第二十八話 不知火先輩の購入

 来栖は会計班の長である。虚無部では毎日、虚無的に金銭が飛び交っているので、彼女は涼しい顔をしているが、いろいろと大変そうだ。

「班長、資料買いたいんで部費回して」拝が言い、そのリストを読んで来栖は一考の後、

「拝君、この『泥人形殺人事件』は駄目です。こちらの『誰にでもできる気軽な邪神召喚~外宇宙の声~ 第三章 俺の妹が軍艦巻きを六十個食べたら爆発した件について』はかまいませんが、泥人形は却下ですわ」

「ええ? 査定厳しくなったんじゃないの? 『じゃがいも』がいいなら泥もいけるでしょ?」

「冗談お言い、泥は本格ミステリに見せかけた純粋数学論に見せかけた本格ミステリなのだとわたくしは既に存じ上げているのよ」

「クソ、ばれたか。じゃあ『じゃがいも』だけでいいや」

「では『じゃがいも』の代金七八〇〇円よ」

 次に蛍宮が髪を脱色するための代金を出して欲しいと言い、その理由として、自分が髪をブリーチした状態が基本であるが現在プリン頭になりつつあり、脱色を維持しないと部内の秩序が乱れると主張した。そして、さらにはV字型をしたギターを購入する代金を出して欲しいとも言い、その理由は、弾かないけど部屋に置きたく、自分の精神状態が平常に保持されるのは部内の秩序を保つために必要、と寝言のようなことを言い、「お母さんに買ってもらいなさい」と来栖に一蹴された。

 続いて朽葉が虚無班で必要な物品の明細を持ってきた。七年前の新聞、どこにも合わない特注の鍵、先端部分がすべて取り去られたフォークなどの無意味で虚無的な品物を、来栖は厳格に審査し、必要なものだけに許可を出した。

 雨引は電球や掃除用具などの物品と、部内で食べるお菓子などを申請したが、伊集院が持ってきたマシュマロがまだ三ケースあるからとお菓子は却下された。雨引は「もうマシュマロなんて見たくない」と言いながら退出して行った。

 最後に不知火先輩がやって来て、何か聞き取れない単語を言うと、来栖が部費の六割近い額をあっさりと手渡した。いったいなんだろうと購買に先輩とともに行くと、ただでさえ薄暗い売店群の奥のほう、ひどく生臭い臭いのする場所で先輩は、老店主にまた何か聞き取れない単語を言い、紙袋に入った何かを買った。

「先輩、それはなんですか」

「機密だ。こればっかりは親愛なる鷹無さんにも見せられないんだ」

「その袋、今動きませんでしたか」

「ああ、私が動かしただけだよ」

「いや、中に何か生き物がいるのでは」

「いないよ。なあ日日谷君。ほら、彼もそうだと言っているじゃないか」

「そういことにしても良いのですが……」

 後日、自分もそれを買ってみようと貯金を下ろして生臭い店の場所へ行くと、そこは床屋になっており、件の店はすでになかった。

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