イレギュラー②
レンブランの激が飛んだ!
ピキャァァァァァァァァァァァァァア!!!
「な!?」
メイヤが振り向いたときには、空間に展開された魔方陣を突き抜け何倍にも膨れ上がった石化光線が眼前に迫る!
「メイヤ!!」
白い閃光が直撃する瞬間、リーフベルがメイヤの腕を掴む。
メキッ!
パキッパキッ!!
閃光が直撃した周囲をまるで殻が張るように岩が張り付き、徐々に二人の姿を覆い隠していく…やがて大きな半円形の岩の塊が形成された。
「おい! あれ、ヤバくねぇ?」
「大丈夫、咄嗟に結界を張ったみたいだから…あの位じゃ時間稼ぎが関の山だよ」
レンブランは、微笑みながらクルルルウルル…っと喉を鳴らすコッカスの顎から伸びる赤いひだひだを撫でながらすぐ側に形成された岩を眺め
「この程度の事で魔王をどうにかしょうだなんて、笑えるよね」
っと、ごく小さな声で呟いた。
怖っ!
レンブラン目が笑ってねぇ!
「さ、突破されるのも時間の問題だし取り合えずここから離れた方がいいね」
此方に向かってレンブランが手招きし、コッカスに乗るように__________
『させませんよ』
ソレは、まるで空間に響くような不思議な声だった。
「あ れ?」
足を一歩踏み出した。
その瞬間、なんの脈絡もなくそこは______。
「『そこは、真っ白な空間だった』だと?」
見渡す限りの真っ白な世界。
果てが見えない。
可笑しいよね? 俺さっき迄森に…。
「コージ」
直ぐ傍にいたレンブランが、抱いていた赤ん坊を俺によこす。
「ごめん、ちょっとお願い…あとリュックも」
「ああ」
真っ白な空間には、俺とレンブランそして赤ん坊の三人しかいない。
…コッカスや岩の中に閉じ込められた二人も背後で倒れていた女剣士もいない。
「コレって…?」
「コージ、ボクから出来る限り離れて!」
レンブランはそう小声で言うと俺に背を向け、突然に声を荒げた!
「そこにいるんだろ! 出て来なよ!」
その声は、白い空間に波紋のように木霊する。
『ふふふ…』
まるで、包み込むような優しげな微笑がかえりふわりと真っ白な空から輝く羽が降って来た。
◆◆◆
ボクは、コージを出来るだけ離れるように促した!
こんな隠れる所も無いような平坦な場所で無意味な事は分かってる!
でも!
真っ白な空から降り注ぐ羽が、ボクの頬を掠めるとジュっと音を立てて肌を焼く。
「いつもながら迷惑な羽だね」
ボクは、この迷惑な羽の主に話しかけた。
『やはり、アナタでしたか…』
降り注ぐ羽が、風を巻いて集まり飛散する。
そこに現れたのは、一人の女。
真っ白な肌、赤い宝石のような瞳に地面に付くほどの白銀の光を放つ美しい髪を素肌に巻きつけるように纏う。
そして、その背中には六枚の翼_______。
「久しぶりだね…いや、始めましてかな?」
ボクの言葉に、赤い瞳は微かに揺れる。
『諦めなさい…アナタがどんなに足掻こうと理は覆らない』
「そうかな? 今回は、かなり良い線行ってるよね? そんなに焦った君を見たのは初めてだよ…クリス?」
ボクに名前を呼ばれると、まるで苦虫でも噛み潰したようにクリスは眉を潜めた。
「何を驚いているんだい? ボクは全て覚えているよ? もう何千回も繰り返してきた事じゃないか?」
『イレギュラーめ…!』
赤い瞳が険しい眼光でボクを睨み、鈴を震わせるような低くも美しい声が呻いた。
「うぅ…あぅぅ」
「しーしー! 良い子だから泣くな~」
突然、ボクの背後で少し距離を取っていたコージに抱かれている勇者がぐずりだす!
その声に反応し、それまでボクに気を取られていたクリスの視線がついに勇者を捕らえてしまった!
『コレは一体…!』
勇者の有様を直視したクリスは、その美しい顔に驚愕の表情を浮かべる。
どうやら、コージの事なんて眼中には無いらしい。
「へぇ~、時と時空を司る女神クロノスの加護を受けた精霊である君にも分からない事があるんだね~」
『貴様! 自分が一体何をしたか分かっているのか!』
クリスは、声を荒げる!
ま、その件についてはボクが何かした訳では無いのだけれどね。
始まりは何時だっただろうか?
此処に来たのは、もう何度目になるだろう?
数えることすら辞めてしまったこの瞬間を振り返る。
この白い世界で光り輝く聖剣が薙いだ時、成す術もなく光となった妹は勇者の一部となりボクの世界は終わりを告げた。
世界は救われた筈だった。
が、ある日目を覚ますとボクは何故か生きていた。
『自分は、時を繰り返している』
そう気付くのに時間は掛からなかった。
ボクは抗う。
ある時は、勇者の従者となり。
ある時は、村を焼き払い。
ある時は、精霊に戦いを挑み。
ある時は、知識のみを貪り。
ある時は、愛する女性と仲間を皆殺しにし。
ある時は、自分自身を殺して見せた。
そう。
何度も何度も…2000回くらいまでは数えた気がする。
だが、何一つ結果は変わらなかった。
もう、諦めよう。
どんなに抗っても妹は助からない。
今度は、何もせず安穏と日々を送ろう。
そう決めたら、『奇跡』が起こった!
ボクん家のトイレを破裂させた黒髪の少年。
彼は、今までただ繰り返されるだけのはずの場面をその場に居るだけで全てを塗り変える!
今まで、一言一句違えることなく繰り返された人々の会話は否応なしに変化しその行動は突飛なモノへ変わり決まりきった未来はまるで濁流に飲み込まれたように激動し何千回と世界を繰り返してきたボクでさえ彼が起した変化を予測する事は不可能だ!
ああ…!
コージ!
君の言うとおりだ!
決まりきった結末や避けられない運命なんてクソくらえだ!!!
ボクは、白い空間に佇む鋭い眼光を放つ赤い瞳を見つめた。
そんな中、只一つだけはっきりしている事がある。
ソレは、極めて不本意なことに今日此処でボクが死ぬと言う事。
悔しい…。
ボクは、コージが造り出すであろうこの先の世界をもう見る事は叶わないのだ!
クリスが、いつものように詠唱を始める。
いつものようにボクを殺して、いつものように勇者にガリィを殺させる気だろう。
だが、そうはさせない!
きっと、ボクが何千何万と世界を繰り返して来たのはこの瞬間の為だ!
◆◆◆
眩い閃光に舞い散る羽。
ソレは一瞬の出来事だった。
「なん だよ…コレ…?」
真っ白な空間に飛び散る『赤』。
突如大量の吐血をし、丸々としたふとましい体はゆっくりと地面に横たえる。
「レンブラン!!!」
俺は、倒れるレンブランに駆け寄った!
抱いていた赤ん坊を地面に降ろし、息苦しいそうに小刻み震える体にそっと触れる。
「ゴホッ!! ゴホッ!!」
激しく咳き込んだレンブランは、更に大量に吐血した!
「うわぁ! どうしよう! 俺、何すれば良い!?」
「ヒュー…はは…こ ジ…落ち着いてっ…ヒュー」
レンブランは、息も絶え絶えに力なく微笑む。
「落ち着けるか!! 全然だいじょばねぇじゃんか!?」
「はは…なんて顔してるんだい…?」
「笑ってる場合じゃねぇだろ!? どうすれば良い? 何がいる? どうしたらお前を助けられる?」
俺は、背負っていたリュックを下ろし手を突っ込み掴んだものを手当たりしだいに引っ張り出す!
「コージ」
レンブランが、俺の学ランの裾を掴む。
「ボクは もう、助からない…」
既に血の気の引いた顔が、『もう手遅れだ』と小さく呟く。
「止めろよ! そんな事言うなよ!! 怪我なら俺のほうが酷かったじゃん! 諦めんなよ! きっと何か方法が…!」
「コージ」
取り乱す俺を、緑色の瞳が見上げる。
「君に ボクの知識を全部あげる…ソレでなんとか生き延びるんだ」
「何言ってんだよ…?」
「…勘違いしないで…コレは取引だ」
レンブランの眼光が鋭く光る。
「ガリィを…妹を…守って欲しい…せめてあの子が殺される心配の無くなるまで…」
「レンブラン…!」
「ソレが出来ないなら、何も上げられない…そうなれば この空間からの脱出も出来ずに君は野たれ死ぬんだ」
『どうする?』っと、緑の瞳は試すように俺を見据える。
「馬鹿野郎…」
俺は、学ランの裾を握っていたレンブランの手を取る。
そんなの、答えなんて分かり切ってるじゃねぇか…!
白くなった唇が『ありがとう』と、微かに動いた気がした瞬間レンブランが俺の手を指が折れるのではないかと思うくらい強く握り返す。
「いっ?!」
苦痛に顔を歪めた俺を見て、緑の瞳が今度は『ごめんね』と呟いた。
バチッ!
一瞬にして何かが体を突き抜けて、目の前が暗くなる。
「う あぁ? あ"、あ"、やめ…ゴポッ」
胃の中のモノを全てぶち撒け、俺の体はレンブランの横に倒れビクビクと痙攣を起す!
『ごめんね…これが最善策なんだ』
頭にレンブランの声? が響く? 011000101101 0・? なんnだ?これぇぇ1100101101*
真っ暗な空間で身動き取れない中、ぞわぞわと体中の穴という穴から雪崩れ込む 0と1 頭 痛い?
なにコレ…え…痛い?
ちょと待って!!
ビキッと、内側から脳が膨張しうたような錯覚に襲われる!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
誰かが叫び声を上げている。
自分を掴まえる腕に、噛み付き引っかいて逃れようとするがそれは叶わない。
『ごめんnね、コージには魔力で継承が出来ないからこうするしかnいんだ00101mすkしだから』
もう止めてくれ!!! 頭が破裂する!!! もう入んない!!!
懇願も虚しく、許容を超えて雪崩れ込む0と1。
聞き覚えのある声は、オロオロしながら何度も謝る。
謝るくらいならもう止めてくれ!!
【ダウンロード残り50%】
振動に咥えて、まるで機械のアナウンスのような音。
俺は、叫び声を上げながら雪崩れ込む何かを追い出そうと地面に頭を叩きつける!
【ダウンロード残り30%…20%…10%…】
ビキビキと目の奥がどうにかなりそうな位痛い!!!
【0%…ダンロードは正常に完了しました】
そのアナウンスが流れた瞬間、苦痛が嘘のように晴れ俺は地面に頭突きをしたまま動きを止める。
額から溢れる血に、涙と鼻水…体の主要の穴と言う穴から体液が漏れる。
どうしよう…俺、もうお婿に行けない…!
「…てめ…っ!」
辛うじて、意識を保った俺は右手を拘束しているこの苦痛の元凶を睨む。
「ぁ…」
そこに在ったのは、血の気の引いた青白い顔に苦しいそうな表情で浅く呼吸を繰り返すふとましい体。
先ほどまで指が折れそうな位力強く握られていたその手は、その力を失いパタリと地面に落ちる。
俺は、地面に落ちた手を掴まえ力の限り握り締めた!
「れ んぶら ん…」
掴んだ手の平に、チリチリとした感触が流れる。
『驚いた…君って…本当に異世界から来たんだね!』
頭の中に声とも文字とも取れない何かが木霊する。
『ごめんね もう、体が持たなくて…脳に直接電気信号を送ってるんだ』
戸惑う俺に、すまなそうにレンブランは【言った】。
『異世界なんて本当にあったんだ…凄いや…コージには驚かされてばかりだね…』
苦しそうに呼吸を乱しながらも、その瞳は俺の傷を縫ってる時よりも輝いている。
『悔しいなぁ…もっと君と一緒に居られたらもっと色んな物が見れたろうに…』
レンブランに何か言わなきゃいけないのに、俺の口は只ぱくぱくと動くだけで肝心の【言葉】は抜け落ちてしまう。
言いたい事が山ほどあるのに何一つ口から出てこない!
早く言わなきゃ!
レンブランが…レンブランが…。
『ごめんね…痛かったでしょ?』
緑の目が細くなって俺を見る。
「いてぇよ…何が最善策だよ馬鹿…!」
何かが決壊したように、俺の目から涙があふれる。
『ごめん』
青白くなった唇が小さく動き、その直後レンブランは大きく息を吸った。
俺を見つめていた目が光を失い、握る手は急速に体温を無くす。
「あ 嫌だ! ちょっと待って…まだ!」
それっきり、レンブランは動かなくなった。
ああ 嘘だろ…? 何でレンブランが?
探していた妹に会えたのに!
きっと、これからガリィちゃんと二人で仲良く暮らせる筈だったのに!!
俺は、半開きになっていたレンブランの目蓋をそっと下ろした。
『貴様は何者だ…!』
くぐもった声が、訝しげに俺に問う。
俺に問うのは、視線の先に見える血の池蹲る赤い目に光る羽根の生えた女。
アイツが、レンブランを殺した!
許せねぇ!
俺は、握っていたレンブランの手を離しふらふらと立ち上がる。
『止めろ…来るなっ!!!!』
女は、俺に向って大量の羽根を乱射するがそんな物は無意味だ。
迫り来る羽根は、例の如く当る直前で消滅した。
『何故…何故…!!』
顔を歪め、這い蹲り逃げ出そうとする女の羽根を掴む!
コロシテヤル。
湧き上がるドス黒い感情。
掴んだ羽根先端が、ジュウっと音を立てボロリとまるで消炭のように脆く崩れる。
『ひぃ!!』
「怖いのか? お前は何千回とレンブランを殺してきたんだろ?」
赤い瞳は、殺されると言う絶対的恐怖に震える。
…レンブランはな、もっと怖かったんだ…!!
頭の中を0と1が渦巻く!
レンブランの『記憶』が、フラッシュバックのように駆け巡る。
ああ…頭痛がする…それに左目が焼ける様に熱い。
ふと、俺を見上げていた女の顔が驚愕に染まる。
『な…何だその『目』は…!?』
目? なんの事だ? そんな事どうでもいい…。
目的を達成するのにどうすれば良いのか、不思議と理解できた。
脳内を渦巻く0と1は、遍く数字の羅列から答えを導きだす!
俺は、それを口にした。
「コード:10238 クロノブレイク」
その瞬間、女のへたり込んでいた地面がバックり割れそこから現れた無数の黒い触手のような物がその華奢な体に巻きつく!
女は、背中の6枚の翼を広げ空に舞い上がろうとするも触手に絡め取られソレは叶わない!
その体は、バックりと地面に開いた黒い裂け目へズブズブと沈んでいく。
『私は! こんな所で屈する訳には行かない! この世界の為、女神様の為にも勇者を見守ら無ければならないのだ!』
女の体が発光し触手を弾き飛ばそうとするが、その努力は虚しく散る。
『何故! 何故解除できない!?』
「当たり前だ…コレはお前が思っているような物じゃ無い」
驚愕の色を浮かべた赤い瞳に映るのは、底冷えするような笑みを浮かべた黒髪に右目に黒を左目に明るい緑を宿した少年。
「お前もう死ねよ」
ドプン。
っと、音を立てその白い体は黒い裂け目に沈んだ。
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一筋の光すら射さない漆黒の闇。
その闇の中で、淡く光る小石程度の小さな光はソレの手の平で震える。
「ごくろうさん」
その言葉を聞いた小さな光は震えるのを止め、まるで喜んでいるかのように瞬いた。
「そうだ、終わったんだよ…後はアイツに任せてお前はゆっくり休むといい」
優しい声がまるで波紋のように漆黒の闇に溶ける。
すると、その小さな光は細い糸がはらりと解けるようにほどけ天へと昇る。
手の平から旅立つその小さな光を、ソレはまるで慈しむように見つめた。
「そんな顔をするなら助けてやればよかったじゃない?」
光を見送ったソレの背後から、もう一つが訝しげに声をかける。
「あなたの力があれば、それが出来でしょう?」
ソレは、光が旅立った手の平を握り締めフッっと微笑む。
「え~そんな事したら、小山田君が3つ目のオプション起動出来ないじゃん?」
「…」
『あーつかれた』っと、欠伸をしながら背骨を鳴らすソレの様子にもう一つは頭を抱えため息を付く。
「俺は、可愛い小山田君の為ならなぁんだてするさ★ そう、何だってね…」
小さく呟くソレの後姿に、もう一つは背筋冷たいモノを感じた。
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