第五話 不知火先輩の明暗
それからしばらくして鶫が自発的に部室へ行ってみると、拝とともに脱色した髪の男子生徒がいた。彼は読書中で上の空の拝に話しかけては「ああ」とか「へえ」とかいう曖昧模糊とした返事しかもらえず、それでも延々彼に、昨晩見た夢の話をしていた。それは大海で鮫を釣ろうとしていたらいつのまにか近所のコンビニにいて、吉川さんという人とすごく親しげに話すが、現実でそういう名前の親戚とか知り合いはいなくて、不思議だ、という内容だった。
話が一段落するのを見計らって鶫は彼に挨拶した。相手は会釈し、
「こんにちは。俺は二年の
「明度とは?」
「ブライトネスとダークネス、明暗、そういう感じの」
「それはネクラとかネアカっていう性格的な比喩ですか?」
「いや」蛍宮はどう説明したものか決めかねている様子で言った。「そういう話ではなくて」
「この場の明度ではなくわたしの明度の話ですか」
「そうです。輝度とか光度ではなく明度の話です。鷹無さん個人の」
「えーっと、それは魂の明るさの位とかの話ですか?」
「え?」
「魂の明るさの位」
「何でしょうかそれ、鷹無さんの入っている宗教の話ですか? そういうスピリチュアルな話ではないです」
「では何の明度の話なのですか?」
「なんと言えば一番いいのだろう……こう、置かれている状況というか、そうせざるを得ない度合いというか」
「強制力の話ですか? 本人の意思と関係ない」
「いえ、そうすると比喩的な明度の話になってしまいますよね? そうじゃないんです」
恐ろしく要領を得ない相手に対し鶫は立ち去りたい思いが募ってきた。
するとドアが開いて不知火先輩が入ってきて、
「蛍宮君! いい加減君は……」
言いかけたところで拝が「明暗分けろ」と本から顔を上げないで言った。
「おい、私の台詞をだな……」抗議する先輩を制して拝は、
「それを言うなら『白黒付けろ』ですかね。まあ蛍宮さんの発言と絡めたかったんでしょ、部長」
「君のようなやつはラプラスの悪魔に引き裂かれてクラインの壺に閉じ込められろ!」
「ああこの本面白えな」
この二人の明暗が分かれたな、と思いつつ鶫は蛍宮が、鮫を釣りに行ったんだよ、とか何とかぶつぶつ言うのを聞いていた。
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