第二十三話 不知火先輩の探索
幻京都は巨大だ。そして異形である。都市が数十、数百キロに渡って続く所もあれば、延々と何もない原野の層もある。何があったのか、都市が打ち捨てられ、廃墟のみが広がる地域もある。とある晴れた日、鶫と不知火先輩は、学校をさぼって二人でそういう放棄区域へ入り込んだ。何のためにやって来たのかは判然としなかった。
藤波区の東の外れにその場所はあった。放棄されて数世紀が経過しているかのように、路面は樹に覆われ、天を突く建造物には草が繁茂していた。
少し歩くと、路面が崩れ、瓦礫で構成された急な下り坂となっている。その下は暗くて見えない。上を見上げると、横倒しになったビルや道路が辺りを囲み、大きな穴の底にいるかのような錯覚を抱いた。
陽光が差し込み花が咲き乱れている。穴の上からは大量の水が滝のように降り注いでいる。破裂した水道管か何かがそのままになっているようだ。
「湊区のほうにもこういう場所があるんだ」不知火先輩が言った。「かつてあった都市がまるごと海に沈んでいて、ビルが海上に突き出している。そこもここと同じように樹が繁茂していて、鳥の巣になっているんだ」
「これも随伴体でしょうか? 虚無人が誰か出現した際、一緒に都市に滑り込んできたのですか」
「恐らくは」先輩は頷いたが、「とは言え、近年は虚無が増加の一途を辿っている。もはや随伴体としてじゃなく、単独でこういう巨大な地域さえ、虚無から生成されるようになっているのかも知れない」
「今、この場所が消えたら、つまり虚無へ戻るのなら、わたしたちはどうなるのでしょうか?」
「同じように消えるかも。そして、誰も我々を思い出せないかもしれない」
鶫はそれは困るな、と思った。
存在になんの保障もないのは困る。明日か、あさって、できれば来週くらいまでは、存在していたいものだ。
とはいえ、この街に住んでいる以上、もはやその保障は得られないのかも知れない。誰もが、虚無人はいつ消えるか分からない、儚い存在と思っている。だけど、それは耳が尖っていない人間も同じかもしれない。若干のタイムラグはあれど、すぐに忘れられてしまうという部分も。
このまま消えるほうがある意味幸福かもしれないな、と鶫はふと思った。
不知火先輩が顔を妙に近づけてきて、「鷹無さん、意外と睫毛が長いね」と言った。
鶫は「いえ、皆が短いだけかも知れませんよ」と答えた。
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