地獄の旅

「ほんと、クソッタレだ!」

ルークの怒鳴るような声が、かき消されるほ

どにドラッグストアは銃声の止まない戦場と

化していた。

ルークは、近くで銃弾が壁にぶつかり、弾け

る音を聞く度に目を瞑り出口の壁から顔を出すのを何度かためらっていた。

奴らは、安価で流通していたAKライフルを使って森の茂みで身を隠しながら、ここまでの長い距離を闇雲に連射してる。数は、4~5人。私は外の駐車場近くにあるもう動かない錆びた廃車を盾にして上手く隠れながら

襲撃者の様子を伺った。

彼らは銃の扱いはあまり上手ではない。AKライフルは汚れに強く威力はあるが、反動が高い。銃の扱いが半端な人間がロングレンジで撃っていても当たらないだろう。だから、弾数がなくなってきたら必然的に駐車場付近まで近づいてくるはずだ。

 一人が、森の中からドラッグストアの入り口を連射した。すべて付近の壁に当たり銃弾は弾けていく。その間に、もう一人が茂みから顔を出し、道路に出てそのまま走って駐車場の中に入ると、私に気づいていないのか、ドラッグストアのほうへ走っていく。

 私は腰からM1911、通称コルト・ガバメントを取り出して、両手で構えた。標的は、ドラッグストア付近にいる敵だ。右手の人差し指をトリガーにかけて、息を吐いた。全神経を標的の頭に銃弾を中てることに集中させた。そして、トリガーを引いた。

 標的の頭には小さな穴が開いていた。標的は一瞬、直立不動になったかと思えばそのまま倒れて動かなくなった。

すぐに、車に隠れて周りを確認した。銃声に誘われて感染者が寄って来ていないか確認した。幸い、感染者はちらほらと目視しているが、やはり敵のAKライフルの銃声の方が大きいため、そちらに釘付けだ。

敵は、私をマーキングした。私の隠れている車に向かって銃弾の雨を浴びせてきた。迂闊に顔を出せないが、銃声が止んだ隙に素早く頭を出して確認すると、状況が悪化したことに気づいた。

目視した 4人の敵は駐車場付近まで進行していた。そのうちの1人は私の様子を伺うように銃口を向けていた。反射的に顔を下げた直後、1発の銃弾が頭上を通過した。残りは、ストアの中を制圧しようとする動きに見える。ルークが、偵察していた敵から盗んだAKライフルを乱射して、3人の進行を妨害していた。敵は、それぞれ駐車場にある障害物に隠れながらゆっくりと距離を詰めようとしている。奴らを何とかしたいが、私が顔を出そうとすると、私を見張る敵が牽制して迂闊に顔を出せなくなってしまった。

厳しい状況になってしまった。私は何か案がないか千思万考していると、遠くでエンジン音がしているのに気がついた。

ケインの運転している大型トラックは、駐車場の柵を突き破り、トラックはドラッグストアの前に止めた。このままだと、敵にとっての標的の的にされてしまうが、私を見張る敵がこちらに意識が向いてないと考えて、車から頭を出して、右手で拳銃を構えた。周りの警戒を怠り、目の前ばかり意識を向けていた愚かな敵は既に立ってはおらず、感染者の餌食にされていた。それを見て、私は一瞬、後ろを振り返り安全を確認した後、ドラッグストアの前まで近寄った。

ケインは外に出て、ドラッグストアの中でサラとクロエ、ジョニーをトラックのコンテナの方まで誘導しようとしていた。彼はなんとかトラックを止めた後、銃弾を浴びながらも姿勢を低く保ちながら手席まで移動し、何とか被弾せずに車を降りることができた

ルークは、トラックの車頭を使って身を隠しながら上手く敵の気を引いてくれていた。

私は、トラックのコンテナ側からルークに意識の向いている敵1人を撃った。その時、サラの悲鳴を上げ、私はドラッグストアストアの方へ走った。

「私が行きます・・・!」

私はルークに一言言うと、振り返らずにストアの中に入った。

「ま、まじかよ、おい・・・」

中には3体の感染者がいた。裏口が開いていたのか、激しい騒音につられてきたのは間違いない。

左側には老人のジョニーが杖を落として倒れていた。老いた体は、思うように言う事は聞かず、一体の感染者に追い込まれている。

右手側は、座り込み娘のクロエを抱きしめているサラと、もう少し左にケインがいた。それぞれ一体づつ感染者に追い込まれて、対抗する手段も武器もない。ケインは木の板で抵抗しているがタフな感染者はその程度では簡単には力尽きてはくれない。私が助けるべきは、動けないジョニーか、サラとクロエだ。恐らく、どちらかを助けるとどちらかは助からない。だが、それでもどちらも助けなければならないのだ。私は素早く、コルト・ガバメントと構えると、サラとクロエを襲う感染者に照準を合わせた。

「た、頼む!娘と孫を救ってくれ!」

ジョニーの声が聞こえた瞬間、引き金を引いた。

サラを襲う感染者が床に倒れ、動かなくなると、咄嗟にジョニーの方に拳銃を向けた。

「・・・」

だが、既に遅かった。

私は視線を変え、ケインと格闘を繰り広げている感染者の脳髄にナイフを刺して、引き抜いた。

「すまん、助かったよ。・・・っ!?」

ケインは、ジョニーの死体が感染者に喰われている有り様を見て、悶絶した。

「今は早くトラックに乗りましょう・・・」

彼の死を嘆く暇はない。外からは人間による襲撃を受け、一刻も早く車に乗り逃げなければならないのだ。そうでないと、次は私達が死体になる。

私は、ケインに外へ出て車を動かす準備をするように言うと、小さな声で泣いているサラの目の前へ、私は寄った。クロエはただ私と目を合わせ、じっと見つめていた。

「サラさん。逃げましょう」

私は彼女の腕を引っ張ったが、彼女は状況を理解していたが、ただ悲しみと恐怖に支配されていた。

力づくで彼女の腕を引っ張り立たせると、声を上げて涙を流すサラに伝えた。

「悲しむ暇なんてないですよ。早く逃げないと次はあなたが死にます」

私はそのまま外へ走り、1、2発敵のいる方へ撃ちながらコンテナを開けた。

「さあ、早く!」

私が合図すると、サラがクロエを抱いたまま姿勢を低くし荷台の中に入った。そして、幸運な事に敵はトラックにいる私たちに気を取られ、近づく歩く死体の存在に気づかなかった。私が次にルークが入るように指示したのは、感染者が敵の1人に噛み付き、周りの男達が焦って感染者に重厚を向けたためだ。スムーズにルークが荷台に入った後、私がコンテナの中へ入った。ルークがコンテナの扉を閉め、その間にコンテナと運転席の境のコンテナの壁を私は強く何度も叩き、発進するように合図をした。

数秒後、計画通りにトラックは動きだした。コンテナの部分に銃弾が弾けるような音がしたものの、やがてその音は消え、私達は安堵の息を漏らしたのだった。

数分後、落ち着きをとり戻した彼らは、彼らに起きた現実を受け止めようとしていた。

「パパが・・・死んだ」

今にも、また泣きそうな声を出したのはジョニーの娘のサラだった。あの男は怒りっぽく頑固な性格である印象を受けた。しかし、そんな彼は自分の命よりも、娘と孫を思いながら死んだのだ。

彼は立派な父親だった。

ルークは、サラの言葉にただ頷くだけだった。私も彼女にかける言葉は何も無い。寧ろ、言葉をかけるべきではないだろうと思った。

荷台の中は暗闇で、たまたま持っていた懐中電灯の光で周りを照らしていた。

トラックの揺れがる度に、彼らの顔は不安に満ちているように感じた。

私たちは今、地獄のような世界を旅している。

この先、どうなるかは分からないが、ただ、生きている限り、生きるだけなのだ。





 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DEADEND フラン @Flandle

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ