魔王

魔王①

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 「嫌…逃げて! 逃げて、切斗!」


 

 姉さんが、顔中の穴から汁という汁を垂れ流し泣きじゃくりながら構えた聖剣グランドリオンの切先が僕を捕らえ喉に軽く沈む。



 「逃げてぇ! 自分じゃ止められないのよぉ…!」



 僕は咄嗟に後ろに下がり間一髪その切先から逃れたけれど、その剣の先についた鮮血に姉さんの顔がまた歪む。


 

 「あああ、ごめんなさっ い!!」


 

 ああ、泣かないで。


 姉さんは悪く無い、コレを避けることが出来たのも姉さんが女神の支配に抗っていてくれるからだ。


 肉体を操る女神の支配に抗うのは、きっと激痛を伴う事だろうに…。


 

 『さぁ、戦いなさい! 私の世界の為に!』



  女神が笑う。


 

  女神にとって、コレは何度と無く繰り返してきた余興に過ぎないのだろう。



 「クロノス…」



 許さない…。



 姉さんを、僕を、小山田を…こんな目にあわせたお前とこの世界の事を僕は絶対に許しはしない! 


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 ぎゅっ。



 あ…これいいな…あったかくて柔らかい…。



 俺は、抱きついてきたあったかいソレに答えるように腕を回す。


 

 夢と現実の狭間の少し肌寒いボンヤリとしたまどろみ。


 震える俺は、少しでも温もりがほしくて腕の中にすっぽり納まるソレを更にきつく抱きすくめた。


 

 相変わらす体の節々が痛いが、それも気にならないくらいに肌触りが最高で何だか凄く_____凄く______。



 「鳥臭っ!?」



 薄暗い中、最初に目に飛び込んだのは涙を溜めた金の瞳。


  

 「がっ ガリィ ちゃ?」


 「ばか! コージのバカ!!」



 腕から抜け出たガリィちゃんが俺の頭を抱え、わあああああっと大声を上げる。



 ああ…なんか俺、ガリィちゃんを泣かせてばかりだな…



 ふわふわの髪を撫でて背中を滑らせて短くなった尾に触れる…治癒なんてご丁寧なもの俺には出来ないから切断されたコードを強引に繋いで狂ったボディバランスをとった何とも雑な応急処置。


 その所為だろう、20cmほど残っていた尾はくるりと巻く…可哀想に…。



 守れなかった______約束したのに_____。



 「コージ、コージ…ガリィ、ガリィは強いはずなのに…」



 縋り付く体が震えてるのがわかる…しっぽ潰れちゃったんだ痛かったろ? 怖かったろ? 強いとかそんなの関係無い。



 名残惜しかったが、俺は埋もれてたBカップのぬくもりからぷはっと顔上げガリィちゃんのずるずるの鼻を指でぬぐってつまむ。



 「ぶに"ゃっ!?」


 「ガリィちゃん、俺はこの中の誰よりも弱いけれど何があってもお前を守るよ」



 不機嫌そうにそうに眉を寄せていたガリィちゃんの顔が赤くな______どごおぉぉん!



 「うを!? なんだ??」


 突然の衝撃に岩壁に振動が走ってヒビが_____って、ここ洞窟だったのか!?



 「大丈夫だよ、今は赤ちゃんが守ってくれてるの!」


 「はぁ? 守ってって_____ん? っちょっとまって!」



 あ、うん、うすうす気付いてたけど俺たち全裸かよ!


 

 ビキキキキキキ!!



 恐らく外から攻撃を受けてるであろう轟音と振動、更に広がる岩壁の皹は亀裂に変わりガリィちゃんのBカップがプルンプルンして_____って!



 何コレ?

   何コレ??


 洞窟崩壊寸前のピンチとエロスの同時進行に俺の下半身が_____?



 「…! …!」



 青少年のフルパワー全開の元気のよいムスコと目が合った俺の息が一瞬止まる。



 

 「うぎゃあああああああああ!!」


 「うに"あ!? コージどうしたの!?」



 俺は思わずガリィちゃんから飛退き、団子虫のように身を縮める!



 「コージ!? なに、どこか痛いの??」



 驚いたガリィちゃんが俺に駆け寄ってくる! 無論、全裸で! 全てをさらけ出しているぅ!!



 「ストップ! 来ないでっ! いま危険ダカラ!」


 「危険? 大変だ! どうしたら良いの? ガリィ、コージの為なら何でもするよ!」



 おろおろしながらも傍にペタンと座ったガリィちゃんは、俺の丸めた背中をそっとなでなで…って、止めてこれ以上刺激しないで! 


 『なんでもする』とか、今マジ勘弁!



 「コージ! ねぇ! コージってば!」



 …何なの、何なの! ちょっと待ってよ!


 ついさっき迄、MAX鉄の小刀だったのが行き成りエクスカリバーとかどうなってんのぉ???



 「どうしたの? 見せて!」



 縮こまって震える俺を心配したガリィちゃんが、ひっくり返そうとしてくる!!



 「やめっ! ダイジョブダカラ! 触らないでっ!! 見ないでぇ!!」

 

 「コージ! ガリィは心配なの、痛いならちゃんと見せてよぉ…いきなり大きくなっちゃったんだよ? きっと何とかするから…ね? いいでしょ?」


 

 はぅ!!



 おっきくなって心配? 何とかする? マジでいってんのか!?


 倒壊寸前の薄暗い洞窟で、いやいやする俺を金色の目が心配そうにみて無理やりではなく気遣うようにそっと俺の頭をなでている。



 いいのか?


 やっていいのか?


 本能に従っちゃうのか? 



 「マジで、何とかしてくれんの?」


 

 俺の問いに、ケモ耳をピコピコさせないがらガリィちゃんがうなづく。



 無垢で無知な警戒心0のケモ耳エンジェルスマイル。

 

 ああ、その顔ぐちゃぐちゃにしてやりてぇ…。


 

 「コージ」


 潤む金ぴかのピュアアイズ。



 ぷちんっと、俺の中で最後の防衛ラインがぶっちぎれた。



 「うふふふふ…あーそー、じゃあね、そこで四つん這いになって俺にしり______」



 ザクッツ!

   ザクッツ!!



 「いてぇ!!???」


 

 賢者レンブンランの残した白き羽と鋼の義羽を持つ最後の砦にによる口ばしと言う名の正義の鉄槌が、理性を失った俺の脳天に突き刺さる!!



 「コココココココ!!」



 俺の中で無意識に存在を削除していたこの洞窟の鳥臭さの元凶は、不機嫌に喉を鳴らし少し血の付いた口ばしでもう一撃と振りかぶる!



 「げっ! コッカス! 分かったってもうしねぇからストップ! マジで止めろって!」


 「う"にゃ!? コージ大丈夫!?」



 折角、いい感じだったガリィちゃんが俺を突きまわそうとするコッカスを止めようと_______ゴガアアアアン!!



 「うを!? なんだ???」


 

 凄まじい地響きと、舞い上がる砂埃で視界が塞がれる!



 不味い! 洞窟が崩れる!



 「クエェ!!」



 ガラガラと天井が崩れる中、コッカスが俺とガリィちゃんをすかさず羽の下に抱え込む!



 が、それだけじゃ俺たちは生き埋めだ!


 俺は、素早くコードモードを発動させ全ての物体を1と0に可視化する。



 とりあえず俺たちの周辺だけでも、コードを再構築し______ドゴオオオオオオオオン!



 「げっ!」



 更に、巨大なエネルギーが! 間に合わねぇ!!


 俺は咄嗟に、すぐ横にいたガリィちゃんを抱え込む!



 激しい轟音に揺れ、そしてガラガラと落ちる岩がコッカスの肉や義羽に当るのがわかる…くそっ!



 せめて崩れた後からでも、ガリィちゃんが逃げられるようにしねぇと…て!




 つったくよぉ! 守るって言った傍からこれかよ!!



 兎に角、落盤を防がないと本格的に埋まっちまう!



 ちっ!


 考えろ! 少なくとも俺の頭には、レンブランの知識があるん_______あ。


 レンブランの知識ののお陰なのか俺が天才なのか、脳裏に閃いた打開策に口元が緩む。



 「コッカス! 上に向って『石化』」



 俺は、白い羽根で必死に落盤に耐える地属性の魔物コカトリスの変異種で『他者の命に従う』と言う摩訶不思議な特性を持つこの糞でかい鶏に命令する!


 

 普段俺の事なんてミミズ以下だと思っているであろうコッカスは、咄嗟の事に反射的に従い天井に向って石化光線を吐き、俺は光線が崩落する岩盤にぶち当たった瞬間に岩盤を1と0のコードに可視化して『バラして繋ぐ』。



 「おし! 討て討て討て討て討てえぇぇ!!!」


 「ピキャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 俺たちを抱え込むコッカスの周りを、コードを組み替え強度をオリハルコン並みに強化した岩盤で囲む



 コッカスの石化と外部からの攻撃により崩落する洞窟。



 このまま行けば、息も出来きない程に大量の粉塵が舞い上がるはずだ…十分に______



 「いいね…愉しくなってきた」



 「ケホッ…コージ?」


 

 腕の中で、ガリィちゃんが息苦しそうに俺を見上げる。


 

 「ちょっと、耳塞いで目閉じて…後、ちょっと『借りる』な」




 固めた岩盤が俺達を囲む寸前、俺は軽く指をならす。



 小さな黄色の閃光が砂埃の粉塵に飛び込み、俺達の視界は塞がれた岩盤によって真っ暗になった。



 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!



 洞窟に響く轟音。


 立っていられない程の激しい振動。


 

 

 覆っている岩盤に皹が入り、慌てたコッカスは羽で巻き込むように俺達を抱え込んだ!




 


  

 



 ガラッ。



 

 「収まったか…?」



 俺は、小石と砂埃と鳥臭さの中で目を開けた。


 

 「ガリィちゃん、大丈夫か?」


  

 羽毛と俺に抱き潰されながら、ガリィちゃんが面食らったようにこくこくと頷く。


 

 「コッカス、お前は?」


 「ココココ…ッ」


 コッカスは、頭をぷるぷると震わせ降りかかった小石を払いながら不機嫌そうに答えた。



 「コージ…これ…なにしたの?」


 

 ガリィちゃんが、訝しげに辺りを見回す。


 

 それもそのはずだ、なにせさっき迄薄暗い洞窟で倒壊生き埋めの危機に瀕していた筈の俺達が気が付けばまるで隕石が落ちた様に今没したクレーターの底にいるんだから。


 大きさは、丁度学校のグラウンドくらいか…?



 「…さぁ?」


 俺は、ガリィちゃんに肩をすくめて見せる。



 何をしたのか?



 その問いには、ちゃんと答えがある。



 俺がつかったのは、今やアニメ、ラノベとかでは御馴染の半密室に燃えやすい粒子が密集した時点での引火_____『粉塵爆破』。


 それ自体は、かの有名な炭鉱などでも悲劇を招いた事からも分かるように先ほどまで規模の洞窟でおこった粉塵爆発なら色々吹っ飛んで叱るべきだ。



 なんの不思議も無い。



 目的としては、その威力を使い落盤を弾き洞窟の一部を破壊して逃れるつもりだったんだ。



 けど、今回粉塵爆破を行なうに当ってガリィちゃんの魔力を静電気レベルで借りた『着火』以外殆ど魔力を使っていない。



 こんな風に洞窟自体が跡形もなく地面に大穴を開けるなんて、俺の賢者の知識の予想を超えている。



 明らかに、おかしい。




 「コージ! コージ!」


 

 頭の中で、力学とか、エネルギーだとか、身分不相応な知識がこの現状を解析していると、ガリィちゃんが慌てた表情で俺の腕を掴む。



 「え あ ?」


 「赤ちゃん! 赤ちゃんを探さなきゃ!」


 慌てふためくガリィちゃんを見下ろしながら、俺は眉をひそめる。


 

 「ガリィちゃん、さっきから赤ん坊が俺たちを守ってるとかなんとかって_____」


 「そうなの! 赤ちゃんがアイツ等からから____どうしよう! こんなに吹き飛んで_____!」



 おろおろとする可愛らしいケモ耳Bカップを、上から見下す形で堪能______ん?



 赤ん坊が俺達を守る?


 ハイハイしかできない赤ん坊勇者が?


 確かに魔力は、既に精霊獣を6匹コンプリートしてるし一瞬タメまで成長? していたとは言え俺とガリィちゃんがかなり魔力を排出させたし____ん?


 

 上目遣いガリィちゃんが『コージ! 早く赤ちゃんを探さなきゃ!』と言うけど俺は異知れぬ違和感に気付く。



 あれ? ガリィちゃんって、こんなに小さかったけ?



 ついさっき迄見る事は叶わなかった金髪のつむじを凝視し、固まる。



 おかしい。


 

 俺とガリィちゃんて、身長なんて気持ち俺が少し高いくらいでさほど変わらなかった筈だよな?


 ガリィちゃんが縮んだのか?



 「コージ! 急がなきゃ! 怪我してるかもしれいないよ!」


 「あ ああ…あ? あーあー? げほっ げほっ!?」



 なんだよコレ!?



 俺は、思わず自分の喉を押さえる! 



 「俺の…声…?」



 口から吐いて出る聞き覚えない低い声。


 さっきから、なんか変だとは思ってた…風邪とか埃を吸った訳じゃない…。


 異様に高い目線、低い声、縮んだように見えるガリィちゃん…。



 俺は、視野に入った自分の手を腕をまじまじと見る。


 さっきまでの自分のものとは思えない少しごつごつとした印象の増した掌、適度に筋肉のついた腕、足、そして今は控えめにはなりを潜めてうなだれてる俺の性剣エクスカリバー…。


 

 そして、『おっきくなった』と言うガリィちゃんの言葉…。



 え? それって あれ?



 ジリッっと、目の奥が熱を帯びる。



 【経年劣化:年月を経て、品質や性能が低下すること。 意図して損傷を受けたのと異なり、通常損耗や自然損耗した状態。 転じて、自然の摂理に叶ったどうしようもない状態を言い表すこと。 但し、この場合は現状に適応する為に意図的に最低限の行動可能な身体能力を得る目的から身体を『成長』させたもの】



 機械音的耳鳴りが、頼む前に講釈垂れきやがった!



 ああ…。


 そういう事か…赤ん坊から一気に吸い上げたエネルギー…俺はどうやら幾つか年をとったと言うかそれを利用して自分の身体を成長させた…。



 「どうしたの?」



 赤ん坊の事そっちのけで、確かめるように自分の体を弄る俺をガリィちゃんが訝しげに見あげる。



 「ああ、なんでもない うん いこっか…て、その前にさ! 何で俺ら裸なんだよ!?」



 さっきは薄暗くてあれだったけどさっ! 


 俺ら今、太陽の光の元オールフルカラーで絶賛ヌーディスト中よ?


 ガリィちゃんは全裸とか慣れてるかもだけどさっ! 


 俺はそのっ流石に、そんなお宝目の前にしたらエクスカリバーが荒ぶっちゃうから!



 先ずはお洋服を着せて! てゆうか、ガリィちゃんだけでも何か着てよ!




 「マジで…もう!」


 「コージ! 早く! 早く!!」


 頭を抱える俺に、ガリィちゃんが早く赤ん坊を探そうとせかす。


 

 分かってる。


 この地面にクレーターを形成した衝撃をかんがみるに、洞窟の外で俺達を守っていたらしい赤ん坊が死なないまでも無事かは怪しい。



 …緊急事態だ、それは理解する。



 が、



 「…なぁ、赤ん坊は何で…何から俺達を守ってたんだ?」


 

 「え? 『俺達』? 赤ちゃんが守ってたのコージだよ?」



 俺の問いに、ガリィちゃんがなんとも微妙な返しをしてきた。



 「…は? 俺?」


 「そうだよ! コージねっ血まみれだったからあの湖であらってたらさ、あいつらコージを殺そうとして! コッカスと洞窟まで逃げたんだけど直ぐに追いつかれちゃってそれでっ! 早く此処から逃げなくちゃ…ああ、でもっその前に赤ちゃんを探さないと!!」



 無い頭を使おうとしたせいかガリィちゃんは、『うにああああ!!』っと頭を掻き毟る!



 「ちょっ! まった! え? 俺、殺されかかってるの!? なんでさっ??? つか、誰に??」


 「へ? 皆にだよ! だって、コージがチビチビだちの国半分消し飛ばしちゃったでしょ? だからだよ!」



 はぁ?



 俺が、国半分吹き飛ばした?


 何の話だ??

 

 

 「兎に角ここから…コッカスお願い! 乗せて!」



 ガリィちゃんのお願いにコッカスはヒョイと伏せ俺たちはその背中に飛びつく!


 俺たちが飛びついたのを確認したコッカスが、翼を広げたその時だった!



 「こーじっ! まんまーーーー!!」



 クレータの淵から聞き覚えのある声、そして、こっちに向って飛んでくる。



 見覚えのありすぎる『尻』が!!



 どごぉん!



 「ぐはっ!?」


 「に"やぁぁぁぁぁ!! コージ!!」



 凄まじいヒップアタックを顔面に食い悶絶する俺にお構い無しに、もちもちの尻が懐いてくる!!



 「こーじ! こーじ!!」


 「ぶべっ! やめぇい!!!」


 

 俺は、懐く尻を引っぺがしそのままひょいと持上げた!


 幼児だ、年の頃は5歳くらい亜麻色の髪にライトブラウンの目が尻を上に逆さまの状態で嬉しそうに笑う。



 『誰だ?』とか野暮な事は言わない。



 「をぉぅ…ポークビッツがアルト●イエルンって感じ?」


 

 俺は、立派に見違えたウインナーと頭の位置をひっくり返してその可愛らしい顔をじっと見てからそのまま抱きしめた。



 「無事でよかった…!」



 緊急事態だったとは言え、空腹に任せ魔力を吸い上げただけじゃなく女神を追い払う為ではあったがあれだけの苦痛をこんな小さな子供に与えてしまった…思い返すだけでその無能さと非力に自分自身を殴り飛ばしたくなる。



 「こっじ…?」


 

 俺が余りにきつく抱きしめたので、赤ん坊はちょっと息苦しいともだもだして見せた。



 「コージ、早くここから離れなきゃ!」


 ガリィちゃんが、クレーターの淵を睨みながら言う。


 ふと見上げた先には、この巨大なクレーターをぐるりと囲むように様々な色の球体が輝く。



 精霊達か…。



 ガリィちゃんの話では、俺がどうやらこいつ等の国を半分吹っ飛ばしたとか何とか…全く持って微塵も身に覚えがないが此方を取り囲む球体たちには救いを求めて来た時の友好的な感じは受けない。



 「ガリィちゃん」


 「うん! 飛んでコッカス!」



 ガリィちゃんの命を受け、コッカスが翼を広げ地面を蹴った。



 力強く垂直に舞い上がるコッカスに小脇に5歳児を抱えた俺は、振り落とされまいと必死に羽毛にしがみ付きGをやり過ごす!



 振り向けば当然の如く追ってきたが、精霊どものスピードを遥かに凌ぐコッカスにぐんぐん引き離されていく。



 コレなら余裕で…と思ったのもつかの間、コッカスの眼前すれすれを下から突き抜けるように高速で通過する白銀の『何か』!



 ソレは地上の方から無数に放たれ、回避するコッカスのアクロバティックな動きに俺は危うくバランスを崩す!


 ガリィちゃんが咄嗟に支えてくれなかったら、俺は赤ん坊ごと空中にフルチンで放り出されていただろう。



 「っ…くっ!」


 「コージ! 赤ちゃん! しっかりコッカスに掴まって!」


 俺の背中からガリィちゃんのマシュマロ並みの柔らかい温もりが離れる!


 

 「おい! ちょっ…」


 『止めろ』っと言いかけた時には既に遅く、突き上げられたガリィちゃんの手に稲妻が集ま______。



 「ぴきゃああああああああああああああああ!?」



 コッカスが、悲鳴を上げその高度をガクンと落とす…いや、真下に向って落下する!



 ちっ! ガリィちゃんの稲妻がコッカスの義羽に誘導雷しやがった!


 レンブランが片の翼を失くしてたコッカスの為に作った軽くて丈夫な金属『ヤワラカクナイ』で作った『義羽』、高性能なその発明品は筋肉の電気信号を増幅させて生の羽と同じくらいの感度で動かす事が出来るわけだがその分電流に感度が高い。



 つまり、ガリィちゃんの稲妻が背中の真上で発動した為感度の高い義羽は電流の誘電によりその機能を停止した…つまり。



 「また、落ちんのかよおおおおっぉおぉおおおおお!!」


 

 飛行機能を失った巨大鶏と、全裸の男女に5歳児が錐揉み状態で悲鳴を上げなら下へ下へと落下速度を上げていく!



 やべっ!



 こうなったら!



 俺は、コードモードを展開して______!



 「やあああああああああああああああ!!」



 突然、小脇に抱えていた五歳児のぷりぷりの尻が発光する!



 「なっ!? なんだ!?」



 俺の左目に浮かぶ数字の羅列がこの発光体に凄まじい魔力数値を見せ、それがなおも上昇していく!



 「ちょっ! ま"っでおまっ!!!」



 風圧の所為でまともに口が聞けない!



 そこうしている間にも魔力は上昇し、地面が迫る!



 「コージ! 赤ちゃん!!」


 

 俺の首にがしっと腕が巻きつく、どうやら空中で離れていたガリィちゃんが俺を捕まえたらしいけど_____グエッ!!




 まって!


 マジでっ! 首っ! 首きまってるって! 息できなっ!!!



 地面とかもうちょいなんですけど!? 



 幸か不幸か、ガリィちゃんがしがみ付いたお陰で錐揉み状態が安定したとは言え絞まる首と迫る地面に変更は無い!



 俺にはもはや成す術無く重力に身を任せるしか無いのかと、一瞬覚悟を決めたその時だった。

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