第十二話 不知火先輩の策謀
そのあと秋葉と鶫が部室へ行くと、不知火先輩が一人だけいて、瞑目していた。
「何してんのよ、姉さん」秋葉が問うと彼女は目を開けて、
「ああ、
「彼はそんな手に引っかからないっしょ。返り討ちに合うのが落ちだね」
「なら泥水を汲んできて出会い頭にかけよう」
「そういった蛮行も結構だけど姉さん、校内やこの部屋でやるのはよしてよ、マジで」
「ピーマンが入ったカレーってあまり食べたことないけどおいしそうですね。私は苦いのがだめなので大抵パプリカで代用しますけど」
鶫がそう言うと、不知火先輩は「パプリカとはなんだ?」と質問した。
「パプリカはピーマンみたいなやつですよ」
「どう違うの?」
「色が黄色だったり赤かったり、あとあまり苦くないです」
「それは秘密裏に鷹無さんが作り出した遺伝子操作の産物か?」
「いえ、私が作ったわけではないですが」
「とにかく、私が言いたいのは示しをつけなくてはならないということだ。拝君もだし、あの彼、君たちの同級生の」
「竜胆ですか、あいつは今日も帰りましたよ、ゲームをやるとかって」
秋葉がそう言うと不知火先輩は大仰に両手を広げて、
「ああ、なんてことだ。私の統率力も地に落ちたな」
「いかなるカリスマ性をもってしても、あいつは靡かないっしょ。だからこそ姉さんは部に誘ったはずだ」
「いかにもそうだ。虚無的な天才、天才的な虚無が世の中には存在するということだ。竜胆君や拝君、二年の来栖さんやあとあいつ、名前が出てこないけどあいつとかそいつとか、そういう人材を集めて私のプロジェクトを進展させたいところなのだが。ああそうだ響、竜胆君の脳髄にちょっと細工をして私に従順になるようにしてくれ」
「それはできかねるんだけど、何、条件付けかなにか施せって? それとも洗脳?」
「まず竜胆君で実験しつつ拝君だ」
「思うんだけど姉さんはもう少し優しくしたほうがいいんじゃないの、拝君とかに。苛烈すぎる態度は姉さんの長所であり短所だよね。そうでしょ、鷹無さん」
鶫は、どうでしょう、と言うに留めた。
「いや、拝君は一度痛い目に合うべきなんだ。そして虚無感に浸ることで新しいステージへ登ることができる。そういう意味で、私が伝道師になるのだ。虚無を通過することは巡礼だ。彼のために私は泥を浴びせる」
毎度ながら奇怪な理論に秋葉と鶫が閉口していると、当の拝がいつもの気だるげな顔で入ってきて、すべて聞いていたのか、あるいは彼女の策謀を察したのか、一言、
「部長、泥仕合はやめてよ」
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