ベーコンエッグとチョコレートケーキ

「目玉は二つでいい?」


 温め直した昨夜の残り物がテーブルに並ぶ。朝食にはそれだけでも充分な量だというのに、萌はベーコンエッグを焼いている。人をもてなすのがそんなに楽しいのか。


 エルニは朝起きてそのまま立ち去ろうかと考えていた。しかし、洗濯された服を探しているうちに、起き出した萌に捕まってしまい今に至る。


「急ぐ用事があるの?」


 萌の言葉にエルニは不意を衝かれた。

 ギフトを集めなければという焦燥感にも似た思いはある。

 だが、あとわずかだという確信はあるものの、眠り姫のように居城を構える貴属の情報はなく、白い魔女の足取りも掴めないまま。


「ない……かな?」


 それになにより、カリカリベーコンが焼ける脂の香りには抗えない。エルニはテーブルに着くと、テレビのリモコンを操作した。


「ひざ立てるのお行儀悪いよ!」


 萌の言葉にお座成りに頷き、エルニは椅子の上で胡坐をかきチャンネルを変える。貴属に関するニュースはない。

 世界が改編される事が日常茶飯事になった今となっては、よほどの大きい動きがない限り、貴属関連の情報がメディアに流れることはない。


「足組むのもダメです!」


 右手に焼きたてのベーコンエッグの皿。左手を腰に当てた萌がたしなめる。ちゃんと座らないとお預けということらしい。エルニは大人しく座り直した。


「こんなヒラヒラしてるから見えるんだろうが……」


 ネグリジェのすそを摘まんでぼやくエルニに、萌は怒った顔を作ってみせる。


「女の子はスカートじゃなくても、足崩して座っちゃダメなの!!」

「そういうもんか……」


 皿が置かれればこっちのものと、エルニは萌のお小言を聞き流して食事に取り掛かる。


「いただきますは?」


 エルニはニュースからの情報収集は諦め、チャンネルをキッズアニメに変えた。萌のお説教を聞き流しながら、緑のいもむしのクレイアニメに見入る。


「急ぐ用がないなら、今日は午後からお買い物付き合ってくれる?」


 食後のコーヒーを用意しながら、萌が提案する。


「明日のお誕生会の準備、買い出しに行きたいの」

「行けばいいじゃないか」


 気のない声を返すエルニに、萌はなおも食い下がる。


「エルニの服も買わなきゃ」

「いらねえよ……」

「下着の替えもないのに! いらないわけないよね!?」


 大きな声を出す萌に、エルニはたじろいだ。


(自分の服の事でもなし、なんでこんなにこだわるんだ?)


 エルニは今まで、身体一つで旅してきた。ポケットに入る以上の物は持ち歩けない。必要なものは、いつもその場で手に入れてきたエルニにとって、他人から替えの下着の事で咎められるなど、想像の外の出来事だった。


「それに、明日はお菓子も作るよ!」


 付け足された言葉に、エルニは視線をいもむしから萌に移した。


「それは例えば……ケーキもか?」

「ケーキも!」

「チョコか? チョコのヤツか?」

「んー、ショートケーキのつもりだったけど、エルニがお誕生会出てくれるならチョコにするよ!」


 ケーキやチョコレートは、エルニの旅とは無縁の物だった。だからといって、食べられなくて平気だったという事ではない。


「ま、まあ。一宿一飯の恩には報いなきゃな。このエルニ、お前の買い物に付き合うにやぶさかじゃあないぜ!」


 手のひらを反すかのようなエルニの返答に、萌は満面の笑みを浮かべた。

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