第20話「覚悟を持って受け入れます」

「分かりました! 俺、挑戦します!」


と、全員から励まされ、テランスさんは、決意を新たにしてくれた。

彼にとっては未知の世界である『銭湯』の建築に挑む覚悟を決めたくれたのである。


改めて俺は簡単に手順の話をした。


すると司会進行のキングスレー商会幹部社員のマルコさんがフォローしてくれた。


「ケン様、当商会と提携した工務店の大工達が、銭湯の土台を含めた基礎、建築する上物、備え付ける内装をケア出来ます。テランス様には、工事の総監督をして頂きながら、浴槽の仕上げと給湯システム等々の確認をして頂ければ宜しいと思います」


俺は工事の段取りについていろいろと考えていた。

王都で造り、魔法で『建物ごと』運ぶ事も考えていた。


だいぶ前……魔王だったクーガーが襲来した際、

俺は魔法でボヌール村を避難――移動させた事もある。

なので、マルコさんの提案は渡りに船だ。


と思っていたら、テランスさんが「はい!」と挙手をする。


表情がひどく真剣である。

何か、お願い事があるらしい。


「皆さま、ご相談なのですが……」


対してマルコさんは、


「はい、テランス様どうぞ」


と、発言を許可した。


「実は……お願いがありまして……今回解雇された私の仲間にも、同じように生きがいを与えてやって頂きたいのです。……けして私ひとりでは不安だとか、そのような事ではありません」


「成る程。今回のプロジェクトに、テランス様のお仲間も参加させたいという事ですね」


「はい、人柄、風呂職人としての腕は、私テランスが保証致します」


と、ここで発言したのはレイモン様である。

ひどく厳しい表情をしていた。


「テランスさん、そのお仲間達は……秘密が守れますか?」


「秘密? どういう事でしょう、レイモン様」


「はい、ケンを中心に共有する秘密です。貴方もその一端を垣間見ているはずですよ」


「ケン様の……はい、レイモン様。ケン様が底知れぬ力を持つ魔法使いである事は存じております」


「いえ、その認識は浅すぎます。テランスさんの認識より、ケンの力は遥かに巨大であり、その気になればこの世界を統べる事も容易いでしょう」


「えええ!? そ、そこまで!!」


「はい、まあケンはそんな事はしませんがね。もしやろうと思えばとっくにやっている。史上最強の恐ろしい魔王になっていたでしょう」


「……………」


「しかし、ケンは魔王とは真逆な存在、多くの者へ手を差し伸べ、折り合いをつけました」


「……………」


「現状、世界の様々な者がケンを中心に世界を平和に保とうと努力し、仲良くもしている。そのバランスが崩れるのは困る。貴方や貴方の仲間達がケンの力をむやみやたらにぺらぺらとしゃべって貰うのは非常に困るのです」


「……………」


「私を含め、妖精王、更にエルフことアールヴ族の長がケンを実の弟に等しい存在として認識しています。はっきり言って、敬愛に近い感情です」


「……………」


「あ、そうそう、最近はドワーフことドヴェルグ族の長とも、ケンは親交を結んでいます。もしも貴方が裏切っても、この世界に逃げ場はない。捕まり、記憶を消されて、私達とは、一切かかわりがなくなります」


きっぱりと言い切るレイモン様には凄みがあった。

テランスさんは怯えて小さな叫び声をあげる。


「う、うわあああ!」


「その代わり、テランスさん、ケンとの信義を守れば、貴方の人生は大きく変わるでしょう。この私のようにね」


レイモン様は自分の経験を踏まえているらしく、再びきっぱりと言いきった。


「う、ううう……」


……レイモン様の真剣な物言いを聞き、テランスさんはすっかり怯えてしまった。


俺は「まあまあ、抑えてレイモン様」と思いながらも感じた。


レイモン様の口調には

「この件に関しては他者の口をはさませないぞ」という断固とした厳しさがあると。


更にレイモン様は言う。


「オベール男爵、そして奥様」


「は、はい!」

「はいっ!」


「貴方達はケンの義理の両親である。だが、改めて秘密厳守を徹底して欲しい」


「「はい!! 仰せの通りに」」


「マルコ、お前も同じだ。家族にも誰にもけして漏らしてはならぬぞ」


「か、かしこまりましたあ!」


マルコさんの返事を聞き、頷いたレイモン様。

表情が一気に柔らかくなる。


「と、まあ立場上、そして話の流れから、今後の為に各自へ箝口令かんこうれいを徹底させて貰った……うむ、ケン、話を続けてくれ」


レイモン様の気配りをありがたく感じ、頷いた俺は、鎮静の魔法を全員へかけた。

最後には己をクールダウンさせる為、自身にもかけた。


全員が落ち着いたところで、俺は手を挙げた。


マルコさんが「はい、ケン様」と応え、発言の許可をくれた。


俺はテランスさんへ問いかける。


「テランスさん」


「はい」


「先ほどのレイモン様のお話は、俺とテランスさんで以前、約束した事ですよ」


「……あ、そうでした。……確かに約束していましたね」


俺とテランスさんは、ボヌール村において、下記のような会話をした。


「は、はあ……そこまで言われたら、誓いましょう。……創世神様の御名に誓い、私テランス・バイエは、必ず秘密を守ります。絶対に他言しません!」


「よし! 本当に約束ですよ。しゃべったらペナルティを課しますから」


「は、はい……分かりました。どんな罰でも受けますよ。……前村長でオベール男爵様の宰相を務めるケン様には逆らえませんね」


……過去の会話を俺がさくっと繰り返したら、

テランスさんは完全に思い出したようだ。


「はい……確かにケン様と約束しました。レイモン様のおっしゃった事をという意味だったのですね」


「まあそうです。ここで先ほどテランスさんのお願いについて、お答えましょう」


「は、はい、お願い致します」


「……テランスさん、貴方が誓ったように、そして秘密を守るように、仲間に徹底出来ますか? そして万が一、彼らが約束を破った場合、俺は記憶を消させて貰います。結果、彼らが貴方と縁もゆかりもない相手となるのを受け入れられますか?」


俺の問いかけに対し、テランスさんは覚悟を決めていたらしい。


「はい!」


とはっきり答えた。


「自分は覚悟を決めました。このままでは生きがいもなく、埋もれて行くだけの人生になってしまいます。なので、頂いたチャンスを活かし頑張ります!」


「そうですか」


「はい! ただ……私が今回大きなチャンスを頂いたように、同じこころざしを持つ仲間にもチャンスを与えてやりたい……最後にどのような選択をするのかは彼ら自身です」


「成る程」


「そして、レイモン様がおっしゃる通り、ケン様のご事情を安易に話すのは宜しくないと私もしっかり理解しました。なので、その約束をした仲間が、たがえた場合の罰も覚悟を持って受け入れます」


テランスさんの目は真剣であった。


「分かりました。方法は今考えました。貴方の仲間にも話をしましょう。……レイモン様、宜しいですか?」


俺がレイモン様に尋ねると、


「ああ、ケン、お前に任せるよ」


と笑顔で応えてくれたのである。

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