第四話 不知火先輩の帰宅
拝に部室を追い出された二人は購買へとやって来た。ここは校舎外の闇市場と半ば一体化しており、どんなものでも金さえ出せば手に入る。鉛筆、消しゴム、シャープペン、ミサイル、希少動物、絶版本、誰かのプライベートな秘密、海賊版レコード、飽くまで豚のだという説明書きのある内臓、有名ブランドのものではない、聞いたことのないメーカーのコーラなど。
二人はソフトクリームを買い、むやみに広いフードコートで食べていた。後ろの席で明らかに学校関係者ではない人相の悪い男達が、重そうな袋を受け渡しているが、周囲の誰も気にしていない様子だった。
「すまない鷹無さん、やつは昔からああいう曖昧というか胡乱な男でね。まあ我が部はそういう曲者ぞろいなんだ。虚無部だからやむを得ないところはあるが」
「いえ、読書は大事ですからね。彼を尊重してあげたほうが」
「そういう女神のような優しさは命取りになるぞ」
「彼のほかに部員はどのくらいいるんですか?」
「うーん。二十人から七十人くらいかな」
「二十人と七十人ではあまりに違いますよ」
「一人で三十人ぶんくらい数えていいような、虚無的なやつがいるんだ。あと、入ったのか入ってないのか曖昧なやつ、現世に存在していないがそのうち戻ってくるやつ、虚無人たる私よりもずっと虚無なやつもいるし、不定数というのが一番いいだろう。代数でX人としておきたいところだ」
「活動は何をしているのですか?」
「まあ虚無を認識し、調査することかな」
「虚無とは?」
「虚無は虚無だ。私の故郷にして、仮想的な場所だ。その辺にある」先輩は空中を手でなぞった。
「その辺なのですか?」
「もう少し上かも。いずれにしろ目に見えず、認識はできない、そして存在していないかもしれない。しかし存在していなくてもそこにある。存在しているかどうかというのは、ひとつの状態を示す情報でしかないのだ。猫が好きか犬が好きかといったくらいの」
「そんな代物をどうやって認識し、調査するのですか?」
「その具体的な方法について説明したいところだが、実践的に教えるべきだろう。今日は帰る。今すぐに」
そして本当に不知火先輩は、恐るべき速さでその場から立ち去ってしまった。風のように。
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