俺の嫁は狂戦士③

 格子越しに詰め寄った俺に距離をとりながら、メイヤは訝しげな表情を浮かべる。



 「一体何れち? 通訳がいりまちか? 種族も違う相手に好意をもってるようなそぶり____」


 「そこじゃねぇ! もっと後だ!」


 「振り回され____」


 「もうちょい前!」



 俺は、自分の聞き違いであることを切に願った。




 「『三年』れち、あんしゃんが勇者と狂戦士を連れ去って今日まであらゆる手段をこうじて次元的魔力の揺らぎを観測して…そりいがどうかしたれちか?」



 眉間に皺をよせ首を傾げるメイヤ。



 まさか…嘘だろ?



 もしかして、あの空間は外との時間の流れが違うとかそんな落ち?



 おいおいおいおい!



 レンブランの情報にはそんなのなかっ…あ、そうだよ…レンブランいつもあそこで死んでたからあの空間の時間の流れとか知らなかったんだ!



 つーことは…やべぇ!


 霧香さんと比嘉って、この世界で三年も!?



 いや、案外…魔王とか倒して家に帰ってるか…無ぇな…だったら赤ん坊を『勇者』だなんていわねぇし。



 一人無言で百面相する俺を、メイヤとガリィちゃんが訝しげに見る。


 「大丈夫コージ? もっと食べる?」


 俺は差し出されたホットケーキぽいモノを、無意識に齧る。


 この世界に着てから直ぐならまだしも、本当に三年もたってしまっているならあの二人を探すにしたってドコから手をつければいいんだ?


 ヤベぇ…マジでどうしよう。


 「ちょっと! あんしゃん! なに無視して食べてるれちか!!!」


 すっかり空気扱いだったメイヤが、苛立ったように捲くし立てる!


 「ゴクッ…うせっ! 今、それ処じゃ ムシャ、てーか食わねーとマジでやばい…ゴク」


 「はい、コージお水」


 「サンキュ」


 「人にモノを聞いておいてその態度はなんれちぃぃぃぃぃむきぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」



 俺は、水を飲み干してから地団駄をふみすっかりご機嫌斜めの幼女に視線を合わせる。


 「んで? 『勇者』を手に入れたってのにわざわざ『魔術師メイヤ』がこんな所までご足労頂いたってことは…まぁ…分かるんだけどね」


 メイヤが、チラリと俺を見てどこかバツの悪そう顔でもじもじして言った。


 「な 泣き止まないんれち…」


 だと思ったよ!


 今、ウチのお坊ちゃんは絶賛食べ盛りだ!


 しかも、俺を経由してしか栄養を取れないもんだから食ったそばから持ってかれるっていう異常事態でこっちは寝る間も惜しんで何か食べないと自分の生命活動が危うくなるってゆうw


 それこそ、レンブランがリュックに詰めてた2か月分の食料がたった2週間しか持たなかった程に!


 「まず、こっから出せよ? もちろんガリィちゃんも一緒にだ」


 「冗談じゃないれち! 狂戦士を野に放つわけにはいかんれち!」


 メイヤの言葉にガリィちゃんの表情がくもる。


 この餓鬼…俺のガリィちゃんになんて顔させんだ!


 今すぐ、ここを吹っ飛ばしてやりたい衝動を抑え俺はメイヤを睨む。


 「じゃぁ、俺も此処から出ねぇ…二人で出られないならそっちが赤ん坊を連れて来い! 後、飯もってこい!」


 「なっ そんな事するわけないれち!」


 ふぅん…この餓鬼、頭がいい方だな。


 ガリィちゃんと赤ん坊どっちか一人は必ず抑えとく構えか…まっ、お察しの通り三人揃えば確実に此処から逃げてやるけどな。


 「でもどうすんだ? 俺は此処から出ない、赤ん坊は腹が減って泣き止まない、付け加えるとアイツさ一日栄養とらなかったら衰弱するんだよ…多分二日でアウトだ」


 「な ! あんしゃん…!」


 「『勇者』に死なれたら困るんだろ?」  


 メイヤは、悔しそうに俺を睨みつけ踵を返す。


 「ああ、後____俺の緑の友達20人! 誰か一人でも死なせて見ろ…ただじゃおかねぇからな」


 ソレを聞いたメイヤは更に眉間に皺をよせふん!っと鼻をならす。



 可愛くねぇ!

 あああ!

 なんて可愛くねぇ幼女だ!


 「ごめんねコージ、ガリィの所為で…」


 「何でガリィちゃんが謝まんだよ! 失礼なのはあの餓鬼じゃんか!」


 ガリィちゃんは首をふる。


 「あの子の言うとおりだよ…それにお兄ちゃんが________」


 ガリィちゃんは、目からぽろぽろ涙を零す。


 「あっ! なんで! 泣かないでよ! もしかして見えちゃったの?」


 「うん…コージと繋がってるとき少しだけどコージの『キオク』がみえたの」



 たぶん、ガリィちゃんが言ってるのはレンブランが俺を騙した事。


 あちゃ~…気おつけていたんだけどな…ほかの事に気を取られて混線したか。


 「でもさ! 結果的にそうなっただけで、レンブランはそれだけガリィちゃんを_______」


 「でも! お兄ちゃんがコージの友達を先に探してくれてたら…こんな事にはならなかったでしょ!?」


 ガリィちゃんは、振り絞るような隠れた声で最後に『ごめんなさい…』と呟いた。


 「はは…ちょっと感受性を強く創り過ぎちゃったかな~…。 大丈夫! 霧香さんや比嘉ならきっとこの世界で三年くらい平気で生き抜けるさ、だって俺みたいなモブとは違ってあの二人は本物だから」


 「ホンモノ?」


 涙を溜めたままガリィちゃんは首を傾げる。


 「そ、俺がこの世界にいるのは殆ど事故みたいな物でさ…もしレンブランに出会えなければまず生き残れなかった…助けてもらっただけでもラッキーなのに何ももっていない俺に自分の知識全てをくれたんだ、お陰で生き残れるしこうやって二人を探せるガリィちゃんとも一緒だ! 感謝してるんだ恨むとかねぇよ」


 俺は、ぐずぐずになってるガリィちゃんの顔をシャツのすそで拭く。


 「はは~ボロ泣き顔もそそるけど、やっぱガリィちゃんは笑顔が似合うぜ?」


 『笑ってよ』ってお願いしたら、ガリィちゃんは涙を浮かべたままぎこちなく微笑んでくれた。


 …ああ、くそ可愛い!


 許されるなら今すぐ抱きしめたい!


 俺が脳内で煩悩をねじ伏せつつ背中をさすって慰めてりると、突然、ガツンと牢の格子が叩かれる。


 ガリィちゃんから視線を移すと外から俺たちを…いや、俺を鋭い眼光で睨みつける人影が一つ。


 それはそれは、ものすごく見覚えのある上腕二頭筋。


 それが、世界で最も硬い金属『ヤワラカクナイ』で作られたはずの牢の格子をもしかしたら破壊できそうな勢いで掴み血管を走らせながら口を開く。


 「やっと見つけたぞ『黒髪の男』…レンブランを何処へやった!!」


 レンブランの幼馴染、グラチェス・ノームはもはや全身の筋肉に血管を浮かべ今にも咬みつきそうな血走った眼光で大事な物を奪った黒い悪魔をにらみつけた!

 

 「あんた…あの時の?」


 「答えろ!」


 グラチェスは、牙を剥き牢の格子を殴りつけるがびくともしない。


 もし、この格子が『ヤワラカクナイ』で出来ていなければ戦闘は避けられなかっただろう…レンブランの大事な幼馴染と戦うなんて出来ればしたくないのだが。


 俺は、牢に入れられていることに少し感謝した。

 

 「頼む答えてくれ! レンブランは…レンブランは無事なんだよな?」


 グラチェスは、何も答えない俺を不安気に詰め寄る。


 俺に出来る事は、偽らないことだけだった。

 

 「……レンブランは死んだ…ごめん、俺どうする事も______」


 グラチェスの目が見開いたまま固まる。


 呼吸すら忘れ全ての動きを止めたその姿は、まるでそこだけ時が止まったようだ。 


 レンブランの死。


 その事実にグラチェスは、ようやく体の力が抜けたようによたよたと後ろに下がる。


 「嘘だ…レンブラン…そんな、じゃ その子はまさか! あああ! 何で!!!」


 グラチェスは、ガリィちゃんの姿を捉え発狂したように叫ぶ!


 「聞いてくれ! レンブランはガリィちゃんを救う為に戦って_______」


 「貴様の所為だ…!」


 低い声が、地を這うように俺を捕らえる。


 「レンブランが、あの森の結界を破ろうと長い間研究してた事は、この村の連中なら誰でも知ってた…しかし、それは無理な話だった筈だ」


 さっきまで、狂ったように泣き叫んでいたグラチェスがその一切を止めわなわなともたげた腕を伸ばし俺を指差す。


 「貴様が現れる前までは!」



 グラチェスの瞳には俺に対する憎しみが満ち溢れ、レンブランに向けられていたあの優しげな面影など何処にも無かった。



 「貴様さえ…貴様さえ…この村に現れなければ今もレンブランは…!」


 「コージ!! 伏せて!」


 突如、グラチェスに気取られた俺をガリィちゃんが藁の地面に押し付け何かを掴んだ!


 「ぺっ、ぺっ!! なんだ!?」


 ガリィちゃんの手に握られていたのは先端に羽根のついた細長い棒。


 これって『矢』だよな!?


 ソレを握ったまま、ガリィちゃんはグラチェスの方ではなく全然違う方向を凝視する。




 ヒュン! ヒュンヒュン!




 その方向から立て続けに矢が打ち込まれるが、その矢をガリィちゃんは難なく素手で掴む!




 「これ以上、コージを攻撃するなら…お前たちを殺す!」



 ガリィちゃんは、顔を矢の飛んできた方向に向けながら横目でグラチェスに殺気を放つ。




 

 「狂戦士! 邪魔をするな!!」



 グラチェスは、腰に手を回し短剣のようなモノを抜くと間髪いれず俺に向かって投げつけるのと同時に四方から矢も打ち込まれる!



 「うげっ!?」



 「このっ!!」



 バチッ!



 ガリィちゃんの体が黄色く発光し、ギリギリまで迫った飛び道具の群れがまるで殺虫剤食らった蝿の如く藁の上につから尽きる!



 ゲホッ! ついでに俺も感電した!



 「っち!」



 グラチェスは、顔を歪め今度は両手に忍者とかがもってそうなクナイのようなモノを三本づつ構える! 一体どこから取り出してんだ!?



 しかし、参った!


 これじゃ埒が明かない!




 「まっ 待ってくれ! グラチェス! グラチェス・ノーム!」



 クナイを投げつけようとしたグラチェスの動きが止まる。



 険しい視線が『何故名前を知っている?』と、無言の問いを俺にかけた。



 「知ってる…アンタの事もさっきから移動しながら矢を射ってくるアンタの妹のリラ・ノームの事…アンタらが幼馴染だって事も、全部知ってる」



 訝しげに眉を寄せるグラチェスの目を、俺は真っ直ぐ見た。




 「俺の頭には___________」



  俺が言葉を続けようとした瞬間、突如地面が縦に激しく揺れる!



 

 「うを!?」


 

 立ってられないほどの激しい揺れに、俺は思わずガリィちゃんにつかまる。



 「なんだ!? この揺れは!」


 「兄さん!」



 大地が揺れる中、何処からともなく姿を現した栗色の髪に弓矢を持った獣人の少女がグラチェスのもとに駈け寄り耳打ちする。



 「何!?」



 何があったのか、耳打ちされたグラチェスは血相を変えて慌てだした!



 「どうした? 何かあったのか!?」



 その問いに、弓矢を持った獣人の少女が眼光鋭く俺を見据え矢をつがえる!



 「煩い…ここで死ぬお前には関係ない!」



 今にも放たれんとする矢の前に、すかさずガリィちゃんが割って入り雷撃を放った!



 地面を叩く雷撃に、グラチェスが矢をつがえた少女を引っ張って回避させる。



 突如始まった揺れは、唐突に止み辺りはしんと静まり返った。

 



 「あなた…本当にガラリアなの?」



 此方に向かって、矢をつがえ引き絞る獣人の少女_____リラ・ノームは、鋭い眼光で自分を睨む金色を訝しげに見る。




 「だったら何!」



 ガリィちゃんは、パリパリと体中に電流を這わせグラチェスとリラに向って問答無用で雷撃を放つ!



 ノーム兄妹は、ガリィちゃんの放つ雷撃を回避しながら此方から視線を逸らさず間合いを保ちなおかつ矢とクナイを打ち込んでくるからたまったもんじゃない!



 狭い牢の中での武器と雷撃の応酬に、俺は情けなくガリィちゃんの後ろで藁に伏せる事しか出来ない!



 こーゆー時こそアレが使えたらと思うが、いかんせ条件が整っていないしなぁ~無理に出来なくはないがそれだと…。




 「っく!」



 突然、雷撃をぶっ放していたガリィちゃんが苦しそうな声をあげガクッと膝を折る。



 「ガリィちゃ!!」



 苦痛に顔をゆがめるガリィちゃんの太ももに、ぐっさりと矢が突き刺さりポタポタと赤い血が滴り地面の藁をぬらす。




 「そこまでよ! ガラリア! 気の毒だけど森から出るべきではなかったわね…」



 リラは、ガリィちゃんに目掛けて矢をつがえる。



 「貴女が狂戦士なのは、誰の所為でもないましてや貴女が悪い訳でもない…これは運命だったのそれに抗ってはいけなかった、それだけの事」




 『狂戦士は勇者の糧となる為死なねばならない』



 これは、この世界の誰でも知ってる伝承。




 パシュン




 乾いた音がして、リラのつがえた矢がガリィちゃんに向って放たれる!




 ドス



 牢の格子ギリギリから放たれた矢は、一瞬にして目標に到達…しなっかった。




 「コージ…!?」



 矢は正確にガリィちゃんの脳天目掛けて飛んできたが、そこに割り込んだ俺の肩に見事に突き刺さっている。




 いでぇ…くっそ!



 骨、骨に刺さってるよこれ!?


 


 「にぎゃぁ!! コージ!!!」



 ズボッ



 「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



 突如、ガリィちゃんが止血も考えず乱暴に俺の肩から矢を引っこ抜く!


 今、骨、ゴリッっつた!



 痛い!



 めっさ痛い!!!




 「あう、あう…血、血、止まんない!!!」




 先ほどまで、狭い空間で無数に飛び交う飛び道具を顔色一つ変えずに捌いていたガリィちゃんが、俺の肩からとめどなく流れる血を見て明らかに狼狽する。




 「…だいじょ…ばねぇけど…落ち着けっ! 兎に角ここから逃げ_____」


 「コージ! コージ!!」



 予想以上の激痛に、言葉が上手く出てこない!


 お陰でガリィちゃんは更にうろたえる…不味い。



 リラは、もう次の矢をつがえその切っ先を此方に向けてた。



 「先ずはお前から殺してやる!」



 振り向いた俺を、憎悪に満ちたリラの瞳が捉え脳天めがけ無慈悲に矢が放たれるが________




 ジュッ



 矢は放たれると同時に瞬時に消える!



 いや、一瞬にして『蒸発』した!



 「なっ_______!?」




 ソレを見たリラは驚愕の表情を浮かべ、兄のグラチェスは何処から取り出したのかショットガンのような物を構え容赦なく俺に向ってぶっ放す!




 キキン キュン



 が、ショットガンから放たれた散弾と思われる弾丸は対象物に命中する事無く飛散し牢の格子に火花を散らした。



 ノーム兄妹は、引きつった顔で俺を睨み更に武器を構える。




 俺じゃない!



 俺は物理攻撃に対して抗う術などもってはいない…という事は…。



 

 「ウウウウウウウウウ…」



 うなり声に視線を落とす。


 ふわふわの金髪が重力に逆らい電流を流しながら逆立ち、金色の瞳には無数の血管が走る。




 「マジかよ!」



 ガリィちゃんの首につけた継ぎ目のない鎖の首輪が、今にもはじけ飛びそうな勢いでビキビキと音を立てた。



 嘘だろ!?


 レンブランが作って俺が上書きしたリミッターだぞ!?


 コレ壊れたらヤバイって!



 俺は、血走った目でノーム兄妹を睨むガリィちゃんの頭に右手で触れる。



 出来れば両手で固定したいところだが今は肩が上がらないので仕方ない。



 

 レンブランは、俺の頭に膨大な知識と記憶を強制的に焼き付けた。



 それは、この世界で言う所の魔法とか気孔とかそう言った類の物とは違う電気信号を使った情報の伝達。



 例えるならハードディスクに情報をダウンロードするというのに近い。


 剣や魔法の世界でこんな斬新な方法を思いついたのは、俺のスマホをこっそり分解して組み立てた時だと『キオク』は語る。




 繰り返す時の中で、レンブランは死ぬ事を運命付けら得た妹を救う為何度もその命を絶たれながらも救う方法を探し続けあらゆる学問を研究し続けていた。



 そこでレンブランが目に付けたのは、現在この世界で発展途上にある新しいものの考え方そしてソレを肯定する新しい学問。



 それは、俺たちの世界で言う所の科学や錬金術と呼ばれる物でその中でもレンブランの興味は時間や空間・原子などと言ったものに集約されていく。



 レンブランは、研究に研究を重ねた遂に理論を完成させたが、それは到底レンブランに扱えるものではなかった。



 ソレを実現する事が出来るのは、恐らくこの世界の『理』に一切関知されない存在で尚且つこの世界の干渉を一切受けないという条件が必要だったからだ。



 もし、そうでないこの世界の住人がそれを使おうとすれば運がよければ発動せず運悪く発動すれば抱えきれないほどのエネルギーが一気に流こみその肉体は弾け飛びそこら辺一体を巻き込んで灰塵と化すかもしれない。




 半ば自暴自棄になったレンブランの前に現れたのが、幸か不幸かその条件を全て満した俺。



 レンブランは、狂喜し口では謝罪しながらも容赦なくソレを実行した!



 



 うなり声を上げ、今にもリミッターである鎖の首輪を破壊せんとするガリィちゃん。



 頭に触れる右手がビリビリと痺れ、それと同時に俺の左目が熱を持ちあたりの景色を全く別の物に置き換える。



 真っ暗な空間に緑色の電子番号が、その物体の形に添って高速で渦巻く。



 今、俺の目には全ての物体が0と1に還元され表示されている。


 その羅列を見るだけで、それら特性・強度・魔力の有無など全ての情報が筒抜けだ。



 レンブランが組み立てた理論。


 かなり乱暴に説明すると、世界を0と1に置き換えその羅列の中からエネルギーを取り出すと言ったもので無論そこに組み込む事も出来る。


 つまり、何が出来るかというと…ほぼ全てだ。



 モノを生み出す事も、消し去る事も、魔力など使わずともその場に存在するエネルギーを無限に引き出すことも可能でしかもそれは魔法と同じ働きをさせることも出来るが魔法ではないので攻撃された側は魔力と同じ方法では防御しようがない。


 

 最強。



 但し、殆ど最強に見えるこの能力にも欠点はある。



 その場に、取り出せるエネルギーがない場合。


 例えば、氷山で火をおこしたくても氷ばかりしかない場所では目的物質のコードは得られないといった具合に万能ではない。




 俺はその理論に乗っ取り、あの果てのない白い世界に森と泉を出現させ精神崩壊した哀れな少女に新しい人格を与えあたかも魔力を使っているかの如く魔法のような物をぶっ放す事が出来たと言うわけだ。




 そして、今現在この腕の中の愛しい最高傑作は今にも狂戦士として暴走寸前という緊急事態だ!



 兎に角、今すぐ精神にダイブして書き換えられよとしているあの数字の羅列を修正しないとノーム兄妹は愚かこの村…いやこの近隣の国全てがガリィちゃんによって蹂躙されてしまうだろう。



 そうなったらガリィちゃんを守るどころか、自分が最初の被害者になりかねない!



 が、この現状でノーム兄妹はそんな暇を与えてはくれないだろう。



 この場から逃げ出そうにも、この場には取り出せそうなコードはない。



 となればやる事は一つ______無ければコードを作ればいい。



 だが、それは余りに危険だ!



 何が危険かと言うと_____!?




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




 突然の地響きと、激しい揺れに俺の思考が現実に引き戻される!




 余りの揺れに、ノーム兄妹は武器を構えたままバランス取るのがやっとのようだ…今の内に少しでも!




 「がぁぐっ!?」


 「ガリィちゃん! しっかりしろ! 俺が分かるか!?」




 血走った目が俺を見るけどいまいち正気には程遠いが、その代わりガリィちゃんの思考が流れ込む!

 



 オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン オニイチャン 





 うん、だいじょばない!







 揺れが止まる。



 ノーム兄妹が、武器を構え俺達に照準を合わせる____くっそ!


 もう迷ってる暇は無い!



 「新規コー_____」


 「彼方達! 一体なにをしているの!!!」




 聞き覚えのある声が、響きノーム兄妹がビクリと肩を震わせる。



 二人の振り返った先に見えたのは、鮮やかな緑色の髪をポニーテールにした陶器のように白い肌高揚させた美しいエルフ____リーフベルとその後ろから殺気を放ちながら駆けて来る赤毛の巨人亜種_____。




 その、巨人亜種こと剣士カランカの頼もしいくらい鍛え抜かれた上腕三頭筋がうねり背中に差していた大剣を軽々舞わせ次の瞬間地面に突き刺しそのままリーフベルを抜き去り大剣の切っ先で地面を抉りながら一直線に此方に向ってくる!



 「リラ!」

 「兄さん!」


 

 ノーム兄妹は、迫り来るカランカに向け持ちうる火器を全てを投じて総攻撃をかける!



 「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 

 カランカは、自分に向って飛んできた矢や弾丸その他もろもろを気合のような物で弾いていく!



 ノーム兄妹には、もう打つ手が無いのかリラが地面にてを置きいつぞやの魔方陣が地面いっぱいに出現しそこから複数の手の形をした土人形がカランカ目掛けて襲い掛かるが_______。




 「地龍斬」



 カランカの大剣が、地面から振り抜かれる!



 その瞬間、地面から隆起した5Mほどはあるであろう大きな岩の『牙』がまるで生き物のように土塊の手どもを破壊しまるで津波のようにどんどん大きくなってこっちに向ってくる!



 って、待てコラぁ!???




 ミッシッ バッキ



 迫り来る岩の牙のビッグウェーブに、地面がずれ牢の格子がずれる!



 なんと、この世界最強の硬度を誇る『ヤラカクナイ』で作られたこの牢屋の格子はどうやら巨大な杭を地面に突き立てて四方を囲んだだけと言う簡単な造りだったようだ。



 全く!



 コードモードで数値化してみてたのにこんな単純な構造に気付けなかったなんて…恥ずかしくて吐きそう。



 

 牢の格子は、もう人が通れるくらいに隙間が開いてる!



 「よっ、よし! 逃げるよガリィちゃん…俺に掴まって!」



 ガリィちゃんの腕を自分の肩にかけようとしたら、さっき矢の刺さった左肩が尋常でないくらい痛むが今はそんな事に構ってられない!



 

 「っぐっ!!」



 俺は、バーサーク寸前のガリィちゃんをどうにか引きずり格子の隙間から這い出ようとし____。




 「おっと、何処いくんだい?」



 ジャキッと、脳天に突きつけられる大剣にがっつり目の合う。


 

 にゃりと歪む褐色の面______逃げ切れませんでしたね。 はい。



 大剣を突きつけたカランカは、ガリィちゃんの状態と左肩からぼたぼたと出血する俺を見て眉を顰める。



 「ずいぶん派手に…こういう時に魔法が一切効かないってのも考えモンだねぇ…狂戦士の方は何があったんだい?」


 

 カランカは、俺たちがすぐに動けない事を確認し大剣を背中の鞘に収め俺の襟首をむんずと掴みガリィちゃんを小脇に抱えた!




 「おう!? いでっっ!」



 「こら! 騒ぐんじゃないよ! 男だろ!」



 俺を軽々と、まるで猫の子でもつまむように自分の目線まで持上げプランと揺らしギロリと睨んで激を飛ばすカランカは正に頼りがいのありすぎる姉御そのものだ。



 いや! そんな事より、さっき迄俺とガリィちゃんを滅さんとばかりに攻撃をしていたノーム兄妹は________!




 あ。



 カランカの攻撃でボコボコになった地面に、植物の根のようなものが張り巡らされその先に植物の根やら枝に取り込まれるように拘束される人影が二つ。



 なにやら、その元凶に暴言を吐くが拘束は当分解かれる事はないだろう。




 その植物を操る緑の人は、俺のほうを見て複雑な表情を浮かべ背を向けて歩き出す。


 俺とガリィちゃんを抱えた姉御はそれに続くように、歩をすすめる。





 「え? いや、ちょっと待って何処いくんすか!? 今、ガリィちゃんやばいんすよ!」



 何処へ連れていく気かは知らないが、取り合えず早いとこガリィちゃんのメンテしないと世界が終わりますぜ? マジで!



 「今から部屋に案内する、そこに荷物も置いてあるしベッドもある…そこで狂戦士を休ませるなりなんなりしたら良い…その代わりあんたにゃ、ちょいとばかり働いて貰う」



 その表情と、破格と思われる待遇からどうやら赤ん坊の栄養補給以外の事態が起こっているのは明白だった。



 さっきから揺れまくっている地面と何か関係ある……よな絶対!


 嗚呼嗚呼! もう! やな予感しかしない!


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