第七話 不知火先輩の無体

雨引あまひきさん、この前はひどい目に合わせてくれたな」

 銅錬寺駅前のファーストフード店で、パーカーを制服の上から羽織った女子生徒を見つけるなり、不知火先輩は不条理に絡んだ。

「は? 何が?」相手はハンバーガーを齧りながら、「また始まったよ」と言わんばかりの目で先輩を見た。

「不用意に雨を呼んでしまいひどい目に合った」

「それがあたしとどう関係があるとうの?」

「名前が」

「あたしの名前が雨引つまり雨乞いだから、その因果関係があるにしろないにしろ何となく絡んできてらっしゃるわけ?」

「いかにも」

「じゃあ仮にあたしが海水浴に行ってさ」

「ああ」

「夜に沖合いに鬼火があってすごいびっくりして、その責任をあなたに求めたらどう思うかな? 不知火ってもともと海上の鬼火のことでしょ」

「今日では蜃気楼によって漁船の灯りが映し出されたものとされているがな」

「あるいはインチキな拝み屋に騙されて、その責任を拝君に求めたら、それって変じゃない?」

「一体君は何が言いたいんだ?」

「いや不知火さんこそ何をいたいのか分かんないんだけど」

「私の言うことは虚無のように澄み渡っているじゃあないか」

「いや霧中だと思う。五里霧中。ごりごりの霧中」

 二人のやり取りを静聴していた鶫は、人様の立派な名前を個人的もやもやで弄くるのは失礼だという教訓を抱き、同時に「もうこりごりですよ」というギャグを思いついたが口にしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る