第3話「予算は心配するな! 私に任せよ!」
「失礼致しまあす! おはようございます!」
俺が扉を開けた瞬間。
手をつないだジョアンナが声を張り上げた。
そして深々とお辞儀をした。
執務室に居たオベール様とイザベルさんはビックリ。
わずか8歳のジョアンナが、優雅な貴婦人のようなオーラを発していたからだ。
マチルドさんの教育が良かった事、そしてジョアンナの母ミリアンさんから受け継いだ素材の良さだろう。
すぐに笑顔となったオベール様ご夫妻。
俺、そして嫁ズもジョアンナに引っ張られ、元気良く挨拶する。
当然マチルドさんも。
「おはようございます!」
「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」
挨拶してすぐ、今や秘書としてぴったり息の合ったサキとロヴィーサが、
ふたりで予備の椅子を取りに行って応接の脇に置いた。
オベール様ご夫妻も立ち上がり、応接の上座へ。
まずは、ジョアンナとマチルドさんの紹介だ。
「オベール様、イザベル様、改めまして、おはようございます! 先にお伝えしたボヌール村の新たな村民、そして我がユウキ家の家族に加わったふたりをご紹介致します。ジョアンナ・ボレルさんとマチルド・コンパンさんです」
と俺が言えば、ジョアンナとマチルドさんは、はきはきと挨拶する。
ジョアンナの「失礼致します」の先制攻撃で、両名とも緊張が取れているようだ。
「オベール男爵閣下、奥方様。私はジョアンナ・ボレルです! 王都から参りました。ケン様の婚約者として、ユウキ家の一員となり、ボヌール村で頑張ります。宜しくお願い致します」
「オベール男爵閣下、奥方様。マチルド・コンパンでございます。ジョアンナ・ボレルお嬢様のお付きとして王都から参りました。お嬢様同様、ユウキ家の一員となり、ボヌール村で頑張ります。宜しくお願い致します」
対して、オベール様とイザベルさんも上機嫌。
元々ふたりの境遇を聞いて同情していたので、とても好意的である。
「おお、おふたりとも良い挨拶だ。私はクロード・オベール、このエモシオンとボヌール村の領主だ。こちらこそ宜しく頼むぞ」
「本当に良き挨拶。私はクロードの妻イザベルです。知ってるでしょうけど、ミシェルとフィリップの母でボヌール村の出身なんですよ」
今日の『本題』へ入る前にいくつか質問が交わされ会話が盛り上がり……
ジョアンナとマチルドさんの初お目見えは無事に終わったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オベール様ご夫妻はふたりを気に入ったようである。
特にジョアンナの聡明さをイザベルさんは認めたようだ。
という事で、まずはエモシオンの概況について話が交わされた。
課題は多いが、大きな問題はなかった。
次に、ボヌール村の件で打合せに入る。
リゼットからは、俺が説明するよう促されたので……
改めて、外柵の新設、敷地の拡大、農地宅地の開拓、新築住宅と公衆浴場の建設等を話し、それぞれの案件の説明を行う。
このような時、領主が気にするのが予算と時間、そして人手。
効能効果はその後で説明する。
やはりというか、俺の予想通り、オベール様とイザベルさん夫妻が最も興味を示したのは、『外柵の新設』である。
それも俺が使う地の魔法で、「基本的に殆ど費用がかからない」と聞き、即座にOKした。
外柵の新設に伴う敷地の拡大、農地宅地の開拓も税収の増加が見込め、大いに魅力的だと感じたらしい。
加えて、こちらも俺の予想通り……オベール様は、
「ケン、ものは相談だが……エモシオンの街の外柵もついでに新設して貰えないか。エモシオンとボヌール村、普通に両方の工事を行うと、とんでもなく金がかかるのだ」
そしてイザベルさんも、
「ええ、クロードの言う通り、ぜひお願いしたいわ。本来は魔法使いに頼んだら、工事期間が大幅に短縮される分、通常費用の数倍かかる事も知ってる。でも身内という事で甘えさせて!」
そして軽く息を吐き、
「……でも私にはケンの地の魔法で造る岩壁のイメージが具体的に見えて来ないのだけど」
と、「ついでに、エモシオンにも」とふたりからお願いされた。
対して俺も、
「はい、お安い御用です。エモシオンの外柵新設も構いません、ボヌール村よりも先にやりますし、こちらは王都並みの高さにしましょう。ちなみに本工事を行う前にイメージを見て頂いた上で、見本の仮工事もしますので、行き違いはないと思います。それと寄り親のレイモン様への工事申請と了解の連絡も事前に俺の方でやりましょうか?」
実はこうなる事も想定し、事前に念話でレイモン様には話を入れてある。
後は、スケジュール調整だけだ。
「おお、さすがだ、ケン。何から何まで話が早い!」
「ええ、本当に!」
よっし!
良い感じ。
ここで勝負だ。
「つきましては、ボヌール村の敷地の大幅な拡大、それに伴う農地宅地の開拓、村民の為の新築住宅と公衆浴場の建設等に関しては、オベール様から工事費用を援助して頂ければありがたいのですが」
「うむ! そっちの予算は心配するな! 私に任せよ! あと、大工など作業に従事する職人はエモシオンの者をどしどし使えば良い!」
おお!
すんなりOKが出た。
やはり外柵はまともに造ると莫大な費用がかかる。
身内の俺が地の魔法で行えば、少なくとも半分以上は減る。
上手く行けば8割減だ。
相当なコストダウンの発生で「ありがたい!」と思ってくれているようだ。
ああ!
これでボヌール村もエモシオンも、更なる発展の第一歩を踏み出す事が出来る。
「ありがとうございます!」
俺は大きな声で、オベール様ご夫妻へお礼を告げた。
「それで、早速ですが、今夜、夢の中でレイモン様にお会いになりますか?」
「え!? 今夜か!?」
「す、凄く早いわね!」
「はい、昼間はご多忙ですから、いきなりの訪問はご迷惑になります。ですが、夢の中でしたら、多分今夜お会い出来ますよ。その前に俺がもろもろの話を通しておきます」
俺が言うと、オベール様は納得。
「あ、ああ……そうか! ケンはレイモン様と夢の中でしょっちゅう打ち合わせをしているからな」
イザベルさんも続く。
「ええ、寄り親になって頂いた時、私達もまず夢の中でお会いしてご挨拶し、その後、転移魔法で王都の王宮へ伺候したのね」
「はい! それに夢の中だと時間的な部分以外に、更にメリットがあります」
「更にメリット?」
「どういう事、ケン」
「はい! 夢の中で、エモシオンの街壁を造りますから、レイモン様とともにご覧になってください。相当リアルにイメージが分かるはずです」
「おお、そうか! 成る程! 夢の中なら街壁の工事など、瞬時で自由自在だな」
「うふふ、貴方。現実の工事でもケンの使う地の魔法なら即、竣工ですわ」
「ええ、万事任せてください。イザベル様がおっしゃる通りに、夢の中で確認の上、実際にリアルで小さな外壁を造ります。それをご覧になって頂き、問題がなければ最終的にGOで行きましょう」
「よし! 万全だな! イザベル、頼もうか! 善は急げだ!」
「はい、貴方! ケンに仕切って貰い、ふたりで今夜レイモン様にお会いしましょう!」
オベール様とイザベルさんは顔を見合わせ大きく頷いたのである。
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