第二話 不知火先輩の勧誘

 それから何度か朝の電車で不知火先輩に遭遇して、ある日鶫は虚無部に誘われた。

 不知火先輩は虚無部の部長を務めているそうだ。

 それは一体なにをするのか、と聞くと、

「虚無部はそう、虚無なんだ。この私と同じく、だ」

「具体的にどう虚無なんですか」

「具体性はないが虚無なんだ、虚無だから」

「トートロジーが好きですね、先輩は」

「実際そう説明するしかないだろう。この世界だって虚無じゃあないか」

「具体的には?」

「鷹無さんは具体性が好きだな」

「話が纏まらないじゃないですか、ある程度は具体的じゃないと」

「そうは言うけど、例えばあれについて具体的に説明できるだろうか?」

 先輩は初夏の空を指差した。そこには名状しがたい生物が浮かんでいる。巨大なメンダコと言うのが一番近そうだが、機械部品や鉱物なども混じり合っている。生物ではないのかもしれない。いつからあるのかも分からない。虚空から出現した虚無的物体である。

「あれは正体不明な物体ですよ」断定的に鶫は言った。

「正体が不明であることが歴然とはな」

「先輩の正体も分からないです」

「それはそうだ」先輩はこれもまた、断定的に言う。「虚無だからな」

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