俺の嫁は狂戦士④


 アクセス…数値の書き換え完了。




 再起動。




 『ガリィちゃん、おはよ』




 「ん…コージ…? はっ!?」




 ガツン




 「うに"ゃぁ!?」



 ガリィちゃんは、涙目で額を押さえ窓を突き破り外の通りまでぶっ飛んだ兄の友人を目の当たりにする。




 「起抜けヘッドバッテング…嗚呼、王道がここに…」




 多分、八百屋と思われる露天で野菜? に埋もれながら喘ぐ俺。



 ガリィちゃんのメンテの為、額に手を触れたまま顔を覗き込んでたら急に起き上がられ額と額がバッティング。



 …嗚呼…コレがラブコメならば笑って『こいつぅw』とか言えんだろうが、どんなに可愛くても相手は世界を破壊しうる潜在能力を有する狂戦士。



 かなり制限をかけているとは言え、一般の男子中学生が無事であるわけが無い。



 『にぎゃぁぁ! コージ!!』と、叫びながら俺の全裸なけも耳Be My Angelが砕け散った窓を飛び越え駆けて来る。


 


 「ごめんなさい! ごめんなさい!」



 「が ガリィちゃん、胸っ…当ってる当ってるから…! いやいいんだけども! 服着て俺の上着あったでしょっ…!」



 生乳が!


 抱きしめられて生乳がむにって!!


 ええ天国てすよ!



 でも、出来れば野菜の汁と額からの流れる血まみれでなくこんなにギャラリーの多くないところが良かった!



 現在、行き成り露天につっ込んだ俺と全裸で泣きじゃくるガリィちゃんを恐らくこの村の住人たちと思われる獣人系の皆様と駐屯中の兵士と思しき銀色の鎧を着用した多種多様な種族の方々が野次馬と化して俺達を無言で凝視する。



 おふぅ…なにこの状況…誰か、誰かつっ込んでくれ!



 「何事だい!?」



 ああ、天の助けか…その頼りがいのある凛とした声に野次馬の群れがさっと引く。




 「なにやってんだい? あんた?」



 この場の救世主であるカランカは、全裸の狂戦士に抱えられる血まみれの俺に眉を顰める。



 うん、俺もそう思う!



 パリッ・・・



 チリチリと静電気のような物を感じて見上げると、カランカを見たガリィちゃんが『フーッ!』っとまるで猫みたいに警戒して少し毛を逆立ていた。



 カランカは、『チッ』と舌打をして背中の大剣に手をかける。



 ソレを見た烏合の衆が悲鳴をあげ、その場から雲の子を散らすように避難した!




 「あ、こら…! 『待て』」



 俺が、そう言うとアレほどまでに逆立っていた髪の毛がフシュンと音を立ててふわりとはだけた。



 「ふう!?」



 ガリィちゃんは、突然抜ける魔力に目を丸くする。



 カランカは、ガリィちゃんから魔力が抜けたのを見て背中の大剣から手を離しうでを組んで俺達を訝しげに見下ろした。



 …ご両人、何かしら引っかかる気持ちはわかるが早く此処から移動しないといつまでも変化のない事に避難してた野次馬どもが又もや興味を持ち出しわらわら集まってくっから!








 「ごめんねコージ、大丈夫?」



 ベッドに寝かされ、血の噴出す額にギュっとタオルを押し当てながらガリィちゃんがうるうる詫びる。


 先ほど、窓を突き破りだいぶ風通しの良くなったベッドが一つあるだけで大分手狭に見える部屋に俺、ガリィちゃん、カランカまで入ると本当に狭い。




 「黒髪の男」


 


 ラブリーなヘッドバッティングにより、軽い脳震盪を起す俺にカランカが容赦なく話しかける。




 「俺の名前は、小山田浩二だっ…」



 頭痛のする頭を揺らして起き上がり、相変わらず腕を組み壁にもたれるカランカを見る。




 「分かった…オヤマダ、アンタには前にも言った通り勇者の従者として魔王討伐に参加してもらう!」



 「ふざけんな」



 俺は、身構えようとしたガリィちゃんを手で制して間髪入れず言い返す。




 「…協力するなら、少なくともあたしゃその狂戦士のは手を出さない…なんなら守ってやってもいい」



 まさかのカランカの申し出に、俺は眉を顰める。




 「…信じろって? 無理だろ?」



 このカランカや、リーフベル、メイヤは女神の啓示を受けた勇者を守る盾でありそれぞれがその聖なる力とやらの『鍵』としての役割を担っている…。



 つまり、そんな奴等が勇者のエネルギーの材料となる狂戦士であるガリィちゃんを生かすなんて事はしないしましてや守るなんてありえ______。




 「どっどうしたの!? 痛むの!?」



 不意に左目が熱くなり、思わず手で押さえた俺にガリィちゃんが叫び声を上げる。



 

 「_______大丈夫だ…」



 熱の引いた左目が、カランカを凝視する。



 マジかよ_______レンブラン?





 俺は、『キオク』のかたる何ともいいがたい真実を何とか噛み砕く。



 コレは、使える…だが_______。




 「_____考えさせてくれ」



 「コージ!?」





 「…選択の余地なんてお前さん達に無いと思うけどねぇ______まぁ、いいさ」



 カランカは寄り掛かっていた壁から離れ、ベッドに座る俺を見下ろす。



 狭い部屋で、踵の高いデザインのオリハルコンのブーツの所為か2mを超えてそうな長身のカランカは姉御オーラも手伝って威圧感が半端ない。



 

 「もう直ぐリーフベルが勇者を連れて来る。 食事も運ばせよう…その怪我と不安定な狂戦士を連れて逃げようだなんて滅多なこと考えんじゃないよ」



 それだけ言い残すと、カランカは部屋から出て行った。




 「コージ! なんで!?」



 カランカの足音が遠のいたのを見計らって、ガリィちゃんが俺に詰め寄る!



 「…今は、赤ん坊と合流するのが先決だ…それに_____」



 俺は言葉に詰まった。


 果たしてこの真実をガリィちゃんに伝えるべきだろうか?


 いや…伝えた所で『現在』とは何の関係も無い…ただ。




 「何? なんなの?」



 ぎゅるるるうるるるうるるるる~~。



 突如、主張を控えていた胃袋が悲鳴を上げた。




 「「あ」」




 俺の襟首を掴んでいたガリィちゃんが、『そうだよね、コージお腹すいてたもんね』っと言って俺を解放する。



 どうやら、さっきの発言は食料調達の為の作戦として見なされたらしい。



 「ごめんな、肩とかは一応自分で治療したんだけどさ俺ってなおり遅いしもう少し此処にいた方が得策なんだよ」



 勘違いついでに、適当に補足してガリィちゃんの理解を仰ぐ。



 実際、ノーム兄妹から受けた傷はまだ癒えてないが回復を待っていたらいつまで経っても此処から逃げ出せないだろう。


 

 あああ、俺って絶対この世界に向いてない!



 マジでなんとかしないと、いつか死ぬ!



 どうしよ__________。




 ふと、『キオク』がある場所の存在をしめした。



 ああ、そうだ…あそこ…あそこに行く事が出来ればもしかしたら_____・




 がちゃ



 その時、唐突にドアが開き赤ん坊を抱いたリーフベルとなにやらワゴンのようなものを押すメイヤがずかずかと部屋の中に入ってきた。



 

 モグッ ズズッ ムシャ ゴクッ


   ガツガツ クチャクチャ ゴクゴク……



 「ふぁ~」



 「品の無いやつれち…」


 「…」


 「あーうー!」


 

 ベッドの上で飯を貪る俺を、女子三名がポカンと見つめる。


 この世界の住人がどの位食べるのかは良く分からないが、俺の世界の基準で言ったらさっきお代わりを要求したのでゆうに50人分くらいの食材を食した事になる。



 ガリッ



 最初はちゃんとした料理だったのだが、俺があっという間に食ったため遂には調理が間に合わず野菜や果物が皮をむくことさえされずにベッドに転がされ始めた。


 確かに、この食いっぷりは自分でも引くくらいだがしょうがないだろ?


 多分、いま胃に詰め込んでいるこのカロリーだってそこでリーフベルに抱かれている飢えた獣に全部吸い尽くされる予定なんだから!



 リーフベルに抱かれた赤ん坊は、幼さに似合わない殺気だった視線で『よこせ! よこせ!』と手をばたつかせる。




 くっ! 早く乳離れ? させないと俺の身が持たない!



 「コレ、あともう二つ」



 ワゴン単位で俺が要求すると、メイヤが引きつった表情で叫ぶ!



 「もう、食材がモゲロ粉しかないれち!」



 「メイヤ、村の方に食料を分けてもらいましょう」



 リーフベルが諭すように指示をすると、ふあふあの銀髪を不機嫌そうに揺らしながらメイヤは部屋を出て行った。


 

 ゴクゴクゴク…



 俺は、ガリィちゃんが差し出したコップの水を飲み干しながら此方をじっと凝視するエルフの僧侶をみやる。



 美しく伸びた艶のある緑の髪をポニーテールにまとめ少し興奮しているのか、色白の透明な肌が少し高揚する…綺麗だ。



 それに加え、ゆったりとしたローブを身に着けているにも関らずその男を虜にする胸が白い布の下から自己主張している…アレは一体なにカップあるんだろう?



 俺的には約2週間ぶりの再会とは言え、3年とは女をここまで成長させるものなのか…正に神秘だ。






 「あーうー!まんまー!!!」




 嗚呼、飢えたラブリーな獣がなんか言っているぅ…。



 俺が食事の手を止めたのを見計らって、リーフベルの腕のに抱かれていた赤ん坊が激しく手足をばたつかせる。



 「あっ! 勇者様っ!」



 「ゲフッ…かせよ」



 両手を広げて見せると、赤ん坊がリーフベルの豊満な胸を足蹴ににしてまな板な俺の胸に飛び込んできた。



 …こいつ!


 極上の谷間になんたる仕打ち!



 価値がわかるようになったら絶対後悔するぞ!



 「まんまんんんんーーー!」



 Yシャツにしがみ付いた赤ん坊は、空腹で堪らないとよじよじと俺の顔目掛けて接近しまるで噛み付くように唇に吸い付いてくる。



 ああ…も、ヤダこれ。



 もう、公開ディープキスとか手馴れたもんで羞恥心なんて麻痺したけど折角摂取したカロリーが根こそぎ持ってかれる感覚は慣れそうに無い。



 あーもーまた腹減るよぉ~…。



 発光していた赤ん坊から光が消えると同時に、俺はプールから上がった直後のあの体の重いような疲労とまたしても空腹に襲われた。




 はぁ…取り合えずこれで…ん?




 ちゅちゅぺちゃぺちゃ



 「おっ めっ! いつまでっ…うぶっ!?」



 食事は終わった筈なのに、いつまでも口腔内を貪り続ける赤ん坊を無理に引っぺがそうとしたが舌に咬みつかれてどうしょうも無くなる。




 「ヘルプッ!」



 俺は、この勇者の従者である僧侶リーフベルに助けを請う為瞬きで合図を送るが_________。




 「あああ…いい…あ、いえ! 後5年…いえ乳児攻めも…み な ぎっ て き た!!!」



 リーフベルは、俺と赤ん坊の痴態に顔を目を潤ませながら顔を上気させ大量の鼻血を拭う事もせず白いローブを汚し薄気味悪い笑い声を上げなに何やら手帳のようなものに高速で羽ペンを走らせている。




 「ドゥフフフフ…フヒィッ…」


 


 その異様な光景に、狂戦士であるガリィちゃんも耳を畳んで後ずさる。



 なんてこった!



 コレはもう、『腐女子』なんて物では到底表現出来ない!


 

 俺はあの日、とんでもない化け物を作ってしまったようだ。


 


 元の世界じゃ漫画研究会なんて部活に所属していて、腐女子どもには一定に理解がある俺だが自分を使用した『乳児攻め』なる特殊ジャンルで妄想を走らせるエルフに戦々恐々としていると突如部屋の扉がガンガンと乱暴に叩かれた。



 「ほっ! 報告!!!」



 それは、焦ったような男の声でなにやら緊急そうだったがリーフベルは今絶賛乳児攻めの妄想中でその声が耳に届いてないようだ。



 「じゅぼっ! おい! だれか来てるぞ?」



 俺はようやく赤ん坊を引っぺがし、鼻血まみれの美しいエルフに声をかけるがいぜん夢の世界から戻ってはこない!




 「報告ーーーーーーーーーー!」



 なんだかドアの向こうの人が可哀想になってきた。




 「…ゴホン…なっなんだ? どうした?」



 俺は、出来るだけ高い声でドアの向こうの人物に答えてみる。



 幸いまだ声変わりをむかえていないので、その気になれば女の声に聞こえなくも無い。




 「はい! 魔物です! 先ほどの地震でできた地表の割れ目から魔物が出現しました!」



 若干俺の声に違和感を覚えたようだが、ドアの向こうの声は慌てたように____って! 魔物!?




 「お急ぎ下さい! 今、カランカ様とメイヤ様が交戦中ですがあまりにも巨大でこのままではこの村全体が取り込まれます!」



 村全体!? なにそれ? やばくない!?



 男の声は、そこで切れる。



 どうやら返答を待っているっぽい。



 「わっ分かった! さっ先に行っててくれ…直ぐすぐいく!」



 その言葉を聞いて、ドアの向こうの声は『はっ!』と多分敬礼でもして足早に立ち去っていく。



 「コージ…!」



 村が取り込まれるなんて物騒な事を聞いたガリィちゃんが、俺のほうを不安気に見つめる。



 ガリィちゃんやレンブランにとって、いくら良い思いではないといっても『故郷』に違いない…それなりに思うところがあるのだろう…どうしていいか分からないといった金色の瞳が小さな子供のように俺を頼る。



 そうだな、取り合えず。



 俺は。ベッドに転がっていた赤い実を齧る。




 「おい! そこの腐女子! いい加減戻って来い!」 



 齧った実を投げつけると、それが頭にクリーンヒットしたリーフベルが『ぎゃん!』と声を上げてようやく夢の国から戻ってきた。





------------------------------




 村を守るため迫り来るソレに対峙する、人影二人。



 「地龍斬!」

 

 「不浄なる者よりわが身を守れ!精霊の盾:フェアリア・ウォール!!」


 

 岩の牙が地面を削り、透明なシールドが逃げ惑う兵士や村の住人たちにこれ以上の被害を与えないように張り巡らされた!



 

 ごぼぼぼぼぼぼぼぼぐじゅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~。




 が、カランカの放った無数の岩の牙はそれに触れるとまるで溶けるように吸収されメイヤの張ったシールドはビキビキと亀裂が走る!




 「くそっ! メイヤ!」




 カランカは、斬激によって生じた地面から生えた15m程の岩の突起の上で体勢を立て直しながらシールドをギリギリの所で維持する小さな仲間を伺う。




 メイヤは、その小さな手を目いっぱい広げ苦悶の表情を浮かべ雪崩れ込んできたその魔物の全身を自分の魔力で張ったシールドのみで受け止めるがそれも限界に近い。


 もし、このシールドを突破されたら間違いないくこの村はこの魔物に飲み込まれるだろう。



 「一体こいつは何なんだい!」



 カランカは、眼下に広がる不気味な赤い液体を睨みつける。




 ゴポッ…ブポッ…




 赤い液体は、まるで意志でも持っているかのごとく蠢きメイヤの守る村へと迫りシールドにへばり付く!



 一見何処にでもいるようなスライムのような印象を受ける透明感のある赤いゲル状のそれは、兵士の報告によればその赤い液体は地震の発生した直後、村はずれの地割れから噴出したと言う。


そして、噴出すやいなやその量はとどまる事知らず遂にその規模はこの片田舎の村くらい平気で飲み込む位に肥大した・・・が、たかかがそれしきの事で勇者の従者である二人が出向いたわけではない。




 チチチチチ…



 蠢く赤いゲルの上を、宿り木をなくした白い鳥がすれすれに舞う。



 ゴボッ!



 それに反応するように、ゲルが伸び飛翔して避けようとする鳥を捕らえるが鳥はゲルに囚われながも飛翔を続け遂には空へ_____パシュン!



 逃れたと思った鳥は、その白い羽すら残さずまるで始めから存在などしていなかったみたいに跡形も無く"消えた"

 



 っち…化け物め!




 カランカは、湖のように眼下に広がる赤いゲルを忌々しげに睨んだ。 








 コレは、スライム何かじゃない_______。




 触れた物を文字通り『消滅』させる能力。



 こんな事は普通の魔物に出来る芸当ではないし、それにこの規模…こんなに巨大なスライムなんて聞いた事が無い!



 そして、何より自体を深刻にしているのはこの得体の知れない赤いゲルには原始的ではあるが意志があるという事____。




 ゴブッ ゴブッ…




 赤いゲルは、メイヤの張るシールドに波打ちまるで蛇が這うようにのぼり始める。



 その目的は、誰が見て明白。




 ______ハラガヘッタ_______奴は空腹なのだ。




 最初の被害者は、噴出したゲルをまともに被ってしまった哀れな兵士。


 体に違和感を覚えながらカランカに報告に来た巨人族の青年は、その目の前でまるで透けるように着用していらオリハルコンの装備を残し『消えた』。



 事態が飲み込めずパニックを起す兵士達を、食料を取りに戻ってきたメイヤと二人で落ち着かせ体勢を整えた時には既にあの赤いゲルは村の入り口まで迫っていた。



 もちろん、武器等の物理攻撃は無効。




 隊列を組み魔法攻撃を中心に応戦するが、それも全く効かずそれどころか大量に浴びせられた魔力を吸収されてしまい更にその体積を膨張させてしまう始末だ!



 苦肉の策で、メイヤがこの村をすっぽり覆うほどの巨大な魔力シールドを張り何とか赤いゲルの進入を防いでいるが余り長くは持たないだろう。



 

 カランカは、一人そのシールドの外からこの赤いゲルの弱点は無いかと探っているのだが…。




 「ふっ、アタシじゃ役不足ってことかぇ…?」



 この赤いゲルは、先ほどから繰り出す技は尽く吸収される場かりかカランカなど見向きもせず村を飲み込もうと波を立てながらシールドへ押し寄せる。

 


 



 屈辱。




 選ばれし勇者の従者にして『鍵』。


 そして何より一人の剣士として、相手に此処まで無視された事に打ち砕かれたプライド。




 「っ! アンタの相手はこのカランカ様だよ!!」



 構えた大剣に炎…いや、煉獄が宿る!




 「焼き尽くせ____極演……?」



 地獄の業火のように燃え盛る大剣を振り下ろそうとした時、カランカは視界の端に何かを捕らえた。




 「は? なっ!」


 

 カランカは、自分の目を疑った。



 その余りの愚行に、大剣に宿った煉獄が消失してしまうほどに狼狽する!



 この老人ばかりの過疎化の進んだ村クルメイラは、三年前あの黒髪の男ことオヤマダが勇者を奪い消息を絶った事から各国の王府で作る『世界連合』の決定により消えた勇者の捜索に当たるべく各国から派遣された兵の駐屯地として利用されている。


 しかも、幸か不幸かクルメイラはこの世界イズールを象徴する6つの大国の丁度中心に位置し各国ともこれほどにお互いを監視し合える好機は無いと兵と装備それに人口が増えることによる村の拡張及びインフラ整備が整えられ更には互いに他の国を見張る為村をグルリと囲む外壁は敵の侵入や内部からの思わぬ破壊に耐える事が出来る様に精霊の加護受けた"神木:マナ"と呼ばれる巨木が惜しげもなく使われもはや村や砦とは言いがたいほどその防御は高い。


 こんな予想だにしない規格外に大規模な特殊スライムもどきでも無い限り、それがゆらぐ事は無い…本来なら。




 パキィィィィィィン



 今、正にその揺らぐ事の無いはずの"神木の加護"とメイヤの張ったシールドが突如として砕け散った!




 「あの馬鹿が!!」



 恐らくその元凶と思われる黒い影を殺気に満ちた目で睨み、それと同時に消沈していた大剣に煉獄が戻りカランカは足場にしていた岩を蹴る!




 「焼き尽くせ____極演舞!」




 振り下ろされた大剣が、赤いゲルに触れると纏っていた煉獄が広範囲を一瞬にして蒸発させ青々とした地面を表すがそれは一瞬の事。



 直ぐに周りのゲルが集まり、まるで何事も無かったかのようにゴポゴポと蠢く。



 足場を無くしたカランカは、更に煉獄を放ちその反動で辛うじて大地に根を下ろす木に飛び込む!




 ゴボボボボボボボ…


 

 シールドが消えた事が分かるのか、先ほどまでゆっくりだった赤いゲルの流れが速くなる!




 オヤマダ! 一体何を考えてるんだい!!



 カランカは、飛び込んだ木の枝の隙間から村の様子を伺う。




 神木の加護が消え、シールドを失いゆっくりと大きなうねりとなって全てを飲み込もうとする透明な赤を村をぐるりと囲む巨木の外壁の天辺にたたずむ黒髪の少年がその左目の緑で見据えた。







------------------------------




 赤く透明な液体が、意志を持っているかの如くうねりまるで巨大な津波のように全ての防御を失った無防備の村にゴボゴボと不気味な音を立てながら押し寄せきた!




 「あんしゃん! 何するれちか!!!」



 小さな魔道士は、必死に張っていたシールドを含め神木の加護さえ打ち砕いた外壁の天辺にたたずむ少年の背中を睨みつける。



 「この村を囲うほどの規模の魔力なんて、直ぐには用意できんれち! 自分が何したか分かてるれちか!?」



 自分に背を向けたままの少年に、苛立ったメイヤはローブの懐から手投げようのナイフを取り出しその背中目掛けて投げつけようと振り上げた手が背後からガシッとつかまれた。




 「まって! メイヤ!」


 「放すれち! リーフベル!! この村はおしまいれち!」


 「それは…たぶん大丈夫よ…?」


 「なんれち! その語尾の『?』って!!」



 手を押さえ付けたまま視線をそらす僧侶のエルフに、メイヤはつっ込みをいれつつも何とかナイフを投げようと必死に抵抗する。



 「どうせ死ぬなら道ずれれちぃぃぃぃ!!」





 「おい、おまえ」




 メイヤは、不意にこえを掛けられヒュッと息を呑んだ。



 眼前には、金色の瞳に金色の髪の獣人の少女がそのぶかぶかの黒い上着の懐に『勇者』を抱いてまるでゴミでも見るような無機質な視線で自分を見下す。




 「い…いつの間に? 魔力の気配は無かったれち!」




 少女は、抱いていた『勇者』をメイヤに突き出す。



 「赤ちゃんは、おまえがみてろ。 ガリィ、コージのところへいく…それと」




 金色の目が、じろりとメイヤの背後でナイフを持った腕を掴んでいたリーフベルを見上げる。




 「コージが、言ってたことすぐにはじめろ」



 それだけ言い残すと、狂戦士と呼ばれた少女は地を蹴りあっと言う間に外壁の上に立つ少年の元へ向った。




 「ありが、狂戦士れちか?」



 抵抗する事をやめたメイヤの手を、リーフベルはそっと放す。




 「ええ、アレは狂戦士…いずれ」




 ___殺さなければならない_____






 



 赤い液体が、もう俺の眼前まで迫りゴボゴボと不気味に蠢く。




 「ブツブツ…010011100011011…11001…」



 もう少し…。



 「コージ!」



 スタッと、ガリィちゃんがまるで猫みたいに俺の直ぐ横の木の上に降り立ち視線は赤い液体を見据え着ている俺の学ランの上着越しにも分かるくらい体からパリパリと小さな稲妻を走らせる。



 今、俺達が立っているのはこの村をぐるりと囲む高さ約20m程はあるどっしりとした巨木の丸太で幅は大体学校の机を9つくつけたくらいの太さ。



 そんな木々が村の周りを隙間無くびっちりと囲み正面の門と反対側にある門を固く閉ざす。


 その防御は、『神木の加護』とやらも手伝って通常そこら辺の魔物や多少の天変地異くらいなら回避できてしまえる程高い。




 …本来なら。




 現在、大いなる神の加護とやらを受けた神木:マナと呼ばれた足元の木は何の変哲も無い『只の木』に成り下がり競り上がる赤い液体に触れその樹皮を黒く染める。



 切り倒されてもその加護が途絶える事が無く、高級素材としても名高い神木がそこいらの木と変わらなくなった原因はもちろん俺にあった。

 



 まさか、神の加護とかも触っただけで消えるとは思わなかった!


 何コレ?



 なんか俺って、全力でこの世界から嫌われてない?



 だってさ、ちょっと登って様子を見ようと思っただけだぜ?


 あの幼女が、結界的なの張ってたしゲームとかアニメ以外で動くスライムとか見たいと思うだろ?



 そう、俺は村に迫ってくる巨大スライムってのを一目見ようと見張りようの矢倉をつたってこの外壁の丸太の上に出て『手』を突いたんだ。



 ええ砕けましたね。



 そりゃもうパキィィィィィンと、感覚としてはガリィちゃんの閉じ込められてた森の封印を破壊した時と同じ感覚。



 一瞬、感じる喪失感その後に起こる崩壊と飛散。




 かくして、ついでに幼女の張った気合の入ったシールドまで全破壊して今正にこの村消滅の危機を迎え中なう。


 


 「ガリィちゃ リーフベル…は?」



 「うん、早く始めるように言った! 赤ちゃんもあいつらに持たせてきた」



 

 俺のどこか呆けた問いに、ガリィちゃんがはきはきと答える。


 


 …おk。



 ガリィちゃんもいい感じで安定してるな_______後は______。



 現在、俺はコードモードで全てを数値化してみている。



 真っ暗な背景にグリーンで表示された1と0が、それの輪郭にあわせて蠢く。



 うわっ、読みにくっ!!!

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