俺の嫁は狂戦士⑤


 岩とか鋼鉄とか無機質のものは比較的安定していて数字の羅列が分かりやすいが、このグネグネ動くスライムときたら輪郭が無く殆ど液体に近いから蠢くたんびに1と0の羅列がグチャグチャにかき回わされて読もうにも読めない場所がでてくる!




 「コージ! もうこっち来ちゃうよ!!」



 ガリィちゃんの焦った声に、俺はコードモードから通常モードに画面を切り替える!




 ゴボボボボボボボボボボボボボボ



 眼前に迫った赤い液体が、不気味な音を立て視界の端に映る元神木の外壁を次々に飲み込み村の中へと雪崩れ込む!




 「ガリィちゃん! 俺がいいって言うまで絶対にこの赤いのに触っちゃダメだからな!」



 「コージ!?」



 ドプッ



 自分に触るなと言ったくせに眼前に迫る赤い液体に躊躇無く手をつっ込んだ兄の友人を、ガリィちゃんは驚愕の表情で見つめる…いいねその顔そそるな。




 ボゴゴゴボボボッボゴゴゴボボボ!?



 俺の手をつ込んだあたりが、まるで驚いたみたいに泡立つ。




 「何やってるの!? 早く手をぬいて!!」



 慌てたガリィちゃんが、俺のほうに駆け寄ろうとしたその時!



 

 ブパッ



 迫り来る赤い液体の壁から、複数の触手のような物が伸び駆け寄ろうとしたガリィちゃんに迫る!




 「うにゃぁ!?」




 ビチャ ビチャ


 

 流石獣人とあって、ガリィちゃんは俺からしてみたら到底考えられないような反射神経で迫り来る触手たちを次々に回避するがいかんせ数が多くこのまま狭い足場で逃げ回っても捕まるのは時間の問題だ!



 「このぉ!!」



 ガリィちゃんは、得意の雷撃を放つもそれはスライムに吸収されてしまう。



 そして、遂に俺とガリィちゃんは赤い液体に囲まれ後は仲良くスライムの餌食に______とはならなかった。



 ぬらぬらと、俺たちを捕食しようと迫ってきた触手は急にその動きを止めピキピキと液体らしからぬ動きを見せ遂にポキンとまるでチョークをへし折ったときみたいな音を立てれ次々と崩れていく。





 びきっ ぼきっ



 「え? え?」



 ガリィちゃんは眼前ギリギリに迫っていた触手達がボロボロと崩れていく様を俺好みの少し脅えた顔で凝視していたが、それで終わりでは無かった。



 ゴブッ!? ゴブッゴブブブブブブブブブブ!?



 俺の手のつっ込まれたあたりの赤い液体が、更に激しく泡立つ!




 「…お前の構造はもう分かってんだよ…」




 ゴップ…ビキッ! ビキビキビキビキビキビキビキビキ



 赤い液体は、突き刺さった俺の手を中心にクリアなその赤色を急速に無くし粉っぽいピンク色のボロボロしたものに変わっていく!



 

 くそっ! 間に合うか…?



 万物全てに存在する微弱な電気信号、俺はその電気信号を使ってその物体のコードを書き換える。



 恐らくこの世界で最も非力な俺に、レンブランがくれた唯一の戦う手段。




 「コージ! 村が! あ!」




 外壁を乗り越え濁流のように逃げ惑う兵士や村人を飲み込もうとした赤いビッグウェーブが、一瞬にしてその艶を失いうねる波の形のまま静止する。




 「はっ はっ…! ゴホッ! _____ちっ!」



 今の俺じゃ、全部は無理ってことかよ!



 腕をつっ込んだ辺りがもうすっかり泡だたなくなった頃には、息が上がり体中から滝のように汗が吹き出る。



 どうやら、俺の体力に限界が来たらしい。



 「コージ! 大丈夫なの!?」



 息も絶え絶えの俺に、どう接して良いか分からずガリィちゃんはおろおろする。



 うん、クソ可愛いね!


 今すぐ抱き潰したい!




 「ああ…だい じょ ぶ? ふふふふふふふ…」



 ガリィちゃんが、ビクッと耳を伏せ着ている俺の学ランから覗く尻尾をボンと膨らませた!



 「コージ?」



 ガリィちゃんは、眉間に皺を寄せ警戒したのか一歩下がる。



 不味い、不味い、不味い!



 コレは予想以上だ!!




 「え~? 逃げないでよガリィちゃん?」



 ヘラヘラ笑う俺に、ガリィちゃんはより一層警戒を強め体に稲妻を走らせギッと睨みつけてきた!



 あはwその顔を泣きっ面に歪めたら最高だろうな~ww


 


 って…ヤバイ、どうしよう欲望が止まらない!



 予測はしてた、してたけど『反動』がこんな形で現れるなんて_______!



 

 「お前は誰だ! コージをどこやった!?」



 ガリィちゃんが、いよいよぶわっっと尻尾を膨らませ突き出した手の平に稲妻を集める。



 その表情に浮かぶのは、不安と恐怖…嗚呼…良い…泣き叫ばせたいくらい愛おしい。


 村を飲み込もうとした赤い液体は、その6割以上が石灰質に書き換わり残りはその遥か向こうで口惜しそうに蠢いている。


 

 ボコッ!



 俺は、すっかりカスカスのそれからいとも簡単に手を引き抜いてふらふらした足取りでガリィちゃんに近ずく。


 「こっ、こないでっ! 恐い! 恐いよ! ねぇ、コージなの!? やだよ! 元に戻ってよ!!」


 ガリィちゃんの金ぴかの目にうっすら涙が浮かぶ、無理も無い。


 世間一般からその死を望まれている狂戦士であるガリィちゃんにとって、実質兄代わりで現在唯一の家族といっても過言ではない俺があからさまに豹変し自分にあられもない感情をむき出しに迫ってくるのだ…もしその意味に気付いていなくても本能が危険を知らせ恐怖心を掻き立てるのだろう。


 「ガリィちゃん…俺は、お前の『お兄ちゃん』なんかじゃない」


 じりっと丸太の年輪を踏みしめ沸騰した俺の思考が本能の赴くまま口を開く。


 ダメだやめろ!


 まるで凍りつたみたいに立ち尽くすガリィちゃんの手に触れると、アレほどまでに凝縮された稲妻がバジュゥ…と花火をバケツにつっ込んだみたいに消えうせる。


 「ぅぁっ!」


 俺は左手でガリィちゃんの手首を掴み右手でそのきめ細かい頬に触れると溜まってた涙が柔らかい頬に沈んだ親指を濡らす…堪んないなぁ。


 「お前は俺んだ…その目も耳も尻尾の先も構築された精神もぜぇぇんぶ____誰にも渡さねぇ」


 恐怖に染まる金の目に、うっとりとした俺の顔が映るとガリィちゃんの喉が『くきゅう…』っと鳴った。


 もう逃がさな________。


 

 「極演舞!!!」




 あ。




 俺は思い切り後方へガリィちゃんを突き飛ばす!



 その瞬間、文字通り紅蓮地獄が視界を真っ赤に染め上げるがやはり全ての魔力が弾かれる俺に効果なくパシュンと間の抜けた音を立ててそれは消えるが朦々とした煙が舞い一瞬視界が奪われる!


 「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 スパァァァアンっと走る、頭部への一撃!


 衝撃に視界がぶれるが、気絶するほどじゃない…けど!!!


 「いってえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?」



 俺は一瞬、『割れた!?』と思うくらいの激痛に頭を抱えて年輪の上で悶絶する!




 「なんて事してくれたんだい!? 危うく村が壊滅する所だったじゃないか!!!」



 ダイナマイツバストが、オリハルコンのプロテクターから苦しげに揺れて悶絶する俺を見下す。


 「ありゃ事故だ! まさかこんな事になるとか思わなかったんだよ! それに_____」


 俺は、痛む頭を抑えつつダイナマイツなおっぱ____もとい!

 勇者の従者こと剣士カランカを見上げる。



 「それなりに作戦は立てて_____」



 仁王立ちのカランカの向こう側で、へたり込んでたガリィちゃんが立ち上がりふらふらこっちに向って歩いてきた…嗚呼、ヤバイ俺殺されるんじゃないだろうか?




 「こーじ…」


 カランカの脇をスルリと抜けて、金に輝く狂戦士が蹴躓いた俺の元にふわっと顔を近づけ食い入るように目を覗き込む!


 「待て待て待て! 話せば分かる! アレは何というか本心____じゃ無くて! 漏れ出した欲望って…わぁ!? ゴメンナサイ!!!」



 オワタ。



 俺の人生此処でオワ_________ぎゅうぅぅぅぅうぅぅ。


 ガリィちゃんが、渾身の力で俺に抱きつく!


 「良かった~! コージだ、コージにもどってるよぉぉぉぉぉ!!」


 「ふぎゅぅぅ!! だめ"っがりぃじゃっ!! しめないでっっ  でちゃう! 内臓でちゃっ うっぷ!?」



 状況の飲み込めないカランカが、俺の身の危険を察知し慌ててガリィちゃんをぴっぺがしてくれた。



 「一体何がおこってるんだい? あの赤い奴はなんだかアンタは知ってるのかい?」



 カランカが、学ランの襟をつかんでまるで猫みたいにガリイちゃんを持上げながら俺に問う。




 「…何が起こってるかは分からないけど、アレが何なのかは…わかったよ、多分」



 「多分?」



 怪訝そうにカランカが眉を顰める。



 そう、俺の中の『キオク』はアレを知っている。



 しかし、アレが本当に『キオク』道理のものなら…おかしい…明らかに『早すぎる』!



 まだ俺の…いや、『勇者』の前に現れるべき『時』ではないのに!



「で? これからどうすんだい?」



 カランカが、ガリィちゃんをぽいっと下に放して言う。



 「一応、書き換えた分はこのままだけど長くは持たない…アレはまた増えるから」



 「そうかい…でも、アンタはアレを知っていて対処の方法もわかるんだろ?」



 赤い目が、射るように俺を見る。



 「…知ってる」


 「ホント! コージ!?」



 目をキラキラ輝かせるガリィちゃんとは対照的に、カランカは今にも俺を斬り殺さんがばかりの衝動をギリギリ抑え付いているようだ。



 「だったら何故ソレを実行しない! もう既に兵士の一部とこの村の住人に被害が出てるんだよ…!」



 カランカは声を押し殺し、恨めしげに俺を睨む。



 「…勘違いするなよ…はっきり言って俺にはこの村やアンタの部下を救う義理なんて無いんだ、今だったらこのどさくさに紛れて逃げる事だって出来る」



 「アンタ!」



 カランカの右手が、背中の大剣に掛かる!



 けど、此処はレンブランやガリィちゃんにとっての故郷だ…どんなに理不尽な扱いを受けたとして、きっとレンブランが生きていてれば救おうとした筈。


 『キオク』とレンブランがくれた力あるからって、非力な俺に何処まで出来るかわからない…救うだ助けるだなんて確約は出来ないそれでも!



 「いいか? 俺はいつだってこんなの投げ出すことが出来るんだ、あんた等は俺に頼るしかねぇんだよ!」




 俺の張った精一杯の虚勢にカランカは気付かず、唇を咬んで悔しそうに俺を睨む。




 「作戦について多少変更する…アンタ、リーフベルにソレ伝えてきてよ」



 「なっ! このアタシに使いパシリしろって!?」



 「そうさ、急げよ時間が無い」



 カランカは赤い目をより一層険しく歪め、年輪を蹴って20mほど下の村の方へ飛び降りザザッっと地面に着地すると俺を一瞥して走り去っていく恐らく総本部となっている村長の家へ向ったんだろう。




 「コージ」


 

 俺のシャツの裾をガリィちゃんがぎゅっと掴む。



 ああ、やっぱりガリィちゃんには隠し事は出来ないな…多分、人格構成のときに大分深く潜ったせいだろう俺たちは互いに何となくだけど相手の気持ちが分かってしまう。



 「どうしよう…ガリィちゃん、俺めっちゃ恐い」



 少し震えた俺の手を、ガリィちゃんがそっと握った。



------------------------------





 ゴポッ…。



 いつもの様にまどろんでいたソレは、見知らぬ声によって無理やり目覚めさせられた。


 まだ起きる『時』ではないのに繭は破られ外界へと放り出されたソレは、仕方なく本能に従いうねる。


 

 目や耳を持たない液体のような体は、遥か昔に定めた己の魔力の匂いを頼りに縄張りを巡り役目を果たす。



 

 ソレの役目は太古の昔から変わらない。



 『喰う』



 増えすぎてしまった世界のバランスを取る最上級の捕食者。



 ソレには、もともと感情と呼べるものは備わっていなかった。


 只あるのは、『喰う』『増える』と言うごく単純な本能のみ。


 通常なら餌にありつけないと分かった時点で他の場所へと巡ったであろうが…。



 ゴポッ…。



 ソレは、思考すら侭ならない愚かな頭に溢れる『ナニカ』。



 何だというのだ?



 久々に巡った縄張りの上に、旨そうなモノがいっぱい集まっていたので喰おうとしたら行き成りアレが現れて自分の体の半分以上を奪ったのだ!



 ごくごく小さな、本来なら自分の糧の足しにすらならないゴミのような『アレ』はどんな手段を使ったかは理解できないが自分の存在を根底から覆し…そう、殺そうとした…今までどんな物もどんな者も喰ってきたこの自分を殺そうとした!




 ゴポッ…ゴポゴポボボボボボボボボボ!!!






 愚かな頭に芽生えた『怒り』その怒りが赤い液体を漂う核から更なる液体を従来より多く生産させる。





 もっと…もっと早く。


 もっと増えなくては、アレを…アレを早く殺さねば喰う事ができなくなる。


 

 殺してやる。


 殺してやる。



 ゴポゴポゴポ…ゴポゴポゴポ…



 赤い液体はうねる。


 餌の集まる場所へ。



 全てを喰い尽し自分の脅威となるあのゴミのような小さな存在を排除する為に。

 



------------------------------



 「もぎゅ、アレはズズ! 太古の昔からこの世界にあるモチャモチャ・・・ゴクッ 管理システムみたいなもんゲップ だ」



 そう言った俺に、リーフベル、メイヤ、カランカ、ガリィちゃんはそれぞれ頭に『?』を浮かべた。



 「聞いたことない呪文れち! 『しすてむ』ってなんれちか?」


 「世界の管理…そんな! 女神様が民を間引くようなモノを存在させるなど考えられない! 何かの間違いでは?」


 「喋りながらみっともない!! 食うか喋るかどっちかに出来ないのかい!?」


 「コージ! これ美味しいね! なにかな?」


 「まんまー!!」



 俺は、現在この村において総本部となっている村長の家の見事な彫刻の施された木目調のダイニングテーブルで大量の食料を頬張りながら作戦会議…と言うか一方的に『決定事項』を伝えた。




 「ゴクッ…村を捨てよう」



 その場にいた赤ん坊以外の全員が、俺に視線を集める。




 「それは困る! 此処は各国の出資によってつくられたもはや『砦』だ!そ うそう簡単に手放せるモノではない!」



 カランカが、声を荒げ抗議してきた。



 「知ったこっちゃないね、人命優先だ ゴクッ それとも魔王を倒して世界を救おうって言う癖に国だ金だの天秤に掛けて肝心の民を失ってもいいっての?」



 本末転倒だね、っと言ってやるとカランカはぐっっと唇を噛み黙り込む。



 「コージ…村はなくなるの?」



 赤ん坊を抱いたガリィちゃんが、不安気俺を見る。



 「ガリッ モギュモギュ…いや、悪魔で一時的にさ アレを退けるには モグモグ 一箇所に集めないと」




 バン!



 メイヤの小さな手が、木目のテーブルを叩く。



 「たとえこの村に、アレを集めたとしてどーやって倒すれち!」



 柔らかな銀髪が逆立ち、落ち着きなく興奮気味にメイヤが詰め寄る!



 「結界、障壁、無機物の壁、なんでもいいあれが入ったら村を囲む ゲップ」



 「そっ なんまっ力どっ…!!」


 「そんな魔力をどうやって集めるのですか?」



 リーフベルが、今にも飛び掛りそうなメイヤを押さえ代わりに質問する。




 「魔力の心配はない」



 俺の回答に、その場の空気が淀む。



 「なに冗談いってまちか? この規模の村を覆う魔力れちよ! このメイヤとリーフベルの魔力をもっても強度のあるシールドを張るにはそえないの準備がいりまいち!」


 「そうです! 今回一時的にメイヤがシールドを展開できたのは外壁に使われていた神木に宿った女神様の加護をもって魔力を増大させていたからです! その神木の加護ももう…」



 慌てたように抗議するメイヤとリーフベルとは違いそれを眺めていたカランカが、忌々しいと鼻を鳴らす。



 「あんたの話じゃ、アレは生き物を食うためにあるんだろ? 『餌』であるこの村の住人たちを非難させた所でそっちを追いかけるんじゃないのかい?」



 そうだ、確かにカランカの言うとおりアレは生き物を喰うために存在し本能の赴くまま縄張りを巡ってそれを繰りかえす。


 恐らく何らかの障害でそのそれが阻害された場合、あまり固執せず次へ移動していく筈なんだよ…通常なら!



 「どうなんだい! 答えな___」


 「問題ない」

 


 俺は、カランカの言葉を遮る。



 「魔力も、住人たちの非難も」


 「コージ…?」



 俺を見つめるガリィちゃんの目に、不安の色が浮かぶ。


 ああ、俺のビビリがダイレクトに伝わっているぅ~どうしようマジではずい!



 「今のアレの狙いは俺だ、村には俺だけ残ればいい」



 その言葉に、その場にいた赤ん坊を除く全員が一瞬事言葉を失う。



 「何言ってまちか! あんしゃんに死なりたら誰が勇者を成長させるれちか!?」

 

 「そうです! 貴方に死なれてしまっては勇者様は成長できず世界は滅びます!」



 ああ、うぜぇ。



 「こんな世界滅べばいいんじゃね?」



 ぎゃんぎゃん騒いでいたメイヤとリーフベルが、水を打ったように静まり返る。



 「じゃぁ、何かい? アンタはこの世界が魔王によって滅ぼされ多くの命が失われても何も感じないってのかい?」


 

 カランカの赤い目が、じっと俺を見据える。


 

 「ああ、はっきり言って俺には何の関係もないね…こんな、多くを救うためにとかって言ってガリィちゃんやレンブンランを切り捨てる世界なんて滅んだとして心が痛むとかないよ」



 比嘉や霧香さんは何と言うか分からないが、少なくとも俺はこの世界になんざ何の思いいれも無い。





 それどころか、俺はこの世界を憎んでいる。




 女神とやらは、あの精霊を使い何千回もレンブランを殺しガリィちゃんは力が目覚めると同時に『勇者』の為に死ぬことを義務付けられ勇者も勇者で魔王と戦って輪廻とやらに戻る事を定めらてれている。



 …それって、オブラートに包まれちゃいるが死ねってことだろ?



 その理由は推測するまでも無く、この世界を守る為だ。



 おかしい。



 こんな理不尽を何故良しとするのか俺には理解できない。



 もっと理解できないのは、その状況下に置かれた当事者のレンブランやガリィちゃんそれに勇者たる赤ん坊が自分を軽んじ世界やみんなの為とか言って自分の『生』を簡単に諦めてしまえるって所!



 俺から言わせれば、こんなの洗脳だ!


 

 マンガやラノベとか読んでて思うけどさ、世界やなんやを救うためその身を犠牲にするヒーローなんざ一番身近な残される家族や恋人の事を考えない愚か者に過ぎないってのが俺の持論だ!



 ガリィちゃんの膝の上で、俺の事を食料と見なした赤ん坊が飢えた獣のようなラブリーな目でこっちを見ていたので指でほっぺを突いたら食いついてきた…可愛いぜ畜生!


 


 うん、今後の教育方針は決まったな!




 カランカが、背中の大剣を抜き俺の眼前に突きつけた。




 「こんな作戦認めないよ! 避難するならアンタも一緒だ!」



 唯一この世界で勇者を成長させる事の出来稀有な存在である俺に何かあったんでは困る…ね。



 …たとえこの砦を失う事になったとしても、勇者の栄養源を危険に晒せないってとこか…まぁ有りでしょう。




 「あれあれあれ? ぼっくんのお話聞いて無かったかしら?」



 俺が可愛く小首をかしげて見せると、カランカ目が血走り今にも斬りかかりそうなくらい怒りを募らせる。



 「アレは、俺の事が狙いなんだぜ? そんなのを住民と一緒にしとくとか詰まってんのはそのお胸の脂肪だけですかぁ?」




 ブチッ!



 「駄目です! カランカ! メイヤも手伝って!!」



 大剣を振り上げたカランカを、リーフベルが必死に止める!




 「あらあらなんとまぁ! 頭に血ぃ登っちゃってさぁ~ww」




 俺は、飯を食う片手間に書いた何かの皮で作られた皮紙を必死にカランカを勇めるリーフベルに突き出す。




 「リーフベル、避難経路についてはコレに書いといたから読んどいてよ」



 「なっ、なんだいコレは!?」



 リーフベルへの皮紙をカランラが、乱暴に奪いまじまじと見詰めるが直ぐに眉間に皺を寄せた。




 「…」



 それは、明らかに内容が理解できてない顔だ…無理も無い。



 レンブランの知識に、多分この3人が把握していないこの村周辺の地形を利用した非難経路それに加え俺の世界の数学とか入っているからこの剣を振るうしか脳のない剣士様にはご理解頂けないのはまぁ想定の範囲ですよ~WW



 皮紙を見ていたカランカの額と腕に血管が走る!



 「せっ説明しなっ!」


 

 理解できない悔しさを堪え、必死に理性を保ったカランカが俺を睨みつけた。



 「あるぇ? そりが人にものを聞く態度ですかぁ~? やだよ、時間か無いっていってんじゃん!」



 睨み会う俺とカランカに、メイヤとリーフベルにガリィちゃんがおろろと見守る。




 「あんた、目上に対する態度がなってないよ…いい機会だ! 此処でその脆い体に『礼儀』ってやつを叩き込んであげるよ!」



 「はぁ~コレだから体育会系は~いいか? 確かに俺は誰よりも脆いし弱いけどこの状況を打開出来るのは誰だ? 下を向くのはあんた等の方だ!」



 チリチリと張り詰めた空気が、村長の家のリビングに漂う。



 「脆弱なくせに」


 「低脳に言われたくないね」



 カランカの体が炎を纏い紅く燃え上がる。



 「にっ逃げるれちぃ!!!」



 メイヤが叫ぶのとほぼ同時__________どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!



 

 村長の家は、予期せぬ爆発に見舞われリビングからほぼ全壊した。



 「上等だ! 表出な! 糞ガキ!!」



 「ゲホッ! もうコレ表だろ!」



 俺は、ガリィちゃんと赤ん坊をかばいながら咳き込む。



 あぶねぇ!


 俺は平気だけどあんな魔力全開とか、仮にも勇者の赤ん坊がいるのに馬鹿なの?




 瓦礫の中に佇むカランカは、大剣を構える。



 「そうだったねぇ…アンタにゃこっちで相手しないと」



 マジか!



 頭に血ぃ登りすぎだろ!!




 「コージ!」



 背後にいたガリィちゃんが、ひょいと俺に赤ん坊を渡す。



 「お前の相手は、ガリィがする! このでかぶつ女!」




 ガリィちゃんがフーっと耳と尻尾を逆立て、パリパリと体中に稲妻を走らせカランカも炎を大剣に纏い高める!



 炎の熱と、雷の熱、二つの熱がいざぶつからんと正に一触即発!



 もし、この二人が本気でぶつかったらいくら制限の掛かった狂戦士の力とは言えこんな村くらい赤いスライムを待たずして内部から壊滅するだろう。



 え~とこれって…。




 「あんしゃんのせいれちぃぃぃぃ! 早くとめるれちぃ!!」




 積み上がった瓦礫の下からシールドを張っていたと思われるメイヤが飛び出し、涙目で抗議する。



 ええ~僕の所為ですかエンタルピー!




 「えっと~…あのマジでごっん"ん"!? ぶじゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」




 取り合えず、謝ろうとした俺の口にラブリーな猛獣が吸いつき濃厚なディープをかましながら折角摂取したカロリーを根こそぎ吸い上げにかかる!



 あまりの激しいバキュームに、一瞬フッっと意識が途絶えかけそのまま瓦礫にの上に仰向けにぶっ倒れる!



 何コレ激しいぃぃ!? ドンだけ腹減ってんの!? 



 つか何でもう腹減ってんだよ!



 もしかして、三食じゃ足んないのか!? 腹持ちわるぅぅ!!



 ちょ! マジですいつくされ…



 助けを求めるように辺りを見回した所、それにがっつり目が合う!



 それは、瓦礫の隙間から目を血走らせ鼻から赤い液体流しながら高速で羽ペン動かす腐女子から進化した化物がはぁはぁ言ってる…ちっ!



 マジで滅べこんな世界!!




 ガンガン



 「報こ…!?」



 敵襲を知らせる為駆け込んだエルフの兵士は、一触即発の狂戦士と剣士、涙目の幼女魔道士に瓦礫の中から薄気味悪い笑い声を上げながら赤ん坊に口腔内を吸い尽くされている少年を大量の皮紙に描写する僧侶のいるほぼ全壊したリビングの有様に二の足を踏んだが、彼はめげなかった!


 話を全く聞いてもらえてないようだが、ここで自分が諦めてはなら無いと声を張り上げる!


 

 「敵襲!! あの液体が村の門に到達しますぅぅぅ?!!!」



------------------------------






「ふぅ、珍しいのねカランカ…貴女が、あんな試すような事するなんて」



 ざわめく群集をメイヤと手分けして、どうにか全て指定されたポイントまで集団転移させたリーフベルがその美しい顔に疲労を浮かべながら差し出されたカップを受け取る。



 白い陶器で出来たカップの中には、暖かいミルク。



 現在、この地域は四季で言うところの夏なのだがさんさんと降る二つの太陽の暖かさの中にありながらリーフベルの体は冷え切り出来ることなら着ているローブの上から毛布の一枚でも欲しいところだった。


 


 「こっちにも、おないのがほしぃれちぃぃぃ…」



 その場にへたり込んでいたメイヤも、頂戴頂戴と木の葉のような手を力なくひらつかせる。



 魔力の大量消費。



 それは、魔力と同時に体内の熱も奪う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る