下着もだよ!

 電車で二駅揺られると、大きな街に出る。午前中だけの授業を終えた萌は、友人のみずきも誘ってみたが、残念ながら何か予定があるらしく、断られてしまった。


 エルニのことをちゃんと紹介して、悪い人ではないと納得して欲しかったのだが、誕生会の楽しみに取っておくことにする。


 駅を出てすぐの百貨店に入り、婦人服売り場に向かう。

 買い物に付き合ってくれるよう誘いはしたが、今回のメインはエルニの服を見繕うこと。


 整った容姿。均整の取れた、程よく引き締まった肢体。

 お風呂上がりの一糸まとわぬ姿を見てしまってからずっと、萌はエルニにお洒落をさせたくてうずうずしていた。萌自身は気後れしてしまうような、お姉さん向けのファッション誌で見るような服でも、モデルのようなエルニのスタイルなら、きっと似合うに違いない。


 髪と肌の色を考慮し、落ち着いたフェミニンなイメージでまとめてみる。


「ちょっとこれはヒラヒラし過ぎだろう」

「えーなんでー? じゃあ、これ」


 今度はあえて反対に、寒色系の大人っぽい雰囲気で。


「布足りなくないか?」

「そういうデザインなの!」


 みずきが萌に着せたがるような、フリルやレースの多いガーリーなチョイス。


「カワイイ!!」

「柄じゃねえよ……」


 お次はエルニ本来のイメージに合わせ、ボーイッシュな感じで。パンツではなくスカッツなのは譲れない。


「実用的じゃないだろ?」

「そういう基準で選んでないよう!」


 萌が何を選んでも、エルニは文句を返しそうな気がする。

 ここは趣味に走って、萌が着せてみたいと思う、童話っぽいクラシカルなものを。


「やっぱりこれは合わねえよ……」

「そんなことないよう! すごく似合ってる!」


 5回目のコーディネートで、早くもエルニは音を上げる。


 萌も予算を度外視して着せ替えを楽しんでいたので、気に入られても困ったりしたのだが。


「それじゃあ、こんな感じで?」


 エルニの抵抗が比較的小さかった、シンプルなボレロと揃いのワンピースに、処分価格のダッフルコートを合わせる。これならかろうじて予算内だ。


「レギンス履けば、スカートでも大丈夫だよ」


 エルニが見ていないうちに、萌はレギンスを飾り気のない物から、サテンリボン付きのガーリーなデザインの品と、こっそり取り換えた。


「あとは下着だね」


 エルニは疲れと羞恥と苦々しさが微妙にブレンドされた表情で頷く。

 そこにほんのちょっぴり、嬉しさが混じっているように見えたのは、萌の気のせいばかりではないはず。


「ここまでして貰う義理はないよ」

「はらぺこでひとのアイス食べ尽したうえ、髪をつかんで逃がさなかったの誰だっけ?」

「う……それは」

「せっかくだから、着替えて行こうね?」


 エルニに拒否権は残されていないようだった。


 萌はエルニの腕を抱きかかえ、ランジェリーショップに向かう。中学2年生になった頃、萌は初めてみずきに連れて、初めてこの店を訪れた。


 それまで下着は衣料品売り場で買い揃えていた萌にとって、足を踏み入れるには敷居が高すぎる場所だった。それが、萌自身が友人を連れてくる側になる日が来ようとは。誇らしさと使命感で胸を一杯にし、萌はエルニの下着を選び始める。


「エルニのサイズは?」

「ん? ……うーん?」


 今エルニが付けているのは、萌が予備で買っておいたブラトップのキャミソールだ。家に干してある洗濯済みの物も、味もそっけもないスポーツブラだった。


「自分のサイズくらい把握してなきゃダメだよ。ちゃんと測ってもらわないとね!」


 お姉さんぶってさとす萌に、エルニはげんなりした表情を返した。


 放っておくと、シンプルな商品のサイズと値段しか見ないエルニを引っ張り、萌はわくわくしながら店内を練り歩いた。


「試すだけならいいよねえ?」


 萌は自分では絶対選ばないような、大人向けのビスチェやガーターベルトを手にし、ちらちらとエルニに視線を投げる。


「やめろ。頭の中で着せ替えるのもやめろ!」


 首筋まで赤くなったエルニは、抗議の声を張り上げた。

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