第十六話「放て! 炎の矢!!」

 大陸から遠く離れた絶海の孤島、リノイ。

 その中にある小さな村、ライナ。

 豊かな自然に囲まれ、緑溢れる美しき村。


 だが、その村は今、ダークエルフ・レスタトの復讐の炎で染められている。


「人質を一人殺せ!」


 その鋭い言葉は、周りの空気を裂いてシェイルたちの元にも届いていた。


「あたしの……せいで……」


 シェイルは拳を握り締める。

 その手に爪が食い込み、手の平にうっすらと血がにじんだ。


「我々の恐ろしさを、この者たちに思い知らせてやるのだ!」


 高らかに叫ぶその瞳は、炎の輝きを浴びて紅く輝いている。


「くっ!」


 シェイルは、とっさにその手をゴブリンへと突き出した。


「『炎の精霊サラマンダー……』」

「ちょ、ちょっと、シェイル!」


 響く精霊魔法の詠唱に、ナーイは慌てて腕を掴んで呪文を中断させる。


「あなた、魔法が使えるほど、精神の力は回復してないでしょ!」

「うん……使ったら、疲労で気絶すると思う……けど、他に手なんて……」

「ちょっと待って! 今、何か考えるから!」


 その間にも、ゴブリンはダナンに歩み寄り、手にした棍棒を天に向かって高々と振り上げた。


「あーっ! もうっ! こんなとき、誰かに精神力を分けてもらえたら!」


 頭を振って嘆くシェイル。


「精神力を……分ける……?」


 その言葉に、ナーイは弾けたように顔を上げた。


「シェイル、それよ! 私の精神力を使って!」

「えっ!? ど、どーやって!?」

「ユニコーンのことが載ってた『精神力がゼロでも魔法が使えていいのだろうか』に書いてあったのを思い出したの! 古代人は他人と意識を同調させることで、その人の精神力を借りて魔法を使うことができたって!」

「そんなことが……」


 自分を真っ直ぐに見つめるナーイに、シェイルは静かにうなずいた。


「やってみる!」


 ナーイの手を取ると瞳を閉じ、精神を集中させて、その波動を探ってゆく。

 溶けるように広がる暗闇の世界。


 だが、その中で確かに伝わるナーイの鼓動。

 感じ始める魂の息吹。


(この感覚……覚醒の儀式と同じ!? ――これならいける!!)


 闇の中に、次第に光が広がってゆく。


 ダナンを助けたい!


 その想いは、二人の意識を一つにした。


「つかんだ! ナーイの波動!!」

「やって、シェイル!」

「『炎の精霊サラマンダー! この者の精神の力を借りて、猛る炎の矢を放てっ!!』」


 その瞬間、燃え盛る炎の中から〈炎の矢ファイア・ボルト〉が放たれる。

 それは、今まさに棍棒を振り下ろそうとしたゴブリンの体を直撃した。


「ギギギャ――ッ!?」


 ダナンの目の前で、瞬時に炎に包まれるゴブリン。


(〈炎の矢ファイア・ボルト〉……シェイルめ!)


 レオンは高台を見た。

 そこにはシェイルと、青い顔をしたナーイの姿があった。


「伏兵か!?」

「あれは、赤髪の娘!」


 レスタトたちがシェイルに目を向けた一瞬の隙、それをレオンは見逃さない。

 腰の剣を引き抜くと弾けるように跳び、そのままの勢いでなぎ払った。

 瞬時に、二体のゴブリンの首と胴体が生き別れとなる。

 断末魔の悲鳴を上げる間もなく、ゴブリンたちは倒れ動かなくなった。


「ワシも負けてられんの!」


 すかさず、長老も杖を振りかざす。


「『魔力マナよ! 光の矢となり敵を討て!!』」


 古代語の詠唱と共に杖の先に宿った光は、二本の輝く矢となって二体のゴブリンを貫いた。


「ふ、ワシの〈光の矢エネルギー・ボルト〉も、まだまだ現役じゃの!」


 ニンマリと笑う長老の前で、ゴブリンたちは派手に倒れ動かなくなる。


「ぐぅっ! 古代魔法使いだったのか!」


 アバレールは叫んだ。


 古代魔法、それは古代の人々が神に憧れ、近付こうと編み出した力だ。

 精霊魔法とは違い、自らの魔力を力に変えて効果を現すことができる。

 古代魔法には様々な系統があり、その魔法も多種多様となっている。

 一般的に魔法使い、魔術師、魔導師などと呼ばれるのは、この古代魔法使いのことである。


「うぐぐぐぐ……」


 一気に変わった戦局に、アバレールはうなり声を上げた。

 五体いたゴブリンのうち、前衛の四体はすでに戦闘不能となっている。

 人質につけていた残る一体も、シェイルの〈炎の矢ファイア・ボルト〉で炎に包まれていた。


「だが……まだ動けぬわけではあるまい?」


 レスタトは、炎に悶えるゴブリンに言う。


「炎に包まれて無様に死ぬくらいなら、闇の妖魔として誇り高く死ね!」


 その言葉に、ゴブリンはレスタトの顔を見た。


「どうした? それとも、俺にトドメを刺してもらいたいのか?」


 見開かれたゴブリンの両の目、そこには明らかに恐怖の色が浮かんでいる。

 今、レスタトが口にした言語はゴブリン語ではない。

 人々が一般的に使う言葉だ。

 普通なら、ゴブリンに言葉の意味が通じることはない。


 だが、レスタトの威圧感は、ゆうにその壁を越えていた。


「ギ……」


 ゴブリンは短い音を発すると、再びダナンを見た。


「キシャァァァァッ!!」


 そして、目を血走らせ、雄叫びと共に飛びかかる。


「そうだ……それでいい」


 レスタトの顔が、ニヤリと歪んだ。


「ダナンさん!」


 レオンからゴブリンまでは距離がある。今から向かっても間に合わないだろう。

 そして、長老の古代魔法は、詠唱に多少時間がかかる。

 やはり間に合わない。


 レオンは、村長に目を向けた。


「ナイジェル、頼む!」

「もう準備してますよー」


 レオンの呼び掛けに答えるナイジェル村長。

 その手には、投てき用の短剣ダガーが光っていた。


「ふっ!!」


 手首のしなりを活かして、ナイジェルは短剣を投げる。

 風を切って飛ぶ短剣は、今まさにダナンにつかみかかろうとしていたゴブリンの喉に、深々と突き刺さった。


「グガッ!! ヒュルルルル……」


 空気が漏れる音と体液を撒き散らし、崩れ落ちるゴブリン。


「え……ナーイのお父さん……凄いっ!」


 一撃で勝負を決めたその技に、シェイルは目を丸くする。


「あ、あ、あ、あのお方は、どちら様!?」


 そして、シェイル以上に驚きを隠せないナーイであった……


「腕は落ちていないようだな、ナイジェル」

「あまり冒険者……というか、盗賊の技は、娘に見せたくなかったんですけどね……」


 肩を叩くレオンに、村長は「ふうっ」と、ため息をついた。


「ナーイのお父さんも冒険者だったの!?」


 高台の二人は、まじまじと村長を見た。

 のんびりとした風貌からは想像もできない。


「やってくれる……」


 目の前に転がる戦闘不能のゴブリンたちを前に、レスタトはギリリッと歯噛みする。

 その苛立ちは、アバレールに嫌というほど伝わってきた。

 五体のゴブリンは全滅し、人質たちは今、村長が縄を切り解放している。

 まさに、形勢逆転という状況だ。


(これは……帰ってからまた、八つ当たりの嵐か……)


 ここから無事に戻れたとしても、レスタトの怒りの捌け口にされるのは目に見えている。

 アバレールはため息をつき、恨みを込めた視線で高台を睨んだ。


「くそーっ! こうなったのは、全てお前のせいだー!」


 ビシッ!

 と、指し示すその先に見える二つの影。

 シェイルとナーイだ。


「降りてこい、赤髪の娘! 部下たちの恨み、晴らしてやるぞ!」


 内心は部下の恨みより、自分の個人的な感情の方が強いことは言うまでもない。

 両手を振り上げて叫んでいるアバレールを、シェイルは真っ向から睨み返した。


「部下たちの恨みって、なによーっ!」

「テ、テメェ……忘れたとは言わせねーぞ! お前が皆殺しにした、ゴブリンたちのことを!」

「皆殺し!?」


 ナーイは口を押さえた。

 その場にいる者の視線が、一斉にシェイルに集まる。


「……それは、どういうことだ?」


 レオンの問いに、アバレールはフンと鼻を鳴らした。


「お前の娘はな、勝手に俺たちの住処に入ってきて、ゴブリンたちを皆殺しにしてったんだよ!!」

「まさか!?」

「死にゆくゴブリンから全て聞いたんだ! 俺に恨みを託し息絶えるゴブリン、ああ……」

「か……勝手なこと言わないでっ!!」


 感傷に浸るアバレールに、シェイルは叫ぶ。


「人を勝手に、残虐非道な性格にしないでよ、バカッ!!」

「な、何だと!? テメェ……こっちに来てみやがれ!」

「行ってやるから待ってなさいよっ!」


 言うが早いか、シェイルはアバレールに向かって真っ直ぐ駆け出した。


「えっ!? シェイル、そっちは道じゃ……」


 崖に向かって走るシェイルに、ナーイは驚きの声を上げる。


「はあっ!」


 しかし、シェイルはナーイの言葉を気にもせず、そのままの勢いで高台から飛び降りた。


「きゃ……」


 ナーイの口から悲鳴が漏れる。


 だが、約三メートル程の高さをものともせず、見事に着地を決めたシェイルは、着地の余韻もそこそこに、再びアバレールに向かって走り出すのだった。


「す、すご……」


 ナーイの口から感嘆のため息が漏れた。


「よ、よーし、私も!」


 感化されたナーイも、シェイルの後を追って走り出す。

 が……その足は、高台の際の部分で急停止した。

 そっと目線を下ろすナーイ。

 足元の小石が、音を立てて転がり落ちる。


「う、うん……や、やっぱり……私は普通に降りよう……」


 そう言って、後ずさりするナーイであった。






 全力疾走のシェイルは、滑り込むようにレオンとアバレールの間に入る。


「来たか、極悪娘!」

「人を、変な呼び方しないでよっ!」


 激しく火花を散らしあう二人。

 赤外線視覚インフラビジョンで見たならば、二人の周りの温度は、きっと上がって見えることだろう。


「勝手に人んちに押し入り、住人を皆殺しにして、それのどこが極悪じゃないと!?」

「変な言い方しないでっ! 元はと言えば、あなたのとこのゴブリンが、子犬のルナルナをさらったからじゃないっ!!」


 ビシッと指を突き付けるシェイル。


「ぐっ……だが、お前はゴブリンを皆殺しに……」

「ルナルナを食べようとしたからでしょっ!」


 シェイルは、ずいっと前に出る。

 その威圧感に、アバレールは一歩後退した。


「そ、それは……そ、そう! ゴブリン共が勝手にやったことで……」

「ゴブリンたちが、勝手にやった?」


 やれやれとため息をつき、更に鋭い視線をアバレールに向ける。


「部下の失態は、上司である、あなたの責任でしょっ!!」

「う、うぐっ……」


 シェイルは腕を組むと、半身の姿勢でアバレールを見据えた。


「そんなことも、わからないなんて……あなたって、最低ねっ!!」

「ぐはぁっ!!」


 その鋭い言葉は、アバレールの胸に深く突き刺さる。


「逆恨みで暴れてたの? やだ……本当に最低じゃない」

「最低だな!」

「最低じゃ」

「最低ですね」


 合流したナーイ、そしてレオン、長老、村長の口からも『最低』という言葉が飛び出した。

 その言葉は見えない刃となって、アバレールの心を切り刻む。

 どうやら、この戦いはシェイルの勝利のようだ。


「キ、キサマら、いい加減にしろよ――っっっ!!」


 心の痛みに耐えられなくなったアバレールは、天まで届くほどの大きな声でわめき散らした。


「小娘っ!! よほど死にたいようだな!!」


 怒りに狂った目で叫びながら、背中の大剣を支えている鞘の留め金を外す。

 大剣は、自らの重みで滑り落ち、地面に突き刺さった。


「このまま引下がっちゃあ、闇に生きるものとして示しがつかねぇ! 覚悟しやがれっ!!」


 アバレールは大剣を地面から引き抜くと、切っ先をシェイルに向け、中段の構えを取った。

 その殺気に、シェイルの背中を冷たいものが伝う。


(コ……コイツ、最低なヤツだけど……剣の腕はなかなか)


「へっ! さっきまでの威勢はどうしたんだァ?」


 そのとき、シェイルを守るように、レオンが二人の間に割って入った。


「シェイル……お前は下がっていなさい」


 レオンは長剣バスタード・ソードを構える。

 その刃が鋭い輝きを放つ。


「アン? 何だァ? オヤジが相手だって言うのかァ?」


 おどけたように、肩をすくめるアバレール。


「俺は、誰が相手でも構わねぇ……――ぜっ!!」


 しかし、そのおどけた仕草は、レオンを油断させる為の作戦だった。

 アバレールは両手に力込めると、不意に大剣をなぎ払う。

 風を切る音。

 次いで鳴り響く高音。

 鋼と鋼がぶつかり合い、辺りに火花が撒き散らされる。


 たとえ防御されたとしても、自身の力で押し切り、相手の剣をへし折って叩き潰す。

 アバレールにはその自信があった。


「な……バ、バカな……」


 だが、焦りの色が浮かんだのは、アバレールの方であった。

 レオンを狙った一撃は、いとも容易く受け止められていたからだ。


「ほう……力だけは大したものだな」


 重なり合う刃を見つめ、レオンは軽く言う。


「そ、そんなバカなっ!! この俺の一撃を!?」


 しかし、オーガのようなアバレールがいくら押し込んでも、レオンは身じろぎ一つしない。


「お父さん、凄い……」

「フッ……これには、ちょっとしたコツがあってな。相手の一撃が最大の力を発揮する前に、その剣の軌道に合わせ、相手以上のスピードで……」

「う、うん?」

「……まあいい、後で教えてやる」


 首を傾げるシェイルに、レオンは苦笑いを浮かべた。


「う、うん、お父さん! そんな最低なヤツ、早くやっつけちゃってっ!」

「こ……このっ! 最低、最低言うんじゃねえっ!!」


 アバレールは声を張り上げると、剣を引いた。


「くらいやがれ!」


 そして、大剣を上段に構えると、それを一気に振り下ろす。

 渾身の一撃。

 しかし、それも難なく避けられ、剣は激しい地響きと共に地面へとめり込んだ。


「く、くそっ! ちょこまかと……」


 剣を引き抜こうとした瞬間、レオンはそれを上から踏みつける。


「ぬがっ!? て、てめえ!!」


 そして、そのまま剣の上を走り出した。


「なんだとっ!?」


 大剣を駆け上がるレオンの姿に、アバレールは驚愕の声を上げた。

 次の瞬間、視界は真っ暗になり、そして真っ赤に染まる。

 鼻に走る激しい痛みと熱さ。

 駆け上がったレオンの膝は、アバレールの顔面に深々とめり込んでいた。


「おご――っっっ!!」


 鼻血を撒き散らし、派手に吹き飛ぶアバレールを後目に、華麗に着地を決めるレオン。

 圧倒的な力の差に、シェイルたちから歓声が巻き起こる。


(やっぱり、お父さんは凄いっ!!)


 シェイルは、目を輝かせて父の姿を見つめた。


「ぐ……むぐぐ……」


 しばしの間、倒れていたアバレールは、やがて地面に手を付き、無理やりに立ち上がる。


「く……くそっ! くそっ! くそーっ!!」


 怒りのあまり、そのこめかみには指でつまめそうなほど血管が浮き出ている。


「まだやるのか?」

「当たり前だァ!! ここまでされて引き下がれるかよ!!」

「もうよい! 下がれアバレール!!」


 そのとき、空気を裂くようなレスタトの声が響いた。


「い、いや、しかし……このままじゃあ、俺も収まりが……!!」


 思わず口答えするアバレールに、レスタトは静かに言う。


「俺は……下がれと言ったのだぞ?」

「ひっ!!」


 その凍り付くような声と鋭い視線に、アバレールの口から悲鳴が漏れた。


「へ……へへへ……わかりやした……」


 放たれる圧倒的な威圧感を前に、媚びた笑顔を浮かべ、すごすごと引き下がるアバレール。

 代わって、レスタトが前に出た。


「まったく……最低の部下を持つと、こうも苛立たされるものか……」

「レ、レスタト様まで~」


 レスタトにまで『最低』と言われ、涙目になるアバレールであった。


「さて……部下が世話になったな……ここからは俺が相手をしよう……」


 静かに腰の細身剣レイピアを構えるレスタトを前に、レオンの顔から余裕が消えた。


「コイツ……強い!」


 緊張が走る。

 レスタトから放たれる威圧感に、レオンの息が荒くなる。


(くっ……俺は飲まれているのか!?)


「……どうした? かかって来んのか?」


 時折、村を通り抜ける風は炎を揺らし、レスタトの銀の髪と褐色の肌を輝かせた。


「……ちっ!!」


 レオンは、深く息を吸い込んだ。


(守らなきゃいけないものがあるんだろ!)


 自分自身を激励し、雄叫びと共に連続の突きを繰り出す。

 刃はレスタトの肩をかすめ、褐色の肌から赤い血が流れ落ちた。


「さっすがお父さん!! やっぱり強いっ!!」


 シェイルは、手を突き上げて歓喜する。


「ね、ねぇ、シェイル……」


 そのとき、ナーイが恐る恐る口を開いた。


「あのダークエルフ……笑ってない?」


 確かに、レスタトは氷のような冷笑を浮かべ、レオンの連続攻撃を受け続けている。

 逆に、一方的に攻めているはずのレオンの顔に、焦りの色が見て取れた。

 自らの血に染まり、笑うレスタト。

 その悪夢のような光景は、辺りの空気を凍り付かせる。


「なるほど……剣の腕なら俺以上だ。ククク……だが、俺に勝つことはできん! 何故なら、俺には精霊魔法があるからだ!!」


 左腕をレオンへと突き出すレスタト。

 その体が、まばゆい光を放った。


「『切り刻め〈風の剣ウインド・ブレード〉!!』」

「ぐああ――っ!!」


 刹那、現れた無数の刃に斬り刻まれ、レオンは血しぶきを上げて吹き飛んでゆく。

 その体は数メートル離れた家壁に激突し、ようやく動きを止めた。


「お父さ――ん!!」


 崩れ落ちるレオンの姿に、シェイルは悲鳴を上げた。


「シェ……シェイル……逃げ……ろ……」


 途切れそうになる意識をつなぎ止め、レオンはなんとか言葉を口にする。


「ククク……ハーッハッハッハー!! さあ、トドメを刺してやるぞ!」

「こ……ここまでか……」


 冷酷な笑みを共に、ゆっくりと近付いてくるレスタトに、レオンは目を強くつぶった。

 その足音は、自分の命が尽きるまでの秒読みにも感じられる。


 だが、その足音が不意に止まった。

 自分との距離は、まだあるはずだ。


(……な……なにが……?)


「何の真似だ……小娘」

「ま……まさか!?」

「お父さんは、やらせないっ!!」


 霞む瞳に映るもの、それは両手を広げ立ちふさがるシェイルの後ろ姿であった。

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