アップルティーとレモネード

 萌は休憩コーナーでエルニを待つことにした。下着の試着にも付き合おうとしたが、エルニの猛烈な抵抗を受けたからだ。


 お金だけを渡してエルニの好きに選んで貰うことにしたが、面倒になって、結局衣料品売り場の3枚999円のようなショーツで、済ませてしまったりはしないだろうか。


「レースのとか着せてみたかったなあ……」


 萌には恥ずかしくて買えないような大人っぽい物でも、エルニには似合うように思う。エルニも恥ずかしくはあるんだろうけど、似合うのなら良いじゃないか。


 缶のアップルティーを飲みながら、ぼんやりと自販機のサンプル商品のラベルを眺めていると、休憩コーナーに一人の少女が入ってきたのに気が付いた。


 年のころは10歳くらいだろうか。寒がりなのか、セーターにカーディガン、フード付きのジャンパーと、ずいぶん着込んでもこもこしている。

 サンプルを見渡し、財布からお金を取り出して投入する。欲しい商品のボタンに手が届かないようで、少女はしきりに背伸びを繰り返している。お目当てはホットのレモネードのようだ。


「これ?」


 見かねて萌が代わりにボタンを押すと、少女はしばらくじっと萌の顔を見つめた後、にっこり笑って頭を下げた。


(間違ったのかと思ったよう……)


 萌は席に戻り、少し冷めたアップルティーを口にする。商品を取り出した少女は、萌の隣に座りペットボトルのふたを開けた。その間、何故だか視線はずっと萌に向けられたまま。


(まただ……また見られてる)


 今日はキャスケットを被っているが、もちろんそれで頭髪すべてを隠しきれてはいない。


 中学入学時や高校進学時、節目節目ふしめふしめに黒く染めることは考えたが、肌の青白さのせいで、かえって病的な様子に見えてしまう。やっぱり自分に似合うのは、生まれたままの白い髪に白い肌。萌はそう思うようにしている。


「白いね?」

「ムはっ!?」


 口を開いた少女のストレートな物言いに、萌は思わずむせ込んでしまう。無邪気な分、子供のほうが残酷で無遠慮ぶえんりょなこともある。怒ったり悲しんだりしても仕方ないと、萌は今までの経験で学んできている。


「うん。生まれつきだからね」


 萌がハンカチで口元をぬぐう間も、少女はしげしげと萌の顔を見つめ続ける。


「中身も白いの?」

「……中身?」

「内臓とかの中身。ああ、唇とか性器とか、なかにつながってるところで分かるか」

「…………」


 旺盛おうせいな好奇心からの言葉かもしれない。けれど萌は、隣に座り視線を絡め続ける少女に、徐々に薄気味の悪さを感じ始めていた。


「お姉ちゃん、気を悪くした? ごめんね。でも、人間の白子しらこは、はじめて見たから、収蔵しゅうぞうする価値があるかなって思って」

「収蔵? しまっちゃうってこと?」


(この子、何を言ってるのかな?)


 繰り返す萌の問いかけに、少女はにっこり笑顔でうなづき返す。


「あとでちゃんとさばいて確かめないとね。でもその前に――」


 言葉の意味を咀嚼そしゃくしきれず、困惑する萌を後目しりめに、少女は視線を外し、休憩コーナーの入り口に目を向けた。


「エルニ?」


 そこには、買い揃えたばかりの真新しい服に着替えた、エルニが立っていた。


「茨の国に、黒いほうの魔女が現れたっていうから、ひょっとしたら会えるかもって、探しに行く途中だったのだけど。これって幸運ラッキーなのかな?」


 少女は小首をかしげ微笑ほほえんだ。


「こいつはとんだ拾いものだ! 貴属のクセに、領地りょうちも作らず従者じゅうしゃも無しで独り歩きか。道理どうりで見付からないわけだ!!」


 エルニは整った顔に獰猛どうもうな笑みを浮かべた。着替えた服を入れたショッピングバッグに手を突っ込むと、鞘に収まる短剣を掴み出す。


「ご大層たいそうに、国なんか構えるから狙われるんだよ。このボク、輝夜姫かぐやひめリドロネットにそんなものは必要ないね!」


 エルニの抜き打ちを苦も無くかわすと、少女はエルニの脇をすり抜け、店内へと駆け出した。


「え、剣!? ちょっと、エルニ!!」


 鞘ごととはいえ、店内で剣を振り回して少女を追いかければ、当然騒ぎになってしまう。状況を半分も把握出来ていないが、何か大変な事が起きたのだけは理解できる。


 エルニが放り出したショッピングバッグを拾い集めると、萌は慌てて二人の後を追った。

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