第十五話 不知火先輩の提案

 その日は虚無部の幹部会議があった。

 鷹無が会ったことのない各班の長がやって来て、狭い部室はごった返した。

 技術班の汐留、会計班の来栖、雑務班の雨引、そして虚無班というずばりな名前の班は、長が虚無人だった。朽葉由縁くちばゆえんという二年生で、もちろん不知火先輩と同じく髪が白、耳は尖っていた。銀縁の眼鏡をかけた、痩せた男子生徒だ。

 班長以外のレギュラーメンバーもいて、鷹無と拝も同席していた。

「諸君、幹部会議だ。今月も〈赤髭男爵〉についての報告を頼む」

「部長の方からは何もないのかしら? あればお先にどうぞ」来栖が言った。金持ちっぽい雰囲気の女子だが、別にそうではない。

「〈男爵〉は幻京湾沖に停泊中で、動く気配はない。それに関しては先週の報告の通りだが、昨日になって少し変化があった」

「翼が形成されたのだろう?」朽葉が厳かに言う。「赤の氏族には珍しい形態だが」

「湊区の虚無協会のやつらが手を加えたんじゃないのか?」汐留が胡散臭げな顔で言った。「先月の焼肉パーティのとき、なにやら不穏な気配があったぞ」

「あれは拝君の舌禍のせいだと思うけど」雨引は本人を睨んで言ったが、拝はそ知らぬ顔だ。

「いずれにしろ、〈男爵〉が赤髭であるのは変わりない。〈赤髭男爵〉の本質には影響はないだろう」観測班の班長、飯田が言う。

「しかし、このまま形式的進化が続くとヤバいんじゃないのか?」調理班の大塚が不安そうに言った。「去年の〈風上小僧〉の例もある」

「知事はなんと言っているの?」来栖が、情報班の西園寺へ尋ねる。

「現知事は親赤髭派だ。ノー・コメントを貫いている。このままでは……」

「第六次横断が現実のものになるのではないだろうか」

「そうね」

「ヤバいな」

「まずいね」

「まずい……」

 全員が非常に緊迫した状態になり、場の空気を変えようと思ったのか、不知火先輩は「まあ、バーベキューでもしようか」と提案した。

 一同、校庭へ出て、バーベキューをした。調達班のなんとかという人が鉄板とか薪を持ってきてくれて、調理班のみんながいい具合に焼いた。

 その日は聞きそびれてしまったが、鷹無は〈赤髭男爵〉ってなんなのだろう、とずっと疑問に思っていた。最初は有力者のいかめしいおっさんをイメージしていたが、翼が生えただの、海上に停泊中だの、生物兵器なのか、挙句の果てにそれを巡って何か大事になっているし。というかなぜ虚無部の幹部がそれの動向を話し合うのか、と。

 しかし、男爵は虚無人関連の何かだったらしく、翌日には鷹無の記憶から消え、永遠に誰もそれについて話すことはなかった。

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