第9話 翅蛾のヒーロー
落雷が周囲の地面を吹き飛ばす。
立ちこめる土煙が目くらましとなって、俺の姿を覆い隠した。変身時の隙を襲われないよう、敵が近くにいる場合にだけ自動で作動する安全装置だって話だ。
イベントとかTVでは、変身シーンが見えないなんてあり得ないが、まあ実戦では、隙だらけでポーズとっているところを、見逃してくれる敵なんているワケない。
また昨夜と同じように、体表面に稲妻がわだかまり、
積み込んできたサバズシ本体から、時空転送されているのだ。
「武装降臨!! うりゃあっ!!」
先手必勝。
相手のことはよく知らないが、たぶん百戦錬磨の忍者戦士。こっちは素人同然。
昨日までおちゃらけイベントしか経験していない、ただの特撮マニアだ。
とにかく、相手が俺の実力を知る前に、大ダメージを与える以外に勝つ道はない。と考えたのだ。ホラ、マンガとかでもよくあるだろ? 素質ある素人のラッキーパンチで、プロがのびちゃうシーン。
俺は土煙が治まる前にさっさと印を組んで装着した武器を、いきなり振り回した。
さすがサバズシ。俺の考えを読んでくれているみたいだ。
降臨したのは長尺武器、
手元から十メートルまで伸縮自在。ただ、攻撃力は雷獣剣よりだいぶ劣るはず。
ただし、相手はバケモノじゃなく人間だ。正直、本当に殺しちまったらえらいことだ。間違って人殺しになりたくはないもんな。
だが、見た感じコイツラは本物の本職っぽい。まあ全力で武器を使っても、怪我くらいで済むだろう、という計算もあった。五人のうち二、三人でも吹っ飛んでくれれば……と思っていたのだ。
しかし、振り回したランスには、まったく手応えがなかった。
(……下手な戦い方だな。まるで素人だ)
囁くような声が耳元でする。
イヤ素人なんスけど、と思うヒマもなく、脇腹に強い衝撃を感じて、俺は吹き飛んだ。
「が……がはっ……」
雷鎧が全く役に立っていない。
まるで体の芯にまで響くような痛烈な打撃に、俺は這い蹲ったまま嘔吐いた。
「ば……馬鹿野郎。サバ、お前先読みしてくれるんじゃなかったのかよ!!」
『敵の攻撃が早すぎる。今後情報は言葉でなく、刺激で伝える』
その直後、背中に、突き刺さるような軽い電気刺激。そういうことか。
吸えない息を無理矢理吸い、俺は地面を転がった。
今、俺のいた場所に、棒手裏剣が連続して刺さっていく。
おい待て、しかもその手裏剣、岩にも刺さってねえか。
あんなもんに当たったら、雷鎧といえども無事で済むかどうかは分からない。
俺は勢いを殺さないまま、一番大きな木の根元に転がっていき、立ち上がる。
いくら素人でも、複数との戦いの定石くらいは知っている。
相手にするのは一人ずつ。
これで背中から襲われることはない。気をつけるのは前方の敵だけだ。っと思った瞬間、足首に電気刺激。だが、一瞬間に合わず地面から出てきた手に、両足を掴まれた。しかも続けて、頭のてっぺんに刺激。頭上からとどめってワケかよ。
そういやこいつら忍者だった。まともなケンカの定石は通用しそうにない。
俺は
息つく間もなく、両肩に電気刺激。刃が左右から降ってくるのだ。それを雷矛ではじいて更に逃げる。
さすが戦闘のプロ。凄まじい連続、連携攻撃だ。
しかも、恐るべきことにウミニンジャーという連中、最初の名乗りの時以外は、俺の視界に誰一人として入ってこない。訓練された戦士、というのはこれほどのモノなのか。
いくら戦闘頭脳の生サバがついているといっても、素人の俺では、避けるので精一杯。まったく太刀打ちできない。
俺の武装の特徴までも調べられているのか、慌てて召還した雷空砲も剣も避けられた。
万事休す。こうなったら……土下座して許してもらう意外にない。問題はどのタイミングで土下座するかだ。
そう思った時。
『そいつはまだ早い』
サバズシが言った。
「話し掛けんな。気が散って避けられねえ」
コイツ、俺の思考読んでいるのか。
『いや、おまえの性格と状況分析による単なる予測だ。土下座しようとか考えていただろ?』
図星。
『作戦がある。ちょっと痛いが、他に手はない』
え? 痛いのはイヤだ。
『死ぬよりはマシだろう?』
「死?」
『コイツラの攻撃は容赦がない。殺す気なのはお前でも分かるだろ?』
「わかったよ。どうすんだ?」
『指示する通りに動け。まず、体力が尽きたふりをして動きを止めろ』
その段階で、すでに俺は崖に追い詰められていた。動きは止めざるを得ない。
体力が尽きたふりをする必要はなかったってワケだ。
だが、何故かヤツらは襲ってこない。この慎重さもさすがプロ、ということなのだろう。
『いいぞ。今から新装備を呼ぶ。キーワードを叫べ』
新装備?……そういや、昨日付けて貰ったばかりの新装備があった。
考えってそれか……でも、あの装備って……。
『迷うな。呼べ』
「ち……地力翔来!! 雷獣神!!」
俺のかけ声と同時に、地面から稲妻が立ち上がる。
俺の
いやでも、この先どうしろってんだ? 土煙に紛れて逃げろってことか?
『いいから動くな』
サバズシがひそひそと囁く。
『この目くらましがさっきと同じ程度のモノだ、と思いこんでくれれば勝機はある。むろん、雷鎧が耐えてくれればだがな』
え? え? どういう意味だ?
(馬鹿め。それで勝てるつもりか? 隙だらけだ!!)
耳元で囁くような、ウミニンジャーの声。完全に読まれてない?
必殺の気合いが迫るのが分かる。
土煙の中で棒立ちの俺に、ウミニンジャーども全員の刃が叩き付けられた。
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