第六話 不知火先輩の実践

 不知火先輩は屋上に鶫を呼び出した。屋上と言えど周辺に巨大な建造物が立ち並び、空は狭い。

「今日はいよいよ実践的に虚無を認識する方法を学んでもらう」

「はい、一体どうするというのか見ものですね」

 先輩は銀色の装置を取り出した。ごちゃごちゃと配線が絡まり、いろいろと部品が追加された、小型の目覚まし時計のようだ。

「これは虚無観測装置だ。我が部の技術担当班が作ったもので、虚無を見事に認識する」

「見事にですか」

「見事にだ。使い方だがまずメインスイッチを入れる。この赤いボタンだ。次に安全装置を外す。この黒いボタン。次に燃料供給ボタンを押す。この黄色いボタン。次に第一ボタンを押して第三ボタンを押す」

「第二ボタンはどうしたんですか?」

「卒業式に後輩にくれてやったよ。そして燃料の青色エーテルが十分に供給されたころに第五スイッチを入れる」

「第四スイッチはどうしたんですか?」

「四は縁起が悪いから付いてない。そしてこうだ」

 長針が零時から六時の辺りまで移動する。

「これで虚無がひとつ明らかになった」

「どれで、ですか?」

「現在この装置によってこの付近、具体的には仮想距離にして三十キロほど上空の虚無が観測された。虚無は観測されると実体化する。そして、落ちてくる」

「どこに」

「そこら辺だ」

 すると、とたんに猛烈な雨。堪らず二人は校舎内に逃げ込んだ。

「なんですか、それは人工降雨機じゃないですか?」

「違う。虚無を観測し、その中身に豪雨が含まれていたのでこういう結果になった」

「それは開けてはいけない箱の中に希望が入っていたとか、そういう話ですか?」

「何だいそれは、蛍宮君よろしく昨晩見た夢の話?」

「いえ、昔からある話ですよ」

「まあ雨はすぐに止む。少なくともあと十分もすれば」

 しかし雨は、止まなかった。不知火先輩の傘に二人で入って、滝のように降り注ぐ雨の中、急な坂を下って駅まで濡れながら帰るしかなかった。

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