第2話「やられた!」
「ねえねえ! クーガー姉! 『銭湯』って、何ですかあ?」
嫁ズの中で、最も好奇心旺盛なサキが声を張り上げる。
ドラゴンママと恐れられる嫁ズ最強の元魔王クーガーとは、相性バッチリだ。
相性バッチリなのは当然だ。
ふたりには、とんでもない秘密がある。
俺の前世と同じ日本人の転生者、サキ・ヤマト、結婚してサキ・ユウキとなった美少女は……
魔王クーガーの魂の
サキ本人でさえ知らぬ、その転生の秘密を知る者は家族で俺ひとりである。
クーガーの表情が訝し気となる。
サキの出自を考えれば、当然である。
「何だ、サキ。お前、元日本人の癖に『銭湯』を知らないのか?」
「うふふ、何、それぇ? 全然知りませ~ん! 超がさつなクーガー姉と違ってぇ、サキは箱入りの、しとやかなお嬢様だったんだも~ん!」
悪戯っぽく笑うサキ。
コイツ知っててわざと聞いてるな?
と苦笑した俺が思ったら、やはりクーガーの方が一枚も二枚も、
ささっと素早く動いて、サキを捕まえると、頭をぐりごりぐりごり。
「ごらあ! 『銭湯』と、『がさつ』は全く関係ないだろがあ。誰が箱入りのしとやかなお嬢様だあ! しばくぞお!」
「ぎゃ~~!! やめてえっ!! クーガー姉、げんこで頭ごりごりしないでぇ~~!!」
そんなほのぼのした?『余興』はあったが、話は進む。
ちなみに銭湯の補足だけ、簡単にしておこう。
銭湯とは文字通り、入浴料を取って一般の人を入浴させる浴場である。
以前は風呂屋、湯屋とも言われていた。
ここで手を挙げたのがミシェル。
「『銭湯』は知らないけど、『公衆浴場』は知ってるよお。お風呂代払って、入浴させてくれる大型施設でしょ? ウチの村には『公衆浴場』がなくて、夏は井戸の水を使って、屋外でそのまま水浴びか、大きな『たらい』や『空き樽』を湯船代わりに使って温まるだけだもんね」
そう、この異世界にも公衆浴場はある。
ミシェルの話を聞くと……
ローマ時代の石造りの浴場とは異なり、この世界の風呂はやはり中世西洋風の公衆浴場であった。
毛色の変わったモノでいえば、王都にはいくつかパン屋が経営している浴場があるそうだ。
何故、異業種のパン屋が? と思ったが……
パン焼き窯の熱気を利用した蒸し風呂であるらしい。
入浴客は窯の上に備えられた浴室で蒸気を浴びて汗を流した後、身体を拭って綺麗にしていたという。
また、『公衆浴場』では飲酒や飲食、洗髪、垢すりを含めた身体の洗浄、散髪などのサービスを受ける事も可能だとの事。
「ああ、ミシェルの言う通りだ。但し! 今回我がボヌール村に作りたいのは、俺の前世のモノに近い公衆浴場で、クーガーが言ったように『銭湯』というんだ」
俺が頷いて、同意すると……
女子達は『銭湯』の話題で盛り上がる。
銭湯の知識があるクーガーとサキ、公衆浴場の知識があるミシェルがいろいろと情報を提供し、共有していた。
「このままでは村営会議が終わらない」と感じたのであろう。
会話からフェードアウトし、リゼットがリズミカルに手を叩く。
ぱんぱんぱん!
「みんなあ! 一旦ブレイクします! 旦那様、ご提案して頂いたお話をまとめていただけますか?」
「了解!」
俺は返事をし、改めて外柵の新設、敷地の拡大、農地宅地の開拓、新築住宅と公衆浴場の建設等を話した。
「では、今の件、採決します! 賛成の方は、挙手を願います」
リゼットの問いかけに応え、全員が賛成し、手を挙げた。
「はい、全員一致で可決致しました。ではオベール様へ上申し、可否を最終確認致します。他になければ閉会と致します……ないようですね。では村営会議を閉会致します」
最後に……
リゼットが締め、村営会議は終了したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、俺達は領主オベール様が治めるエモシオンへ赴く……
俺、エモシオン担当エモシオン宰相代理ミシェル、同ソフィ、秘書のサキ、秘書のロヴィーサに、今回は村の改革を提案するので、村長のリゼットも同行する。
そして新入りのジョアンナとマチルドさんも……
今回は、いろいろと打合せする案件がある。
だから、ジョアンナとマチルドさんが、ボヌール村へやって来た経緯は、
魔法水晶の通話で領主夫妻ふたりへ伝えてある。
村へ連れて来てからの事後報告なので、お詫びしたが……
オベール様もイザベルさんもジョアンナの境遇に同情し、マチルドさんの忠誠心を大いに褒め、とても好意的に受け止めてくれた。
ちなみに、『ジョアンナが俺の婚約者云々』は、少し笑われてしまったが……
さてさて!
当然、エモシオンへの移動手段は転移魔法を「ささっ」と、で行く。
転移先はオベール様執務室の隣室だ。
「さあ、行くぞ。この部屋の隣が執務室、オベール様ご夫妻がいらっしゃる」
俺が声をかけると、嫁ズはにっこり。
でも、さすがに……
男爵という貴族の領主オベール様夫妻と初対面のジョアンナとマチルドさんは緊張気味である。
「大丈夫だよ。昨夜事情を伝えておいた。おふたりともジョアンナは良く頑張ったと褒めていらしたよ」
「で、でも……これからお会いするのは、ご領主様ご夫妻ですよね? ジョアンナ、緊張します」
「あはは、大丈夫さ。オベール様ご一家はユウキ家の家族だ。俺の義理の両親と弟だもの。それにジョアンナは以前、王族のレイモン様にお会いしただろう?」
「だ、だってケン様。あの時は『夢の中』でしたから……ジョアンナがこれ以上緊張しないよう、手をしっかりとつないで貰えますか」
「そうか。じゃあ、手をしっかりとつなごう」
「はいっ! ケン様と手をつなげば安心です」
あれ?
手をつないだ瞬間。
身体が強張っていたジョアンナが?
全然リラックス、にっこり笑顔?
「おいおいおい」
「うふふ、さあケン様、参りましょう」
自ら「ぐいっ」と、俺を引っ張るジョアンナ。
やられた!
緊張していたのは演技?
ジョアンナって、結構な大物?
「さあさあ! 早く!」
苦笑する俺を再度「ぐいっ!」と引っ張り、ジョアンナは俺に入室を促したのである。
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