鍍金の賢者⑨

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 ああ、愛しい愛しい小山田くん。


 早く会いたいなぁ…待ちきれないよ!


 許されるなら、今すぐ飛び出して抱き締めたい!


 …やだな~わかってる、しないよ…まだ『時』じゃない。


 けど、もう直ぐ『出逢う』。


 ああ…きっと、今回の君も傑作になれる。



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 眩しい光を遮って振り向いたコージは、凄く怖い顔でガリィの事見てる。



 「何だソレ? 俺、逃げろって言ったよな…聞こえなかったとは言わせねーよ…?」


 いつもよりうんと低い声…それだけじゃない、頭に流れ込んでくる…うわぁぁ…!

 


 どうしょう!


   どうしょう! 


 コージ、とっても怒ってる!


 「ぅぅぅ…だって…だって…」


 「あ"? だってもヘチマもあるか! こんな…こんな目に…くそっ!」


 コージは、シッポが潰れちっやって立てないガリィの事ぎゅーってして…あれ?


 コージ、泣いてるの?


 「コージ? どうしたの? 痛いのコージの所にも行っちゃっ_____!?」



 ぞわっ。



 冷たい。



 すっごく冷たいのが、背中をぞわぞわ走ってく!



 許サナイ。


   コロス。


  コンナ世界滅べバイイ。

  


 「こっ、コージ…?」



 冷たいぞわぞわは、コージから流れ込んでくる!



 グチャ!



 「うぎゃっ!?」 



 いきなりコージが、潰れちやって少ししか残ってないガリィのシッポをぎゅっと掴む!


 「に"ぁぁっ!? 痛い! 痛いよ! コージぃ…」


 放してって、言ったけどコージは何かブツブツ言ってて全然放してくれない!


 「おやおや、あの檻から抜け出せたのか? たいしたものだ」


 いつの間にか光が終わってて、あの大司教って奴がニコニコしてる。


 アイツ…一体なんだ?


 壊したのに治る…あんなのどうやって倒せばいい?



 「ガリィちゃん」



 コージの優しい声がガリィを呼んで、ぎゅってしてたしっぽふわってする。



 「…止血と神経系統、応急だけどバランスの調整した…」


 そう言うと、ガリィをぎゅってしてたコージが離れてく。

 

 「ダメ! ダメだよ、コージ!」


 すぐに捕まえ様としたけど、上手く立てなくてガリィは転んじゃう!


 「愚かな…」


 大司教が軽く手を振るとあの子が、吼えながら太いシッポをコージ目掛けて振り下ろす!


 ダメ! 今 コージ に!



 バツン!



 あの子が、悲鳴を上げる。

 

 コージを叩き潰そうとしたあの子シッポが、根元から『消えた』?


 血とか出てないけど凄く痛いみたい。

 

 「なっ! 貴様!」


 「コード:102338 203445 66238」


 

 コージが呪文見たいの唱えると、コージの立ってる地面に皹がいっぱい入って黒いのがたくさん吹き出した!


 なにコレ? 鼻がもげそうなくらい臭い!




 コロス。


    コロス。


 コロス。


 

 頭の中に流れてくるコージの『声』。


 それに併せて、臭くて黒いドロドロが渦を巻く!


 「俺のモンに傷付けやがって…生まれて来た事を後悔させてやんよ…」


 コージが手を振ると、ドロドロの渦が一気に増えてあの子を巻き込んで大司教に襲いかかった!


 「ふっ、何かと思えばそのて…なに!?」


 大司教は防御魔法で防ごうとした筈、けど、コージの浴びせかけた黒いドロドロはそんなの関係ないみたいで魔力の壁をすり抜けてあの子も大司教も頭の先から真っ黒に!


 しかも、すっごく粘つくみたいであの子は目も開けられない!


 「なっ、何だコレは!! 何故…ゲホッゲホッ!」


 「はっ! この世界の連中は馬鹿ばっか…いや、『低脳』か」


 コージは、そういって更にドロドロを浴びせる。


 「ぐっ! この臭いは…!」


 大司教は、コージを睨んでじりじり後に下がりはじめた。


 「へぇ、コレが何か気がついたんだ~けど、もう遅ぇよ!!」


 コージの口がいつもの数字を唱えると、回りに拳くらいの火の玉がいっぱい…凄い!


 魔力なんて全然感じないのに!



 「燃えろ」



 コージが指差すと、いっぱいの火の玉が大司教とあの子目掛けて飛んで行く!


 「待って、コージ! やめて!」



 ボボボボボボボボボボボボ!!!



 「ぐあああああああああああ!!!」 



 グオオオオォォオォォォォオォ!



 火の玉は、魔力の壁なんてすり抜けてあの子と大司教に触れた瞬間一気に燃え上がった!


 何コレ?


 普通の燃え方じゃない!


 あの黒いドロドロが凄いきおいで燃えているんだ! 




 大司教の肉の焼け焦げる臭い。


 あの子の鱗の焼ける臭い。



 「な゛ぜだ! な゛ぜぎえ゛な゛っ ガアアア!!」



 大司教肌は焼け焦げては戻って、また焼け焦げあの子も悲鳴を上げてのたうつ。



 「ひっ、酷い…!」


 「ぷははw  マジで再生? あ、『巻き戻し』てんの? テラワロスwwww」



 体中を炎に包まれてもがき苦しむあの子と大司教を見て、コージが楽しそうに笑ってる。



 「コージ! もう止めて! 可哀想だよ!」


 ガリィは、急いで地面を這ってコージの脚に抱きついてお願いする!



 「お願い! 火を止めて! あの子は悪い子違うの! 大司教が何かしたからああなったの! それに、大司教はリーフベルのお兄ちゃんだ! コロスはダメだよ!」




 ぽすん。



 コージの手がガリィの頭に乗って、いつもみたいに耳の後ろをコショコショする…うん、ガリィそれ好きだけど今ちがう!



 「コージっ! やめ !?」



 2人が燃えてるのをニコニコしながら見てたコージが、いきなりガリィのおでこガシッてして『ヤダね』と言った。



 「な゛っなん!?」


 「あの聖霊獣は、脳が激く損傷して自我が完全に破壊されてる…生かして置いても暴れ回るだけだ」


 「? のう? なにそれ? 壊れちゃってるのコージなら治せるでしょう? ガリィの事治したみたく!」

 


 けど、コージは首を振って『無理だ』って…壊れ方が違うって…。


 「でも、でも…あっ」 


 体の力が抜ける…ぎゅってしてたのにコージの脚を捕まえてられない!


 「コージ…なにしたの?」


 「…」


 コージは何も喋らないでじっとして___ポタッ。


 血の臭い?


 「…へ? コージ?」


 「ぢ ょと 借り る ぁっヤバい…ふっククク…あははははは」



 ぞわっ。



 コージの目が片方だけお兄ちゃんと同じ色になって、けどっ白目のとこ真っ赤でそこから血が流れて泣いてるみたく見える…けど!



 ぞわっ。



 「あ~何ソレw かーいーのーw」



 ケタケタ笑ったコージが、ガリィの口をベロンてする。



 コワい!


 コレ、この前の恐いコージだ!



 グオオオオォォオォォォォオォ!!



 「ちっ…!」


 こんどは、ガリィの耳をかじろうとしてたコージが叫び声の方を振り返る。



 「このの女神ののい"っ愛し仔が、貴様のようななな"!!」


 「わー引くw 何ソレ? 融合してパワーアップとかw 今日日の戦隊ものを見習えよ!」



 あの子が、あの子だった物が雄叫びをあげて羽根を広げて舞い上がる!



 「グオオオオォォオォ!!!」



 空に舞い上がった白い化け物司教は、未だ消えない炎を鱗ごと引きはぐ!



 「うはっw 痛そw」


 「ギザま"ぁ"!!」



 化け物司教は、白い翼を広げて魔力を集中させる。



 ボコッ!

   ボコッ!


 すると、周りにあった木とか岩なんかが空中に浮いてグルグル化け物司教の周りに渦を巻ながら集まり始めた!



 「ヴぁお"…じね"虫けらガァァァァァァァァァァァァ!!!」



 あの子だった龍の顔が醜く歪んで、咆哮をあげて空を埋め尽くすくらいに集まってきた木が岩がピタッて動きを止めて狙いをさだめる!


 ちっ! アイツ、コージにあれ全部ぶつける気だ!

 


 「コージ! 逃げて! つぶれちゃうよぉ!」



 カチャ。



 コージがいつも顔につけてるキラキラしたやつを取って、ガリィの着てるコージの黒い上着の胸のポケットから小さな箱を取り出して中に入れてガリィに渡す。



 「コレ 預かってて、親父のやつなんだ」


 

 にっこり笑ってガリィの事を撫でてるコージ目掛けて、空から木や岩が降ってきた!



 「コージ!!」


 

 ゴガッ!

  ドゴン!

  

 ドゴォォォォォォォン!



 空から降り注ぐ木や岩が、そこらじゅうに落ちて地面に突き刺さる!



 

 「頼んだぞお前ら」


 「え…?」



 コージとガリィの間に光の玉?



 ゴッ!




 降って来た大きな岩が、ガリィとコージに直撃したけど岩はガリィの目の前で砕け散った!



 魔力の障壁?


 光の玉が波打って、ガリィの事を包み込むように魔力で覆ってる。



 「あれ? コージ…どこ!?」


 

 さっきまで目の前にいたコージがいない! そんな! ぺっちゃんこになちゃったの???



 「グオオオオオオオオオオオオ!!」


 

 空から響く咆哮。



 ビチャ!


 

 「ぇ ?」


 

 血の雨。


 引き剥がされた羽根が、びちゃびちゃ降って来る!



 コー…ジ? 



 空の上で、でたらめに飛び回る化け物司教に取り付いたコージが呻り声を上げて羽根をむしって剥げた鱗から見える肉をえぐって…。



 あれって…そんな! どうしてコージが!?



 バツン!



 肉の爆ぜる音がして、化け物司教の翼が根元から消し飛び遂に空から落ちてくる!


 

 『アア、王ヨ…』



 突然、声がして波打っていた光の玉がぱんって弾けてうすい羽をパタパタさせた銀色のふあふあ髪に銀の目の小さな女の子が出てきた!


 なんだか、チビをもっとチビにしたみたいだ…。



 『間ニ合ワナカッタ…セメテ、セメテ、アノ方ダケハ守ラナクテハ…!』



 小さなチビは、空を見上げて羽根を振るわせる。



             ◆◆◆



 ドガゴオオオオオオオオオオオオオオン……!



 血まみれになった化け物司教が、落ちて衝撃で地面がえぐれて舞い上がった土とか砂埃の嵐で辺りが見えなくなる!

 


 「コージぃぃぃ!!!」



 ガリィはすぐにコージのところに行こうとしたけど______ダン!



 「出せ! ここから出せ! コージのところに行かなきゃ!」


 『ソレハ出来ナイ』



 小さいチビの張った障壁が邪魔する!


 けど、こんなの簡単に吹き飛ばせんるんだから!



 「…え?」



 魔力で弾き飛ばそうとしたのに、どうして? なんで?



 「魔力…でない!?」


 何度集中しても、ダメだ!


 魔力が集まらない!


 

 『無駄ダ、今ノオ前ハ魔力ハ愚カ狂戦士トシテノ力モ使エマイ』


 「そんな! なんで…あっ…!」



 コージだ…さっきの…言ってた『借りる』って…!


 それって、ガリィの魔力を使うって事だったんだ…だから弱くて脆いコージにあんな事が出来たんだ!



 砂埃が風に吹かれてようやく辺りが見えてきて、ガリィの目にも地面にめり込んだ化け物司教の影が見えてきた。



 「コージ! 大丈夫…______!?」



 ピクリとも動かない大きな龍の姿をした化け物司教の上に立つ人影。


 黒いズボンに白いシャツ黒い髪の男の子。


 いつもニコニコして、ガリィの事撫でてだっこしてくれてたまに凄く恐いけどいつもはすっごく優しいガリィのお兄ちゃん。


 脆くて弱いけど、いつでもガリィの事を守ってくれる…ホントのお兄ちゃんじゃないけど死んじゃったレンブランお兄ちゃんと同じくらいガリィはコージが大好き。


 だから、ガリィ、コージとコージが大事にしているモノを守ると決めたの!


 なのに! なのに!



 「コポッ」



 ふらふらしてるコージの口から血が吹き出て、拭おうとした腕がぶらんっておかしな方向に曲がってよく見たら目からも鼻からも血が流れて白かったシャツも真っ赤。


 

 コージは、左の目の緑を囲む白目を真っ黒にしてぶらんってなった腕をみてケタケタ笑ってそれから無事な方の手を足元の化け物司教にむける。



 「あー受けるw お前もう死ねよw」



 コージが数字を唱え______ブツン!



 「あ"?」



 化け物司教に向けてたコージの手が、カクンって上に跳ね上がる!



 「…いてぇな…なにすんだよ?」



 右手の掌に突き刺さった矢。


 コージは、それに噛み付いて乱暴に引っこ抜きながらそれを放った相手をじろりと見た。



 「ごめんなさいオヤマダさん…コレでも…こんな人でも私のたった一人の兄なんです…!」



 ガリィの直ぐ後ろから、とてもキレイな声が悲しそうに言う。



 振り向くといつからそこにいたのかリーフベルが立っていて、その手には黒い弓が握られている。



 ギギギリリッ…!



 「リーフベル! 何するんだ! やめて!」



 ガリィが言うけど、リーフベルは無言で次の矢を弓につがえてコージに向ける!



 「オヤマダさん、兄から離れて下さい…さもなければ次は頭を狙います!」



 「へぇ…俺を殺そうっての? 何ソレw 受け…かはっ!?」



 コージが、突然苦しそうに自分の喉を押さえて化け物司教の背中で膝をつく!



 「コージ! コージ! おい! チビチビ! ガリィを出してよ! コージが、コージがっ!!」



 苦しそうなコージの様子に、弓を下ろしたリーフベルが『私がいきます』と言って一歩前に出ようと______ガキィン!



 「!?」



 その瞬間、リーフベルの目の前擦れ擦れの地面に大剣が突き刺さり何かを弾き返した!



 「これはっ…」



 「下がりな!」



 ガリィとリーフベルの後ろから、赤ちゃんを抱いたチビと真っ青な顔をしたカランカが息を切らせて必死の形相でこっちを見てる。


 

 「下がるれち狂戦士! 今のオヤマダしゃんは危険れちぃ!」



 駆け寄ってきたチビが、泣きそうな顔でガリィの上着の裾を引っ張ってきた。


 「なに…?」


 「気付かないれいちか!? 今、オヤマダしゃんとあんしゃん感覚切れてまちよ!? 暴走しまち、狂戦士の力を扱おう何てオヤマダしゃんの脆い肉体じゃ無理があったんれち!」



 チビに言われてようやく気付いた…感じない、『なか』にいつも感じるコージを今は全然感じない。



 コージ、切ったんだ。


 ガリィに痛いの苦しいの届かないように…。



 「うっ くっ…あああっ!」



 コージが苦しそうに喘いで、化け物司教の背中から地面に転がり落ちる!



 「こーじっ!!」



 「ガディアンシールド!」


 

 直ぐ傍にいたリーフベルが、間髪いれず皆を守るように魔法障壁を張った!




 「あれ…はは、やべぇ…とまんない にげ ろ がりぃ…」



 コージの中に魔力の渦が見える…それが膨れて体から漏れ出してる!


 


 ガキィン



 張ったシールドに魔力が当るとそれだけで、全体にビキビキと皹が入る!



 「っ…」


 「リーフベル! きっ狂戦士あんしゃんちょっと勇者をたのむれち!」


 

 チビが、抱いていた赤ちゃんをガリィに渡してリーフベルの壊れそうなシールドに魔力を流して修復してその間にもガンガン魔力の塊ががぶつかってすぐに欠けていく!



 「っつ…なんて力…」


 「こりでも『魔力』をただ飛ばしてるものだからましれち! まだ、まだ、防げまち…!」 



 ダメだ…! チビとリーフベル二人掛りでもきっと_____。



 「ああ、長くはもたないね」


 真っ青な顔をしたカランカが、地面に刺さった大剣をぬく。



 「ガラリア、あんたには悪いがここであの男には死んでもらう」


  

 カランカは、ギラリと光る大剣を垂直に構えてその切先をコージのほうに向けた!



 「え!? 何言ってんだ!」



 手を伸ばして、すぐにカランカを捕まえようとしたけどチビチビの作った魔法の障壁が急に分厚くなってガリィの事くるんって包み込んじゃう!



 「やめろ! コージになにかしてみろ! ガリィが許さないんだから!」


 

 カランカは、無言のままコージの体から飛び出す魔力の塊を見てじりじりと間合いを計る!



 「ねえ! お願い、ここから出して! コージが、コージが殺されちゃうよぉ!!」



 チビチビにお願いするけど、『スマナイ』と言って下を向いてしまう。



 どうして…。


 何が狂戦士だ、何が世界を滅ぼす力だ…ガリィはここの誰よりも強い筈なのに…なにも出来ないの?


 このままコージが死ぬの見てるだけなの?


 ズキンと潰れた尻尾が痛む…ヤダ…やだよぉ…お兄ちゃんみたいにコージがいなくなるなんて…!



 「まんま…?」



 だっこしてた赤ちゃんが不思議そうにガリィを見上げて小さな手で、涙で濡れた頬をさわる。



 「あ"っ赤ちゃ…どうしようっコージが殺されちゃう…!」



 ぼんやりしてる赤ちゃんの手にガリィの涙が伝っていく…。



 「うう? まんま たいたいの? こっじ? ううう?」


 

 小さな手がガリィの涙を止めようとぺたぺた頬をなでて、うるうると涙を浮かべてあうあう口をうごかす。



 ジャリッ!



 カランカが、大剣を構えて地面を蹴ってコージに向って一直線に奔る!



 「やめろーーーーーーーーー!」



 あっという間。


 カランカは、漏れ出す魔力の塊を避けて垂直に構えた大剣をふらふらと立ち上あがるコージの首めがけて突き出す!



 溢れてた魔力がとまる。


 コージを隠すように背中を向けるカランカはピクリともうごかない…そんな…やだ…こー_____。



 「かはっ…?」


 

 突然、カランカが膝ついて片方の手を大剣から放して自分の脇腹に触れその指の隙間からポタッポタッと血が流れる。



 「カランカぁ!!!」


 リーフベルが叫んで、カランカに向って地面から召喚した木の根っこを絡ませてコージから引き離す!



 「うぐっ!」


 「動かないで!」


 

 裂けたわき腹に、リーフベルが素早く治癒魔法をかけたからすぐに傷は塞がってく…。



 コージ…コージがやったの…?



 砂埃が風に吹かれて、そこにはピクリとも動かない化け物司教を背にコージが立ってる…ふらふらしてるし腕の骨も無茶苦茶だし血まみれだけどちゃんと首はついてる!



 けど、けど…。



 「な…なにが起こってまちか…ありはホントにオヤマダしゃんれちか?」


 

 チビが言う。



 チビが言うのも無理はない、今そこで立ってるそれはさっきまでコージだったのに全然コージを感じない。



 まるで、空っぽの人形みたい…。



 ぎゅっ。



 赤ちゃんが、ガリィの着てる上着のボタンをぎゅってしてコージをじっとみた。



 「赤ちゃん?」



 ぞっく。


 

 突然、ガリィの背中が冷たくなって潰れちゃったしっぽまでざわざわする!




 や…なに…?



 風? ううん、違う!


 うな垂れてふらふらしてるコージの周りに集まる、魔力のような強い力。



「なにあれ? コージ…?」



 コージがカクンって、まるで糸のついた人形みたいに顔を上げてこっちをみたんだけどやっぱり様子がおかしい!



 「ラグナロクコード:10101222 32106650 7851126441 1367…」



 コージが、まるで機械みたいに数字を唱え始める。



 『クッ! ヤハリ諸刃ノ剣ダッタカ!』



 ガリィの事を魔力で閉じ込めているチビチビが、苦々しく言うとガリィの周りを包んでいた厚い魔力の壁が弾けた!



 「うわ! なんれちか!? あんしゃんたち??」



 突然、チビがびっくりしたような声を上げる。


 振り向くと、いろんな色の光の玉…ちがう!


 良く見たら、チビチビくらいの大きさのがいっぱい集まってぐるぐる渦を作ってガリィ達をすっぽり覆う!



 『皆ノ者! 出来ウル限リ遠クヘ!』



 チビチビがそう叫ぶと、いっぱいのチビチビ達が一斉に光り出す!


 

 「てっ転移するつもりれちか!? 待つれち! 得体の知れないエネルギーが集まってまち、オヤマダしゃんをこのままにしたらたびん、たびんれちが精霊の国は只ではすまんれちよ!」



 チビチビが、銀色の目でチビをみる。



 『王ヲ失エバ同ジ事…ダカラ我々ハアナタ様ヲ失ウ訳ニハイカナイノデス』



 「ふぇ?」



 チビが何の事か分からないって、チビチビに言うけどガリィそんなのどうでもいい!



 コージ…!



 コージはこっちをぼーっとした目で見ながら口だけがすごいスピードで数字を唱えて______ビキビキビキビキ!



 バグッで音がして、コージの立ってる地面が割れてボコボコ盛り上がって上に上に押し上げられる!



 「ぁ やぁ…コージっ…!」


 

 コージが。


 コージが遠くに行っちゃう、追いかけなきゃ…なのに、なのに!!



 「うぁっ!?」



 ダメだ…赤ちゃんを地面においても立つのがやっと! こんなんじゃ飛べない…!



 「まんま!」



 地面におすわりしてた赤ちゃんが、ガリイの足にぎゅってした!



 「あっ! まって! 今そんなしたら上手く立て________」



 


 『ぼくをコージの所へ』



 

 「へ?」



 赤ちゃんの小さなおててからチリチリとした感覚と____『声』。



 「あ 赤ちゃん?」


 赤ちゃんは目にいっぱい涙を溜めて、じっとガリィを見てる。 



 「こっじ バイバイ め! まんまぁ! こっじのとこ く!」



 あしにしがみ付いて、赤ちゃんが必死に言う。


 

 「赤ちゃん…赤ちゃんならコージを助けられるの?」


 「ん!」



 赤ちゃんは、うるうるの目をキッてして頷く。



 「…わかった」



 こんなの上手くか分からないけど、今のガリィでも赤ちゃんだけならコージ所まで『届けられる』!

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