俺の嫁は狂戦士①

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 『比嘉、お前の事は必ず俺が見つける…だから心配スンナ!』


 『賢者の墓』と呼ばれる神殿の地下にある巨大なクリスタルに浮かぶ映像。


 そこに、膝から下しか映っていない僕のクラスメイトは元気そうな声で事も無げに言った。


 『…皆で家に帰ろう!』


 まるで、三人で一緒に元の世界に帰るのが当然のように小山田は言う。


 言葉が見つからない…。


 『とりあえず、行き違いになるかもだから…これに…おっと!』


 バサっと地面にあるのもが落ち、小山田の手がすかさずそれを拾った。


 間違いない、あれは今僕の背中に挟まれてる古文書と呼ばれたノート。


 『俺、此処に来てから日記的なもの書いたわけよ…んで! これを____げ!? もう時間!? マジで~まだ言いたいことあんのによ~』


 映像の中の小山田は、誰かにせかされたのか慌てたように捲し立てる。


 『え~と…これのアレをアレして、こうだからこんな感じでアレになるから! きっとこのノートは比嘉の役に立つ! 受け取ってくれ!』


 何やらノートを使い方をジェスチャーしているようだが、膝から上が見切れているため全く分からない!!


 『それと、ごめんな…お前の言ってた事信じてやれなくて』


 なんの話だ?

 

 僕は、突然謝罪しだした小山田に困惑する。


 『もっと真面目に話を聞いてやれば、こんな事にはならなかった…マジごめん!!』


 まさか、この世界に飛ばされた時の事言ってるのか!?


 「そんなの! 僕の所為に決まってるじゃないか!? なんでお前が…!」


 僕は思わず声を荒げた。


 小山田は、全く持って今回の件とは無関係だ!


 その日、たまたま姉さんの通う高校の前で出くわしただけ…それに僕が姉さんの消えた現場まで道案内をさせなければ小山田は今も呑気に学校に通っていたはずだ!


 恨まれこそすれ、心配や謝罪なんて…僕にそんな資格は無い…。


 『っと…もう時間だ…じゃぁな! 比嘉、もしかしたらもう合流してこの画像を一緒に見てるかもしれないけどなw』


 ジジジジジ…と、画像が乱れる。


 「小山田…」


 小山田は、分かっていない…自分が僕達より千年も先に着いた事を。


 いくらそこで僕や姉さんを探しても見つかる筈ない事を。


 ノイズと共に小山田の姿は消え、クリスタルは無機質に輝いた。

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 あたたかい。


 まるで、温もりを求める子猫のように両手を伸ばしその胸に体を埋めた。


 トクン。

   トクン。


 と、波打つ鼓動が温もりの主が血の通っている生き物である事を指示しす。


 もっと温もりがほしくて、しがみ付く様に回した腕に力を込めると少し苦しそうに呻き声を上げたソレが自らの腕で凍えた体を強く抱きしめる。


 ああ…こんな風に抱き締められたのはいつ以来だろう?


 脳裏に浮かんだのは、泣き叫ぶ緑の瞳。


 そうだった。


 最後に温もりに触れたのは、この力が覚醒して『封印の森』に閉じ込められる事が決まった日。


 小さなガリィを抱いて逃げまどう、まだ幼かったお兄ちゃん。


 遂に捕まり引き離された時、まるで自分の腕でも切り取られたかの様に泣き叫びながらガリィの名を呼んでいたお兄ちゃん。


 『必ず迎えに行く!』


 遠ざかる声に、小さかったガリィは意味も分からず泣き叫けぶ事しか出来なかった。


 術師によって永久に解けない封印結界を張られ、森に捨てられてどのくらい経ったのだろう?


 森の魔物すらこの力を恐れ、言葉や意思の疎通を拒否される…そんな環境で自我を保って居られるほどこの精神は強くなかった。


 徐々に言葉を忘れ、感情は希薄になりこみ上げる破壊衝動に身を任せ狂った様に森の魔物達をただ殺して回る。


 でも、もう大丈夫。


 この体を抱きしめる腕の中で、壊れてしまった何が組み立てられ底冷えするほど冷たかった体が温められていく…。


 お兄ちゃん、ガリィずっと待ってた!

 もう、離さないで!

 これからは、ずっとずっとず~っと一緒だよ!


 今まで強く体を抱きしめていた腕がそっと髪をなでる。

 「ごめんな」


 知らない声が、今にも泣き出しそうに呟いた。



 「オニィチャ…?」


 抱きすくめられた腕の中からソレを見上げた。


 ソレは、見たこともないような真っ黒な髪に真っ黒な目をしていて顔に何かキラキラ光るおかしな物をつけている。


 「良かった…成功したんだな」


 少し驚いた顔をしたをしたソレは、アタシをじっと見てほっとしたように呟いた。


 誰!? お兄ちゃんじゃない!


 「体内に流れる微弱な電気信号を使って、脳内の海馬から記憶を掻き集め潜在意識にリンクさせて崩壊した精神を再構築した…その代わり…」

 

 意味の分からない事を呟きながらソレは、苦しそうな何ともいえない表情を浮かべ少し睨むような視線を向ける。


 「あ~も~! クソッ! どうすんだよコレ! ガリィちゃんの所為だからな!」


 そう言うとソレは、更に強くガリィを抱きしめた!


 ぎゅーってされて、少しむず痒いようなピリピリとした感触が触れ合った肌から全身に広がる。


 『君が好きだ』


 音とは違う、まるで直接頭の中に流れ込む『ナニカ』。


 「!!!!?」


 『脅かしてごめん…今、信号使って脳に直接話しかけてる…こんなの言語で伝えるのとか無理っ!』


 『ナニカ』は、理解出来る言葉を超えて叩きつけるように頭に雪崩れ込む!


 熱い!?

 頭が沸騰しそう!


 『どうしよう、俺、ヤバイ…愛してる! 愛してるよ! ガリィちゃん!!』


 恐い! 恐い! 恐い! 助けて! お兄ちゃん!!


 「あーうー」


 ゴリュ!


 痙攣していた尻尾の先に感じた、咬み付かれたような痛み!!


 「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ガリィは、体にしがみ付いていたソレを雷撃で吹き飛ばした!


 「がはっ!!」


 ソレは、抵抗する間も無く弾き飛ばされ近くの木にぶつかって止まる。


 「はぁ はぁ はぁ…!」


 「あつつ…ひでぇよ…俺体弱いんだから優しくしてよ…」

 

 死んだと思ったソレは、後頭部を押さえながらヨロヨロと立ち上がった。



            ◆◆◆




 しまった! やり過ぎたぁぁぁぁ!


 俺の好みどストライクの金髪けも耳全裸美少女が、その髪と同じ輝く金色の瞳に恐怖の色を浮かべ涙を溜めながらガタガタと振るえ地面にへたり込んでいる!


 あ~あ~どうしょ~こんな事するつもりじゃなかったのに!


 あの後、あの白い女を亜空間に沈め振り返った時には死んだ筈のレンブランの姿は無く残されていたのはもぬけの殻になった衣服にリュックサックときょとんとした顔でこっちを見てる赤ん坊。


 どういう原理かは未だ解明されていないらしいが、この世界では死者の死体は残らない。


 どう言う訳か、家畜や魔物以外の種族は一部の例外を除き_____なんて知りもしなかった知識が勝手にこの状況を理解させる。


 俺は、痛みとか色々な物でドロドロになった体を引きずりレンブランの居た場所に戻りもぬけの殻になった衣服を尻目に傍に放置されたリュックに手を入れ中をまさぐる…四次元空間のように無限に広がるリュックの闇の中からソレは容易に見つける事が出来た。


 ずるっ。


 俺は、掴んだソレをリュックから引きずり出す。


 白いが、所々汚れた傷だらけの腕。


 その腕を引っ張り、脇に手を回して、その全身を四次元の闇から取り出した。


 「…レンブラン…」


 苦痛に顔を歪め眠る金色の髪に耳と尾をもつ少女を抱きとめ、俺は亡き少女の兄の名を呟く。


 この世界で最もこの少女を愛し、永久に繰り返す時の中でたった一人で運命に抗った『英雄』。


 …そして、何処の誰とも知れない俺を救った恩人。


 たとえ、それが途中からとは言え妹を救うために利用されたからと言って感謝こそすれ恨みなどしない。

 何らかの意思がそこに働いていたとして、もしレンブランに出会えなければこんな得体の知れない世界で何の力ももっていなかった自分は間違いなく死んでいただろう。


 その恩人は理不尽な運命に殺され、膨大な知識と妹を俺に託した。


 『…妹を…守って欲しい』


 レンブランの願い…非力な俺に守れるだろうか?


 少女は唸り声を上げ、振るえながらその体に稲妻を走らせる。


 方法は分かっている。


 レンブランの想いと共に全てこの頭に刻まれた!


 俺は、シャツを脱ぎ上半身裸になって稲妻の塊を抱きしめる…まだ上手くコントロール出来ないから接地面が広いに越したことは無い。


 「コード:40335ブレイン・コネクト」


 全身を駆け巡る電磁場を手繰り俺は、少女の意識にダイブして壊れた意識を掻き集める。


 それから2週間。


 リュックにあった食料で最低限の栄養補充をし、赤ん坊の世話以外全てを崩壊した精神の修復にあてたよ。


 努力の甲斐あって、不完全ながらもガリィちゃんは自我を保てるまでに回復したさ!


 …その代わり…俺の心は引き裂かれた…。


 記憶をベースにするとは言え、完全に破壊された精神は俺のサポート無しに構築されない、つまりコレは更地に基礎から家を建てるのと同じだ。


 そう。


 0から…ガリィちゃんをどう『造る』かは俺しだい…コイツの全ては俺のモン…。


 ゾクッ…と、腰が砕けそうな甘美な高揚感に狂おしいほどの愛おしさが込上げる。


 赤ん坊に前歯が生え一週間もしたころには、外郭が形成され人格が急速に成長するさまを目の当たりにして俺自信の激しい感情が溢れだしそうでヤバかった!


 うっかりこんなの流したらショックで壊れるだろうから!


 つか!


 それ以外にも理性(性的な!)が、かなり危険なラインまで上り詰めてブレイク寸前の所で最終防衛ライン『レンブランの遺言』が発動し本能の暴走を止める…その繰り返しだ!


 ラスト3日間は、己との戦い!

 正に死闘と言っても過言ではない!

 まさか、最初の敵が自分自身だったとは…!


 己との死闘に勝利し得たのは、構築が終了し静かに寝息を立てる俺のマイ・エンジェル。


 嗚呼!

 頑張った俺!

 自分で自分を褒めてやりたいね!


 …なんて…自画自賛した直後、不安げに腕の中から見上げた金色に理性がぶっ飛んだ訳だけど。


 弾き飛ばされ木に激突。


 魔法系が一切効かない俺でなければ死んでいたであろう『狂戦士』の雷撃!


 危なかった、もし物理攻撃だったらマジであの世行きだったな…。


 俺は、恐怖に震えるガリィちゃんを眼鏡越しに見る。


 良かった~抑えきれなくて一気に感情を流し込んじゃったけど精神は保たれているみたいだ、タフに造っといた甲斐があったぜ…。


 痛む後頭部を摩りながら立ち上がると、金の瞳が恐怖に染まる。


 ああ…クソ可愛い…。


 「そんなに恐がんないでよ…ガリィちゃん」


 もっと、泣かせたくなるじゃねーか…。


 「ひゃう!」


 迫り来る恐怖からその場を逃げ出そうと立ち上がったガリィちゃんが、可愛らしい悲鳴をあげその場にヘナヘナとへたり込む。


 「う"に"ゃぁ! はっ、はなしてっ!」


 ぷるぷる震える伏せた耳に、顔を真っ赤にして目に涙を溜めるガリィちゃん…なんだ?


 へたり込むガリィちゃんが、震える指で必死にそれを指す。


 ガジガジ…モジュモジュ…。


 「う"?」

 そこには、一心不乱に金色のフサフサの尻尾の先端にむしゃぶりつく赤ん坊が悪びれもない表情で俺を見上げる。


 そういや最近歯が生え始めたからやたら何か齧りたがるんだよな…。


 「やぁ…とって…コレとてぇぇ~…!」


 どうやら、尻尾が性感帯らしいガリィちゃんは体に力が入らずたった今まで脅えていた相手に助けを求める。


 全裸のけも耳美少女が、涙目でお願いとか!


 何コレ!?

 グッジョブmyson!

 俺、今なら萌え死ねる!!!!


 俺はぐつぐつ煮えたぎる欲望を抑え、ガリィちゃんの正面にしゃがんで視線を合わせる。


 「あ はっ? ひぅ!」


 「やぁ、始めまして…って言うかもう二週間は添い寝してたんだけど…俺は小山田浩二…お兄ちゃんの友達だよ」


 『お兄ちゃん』と聞いて、涙目の金色の瞳が見開く。


 「お おにいちゃん…ドコ…?」


 まるで、小さな子供が不安げに浮かべるそれは俺の心を締め付ける…ふざけてる場合じゃねーよな…。


 俺はガリィちゃんの背後に回り、ぷるぷる震える尻尾を引っ張って赤ん坊から取上げる。


 『あーうー』と不満そうな声を上げる赤ん坊に、最近お気に入りの俺の赤いスマホを渡すとごきげんでガジガシと咬み付いた。


 「さて…」


 俺は、肩で息をするガリィちゃんに視線を向ける。


 「レンブランからの伝言だよ、受け取って」


 意味など理解する間も与えず、背後からガリィちゃんを抱きしめ伝える。


 俺の中に記憶されたレンブランの想い…君はお兄さんにこんなにも愛されていだんだ。



 背後から抱きしめる腕の中で、泣き叫ぶ金色。



 何故? どうして? 嫌だ! と叫びながら、体中から雷を走らせる。


 妹は知った。

 

 兄が、何千と世界を繰り返し自分を救くわんが為に死んだ事。


 そんな兄の前で、自分が何千と死んでしまった事。


  そして、苦しみもがきその果てで恐らく今度こそ兄は『死ねた』のだと。


 「俺は、レンブランと約束した…君が誰からも殺されないくなるまで守るって」

 

 背後からする声は、恐ろしく冷静で静かだった。


 先ほど、までの『熱』は微塵も感じられないまるで無機質な冷たい鋼のような意志。 


 「ど して…?」


 当然の疑問だろう、狂戦士は死なねばならない。


 死して勇者の糧となり、世界を救う礎の一部と化す。


 兄はこの『理』に抗い続けてくれたが、命すら投げ打ってもついぞ成功はしなかった。


 恐らく、『世界』と比べ兄や自分の存在など__________。


 「『認めない』」


 それは、兄の声と重なった。


 「全てを救うために一つを犠牲にするなんて…大勢の為に一人を切り捨てるなんて俺は認めない! そんな事でしか守れない世界なんぞ滅べばいい!」


 雪崩れ込む感情に『火』がつく…吐き気がするほどにグツグツと頭の中が沸騰する!


 『だから、俺は決めたんだ』


 なにを?


 『全ての元凶を…時と時空を司る女神クロノスをぶっ殺す……!』


 まるで、殴られたかと思うほどに叩きつける『意志』。


 ぁ ダメ。


 女神クロノスが、世界にとってどういう存在かそれは4歳までしか外界にいなかった身にも解る。


 この暖かな温もりの持ち主は、神を『世界』を敵に回すつもりだ!



 ああ…余りにも脆くこんなにもか弱いのに…!


 その背後から回る腕は、もし自分が軽く肩を震わせるだけで簡単に付け根から下が弾け飛ぶだろう。

 

 伝わる微弱な電流は、背後から抱きしめるソレが魔力は愚か己の傷すら即座に回復出来ない程脆い種族であることを知らしめる。


 もし、ソレに死なれたらまた自分は『兄』を失う事になるだろう。


 兄の意志も想いも、もうそこにしか残っていないのに!


 そっと離れる温もりに、縋り付きたい思いを堪えて妹は誓う。



 __もう『お兄ちゃん』を絶対に死なせはしない__



            ◆◆◆



 「女神を倒すってどうするの?」


 朝露きらめく爽やかな森で朝食を食べていると、ガリィちゃんが急に話を切り出してきた。


 「ゴホッ! 朝っぱらからディープだね~ガリィちゃん…」


 「真面目に答えて!」


 金色の瞳が、向かいに座って肉を頬張る俺を睨みつける。


 はぁ…良く見れば、ガリィちゃんはキャンピングテーブルに乗せられた食事に手をつけてない。


 まぁ、レンブランが死んだとか世界が何千回も繰り返してるとか起き抜けにつっ込み処満載の情報をぶち込まれれば食欲も無くすかね。


 「ガリィちゃんは、俺が守るから心配スンナって!」


 「そんなの無理だもん!」


 ガリィちゃんは、憤慨したようにテーブルを叩き俺の方に身を乗り出す。


 「コージは、こんなに弱くて脆いのにどーやって女神を倒すの!? それに、守るってなに? ガリィのほうがずっとずっと強いんだよ!」


 「まぁ、落ち着けよ~先ずは飯食えってば! ガリィちゃんはこの二週間、ろくなもん食ってないんだからさぁ」


 「そんなの_______?」


 トン。


 俺は、眼前まで迫った半ば興奮気味なガリィちゃんの額を人差し指で軽くこずく。


 「『おすわり』」


 すると、ガリィちゃんは『ふにぁ?』っと可愛らしい声をあげストンと自分の席に腰を落とし頭に『?』を浮かべこずかれた額を摩る。


 ちょっとビリッとしたかもな。


 「一日の始まりは朝食から! コレで食料も最後だし説明は此処を出た後って事で!」


 俺の言葉に、ガリィちゃんがカクンと首を傾げる。


 「出る? 森から出られるの?」


 「もちのろんですよ~俺がどうやって森に入ったと思う? まぁ、先ずはこの空間から脱出しなくちゃいけないけどね…」


 俺は、足元で這い回る赤ん坊を抱き上げ膝に乗せる。


 そんな俺をガリィちゃんは、更に訝しげに眉ひそめなが睨み真っ赤なドンドルゴの実に齧りついた。




 「……コレでよしっと!」


 俺は、レンブンランの四次元リュックにテントやキャンピングテーブルやなんやを詰め込んで肩に担いだ。


 これど程の重量の物を詰め込んでも、体積や重量が変わらないなんて流石レンブランの造った道具…有名な猫型ロボットを彷彿とさせる万能っぷりに頭が上がらない。


 「よーし! 準備はいいかー? 忘れもんないなー?」


 周囲を見回し、確認する。


 「あうーああー」


 足元で赤ん坊が、亜麻色の目を輝かせ俺の真似をして声を上げる。


 「おっと、お前は抱っこだな~」


 その様子を、少し遠巻きに見つめる金色に俺は手を差し出した。


 「おいで」

 「何がおこるの?」


 まるで、人見知りな猫のように尻尾の毛を逆立てて不安げな表情を浮かべるガリィちゃんに頭の中で悶えながら半ば強引にその手を掴みに行く!


 「見てなよ」


 「え? あ??」


 手を握られた事に少し驚いたガリィちゃんだったが、それ以上に周囲を見回し言葉を失う。


 「も 森が消える…?」


 驚愕に染まる瞳に写るのは今までそこにあった筈の木々や草、土までもがまるで糸が解けるようにその形を失い消滅するという不可解な現象。


 あっという間に、森は消え空の青すら色を失う。


 「うきゃぅぅぅ!?」


 地面の土が消える感触が素足には気色悪かったのかガリィちゃんは、俺の腕にピッタリと体を寄せ両足で体にしがみ付く!


 え? 何コレ密着しすぎでしょ柔らかっ!!


 超らっき…ぐっふっつ!?


 余りの出来事に恐怖するガリィちゃんの両足が、容赦なく俺の胴を締め上げる!!


 「まって! まって! 出ちゃう! 内臓でちゃうぅぅっぅ!!!!」


 突然消えた森と、あたり一面真っ白な空間にガリィちゃんの恐怖メーターは振り切り畳まれたけも耳は俺の命乞いなど聞こえ無い!!


 死ぬ!

 このままでは、死んでまう!!!



 「コードっ! 50447…オープン・ザ・ドアっ!!」


 げっふぅう!

 あまりの締め付けに適当なコード名を…恥じよう…!


 その瞬間、一瞬だが地面の感覚が無くなる。


 「うにゃぁぁあぁぁぁ!!」


 「きゃっ! きゃっ!」


 「ぐふっ!!!」


 効果音をつけるなら、『ドサッ!』とか『ベシャ!』ってのが似合いそうな感じで俺たちは地面に叩きつけられた。

  真っ白な空間から一転、俺の目に飛び込んだのは緑の草木と衝撃を吸収するような顔に当る柔らかい感触。


 内臓さえ締め付けられてなければ、さぞ至福の瞬間だっただろう。


 地面に叩きつけられると同時に、胴にしがみ付いていたガリィちゃんの足が緩む。


 「ごほっ! …たすか______」


 チャキッ!


 ガリィちゃんに覆いかぶさるような状態から顔を上げた俺の額に、触れるか触れないかの擦れ擦れに突きつけられる見覚えのある『大剣』。


 「やっと、現れたねぇ…『黒髪の男』!」


 2mはあるであろう長身に褐色の肌、少し伸びた短髪の赤い髪を後ろで束ねそいつは冷たく微笑む。


 思わず『姐御』と呼んでしまいそうな雰囲気のその人は、はちきれんばかりの豊満なバストを窮屈そうに白銀に輝くプロテクターに押し込めそれ以外上半身には何も身に着けず下半身はプロテクターと同じ素材と思われる腰当てにシンプルなブーツ。


 一見、軽装備に見えるが恐らく使われているのは高純度のオリハルコン。

 この装備なら一撃くらいガリィちゃんの本気の雷撃にだって耐えられるだろう。


 「あら、カランカさんじゃないですか~えらく重装備ですね? 今からピクニックですか?」


 「いや…狩だよ、長らく待ってやっと獲物がかかったのさぁ…なんだかお取り込み中みたいだけどねぇ」


 俺は、抱いてた赤ん坊をガリィちゃんの腹の上に置いてゆっくり上から退き立ち上がる。

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