第44話「笑顔の朝食」

 ジョアンナの顔見世を兼ねた朝の村内散歩を終え、俺と女子軍団はユウキ家へ戻った。


 時間は午前5時過ぎ。

 まだ「すやすや」眠っているレベッカの双子、赤ん坊のアンジュとロラン以外、

 家族全員が起きて、我が家は既に『始動』している。


 ジョアンナと一緒に来たばかりのマチルドさんもひどく眠そうだったが、何とか起床していた。

 ウチの女子軍団に交じって、元気そうなジョアンナの姿を見て安堵している。


 さてさて!

 俺が朝の挨拶の口火を切っても良いが、ここはやる気満々なタバサに任せよう。


「みんな、おっはよ! パパと女子達で村内散歩行ってた! 厨房、手伝うよ!」


 朝から元気。

 張り切る愛娘の姿。

 タバサ母のクッカが嬉しそうに応える。


「おっはよ、タバサ! 朝から気合入ってるわねえ」


「あったりまえ! ママとパパの娘だも~ん! いっつも元気よお!」


 ここで、嫁ズのリーダー、リゼットが声を張り上げる。


「さあ、私以下女子は全員厨房! 旦那様以下男子は子守り! 戦闘開始!」


 そう、今朝は俺達男子は子守りの担当。

 明日の朝は厨房の手伝い。

 交互に行う。

 最近の基本ローテーションだ。


「ケ、ケン様」


 ジョアンナが不安そうに俺を見た。

 だが、タバサがジョアンナの腕をつかみ、引っ張る。


「ジョアンナ、行くよ。マチルドさんも一緒だし、だいじょうぶい!」


「え?」


「お嬢様、行きましょう。朝食の支度のお手伝いをするのですよ」


 昨日来たばかりの時よりも、マチルドさんは落ち着き払っていた。


 昨夜、嫁ズとたっぷり話したのだろう。

 嬉しそうに柔らかく微笑んでいるから、ジョアンナは勿論、自分の人生にも希望を見出したに違いない。


 ここで俺が、戸惑うジョアンナへ声をかける。


「ジョアンナ、タバサと一緒に行って来いよ。朝食の手伝い、思い切り、楽しめ」


「ケ、ケン様」


「朝食を摂ったら、学校へ行く支度をするぞ。一緒に行こう」


「は、はいっ!」


「おう、良い返事だ」


 俺が褒めたら、ジョアンナは嬉しそうににっこり。


「うふふ、はいっ! ではタバサ姉、行きましょう! マチルドも行きましょうね!」


「よっし! 行くよぉ、ジョアンナ、マチルドさんも!」


「はい、お嬢様! タバサ様とともに参りましょう、厨房へ」


 こうして、笑顔のジョアンナとマチルドさんは、タバサとともに厨房へ消えて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……俺と男子軍団は幼子達おさなごたちの世話、グレースの子ベルティーユを遊ばせながら、レベッカの産んだ双子アンジュとローランを見守っていた。


「朝食出来たよぉ!」


 ベアーテの大きな声。

 俺以外の男子が立ち上がり、厨房へ援軍へ。

 レオとイーサン、そしてポールは盛り付けの手伝いをするのだ。


 やがて料理を盛りつけた皿が大小、テーブル上に並べられる。

 我が家の朝食メニューは至ってシンプル。


 今朝も焼きたてのパン数種に、コンソメスープ、野菜のサラダ。

 豚肉のウインナーに生みたて卵のスクランブルエッグだ。

 飲み物は香りの高い紅茶に、ハーブティー、そしてミルク。

 お約束で、チーズ食べ放題、村名物の甘いはちみつとバターはたっぷりと塗り放題である。


 ベルをグレースへ、アンジュとローランをレベッカへ、母親へ返し、俺は自分の席に。

 俺の隣へは、事前に家族のOKを貰い、ジョアンナに座って貰った。

 ジョアンナの隣にはマチルドさんだ。

 これでふたりとも安心して食事が摂れるだろう。


「じゃあ、お祈りして……頂きます」


 ユウキ家独特の食事前の挨拶もして貰い、朝食スタート。


「ええっと、ケン様、どれからどう食べるの?」


「ははは、昨夜の歓迎会で分かったと思うけど、ウチは農家だ。格式ばった貴族家ではない。決まったしきたりはないから、自由に好きなように何でも食べて良い。ひどく下品に食べたりしなければそれでOKさ」


「ケン様、分かりました」


「王都とは作法が全く違いますね、お嬢様」


 という、やりとりをしているうちに、周囲は食事を始めている。

 どの時代でもどこの場所でも、朝は戦争?だから……


「じゃあ、食べよう」


「はい、ケン様」


 とは言っても手本が必要かも。


 俺は大好きなライ麦パンにバターを塗り、かじる。

 ウインナー、スクランブルエッグを食べ、サラダも食べる。


 次に白パンにハチミツを塗り、かじる。

 チーズをかじり、コンソメスープを飲む。


 ……昨夜もそうだったが、ジョアンナは食べる俺の様子をじっと観察。


 その上で、最初は恐る恐る……すぐにぱくぱく食べた。


「お、お、おいしい~! 昨夜のハーブ料理もそうだけどぉ! ケン様、おいしい~! 朝食も本当においしい~!」


 満面の笑みで喜ぶジョアンナ。

 そう、ウチの朝食はホテルよりもシンプルだけど、家族への愛情をこめた嫁の腕と素材の新鮮さで優っている。

 個人的にはそう思ってる。

 そして、自分も手伝ったから、余計に美味しいのだろう。


 ちらと見やれば、マチルドさんも美味しそうに食べていた。


「おいおいジョアンナ、あまり食べ過ぎると、授業中眠くなるぞ」


「は~い! でもでもケン様、ハチミツ甘くて超美味し~!」


 ジョアンナは、ハチミツをことのほか気に入った様子である。

 俺に向かって、またもにっこり微笑んだのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る