イレギュラー

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 やっと、見つけた精霊の国への扉が向こう側から破壊された。


 お陰で、このエルフの首都から姉さんを追うことが不可能になってしまい途方に暮れたが嬉しい誤算もあった。


 それは、リリィとの精霊契約を完璧なものにする事が出来たからだ。


 これで、姉さんの今までの詳細や次の目的地など精霊だからこそ得られる情報が手に入る!


 少々高くついたが、魂を3分の1消費した甲斐があったというもんだ!


 姉さんの情報を人通り確認した僕は、ずっと気になっていた事をリリィに尋ねた。

   

 『それと、後一つ』


 『何でしょう?』


 『僕と一緒に、この世界へ来たはずの小山田についてだ』


 リリィが沈黙した。


 『どうした?』


  僕の質問に、明らかに動揺しているのが伝わる。


 『…申し訳ありません…何のことでしょう?』


 今度は、僕が動揺する番だった!


 『…何って…あの時僕と一緒にいた奴だぞ?』


 動揺を隠せない僕に、リリィがとまどう。


 『確かに、あの日ご主人様と一緒にいらした? ええ…覚えておりますが…』


 『だったら!』


 『ご主人様が、この世界へお渡りになった時…私は気を失っておりました…あの時『魔方陣』が発動したのは一重に『意思の力』』


 『意思の力? 何だソレ? 火事場の馬鹿力って事か!?』


 『それは何とも…ただ言えることは…』


 リリィは言葉を詰まらせた。


 『構わない言え!』


 『精霊契約をしていない者が、あの空間を無事通り抜ける事は出来ません…勇者様でもない限り…恐らくは死んでいるかと』


 それは無い!


 少なくとも小山田は、生きてたどり着いているはず…でなければ…!!!


 「ヒガ? どうした? 怖い顔して…美人が台無しだぞ?」


 振り返ったガイルが、聞き捨てならない事をいった気がしたが僕の耳には届かなかった。


 「…なんでも…ない」


 煮え切らない疑問が渦巻き、珍しく大盛りに盛られた炊き出しに喜ぶことも出来ず只栄養を取る為に口に流し込んだ。

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 「わりぃ、先行ってくれ!」

 

 「はっ? コージ!?」


 ボクは、敵に向って駆け出した背中を呆然と見つめた。


 意味が分からない!


 今にも壊れそうなくらい脆い体に魔力もなにも無い癖に、自分一人でどうにか出来ると思っているの?

 

 「っもう!!」


 猛然と向ってくる、コージにリーフベル、メイヤは魔法による総攻撃を開始した!


 「ファイヤーランス!」

 「ダイヤモンドミサイル!」


 効果が無い事は分かっているはず…コレは悪魔で時間稼ぎに過ぎだ!

 

 その証拠に、二人の背後でカランカが泣きじゃくる勇者を抱いたまま折れた大剣を構える。


 もう直ぐ、カランカの間合いに入る。


 一切魔力を使わず純粋な剣技による一撃!


 魔力による攻撃を一切受けないこのコージと言う名の謎の種族は物理攻撃には弱いと彼女なら気づいてる!


 「ライトニングレイ!」


 リーフベルが、空に向って手を突き上げる!


 カッと空が光り、まるで雨のように光の粒がコージに向って降り注ぐ!


 「どわっ! いてっいててっばよ!!」


 一粒一粒が凝縮された高濃度の光属性の魔力の集合体で、触れれば肉を溶かし骨をも貫く威力だと言うのにそれをまるでゴミでも叩くように払いながら前進するコージ。


 「化け物…!」


 「用意はいいれちか! カランカ!」


 呻くカランカにメイヤが視線を送りそれに頷く。


 「ウォールミスト!」


 メイヤが、詠唱すると辺りが何処からともなく濃い霧に包まれる!


 「うお!? 何だよコレ!?」


 突然辺りが一寸先も白く見えなくなった事に、コージはうろたえ足を止め立ち尽くす。


 白い霧に赤子のような鳴き声が響く。


 コージは『マジですか!?』とか『眼鏡超曇るんですけど!!』などと、悪態をつきながらそれでもどうにか前に進もうと足を動かした。


 今だとばかりに勇者をリーフベルに預け、カランカは地を蹴る!


 濃い霧の中、魔力を一切発しないコージの位置を捉えるのは剣士としての経験から来る予想と勘!


 白い霧に揺らめく黒に折れた大剣が振り下ろされた。


 ズパン!


 黒い影の胴から首が飛ぶ。


 「________なっ!!」


 が、手ごたえが明らかに違って彼女はうろたえる!


 そして、背後に気配を感じ_______バチッ!


 背中から突き抜けるような電撃に、彼女は膝から地面に崩れ落ちる。


 「君にこんな事、出来ればしたくなかったんだよ…」


 彼女の意識が飛ぶ寸前に聞こえた何処か悲しげな声。


 「何故だ…? アタシは 声 知って____」


 地面に崩れ落ちた彼女。


 …お陰で、ローブとお気に入りの枕が使い物にならない。


 「はぁ…コージ…全く世話が焼けるな…弟がいたらこんな感じなのかな…?」


 ボクは、一寸先も見えない白い霧に耳を立て鼻をひくつかせる。


 「あっちか…」


 その方向からするコージの匂いに向って、ボクは小走りで駆けて行った。


 

               ◆◆◆




  うぎゃぁぁぁぁぁん!!!

         うぎゃぁぁぁぁん!!



 真っ白な霧に、赤ん坊の泣き声が響く。


 「~~~何も見えねぇ!!!」


 俺は、自分の腕をぶんぶん振り回しながら取り合えず前に進む。

 

 もう自分が、どの方向から来たのかさっぱり分からない!


 …もしかした、らとんでもなく見当違いな方向に向って歩いているのではないかと心配になる。


 泣き叫ぶ赤ん坊の声は、物凄く近くに聞こえる気がするがどう言う訳か方向がハッキリしない。


 確かに普段物音のみで方向を判断するなんて事滅多にないし、こんな深い霧だって始めてだからなぁ…。


 兎に角、適当に腕を振りまわ_________んう?


 振り回していた右手が、何かさらりとした物に触れる。


 「ふえぇ!?」


 すると、可愛らしい声と共に突然今まで立ち込めていた霧が嘘のように晴れ辺りがくっきりと浮かび上がる。


 「え!?」


 「なん_____!?」


 「うきゃっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」 


 霧が晴れ、俺の視界が捕らえたのは手の平に絡む銀色の美しい綿毛のような髪と泣き叫ぶ赤ん坊を抱き驚愕の表情を浮かべる緑。



 あっ…どぉーもー。 


 固まる三人、泣き叫ぶ赤ん坊。


 「あっ…あっ…!!!」

 「そんな! 何の気配もしなかったのに!?」 


 赤ん坊を抱くリーフベルが驚愕の表情を浮かべ、背後からなので表情までは分からないがメイヤはガタガタと震える。


 「め メイヤを放して!」


 リーフベルが、少し距離をとりながら臨戦態勢を取る。


 その表情は正に、人質に取られた仲間を助け出さんとする決死の表情________って!


 「貴方の事は少なくとも悪い存在じゃないと思っていたのに!」


 まるで、信頼していた者に裏切られたように涙を溜める美しい瞳。


 え"?

 何コレ?

 もしかしなくても、俺_______!?


 「完璧悪役だよ、コージ」


 リーフベルの背後でふとましい影が、不機嫌そうに呻く。


 「な…!」

 「おっと、動かないで」


 レンブランは、背後からリーフベルうなじを掴む。


  「ボクの魔力なんて、君たちに比べたら弱いものさ。 だけど様は使い方でね、この神経の集まる首の辺り…ここに圧縮した雷撃を加えれば君の首から下を使い物にならなくする事くらい簡単なんだよ!」 


 「ひっ!!」


 まるで、昆虫を解剖する少年のような笑みを浮かべるレンブランとは対照的に身動きを封じられたリーフベルの顔に恐怖が浮かぶ!


 うわぁ~…レンブラン超楽しそう…べっ、別に羨ましくなんか無いんだからね!!


 「さ、コージの望みは君の抱えている勇者だ…あの子を殺されたくなかったら渡して貰おうか?」 


 レンブランの冷たい声が、リーフベルを更に追い詰める。


 「黒髪のあんしゃん」


 メイヤは、自分の髪を掴む黒髪の少年に話しかける。


 「わえわえは、魔王を倒す為女神様によってえやばえた守護者でち! 勇者はこの世界の希望! そえを奪うのがどーゆー事か分かってまちか?」


 その言葉に、俺はようやく自分のしでかしているこの状況を把握した。


 この三人の女は、この世界を救う為旅する言わば『勇者一行』これから様々な試練を乗り越え魔王を倒さなければならないだろう。


 かと言って、レンブランの妹を殺そうとしたり窓も無い部屋にこんな小さな子を入れとく理由にはならないが…もし、そんな世界の運命を賭けた冒険の途中に勇者がいなくなったら?


 間違い無く、このイズールとか言う世界は困った事に…つか、滅ぶよね?


 「うん、コージの突飛な行動には驚かされるよ…まさか勇者を誘拐しようと思い立つなんて! ボクにはとても出来ないや」


「誘拐って…まあ、そうなるのかな? …そう言う割りに、かなり貢献してるぜ? お陰で俄然此方が有利ですw」


 俺とレンブランの会話に特に反発するでもなく、沈黙するメイヤとリーフベルに対して赤ん坊は相変わらず俺のほうに手を伸ばし力の限り泣き叫ぶ。


 「ふふ…君たちさ、時間稼ぎのつもりなら諦めなよ? あの女剣士ならほら向こうで伸びてるからさ」


 顎でしゃくって見せる方向に目をやると、そこには折れた大剣を握り締めたまま地面に横たわるカランカの姿が見えた。


 「そ そんなっ!!」


 その姿を目の当たりにしたメイヤは、銀色の髪を震わせる。


 ソレは怒りなのか恐怖なのは背後からでは分からないが、メイヤの表情を見ることの出来たリーフベルはいよいよ青ざめる。


 「あ 大丈夫、死んでないよ! 気を失ってるだけだからね!」


 「っ…おまい達…!」


 メイヤが、肩を震わせ声を押し殺す。


 「そんな顔しないでよ、ボクとしてはガリィに手を出さなければ君等も勇者の事もどうだって良いんだけど…コレばっかりは…」


 緑色の瞳が『どうする?』っと、聞いてきた。

 

 ゾクッっと、俺の背中に甘美な痺れが伝う。


 ふは…何コレ?


 まるでこの場を支配したような高揚感!



 震える銀髪の幼女に、恐怖に引きつる僧侶、圧倒的な魔力と身体能力をもつ彼女達の命は何処にでもいるような平凡な少年に握られている。


 「わかった…勇者をあなたに…!」

 「リーフベル!!?」


 レンブランにうなじを掴まれたままリーフベルは、赤ん坊をそっと地面に降ろす。 


 俺は、もう少し虐め足りない気持ちを押し殺しメイヤを開放して赤ん坊に駆け寄る。



 「うぎゃぁぁん! うに"やぁぁうぅぅぅ…」


 「よーし! 泣くな、怖かったなぁ~」


 抱き上げ、軽く背中を叩くと赤ん坊は嘘のように泣き止む。


 その様子を見ていたリーフベルは、訝しげに眉を潜めた。


 「相変わらず良い感…いや洞察力がいいのかな?」


 背後で獣人が喉を鳴らす。


 もはや、りーフベルにはレンブランの話など耳に入らず食い入るようにお少年と勇者を見比べる。

 

 「大方、君の予想は当ってるし仲間の事が無くてもコージに勇者を渡したのは正しいよ…ボクとしては迷惑この上ないけどね!」


 「ああ! そんなっ…!」


 既に、レンブラン手から開放されているにも関らずその場に立ち尽くし言葉を失うリーフベル。


 「永久の輪廻を歩む勇者と言えど、再生されてしまえば外見や基本的な組織はその再生させた種族に既存する。 まぁ、かなり変質してるみたいだけど結論から言えばあの子を成長させることが出来るのは同じ種族であるコージだけだよ」


 「ウソ!!」


 「ボクも、こんなの初めてのパターンだからびっくりしたけどさ! なんせあの子の『主食』はコージみたいだし、だから…今にもナイフで襲い掛かろうとしてるあの小さい娘は止めたほうが良いよ?」


 しれっと、レンブランが指を指した先にはこれぞチャンスとばかりにナイフを構えたメイヤが赤ん坊に気をとられた少年の背後に迫っていた。


 「メイヤ! ダメぇぇぇ!!!!!」


 リーフベルが叫ぶと同時に、地面を蹴ろうとしたメイヤの足に地面から植物の根のような物が飛び出し絡む!


 「リーフベル!? 何するれち!?」


 「うお!? なんだ? 仲間割れか!?」


 しゅるしゅると植物の根で拘束されていくメイヤに、状況を飲み込めない俺は慌てて距離をとる!


 「誰の所為でこんな事になったと?」


 仲間割れか? 


 などと、的外れなことを言うこの謎の少年をリーフベルは睨みつける。


 彼は一体何者で、何処から来たのか…勇者を再生させ魔力を一切持たず魔力を一切受け付けないという事意外に詳細は一切不明だがコレだけは確かな事がある。


 認めたくない。


 認めたくないが、コレは紛れもない事実だ。


 今、この瞬間。


 世界の運命が、唯一勇者を成長させる事の出来るこの少年に握られていた。


                ◆◆◆



 う~ん…コレってどういう状況だ?


 木の根に絡まれ身動き取れず、悪態をつく魔女っこ幼女。

 地面に倒れピクリとも動かないセクシーダイナマイツな剣士。

 今にも爆笑しそうなのを堪える隠れドSの獣人。

 そして、俺を睨みつけながら幼女を拘束する植物の根を操っているだろう僧侶エルフ。


 「世界の運命を握った感想は如何ですか?」


 リーフベルは、丁寧な言葉を使いつつも其処には言い表せないような怒りを織り交ぜた。


 は? 世界の運命? 何言ってんの?


 「どーゆー事れちか!?」


 身動きの取れないメイヤの問いは、リーフベルの表情を更に硬いものにした。


 「貴方の目的は何? どうして、こんな事をするんですか!?」


 「はぁ? 目的?」


 まるで、詰め寄るような問いに俺は混乱する。


 「貴方のした事は世界を滅ぼしかねない程の危険に晒しています! とぼけるんですか!?」


  怒鳴ったリーフベルの声に、ようやく泣き止んでいた赤ん坊が今にも泣き出しそうな顔する。


 「お前等なぁ~世界がどうとか、そんなモンの為にレンブランやガリイちゃんを殺そうとしたりこんな赤ん坊をまるで物みたいに扱うとか! そっちの方がどうかしてんじゃねーのか!?」


 「『そんなものモノ』 …? この世界には、何千何万という生命が息づき循環しているんですよ? それらを守る為、脅威を除くのは当たり前じゃないですか!」


 リーフベルは、さも当然のようにまくし立てる!


 まるで、話にならない。

 この世界の連中とは、分かり合える気がしねぇ!!!!


 「じゃぁ、お前は世界を救う為に自分の家族とか大切な人を差し出せとか言われたらそうするのかよ!」


 俺の問いに、リーフベルは口ごもる。


 そーだ、そーやって少しは人の身になって考えてみろ!!


 「そーゆー、あんしゃんには何か考えがあるんれちか?」


 スパンっと音がして、木の根が切り刻まれ拘束されていたメイヤはローブに付いた土を払いながら立ち上がる。


 いや、無いけど?


 俺は、咄嗟に出掛かった言葉を飲み込む。


 「もし、今ここで狂戦士を倒しておかなかったら勇者様は完全体になれないし仮に魔王を倒しても輪廻に戻らりてしまっては誰も狂戦士の暴走をとめらえないれち!」


 はぁ?


 何言ってんだコイツ?


 俺は、耳を疑った。


 「お前、今なんつった?」


 「何がれちか?」


 メイヤは、俺の問いに訝しげに眉を寄せる。


 「勇者が魔王を倒して…何だって?」


 「…? 魔王を倒せば勇者様は輪廻に戻られるれち! ましゃか、あんしゃんそんな事も知らんれちか?」


 信じられないと言う表情を浮かべるメイヤを尻目に、俺はレンブランのほうを見る。


 レンブランは、俺の無言の問いにゆっくりと頷いた。


 視線を落とすと、腕の中の赤ん坊はいつの間にか寝息を立てている。


 「勇者は…この赤ん坊は、魔王を倒せば……死ぬのか?」


 「そうだよ」


 いつの間にか俺の直ぐ隣に移動したレンブランが、その問いに答える。


 「その子が、完全体になって魔王を倒せば外観を模った器は壊れて元の『在るべき所』へ帰って往くのさ…ボクらの死の概念とはかなり違うけど」


 「そんなっ!」


 「本来、勇者は魔王との決戦までの道のりの大半を従者に守られながらあの封印結晶の中で過す…そして、この世界を構築する7属性の精霊獣を倒しその力を吸収して『完全体』になる」


 其処まで言うとレンブランは拳を握り締めいつも浮かべる温和な表情とは一転、憎悪に満ちた瞳でリーフベル、メイヤそして寝息を立てる赤ん坊を睨みつける。

 

 「ガリィの事だって、君等にとっちゃこの勇者の糧でしかないんだろう?」


 レンブランのふとましい腕に小さな稲妻がバチバチと火花を散らす。


 「そんな事…」


 「そりの何処がいけないでちか!」


 何事か答えようとしたリーフベルの言葉を、メイヤが遮る!


 「あの獣人は、もう元には戻らんれち! どんな方法を使ったか知らんれちが、そんな方法では長くは持たないれち! いっそ殺してやったほうが_____」


 「黙れ!!」


 怒りに身を任せ地面を蹴ろうとしたレンブランの肩を、俺は素早く掴んだ。


 「放せ!」

 「レンブラン、俺決めたよ」


 俺は、血走ったライトグリーンの瞳を真っ直ぐ見つめる。


 「勇者、マジで誘拐するわ!」


 少年の黒い瞳に、驚愕の表情を浮かべる獣人の姿が映った。



                ◆◆◆




 「「な!!」」


 俺の言葉に、外野の二人がハモる。


 「コージ…本気なの?」


 レンブランの瞳が揺れ、ようやく搾り出した声で問う。


 「そんな事したら、世界は滅ぶよ?」


 「滅べば良いんじゃね?」


 俺は、事も無げに答える。


 「貴方!! そんな事が許されると______」

 

 「黙れよ」


 キャンキャン吠えるエルフの言葉を遮り、睨みつけて黙らせる。


 「何が世界の為だ…聞いてて頭に来るんだよ…!」


 俺の腸は煮えくり返っていた。


 正直、こんなに頭にキたのはクリア寸前のゲームのセーブデータを従兄に消された時以来だろう。


 「…何で、世界を救う為に勇者が死なねばならない? どうして、ガリィちゃんが狂戦士だからと殺されなきゃいけない? …他の誰かが平穏無事に生きる為に誰かの犠牲が当たり前なんて俺は認めねぇ!」 


 俺は、ポカンと呆けたように俺を見ているリーフベルとメイヤから視線をレンブランに戻す。


 「レンブラン、良かったら俺と一緒に来ないか? 俺とレンブラン、ガリィちゃんに赤ん坊4人でさっ、比嘉と霧香さん探しに行こう! つーかお願いします!」


 「コージ…君って奴は…」


 レンブランが呆れたようにため息をつく。


 「自分がどれだけ無茶な事言ってるか分かる? まるで子供じみてる…滅べば良いなんて、勇者を攫うなんて、『世界』に対する戦線布告もいい所だよ!」


 『けど…』っと、レンブランの険しかった表情に笑みが浮かぶ。


 「…最高だよ、コージ! 今でのどんな瞬間より!」


 「ほっ…よかったぁぁぁ! 断られたらどうしよう思ったぜ~」


 俺は、玉のように吹き出た冷や汗を吹く。


 ここで、断られてたら恥ずかしすぎて死ねる!


 てゆーか、別のリアルな問題こんな世界で俺一人とかガチで死ねる!


 「まっ、コージの仲間を探すってのは最初にボクが言い出した事だし行かないなんて言ったらコージなんてこの世界じゃ生き残れないもんね!」


 「あはっw ごもっともです」

 

 こりゃ、当てにしてたのばれてますよね。


 「さ、何がともあれ先ずここから逃げなきゃね!」


 レンブランと俺は、既に臨戦態勢に入った勇者の従者達を見据えた。


 さて、どうしたもんかね…?


 「逃げられると思っているんですか! 先程は不意を突かれましたが、私達とあなた方では実力が違います! 諦めて下さい!」


 「テラワロスw! そーいう事言うのは、鼻血を拭いてからにしなっての! この腐女子が!!」


 俺の言葉に初めて鼻血に気づいたリーフベルが、『ひゃう!?』っと手で鼻を覆う。


 つーか、さっきの俺とレンブランの会話で何でそこまで萌える事が出来んの?



 腐女子パネぇぇぇ!!


 「リっリーフベル!? 何があったんれちか!? あんしゃん! 一体何をしたれちか!!!!!」


 メイヤは、滝のように鼻から血を吹き膝を着く仲間の後頭部をトントンしながら俺を睨む!


 「腐腐…俺はそいつの心の扉を開いたまでさ…キラッ☆」


 「ココロノトビラ? 何ソレ! 一体なんの呪いなの!?」


 レンブランが、興味津々に瞳を輝かせる。


 「いやぁ…実はあのおん_____」


 「いっ! 言わせません!!! タイダルウェーブ!!!!」


 手で鼻を押さえたまま、リーフベルが魔法を放つ!

 すると雨なんていない筈なのに、まるで空間から突然現れたように細かい水の粒が現れ一気に凝縮されたかと思うとまるで大きな津波のように俺たちに襲い掛かる!


 俺は当然のように、寝ている赤ん坊をレンブランに預け津波に対峙する!


 ゴブシュゥゥゥゥウゥゥッゥ!!!!


 巨大な津波は、俺の眼前で放射状に裂けそれ以外の周辺は木の根すら残さず押し流された。


 「はぁ はぁ…押し流す位は出来ると思ったんですが…!」


  衣服すら汚れの無い俺たちを凝視して、リーフベルが苦悶の表情を浮かべる。


 「化けモンれち! せめてカランカがいれば…!」


 メイヤが呟く。


 っか、こんな派手な攻撃しやがって!


 もし、避けた魔法が放射状に飛散しなかったら剣士は今頃流されて木に突き刺さっていただろうに!


 まっ、何がともあれ時間稼ぎは十分だ。


 全くもって、良いタイミングというか少女達の背後に迫る白い影をちらりと見る。


 俺に、気を取られている少女達はその迫り来る脅威に気付く素振りは無い。


 ソレは、ある一定の距離に近づくとその牙だらけの口ばしを大きく開けた!



 「撃ってコッカス!」


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