宮内みずきが云うことには

 冬枯れたポプラの並木道を、思い思いの挨拶を交わしながらコート姿の学生達が歩いて行く。いつもながらの登校風景。どこか気だるげな表情が目立つのは、期末試験を終え、春休みを待つだけの期間だからか。


 萌にとっても、授業らしい授業を受ける訳でもなく登校するのは、おっくうとしか言いようがない。


「だから、そもそも知らない人を泊めちゃいけないって言ってるでしょ!?」

「……エルニは悪い人じゃないよう」


 隣を歩く幼なじみ、宮内みずきのあきれ交じりのお説教に、萌は反論を試みる。

 みずきの言うことはいつも正しい。いつだって萌のことを気遣ってくれているのも分かる。だけど、萌だって何の考えもなく、知らない人間を家に招待しているつもりはない。


「このご時世に、旅行者ってだけで怪しいでしょ!? あんたは一人暮らしなんだから、いくら相手が女の子でも、ほいほい簡単に家に上げちゃ駄目よ?」


 叱られた萌は日傘を下げ、しょんぼりとマフラーに口元を埋めてしまう。


 言い過ぎたか。


 少しきつい印象を与える、みずきの目元がゆるめられる。みずきにとって、萌は幼稚園からの付き合いの長い幼なじみだ。幾つになっても世間ずれせず、庇護欲をかきたてる妹のような存在だからこそ、ふわふわと危なっかしい言動には、つい当たりが強くなってしまう。


「ニュースでやってたでしょ。茨の国に魔女が現れたんじゃないかって話」


 世界を改編した貴属達は影響だけを残し、そのほとんどが姿を消している。


 この街の一番近くに存在していたのは、眠り姫の治める茨の国。広がり続けていた茨の森も、その勢力を失った。先日のニュースでは、調査の結果、力を失った眠り姫だったらしい少女と、主を失ってもなお眠り続ける人々が残されているのを、発見したと報じていた。


 その原因は不明。貴属を狩る魔女の仕業だと噂されるが、その存在については、貴属以上に情報が少なく、みずき達にとっては文字通り噂話の中の存在でしかない。


「エルニが魔女だっていうの?」


 萌は上目づかいで問いかける。


「だとしても、貴属でもないわたし達には、どっちみち関係ないんじゃない?」


 噂話には続きがある。

 貴属を生むのも魔女の仕業だと。

 姫君達の使う魔法の力の源は、魔女に叶えてもらった願いなのだと。


「そういう話じゃあないの! わたしは、萌ももう16になるんだから、もっとしっかりしなさいって言ってんの!」

「誕生会、来てくれるんだよねえ?」


 萌の恐るおそるの問いかけに、みずきは力強く応えた。


「あたりまえでしょ!」

「それじゃあね、プレゼントのリクエストはねえ――」

「だまれ、ずうずうしい!」


 喜色を浮かべ、いつもの調子を取り戻した萌は、指を立て注文を付け始める。


 みずきは笑顔の萌の頭を抱え込み、わしわしと髪をかき乱した。

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