー)であった。

 だが、それはべつにパワーアップしたからでは無さそうだ。それどころか、そこここのカバーが外され、むき出しになった基盤やLEDが見える。関節のつなぎ目を覆っているはずの黒い樹脂もない。金色なのはそのせいだ。

 さらには、左腕のアーマーに刺さったままの電動ドリル。そこには、油性マジックで立花製作所の文字がある。

 修理作業中にいきなり消え失せた雷鎧を前に、呆然としている立花おやっさんの顔が目に浮かんだ。

 そのちぐはぐな格好を見て、トシイエイザーは呆れたように突っ立っている。

 だが、それでもなんとか変身完了だ。本物のヒーローなら、名乗りを上げるところ。だけど、こっちはただの素人高校生。相手は百戦錬磨の本物ヒーロー。先手を取らないでどうする。俺はすかさず叫んだ。


「武装降臨ッ!!」


 右手に召喚されたのは雷空砲。相手との距離は十メートルもない。狙いをつけるのももどかしく、正面に向けて乱射した。

 命中したかはわからない。だが、轟炎と土煙がトシイエイザーの姿を包み込む。

 一気にたたみかけなくては。そう思って、さらに武装を召喚しようとしたその時。


『落ち着け。イナヅマン』


 聞き覚えのある電子音声が、耳元でいきなり囁いた。


「さ……サバズシ!? 生きてたのか?」


『その表現は適当ではない。私は機械だからな。だが、また君と共に戦う機会を得たことは喜ばしく思う』


 冷静な台詞の最中にも、右腕に電気刺激。

 はっと気付いた俺は、右腕の籠手プロテクターを顔の前にかざした。次の瞬間、土煙を切り裂いて、日本刀型の剣が真上から振り下ろされる。

 やばい。このままじゃ受けた腕ごと真っ二つにされる。そう思った俺は、右足を後ろに引くと、腕を斜めにずらしてなんとか相手の剣をいなした。

 そしてそのまま地面を転がって、また相手との距離を取る。一息ついた俺に、サバズシが感心したように言った。


『いい動きだイナヅマン。少しの間にレベルを上げたな。さっきの先制攻撃も、判断としては評価できる。だが、どうやら相手は一流だ。雑な攻撃は即、死につながるぞ』


『呑気な……こと言ってないでッ……せ……戦略を立ててくれッ!!』


 会話中にもトシイエイザーは、嵐のような斬撃を繰り出してきているのだ。

 それも一歩も動かずに。攻撃が素早すぎて、衝撃波が飛んできているのか剣が伸びているのかすら分からないが、どうやらコレがヤツの技らしい。

 俺は矢継ぎ早に走る電気刺激のままに、辛うじて両腕のアーマーで攻撃を受け流している。


『今考え中だ。なにしろ雷鎧は修理中で、本来の機能の半分も出ていないのだからな』


「かか……勝てるのか!?」


『君次第だ』


「お……俺次第!?」


『うむ。あれもヒーローなら、どこかにヒーローの光を持っているはず。イーヴィルは、ヒーローの光を異世界の闇の波動で操っているものと思われる』


「ここっ……細かい説明はいいから!! 俺はどうすればいい!!」


 ボロボロのコスチュームで弱そうなくせに、なかなか倒れない俺に焦れたのか、とうとうトシイエイザーは、こちらに向かって歩を進めてきた。

 近距離で繰り出される斬撃は、威力も速度も先ほどまでとは桁違いだ。もはや余裕は全くない。俺は慌てて武装降臨し、手元に現れた雷矛サンダーランスで辛うじてヤツの攻撃を受け止め、再び距離を取った。


『そうそれだ。その雷矛サンダーランスで、ヤツのヒーローの光を砕け。そうすれば、ヤツは本来の意識に立ち戻るはずだ』


「わわ……わかった。で、その、ヤツの光って……どこにっ……あるんだよっ!?」


『それが君次第だというのだ。つまりだな、要するに……本人に聞け』


「はああああ!?」


 俺は迫り来るピンチも忘れて、叫んだ。


『何をブツブツとしゃべっている!? 今はいくさの最中だぞッ!!』


 トシイエイザーは怒りの声を発すると、ついに両手に剣を持った。大小二刀流!?


「どど……どういうことだよっ!?」


 俺は倍に増えた斬撃から逃げ回りつつ、トシイエイザーに聞こえないよう、ひそひそと口の中だけで呟いた。


『見て分からないか。アイツは日本の武将タイプのヒーローだ。正々堂々と戦うことに、誇りと拘りがある――』


「なるほど」


『――可能性がある』


「可能性だけかいっ!!」


 思わず入れた突っ込みにも、サバズシの返答は冷静だった。


『贅沢を言うな。だから君次第だと言っている』


「……つまりなにか?……口車で?」


『そうだ』


 ああもう。俺は本来、交渉とかウソとかヘタなんだがな。四月一日はいつもカモにされてるし。

 しかし、今はやるしかない。俺は一気に後方に飛び、大きく足を踏ん張って踏みとどまると、地面に雷矛を突き刺し、右手を前に突き出した。


「待て!! トシイエイザー!!」


 自分でも驚くほどのカッコイイ声が出た。いざとなると覚悟も決まるもんだ。

 いきなり丸腰になった俺に、トシイエイザーは、大上段に振りかぶっていた剣を振り下ろさなかった。

 よしよし。いいぞ。確かにコイツは武士だ。操られてはいても、卑怯なことはやらないらしい。


「貴様、何のマネだ? 命乞いでもするか?」


「…………さっき、俺を雑魚と言ったよな? 否定はしないよ。もともと俺はただの高校生だ。変身できるようになったのもほんの数日前だし。だけどな、そんな雑魚の俺にてこずり、とどめを刺せずにいる、貴様は何だろうな?」


「俺を愚弄するかッ!?」


「そうじゃない。貴様もヒーローなら、俺もヒーローだ。互いに手の内を全て出し合った上で、技と技、力と力だけの勝負をしたらどうか、って提案してるんだよ」


「ほう……名乗りも上げずに不意打ちを仕掛けてきた男が、よく言うわ」


 う……痛いとこを……だが、俺は出来るだけ冷静を装って言葉を続けた。


「そうさ。貴様の言う通りだ。今までの俺は卑怯者だった。だが、どうせ死ぬなら貴様のような男と、小細工無しの戦いで真正面から戦って死にたいんだよ」


「……で? 手の内とやらは、どこまで明かす?」


 よしよし。乗ってきたぞ。

 俺は心中でほくそ笑みながら、毅然とした態度を崩さずにしゃべり続けた。


「まず、改めて俺に名乗りを上げさせてくれないか。そして、俺の手の内を言おう。貴様は何も明かさなくてもいい。名乗りの途中で不意打ちされても恨まない。だが、貴様にヒーローとしてのプライドがあるならば、俺の手の内に準じた内容を名乗りと共に言ってくれればいい」


「仕切り直し……というわけだな? よかろう」


 どうやら、完全に乗ってきてくれたらしい。トシイエイザーは、両手の剣を腰に収めた。

 俺もそれに倣って雷矛サンダーランスを背中のジョイントに収める。

 そして、互いに二十メートルほどの距離を取って対峙した。

 沖の黒岩はでこぼこの岩礁に過ぎないが、俺達のいる岩はもっとも大きい。そして、まるでしつらえたようにすり鉢状の闘技場になっている。

 そのちょうど東西の端に、それぞれ俺達は立っていた。


「地力翔来ッ!! 雷獣神!!」


 俺は二重鎧ダブルアーマーを召喚した。手の内をすべて見せるという約束だ。

 だから、この武装強化は卑怯じゃない。突っ込まれたらそう言うつもりだったが、トシイエイザーは黙っている。面白そうに腕組みをして眺めているだけだった。


「ほう……まだ装備があったか」


「腐杭を守る電光の鎧ッ!! 烈空武装イナヅマン!! コイツは二重鎧ダブルアーマー雷獣神だ!! 気をつけろよ!! 触ると感電するぜ!! 手持ち武器は雷獣剣!! 雷矛!! 飛び道具は雷空砲!! 雷電槌!! そして俺のヒーローの光は……ここにあるッ!!」


 俺は、自分の心臓の位置を親指で指した。

 もちろんハッタリだ。俺のヒーローの光がどこにあるのか、俺も知らない。

 それと肝心のこと……戦闘頭脳のサバズシについては、隠している。

 二重鎧の雷獣神も、常に帯電しているわけではない。まったくの未修理であったらしく一見してあちこち壊れ、黒焦げになっている雷獣神が、どれほど役に立つかは分からなかったが。


「なかなかの胆力だな。見くびっていたぞイナヅマン。光の位置を明かすとまでは思わなかった」


 腕組みをしたまま、トシイエイザーが何度も頷く。どうやら、感心してくれている様子だ。

 よし。引っ掛かってくれたか? 言ってくれるか?


「俺は伊志河県のご当地ヒーロー。今はダークネスウェーブ所属……戦国武神トシイエイザーだ。教えてやろう。先ほどまでの剣は、何の力もないただの刀。俺の本当の武器は……槍だ……こいッ!! 武神装ッ!!」


 次の瞬間。トシイエイザーの全身が金色に輝いた。

 そうか。二重装甲、こいつも持ってたのか。光の中から現れたのは、これまでの普通っぽい鎧武者姿ではなかった。黄金の甲冑は、まるで西洋のそれのように曲線を描き、規則正しい大きな鱗のような模様の外板に覆われている。異様に長い兜は、公家の烏帽子のようにも、大きな包丁を乗せたようにも見えた。

 そして、その手に携えていたのは異様に長い槍。身長のあるトシイエイザーの三倍近く、つまりぱっと見、五、六メートルはありそうだ。


「これが俺の本当の姿。先ほどまでの鎧は、戯れに作った模造品よ」


 そう言うと、長槍を器用に振り回して脇に携えた。

 つまり、さっきまでは変身せずに、素のパワーだけで戦っていたということか。

 コイツはとんでもないバケモノだ。


「この姿では、まだ負け無しでな。あの日も、おまつやササズシなど見捨てて変身しておけば……な」


 その言葉に、俺はカチンと来た。


「負けてイーヴィルの尖兵になんかならなかった……とでも言いたいのか?」


「ふふん。言っておくが、俺はダークネスウェーブに負けたわけではない。そうそう、教えてやろう。俺のヒーローの光はここにある」


 トシイエイザーは、自分の体の真ん中を指さして見せた。


「腹!?」


「いや。その中だよ」


「中ってまさか……胃の中か!?」


 そうだったのか。

 コウ=ウミニンレッドが言っていた『胃カメラ飲んだら光が見つかったヒーロー』ってのは、まさかコイツか!?


『でかしたぞ。イナヅマン』


 サバズシの電子音声がふいに耳元で響いた。機械のクセに、心なしか嬉しそうだ。


「な……何がだよ!!」


『光の位置さえ分かれば、戦いようはある。しかも、的が大きく狙いやすい腹ときている。ヤツの武器が長槍なのもいい』


「長槍がいい? なんでだ!?」


『ヤツは槍の長さを過信している。だが、雷矛は十メートルまで伸縮自在。つまり射程は倍だ。隙を突いて土手っ腹を貫けば……』


「その作戦はダメだ」


『何!?』


「そんなことしたら、あいつは死ぬ。あいつは……おまつさんの大切な人だ。殺せないんだ」


『言っている場合かイナヅマン。このままでは高確率で殺されるぞ』


「殺されるのはイヤだ。殺すのもダメだ。だからサバズシ、アイツを殺さないでヒーローの光を壊す戦略を、考えてくれ」


『無理言うな!!』


 いつも冷静な機械のはずのサバズシが、怒りの声を上げた。


『諦めろ。お前の腕を見くびっている今なら、隙を突いて腹を狙える。その戦略ならいくらでも立ててやる。だが、そのチャンスも一度きりだ。失敗すれば雷矛の射程を考慮に入れた戦い方をしてくる。そうなればどうやっても勝てないぞ』


「ダメだ!! アイツを助けるんだ!! おまつさんのためだ!!」


『無理と言ったら無理だ。だいたい、どうしておまつさんにそこまで肩入れする? 一晩寝床を共にしたくらいで……』


「誤解を受けるような言い回しはよせ!!」


「…………戦闘頭脳と意見が合わないようだな。もう少し待ってやろうか?」


 思わず真っ赤になって叫んだ俺は、トシイエイザーの言葉にはっとして正面を見た。

 ヤツは、腕組みをしたまま動いていない。


「サバズシのこと、気付いていたのか……」


「当然だろう。どうだ。いい作戦は思いついたか? 作戦が決まったのなら……掛かってこい」


 そう言うとトシイエイザーは、右脇に抱えていた長槍をこちらに向け、両手で頭上に掲げた。


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