第43話「朝の光の中で」

 俺とタバサとジョアンナで、小声でこそこそ話していたら……

 やがてシャルロット、フラヴィ、ララも起きた。


 まだ時間は午前4時前、朝の太陽は昇っていない。


 ここでタバサが提案。

 窓から外を見て、


「今日も天気が良さそうだし、パパと女子軍団で村内の散歩へ行かない?」


「おう! タバサ、ナイスアイディア。それ良いな」


 と俺が賛成すると、シャルロット、フラヴィ、ララも大賛成。


「行こう、行こう」

「着替えて行こう」

「決定!」


「パパ、パジャマからブリオーへ着替えるから、一瞬あっちむいてて」


 と、タバサに言われた。


「了解」


 愛娘といえど淑女。

 マナーは厳守。

 それがユウキ家の家訓。


 女子全員が着替えた後、俺もさくさく着替え……

 出発する。


 タバサは先頭を切って歩く。

 ジョアンナと、しっかり手をつないで。

 その後をシャルロット、フラヴィ、ララ。

 俺は最後方で女子軍団を見守る。


 まだ朝の4時過ぎだが、ボヌール村は農村。

 朝が早いから、もう何人も起きている。


 出会ったのは、レオの彼女アメリーちゃんの父カニャールさん。


 タバサが、カニャールさんへ朝の挨拶。


「カニャールさん、おっはよ!」


「おう、タバサちゃん、おはよう! ケンさんも、おはよう。あれ、その子は?」


 見慣れない女子、ジョアンナを見て、カニャールさんがチェック。

 昨日来た時は、そのままユウキ家へ直行したから、あまり一般村民達の目に触れていない。


「昨日からウチで一緒に暮らしている、新入り家族のジョアンナちゃんです。ほら、ジョアンナちゃん、ごあいさつして!」


 タバサに促され、ジョアンナは小さな声で、恐る恐ると言う感じで挨拶する。


「お、お、おはよう……ございます」


「はははは、おはよう! 俺はカニャールだ。ジョアンナちゃんはどこの子だい?」


「お、お、王都……です」


 初対面のおじさんを前にして、ジョアンナは緊張気味。

 嚙んでるし、いつもより声が全然小さい。


 ここでタバサが補足説明。

 対外的に、ジョアンナが村へ来た経緯を説明する公式的な物言いだ。


「カニャールさん、ジョアンナちゃんは親戚のおばさんと王都から旅して来たの。ウチのパパやアマンダママの知り合いで、ボヌール村へ移り住む事になったのよ」


 ジョアンナの事情はとりあえず内緒。

 簡単な説明だけでOK。

 

 そもそも俺もウチの嫁ズもの何人かもそうだし……

 少し前からボヌール村は移住者が多い。

 このカニャールさんだってそうだ。


「おう、そうか! 俺も少し前に村へ移住して来たんだ。宜しくな! この村はホント良い村だよ!」


 気さくなカニャールさん。

 ここで再びタバサが補足説明。


「カニャールさんの娘さんのアメリーちゃんは、ウチのレオの彼女だよ。何かあれば、私は将来レオと結婚するって言ってるよ」


「わお! レオにいと!?」


 来たばかりでレオを兄と呼ぶ。

 自分の娘アメリーちゃんのボーイフレンドだから、レオの妹然とするジョアンナは好ましいと思ったのだろう。

 実際、レオ絡みでタバサ、シャルロット、フラヴィ、ララの姉妹は、アメリーちゃんとは、全員仲が良い。

 カニャールさんにも可愛がられている。


 それゆえカニャールさんは満面の笑み。


「あはははは、ジョアンナちゃん、今後とも宜しくな! アメリーとも仲良くしてくれ」


「こ、こちらこそ! よ、宜しくお願い致します」


 こんな感じで、何人もの村民とすれ違い……

 タバサ達は、ジョアンナを紹介した。


 ジョアンナも徐々に慣れ、普通に挨拶出来るようになった。


 やがて正門わきの物見やぐらへ……

 夜勤の当番は、アンリともうひとり。

 午前6時が交代の時間だ。


 タバサが声を張り上げる。


「アンリにい! ウチの家族の新入りちゃん、パパが連れて登るからあ!」


「おう! タバサちゃん! 了解だ!」


 さすがに、物見やぐらへ、6人で登れない。

 タバサ達は気を遣ってくれた。


 俺とジョアンナは、はしごを上る。

 高い所が平気だけあって、ジョアンナは、はしごを苦にしない。

 身軽で、運動神経も良さそうだ。


 物見やぐらに陣取るアンリ達門番は、笑顔で迎えてくれた。


「おお、ケン様、おはようございます。お疲れさまです。その子が『新入りちゃん』ですか?」


「おはよう、アンリ。そうだよ、この子はジョアンナという。昨日来たばかりだ」


「ははは、可愛い子ですね。おはよう、俺はアンリ、宜しく」


「おはようございます。私、ジョアンナです。これからボヌール村でケン様と皆様にお世話になります。宜しくお願い致します」


「とても礼儀正しいね。良い子だ」


 ここで俺はこっそり念話で補足。


『アンリ、この子は王都出身で貴族の庶子だ』


『成る程……』


『騎士爵家出身のお前と同じような、……身の上なんだ』


 俺がひと呼吸置いて告げると、勘の良いアンリは意味を察したらしい。


『俺と同じって……そう、なんですか……ジョアンナちゃん、可哀そうに……俺、頃合いを見て、エマと一緒にお邪魔して、元気付けてやりますよ』


 そんな会話をしていたら……

 東の地平線から太陽が昇って来た。


「わお! き、きれい! こんな景色見た事ないっ! ケン様、素敵です!」


 今日もボヌール村は、快晴となるだろう。


 朝の光をいっぱい浴び、歓声をあげるジョアンナを、俺とアンリは慈愛を込め、見守っていたのである。

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