鍍金の賢者⑪



 ドン!


 突然、ガリィちゃんが焦ったように俺を突き飛ばした!


 

 なんだよ、まだ_____ヒュン。


 眼前ギリギリを何かが通り過ぎ、それはカツンとそぐ傍にあった地面から隆起した岩に突き刺さる。



 矢?


 飛んできた方向に視線をやるとそこには皮膚も焼け焦げ体中を血で染めたエルフが一人、簡素な弓を震える手でつがえ更に俺を狙う。



 「ぎゃぉ ご ご ろじでやるぅ せかいを すくわなげっれれ ばっ!」



 震える指が、キリキリと弓を引く!


 やべっ避けないと! 


 が、蹴躓いた状態から体を起そうとするも何だか妙な体の違和感と苦痛で感覚が鈍い。


 ちっ、反応が遅れる…まにあわねっ!



 タンッ!



 此方を血走った目で見こちらを据えていた頭がガクンと側面へぶれ、番えた矢は目測の外れに宙を舞う。



 「がっ!? かぺぺぺぺぺ…?」


 血走った目は、俺から視線を逸らしその人物を捕らえた。



 「ごめんなさい…兄様…」



 頭の側面から矢を貫かせ口をパクパクさせながらその場に崩れる兄の元に、魔力で神速し駆けつけたリーフベルはそのボロボロの体を優しく抱きしめる。



 はっ_____たすかっ!?



 ほっとしたのもつかの間、俺の背後でザリッと地面を踏む音がして首筋にヒヤリとしたものが触れる。



 「…あはw もしかしてげき怒ぷんぷんモードだったりする?」



 恐らくは、げき怒なんて通り越しているであろうカランカに問うがその返答は実に妙な物だった。



 「…オヤマダ…その姿は…一体アンタは何者なんだい!」


 

 背後からの声は、明らかに俺に脅えているようだ…は? 姿? なにそれ?



 「コージ…おっきくなった…?」



 「は? おっきくって…!?」

 


 俺は反射的に自分の口を押さえる…え? 何だ? コレ、俺の声か??



 自分の口を付いて出た声は、全く聞き覚えのない低いもの…風邪を引いたとかそんなんじゃない!



 「がっ、ガリィちゃん! 俺どうなってんの???」



 ぐったりしている赤ん坊を抱えたまま目を見開て固まっていたガリィちゃんは、俺の問いにビクッと体を震わせる。



 「何!? そんなにヤバイの!?」


 「…ううん、違うよ…あのね、うんとね…かっこいいよ?」



 はぁ? 全く話が見えない!



 ガッ!


 「ちょっ_______あ"っ!?」



 後頭部に走る衝撃。



 視界がぶれ、地面に倒れこむ俺の体。



 「コージ________________」



 ガリィちゃんの声が、掠れて遠くなった。




 暗転。


 深淵。


 音も光も無い空間に漂って、感覚すらも曖昧になる。




 又か。



 最近、良く気絶することが多くなったきがするな。



 あ"ー確かこーゆーの何だっけ?



 『深淵とは? :創世学者モルモッテッティ著『創世の辞典』によると、創世学においては「進化の終着点」を意味し、すなわち全ての種族の行き着く最後の未来を意味する。 これから連想が進み、クロノスの黙示録のアバドンといったイメージになった。 知恵の精霊は深淵をマサク・マヴディルと表現し、落伍者の行き着く場所と解釈しています』



 あーそうそう、そういう解釈もあるよね。



 混沌とした記憶の淵より引き上げられた知識の欠片が自分勝手に講釈垂れてきて、何処にでも居る中学生の俺はその意味を何故か理解する。



 コレは俺のものじゃない。



 妹を守るため、たった一人でで世界に立ち向かった賢者:レンブラン・ガルガレイの数千年に及ぶ知恵の集大成だ。


 俺は、只ソレを使ってるだけ。


 中学2年の中の中くらいの平均点どんぴしゃな、平凡な頭に焼き付けられた鍍金。


 ソレが光反射してギラギラ輝く。



 俺は所詮、空っぽの脳ミソに場違いな究極にして至高の知識をぶっ込まれたイミテーションなインスタント賢者。



 

 知識と力を手に入れた中2は、やっぱり厨二病を発病させて色々やらかしちゃったんだ。

 

 

 ふわり。



 もう、何処から何処までが自分の体なのかすら曖昧になった俺に誰かが触れる。



 『君の悪い癖は、自虐ネタに走って悦にはいるところかな?』



 耳元で、呟くそれは『まっ、こじらせ男子でも君が好きだけど』と続けて口にふれる…だれだっけ?



 『深く考えないで、どうせすぐ忘れるさ』



 忘れる…なんで?


 

 声は、悲しそうに『もう少しで分かるさ』と言い俺から離れてく。



 まて…まって…!



 伸ばした手は深淵をかいた。

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