第4話「ふたりでしみじみと……」

話は万事が万事上手く行き……

その後にオベール家城館大広間で行われた『懇親会』も盛況だった。


懇親会の前に、俺は念話でレイモン様へ連絡を入れておく。

夢の中ならばいつでもOKじゃないかと思われる方も居るかもしれない。

しかしレイモン様だって人間。

昼間、公務に追われ、夜くらい仕事を忘れてゆっくり眠りたいと考える時もあるだろう。

なので、俺は夢の中で会う時も事前に確認し、夢魔の如く押しかけたりはしない。


さてさて!

オベール様とイザベルさんは、俺が「息子レオとイーサンにカミングアウトした」事を聞き、「早く我が孫のララにも宜しく!」と残念がる。


ソフィことステファニーがドラポール伯爵絡みの事件で『失踪』してから、随分と長き時間が経っている。


レイモン様とも話したが、そろそろ……

「実はソフィの本名はステファニーで、オベール様の子なのだ」とカミングアウトしても良いし、今回の工事が終わったら、お披露目を考えよう。


そして、オベール様ご夫妻が望む通り、ララ達世代の子供達へも俺の出自と正体をカミングアウトして良いかもしれない。

最近、同年齢8歳のジョアンナに刺激され……

ララ、フラヴィ、そしてポールは急速に大人びて来ているから。


という事で懇親会の後、そのまま城館に泊まり就寝。

レイモン様との打ち合わせなので嫁ズとジョアンナ、マチルドさんは成り行き次第で。

少なくともまずは俺のみ、レイモン様とサシで話す事にした。


今夜はいつもとは少し違う夢の世界。

会議を行う日本式の城レヴリー……レイモン様が『夢想』と名付けた城はない。


ただただ……王国ではよく見られる、ありふれ、ひなびた農村が広がっている。

そう、ここはレイモン様の亡き奥様の故郷、エスポワール村を模した世界だ。


『おお、ケン、今夜の舞台は我が妻エリーゼが生まれ育った地か! いつも私に気を遣ってくれる。我が心の『弟』よ! 本当に……ありがとう!』


涙ぐむレイモン様は更に言う。


『ケンよ! お前と巡り合ったのは、エリーゼに次ぐ邂逅かいこうといえるだろう』


『そんな! 過分です。勿体ないお言葉ですよ』


『そんな事はない! 今や私はヴァレンタイン王国だけでなく、各種族の首脳と懇意となり、世界を股にかけ、仕事をするようになった』


『おっしゃる通りです』


『とてもやりがいがあり、毎日が充実している!』


『レイモン様の任務はとても重要です。何せ、一国の宰相を超えられ、今や人間族の代表ですから』


『うむ! そう思って、政務に励んでいる!』


『はい!』


『それも全てケンのお陰だ。愛する妻に先立たれ絶望に陥りかけていた私は、お前の生きざまを大いに励みとし、再び政務にまい進する事が出来るようになったのだ。そして人生を全うしたら転生し、先に逝ったエリーゼに再会する事を切に願っている!』


『良かったです。レイモン様が前向きになられて』


俺がそう言うと、レイモン様はエスポワール村の風景を懐かしそうに眺め……


『ふむ、ケン。宰相たるこの私が言うと世辞に聞こえるかもしれんが、お前は交渉術にも長けている。相手を気持ち良くさせればやりとりは円滑となり、最高の結果を引き出す可能性は著しく高くなる!』


『俺ごときを重ね重ねお褒め頂き、誠に恐縮です』


『ははははは、では改めて今回の案件を話してくれ。頼むぞ!』


『はい! レイモン様!』


と、いう事で俺はレイモン様と『前打ち合わせ』を開始したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


事前に話をしていた事もあり、打ち合わせは30分かからずに終わった。

気になる結果は全てOKが出た。


エモシオンとボヌール村からの税収が順調なのとアップも見込めるから……

王国からは特別に補助金も出される事となった。


オベール様達は勿論、エモシオン、ボヌール村の両住民も大喜びするだろう。


ちなみに……

オベール様ご夫妻はエモシオンの防護壁を一番気にしたが……

レイモン様は、日本の公衆浴場『銭湯』にとても興味を持った様子だ。


『ケン』


『はい』


『あまり言いたくないが、王都の公衆浴場は凶悪な犯罪が多発し、その他にも何かと問題が多い場所なのだ』


『成る程、犯罪ですか。分かります。じつは少し前に移住した村民達の中に公衆浴場を造る職人さんが居まして、いろいろと話を聞きました』


『おお、そうか』


『はい、その職人さん、とても嘆いていました。自分が精魂込めて造った公衆浴場が犯罪の温床みたいに使われ、嫌気がさしてボヌール村へ移住して来たらしいです』


俺が暮らすこの異世界は中世西洋風。

魔法がインフラを支え、悪魔、魔物が跋扈する以外は相当似ている。


その中世西洋の公衆浴場事情は転生前に読んだ本で知っていた。

問題が多い……つまり賭博、売春等々、犯罪の温床になっていたらしい。

その悪しき風潮は、職人さんから聞いた話だと、このヴァレンタイン王国にもしっかりとあるようなのだ。


『はい、だから、今回建設するウチの銭湯はちゃんと犯罪防止の対策を立てます』


『ふむ、犯罪防止の対策か』


『はい、まず武器は持ち込み禁止にします』


『まあ、当然だな』


『次に王都の公衆浴場は混浴らしいのですが、男女別に分けます』


『成る程』


『はい、そして従業員を兼ねた屈強な男女の警備員を採用し、それぞれ随時巡回させます』


『ふうむ、屈強な男女の警備員を採用し、それぞれ随時巡回か』


『はい、随時巡回させるのは密室と化した店内で犯罪を未然に防ぐ為です。ちなみに全員が格闘技に長けた猛者の採用を考えています』


『うむ、成る程な』


『挙動不審な客には警備員が職務質問をさせて頂きます。質問を拒否したり、悪質だったり、抵抗する場合は、店は勿論、村も含め即刻出入り禁止。その上、もしも暴力をふるったり、犯罪を犯した場合、確保した上、秘密裏に当該者の記憶を消し、転移魔法で遠方へ追放します』


『おお、それは厳しいな』


『仕方ありません。安全第一ですので。子供も行く場所ですし』


『ふむ……まあ、そうだな』


『……それと建設する仕様ですが……銭湯には昔ながらのレトロな物もあって、それも俺は好きなのですけど……』


『昔ながらのレトロな物か。ふむ、どういう雰囲気だ。ケンが見せてくれたあの夢想レヴリー城みたいなモノかい?』


レイモン様が言うのは、あの日本風天守閣付きの城……夢想レヴリー城である。

銭湯とは……全く異なる。


俺は首を横へ振った。


『いえ、レイモン様、全然違います』


『全然違う? 面白そうだ、ぜひ見せてくれ!』


『ええっと……こんな感じです』


先述したように……

俺とレイモン様が居るこの夢の世界では思ったイメージが幻影としてイメージ化出来る。


『ほいっと!』


俺が記憶を手繰り……

エスポワール村の脇っちょに、日本の昔ながらの『昭和風銭湯』を再現したら……


『おおおおおおおお!!! す、素晴らしい!!!』


レイモン様は驚愕した。


確かに西洋風の文化に満ちたこの異世界で、日本の銭湯は斬新且つ新鮮に映るだろう。


『う~む。今まで全く見た事がない建物なのにひどく懐かしく、郷愁をそそるのは何故だ……』


『はい、俺も銭湯に通った事は殆どありませんが……そう思います。そして、今回の銭湯は先ほどお話しした職人さんを中心に大工さん、石工さんに協力して貰い、建設しようと思います。最近ますます懇意になったドワーフの職人に応援して貰う事も考えています』


『おう、そうか。ならば建設の段取りはバッチリだな。それにしても……』


と言い、レイモン様は銭湯の威容に魅入られてしまっている。


『むうう……これが……ケンが転生する前に居た世界の公衆浴場か……面白い!』


俺とレイモン様はしばらくの間……

日本の昔ながらの『昭和風銭湯』をしみじみと眺めていたのである。

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